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僕とか君とか
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アスファルトを反射する熱射に当たりながら駅の外で煙草をふかし友人を待っていると、隣から「久しぶり」という声が聞こえた。僕には女性の知り合いなんてものはいないので無視をしていると、また「久しぶり」という声が聞こえた。しかし僕には女性の知り合 いなんて「久しぶり」いないので無視して「久しぶり」いると、「久しぶり」
さすがに鬱陶しくなったので横を振り向くと、日子が立っていた。「二年ぶりだね」と日子が言う。僕は静かに頷いた。二年前とは服装から髪型まで大違いだった。肌をこれまでかと露出させ髪の毛は長くパーマを当てている。なぜ 違いがわかったかというのは、僕には女性の知り合いなんてものはいないからであって、日子と何か深い関係になったというわけではない。一度創作文芸板なる インターネットのオフ会で会っただけだ。アドレスの交換なんてものはしていないし、オフ会だって僕は無言だったので喋ったのは一言二言だけだろう。そんな 僕を向こうが覚えていたということに少し嬉しく感じたけれど、だからと言って何かがあるわけでもない。僕は吸殻を指で弾いて飛ばし――これは昔の彼女の癖 で、いつの間にか僕にもうつっていたものだ――「二年ぶりですね」と言った。
「二年前とは大きく変わって」と日子が言った。確かに二年前とは僕は大違いだった。精神を病んで自殺未遂をしてからというもの薬漬けになり体重は三十キロ以上増えて、坊主を伸ばした状態で金に近い色にまで脱色していたし、髭も蓄えていたから。
「日子さんこそ、女らしくなって」と冗談めかして言うと、日子は小さく笑った。「いろいろあってね」「僕だっていろいろありましたよ」
日子の提案で僕達は近くの喫茶店へと寄った。その際友人には「今日はちょっと無理になった」とメールをしておいた。
からんころん。高そうな喫茶店。財布には千円札しか入っていない。が、大丈夫だろう。年齢はわからないけどたぶん日子は僕よりも年上だろうし、男が全額払 わなきゃならないなんていう決まりはない。外とはうってかわってひんやりとする店内。僕はアイスコーヒーを注文し、日子はアイスティーを注文した。運ばれ てきたアイスティーにレモンとシロップを入れている間、僕はブラックのままアイスコーヒーを飲んでライターを手でいじりながら外を眺めていた。
「――でさ。笑っちゃうでしょ。ていうか聞いてるの?」
僕は慌てて「聞いてますよ」と言う。
「――でさ。ムカつくでしょ。ていうか聞いてるの?」
僕は慌てて「聞いてますよ」と言う。
正直言って僕は日子の変わりようにドキドキとしていた。二年前には臭うことのなかった女の香りがする。おっぱいだってこんなに大きかったのか、というほど に大きい、というか強調しているのだろうか。女の武器というのはたくさんあるから怖い。男なんて何もない。とくに僕みたいな冴えない男には何も無い。強い て挙げるならば小説の内容だろうか。これだけは日子には負けていないと思っている。というよりも、現在出版されている小説のどれよりも面白いと思ってい る。それが単なる勘違いであるとも、そんなものはどうだっていのだ。今目の前に日子がいるという現状が重要なのだ!
すると日子が突然「あなたの 小説ってさぁ」と言い出した。その頃にはもう日子はアイスティーにレモンとシロップを入れた代物を飲み干していた。喉が乾いていないのだろうかと僕は心配 したものの、僕が注文したアイスコーヒーは僕が注文したものであって、それを日子にあげる必要性は皆無なのだ。続けなさい、日子よ。
「あなたの小 説ってさぁ、いつもいつも女性がリードしてる恋愛モノばかりだけど、世の中ってそんな簡単なものじゃないんだよね。特にあなたみたいな何の取り柄もない男 に、誰が仲良くしようだなんて思うわけ? 前から思ってたんだけどさ、ナルシストなのよあなたは。あなたの小説を読むと吐き気がするわ。いっつもいっつも 女性がリードしてさぁ、馬鹿じゃないの。世の中の男性ってのはそれなりに努力してるのよ。ファッション然りビジネス然り勉強然り喋りだってそうよね。でも あなたはなんにも努力してない。そんな男に私が喫茶店になんて誘うと思ってるの?」
日子が一気にまくし立てると、視界が一気に喫茶店から元の駅へと変わった。
「私があなたを喫茶店に誘っていない世界線に来たってわけ。ここからどうするかはあなた次第よ」
「えっと、僕は……」
僕には女性の知り合いなんてものはいないわけであって、ここからどうすればいいのかはまったくもってわからない。ぼうっとつっ立っていると日子が背中を向けた。
「じゃあね、バイバイ」
その言葉を聞いた刹那、僕の体は僕の心よりも先に行動した。日子の右手を掴んだのだ!
「やったぜ、おめえよぉ! お前は今、日子の手を掴んだってわけだ!」
突然誰かの声が聞こえた。その次の瞬間、視界が一気に駅から喫茶店へと変わった。
「これであなたが私の手を掴んで喫茶店へと誘った世界線に来たってわけ。世界線は常に変わっていく。あなたが意図していない行動であっても世界は変わっていく。で、これから私たちは何を話せばいいのかしら?」
僕は一言「わからないや」と言った。すると日子はくるりと背中を向けて喫茶店を出ようとした。僕は「おいおい、割り勘じゃねえのかよ!」と叫んだ。
さすがに鬱陶しくなったので横を振り向くと、日子が立っていた。「二年ぶりだね」と日子が言う。僕は静かに頷いた。二年前とは服装から髪型まで大違いだった。肌をこれまでかと露出させ髪の毛は長くパーマを当てている。なぜ 違いがわかったかというのは、僕には女性の知り合いなんてものはいないからであって、日子と何か深い関係になったというわけではない。一度創作文芸板なる インターネットのオフ会で会っただけだ。アドレスの交換なんてものはしていないし、オフ会だって僕は無言だったので喋ったのは一言二言だけだろう。そんな 僕を向こうが覚えていたということに少し嬉しく感じたけれど、だからと言って何かがあるわけでもない。僕は吸殻を指で弾いて飛ばし――これは昔の彼女の癖 で、いつの間にか僕にもうつっていたものだ――「二年ぶりですね」と言った。
「二年前とは大きく変わって」と日子が言った。確かに二年前とは僕は大違いだった。精神を病んで自殺未遂をしてからというもの薬漬けになり体重は三十キロ以上増えて、坊主を伸ばした状態で金に近い色にまで脱色していたし、髭も蓄えていたから。
「日子さんこそ、女らしくなって」と冗談めかして言うと、日子は小さく笑った。「いろいろあってね」「僕だっていろいろありましたよ」
日子の提案で僕達は近くの喫茶店へと寄った。その際友人には「今日はちょっと無理になった」とメールをしておいた。
からんころん。高そうな喫茶店。財布には千円札しか入っていない。が、大丈夫だろう。年齢はわからないけどたぶん日子は僕よりも年上だろうし、男が全額払 わなきゃならないなんていう決まりはない。外とはうってかわってひんやりとする店内。僕はアイスコーヒーを注文し、日子はアイスティーを注文した。運ばれ てきたアイスティーにレモンとシロップを入れている間、僕はブラックのままアイスコーヒーを飲んでライターを手でいじりながら外を眺めていた。
「――でさ。笑っちゃうでしょ。ていうか聞いてるの?」
僕は慌てて「聞いてますよ」と言う。
「――でさ。ムカつくでしょ。ていうか聞いてるの?」
僕は慌てて「聞いてますよ」と言う。
正直言って僕は日子の変わりようにドキドキとしていた。二年前には臭うことのなかった女の香りがする。おっぱいだってこんなに大きかったのか、というほど に大きい、というか強調しているのだろうか。女の武器というのはたくさんあるから怖い。男なんて何もない。とくに僕みたいな冴えない男には何も無い。強い て挙げるならば小説の内容だろうか。これだけは日子には負けていないと思っている。というよりも、現在出版されている小説のどれよりも面白いと思ってい る。それが単なる勘違いであるとも、そんなものはどうだっていのだ。今目の前に日子がいるという現状が重要なのだ!
すると日子が突然「あなたの 小説ってさぁ」と言い出した。その頃にはもう日子はアイスティーにレモンとシロップを入れた代物を飲み干していた。喉が乾いていないのだろうかと僕は心配 したものの、僕が注文したアイスコーヒーは僕が注文したものであって、それを日子にあげる必要性は皆無なのだ。続けなさい、日子よ。
「あなたの小 説ってさぁ、いつもいつも女性がリードしてる恋愛モノばかりだけど、世の中ってそんな簡単なものじゃないんだよね。特にあなたみたいな何の取り柄もない男 に、誰が仲良くしようだなんて思うわけ? 前から思ってたんだけどさ、ナルシストなのよあなたは。あなたの小説を読むと吐き気がするわ。いっつもいっつも 女性がリードしてさぁ、馬鹿じゃないの。世の中の男性ってのはそれなりに努力してるのよ。ファッション然りビジネス然り勉強然り喋りだってそうよね。でも あなたはなんにも努力してない。そんな男に私が喫茶店になんて誘うと思ってるの?」
日子が一気にまくし立てると、視界が一気に喫茶店から元の駅へと変わった。
「私があなたを喫茶店に誘っていない世界線に来たってわけ。ここからどうするかはあなた次第よ」
「えっと、僕は……」
僕には女性の知り合いなんてものはいないわけであって、ここからどうすればいいのかはまったくもってわからない。ぼうっとつっ立っていると日子が背中を向けた。
「じゃあね、バイバイ」
その言葉を聞いた刹那、僕の体は僕の心よりも先に行動した。日子の右手を掴んだのだ!
「やったぜ、おめえよぉ! お前は今、日子の手を掴んだってわけだ!」
突然誰かの声が聞こえた。その次の瞬間、視界が一気に駅から喫茶店へと変わった。
「これであなたが私の手を掴んで喫茶店へと誘った世界線に来たってわけ。世界線は常に変わっていく。あなたが意図していない行動であっても世界は変わっていく。で、これから私たちは何を話せばいいのかしら?」
僕は一言「わからないや」と言った。すると日子はくるりと背中を向けて喫茶店を出ようとした。僕は「おいおい、割り勘じゃねえのかよ!」と叫んだ。
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