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コ○ナウイルス・オブ・ザ・デッド
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有名人が死に、身近な場所で感染者が現れ、正義を振りかざす輩が喚き散らしている。。中国は武漢市で発生したウイルスは海を渡り世界を駆け周り、全世界での感染者数は1000万人を超えた。緊急事態宣言は解除され生活は元に戻った。このまま行けば東京五輪も無事に開催されるだろう。あの騒ぎは一体なんだったのだ。そんな気持ちをかき消すように、東京の感染者数は日に日に増加している。
僕の住む大田区でも、ちらほらと感染者が目立つようになってきた。そういったニュースをネットで見ながら、騒いでいるだけで実際はウイルスなんて存在しないのではないだろうか、という思いが脳に過ぎった。火星人襲来やら銀行が潰れるでパニックが起きたと同じことが今起きているのではないか。巧妙に作られたモキュメンタリーではないか。
著名なコメディアンや女優がウイルスで亡くなった。感染して入院した人もいた。本当にウイルスが原因なのだろうか。
そういう考えに至った際に重要なのが、殺人ウイルスが存在しているように見せかけることで得をする人間がいるかどうか、という点だ。足りない僕の頭で考えてみる。損をする業界は数え切れないほどある。僕が事前にチケットを購入していたライヴ公演も中止になってしまった。外食産業は死にかけている。
それを調べるために僕は外に出た。大森駅や蒲田駅を歩いて取材をしようと思ったからだ。六月の夕方六時前の蒲田駅はもちろん人で溢れている。スーツ姿のサラリーマンが歩いている。そこに薄手のグレーのパーカーで焦げ茶のチノパン、耳にはワイヤレスイヤホン、どこのなにかもわからないキャップを被り顔はコットンマスクで覆い、びしっと決めた男が颯爽と歩いている。僕が女だったら惚れていたかもしれない。しかし僕は異性愛者の男なので男である僕に惚れるわけはないのであって、蒲田駅の東口に立ってマスクで汗をかきかき歩いている老若男女を眺めていた。
僕がクレイジーマンであれば、拡声器を持って汗みずくになってウイルスなど存在しないのです、と訴えていただろう。しかし僕はクレイジーマンではないのでもちろんそんなことはしない。立ったまま老若男女を眺めている。と、エスカレーターを降りてくる男が目に入った。男はよれよれのスーツを着て禿げ散らかし太っているという蒲田駅には不適切な男であり、僕が女であれば当然心のなかで蔑み決して近寄ろうとはしない男であるが、しかし僕は同じ男なのでその苦しみがよくわかるのであって、もちろん悪い印象は持ってはいない。男は東口の信号前という一番人が行き交う場所に立ち止まり、拡声器を持って叫び始めた。
「みなさん、聞いてください! 私は真実に気づいてしまったのです! しかしその真実を言ったことで、みなさんの怒りを買ってしまうかもしれません! しかし、真実なのです! 今から言う僕の言葉を信じてください、なんてことは言いません! なぜなら、荒唐無稽な話だからです! つまり僕がなにを言いたいかと言うと、ウイルスなど存在しないということなのです! 製薬会社の陰謀なのであります! ウイルスが存在しているように見せかけて、あとになって薬を出してきてそれで一攫千金を狙っているわけなのであります! しかしみなさん、安心してください! ウイルスは存在しないのであります! 今すぐそのマスクを取っていただきたい! 消毒液だのうがい薬を流しに捨てていただきたい! みなさん、騙されてはいけません! ウイルスは存在しません! 亡くなった人は別の病気で亡くなっただけです! フェイクドキュメンタリーであります! モキュメンタリーであります! アポロ計画であります! メディアに騙されてはいけません!」
僕はぽかんとしていた。誰がどう見てもみっともない面構えをしていた。その実、感動していた。あまりの感動に顔が追いついていないという状況で、すぐにでも涙が出る状態になっていた。僕以外にも同じことを考えている人が居たのだ。
不適切な男に声をかけて、すぐ近くのドトール2階で談笑したかった。コーヒーを奢ってやってもいい。どうせこんな男、コーヒーを買う金もないだろう。僕の財布には1000円は入っていたはずだ。いやあ、君、僕とまったく同じだね、と片手を上げ笑顔で不適切な男に近づいていった。不適切な男は近くを通りかかった美人風のオフィスレディに近づいてマスクを強引に剥ぎ取った。マスクを剥ぎ取られたオフィスレディはウイルスにやられてその場に倒れ込んで32年という短い人生を終えた。それを見ていた両腕が入墨だらけのチンピラ男が不適切な男に向かっていった。不適切な男は無我夢中で入墨男のマスクを剥ぎ取った。入墨男も同じように倒れ込んで21年という短い人生を終えた。が、両腕に入墨だらけなんてどうせヤクザにしかならないだろうしドメスティックバイオレンスを働くような人間だろうしそれは別にいい。女子高生が床にへたり込んで小水を漏らしながら泣き叫んでいる。不適切な男は女子高生に飛びかかって下着を剥ぎ取った。周りに囲む老若男女が不適切な男に拳を雨あられのように浴びせる。不適切な男は血だらけになって動かなくなった。それを見ていた僕は、ウイルスなど存在しないという自分の考えが間違っていることに気づき、自動販売機で炭酸水を買ってそれを飲みながら家に帰り、コデントンうがい薬で喉を洗浄してからシャワーを浴び、ゆったりした後に久しぶりに焼きうどんを食べた。キャベツと豚肉と玉ねぎを炒めて作った焼きうどんはとても美味しく感動した。その日つけていたマスクを手洗いし干して、アマゾンで新たに布マスクを二枚買った。除菌シートがなくなったので今度ドラッグストアで買わなければ。ウイルスは怖いから、ちゃんと予防しないと駄目だよね。
僕の住む大田区でも、ちらほらと感染者が目立つようになってきた。そういったニュースをネットで見ながら、騒いでいるだけで実際はウイルスなんて存在しないのではないだろうか、という思いが脳に過ぎった。火星人襲来やら銀行が潰れるでパニックが起きたと同じことが今起きているのではないか。巧妙に作られたモキュメンタリーではないか。
著名なコメディアンや女優がウイルスで亡くなった。感染して入院した人もいた。本当にウイルスが原因なのだろうか。
そういう考えに至った際に重要なのが、殺人ウイルスが存在しているように見せかけることで得をする人間がいるかどうか、という点だ。足りない僕の頭で考えてみる。損をする業界は数え切れないほどある。僕が事前にチケットを購入していたライヴ公演も中止になってしまった。外食産業は死にかけている。
それを調べるために僕は外に出た。大森駅や蒲田駅を歩いて取材をしようと思ったからだ。六月の夕方六時前の蒲田駅はもちろん人で溢れている。スーツ姿のサラリーマンが歩いている。そこに薄手のグレーのパーカーで焦げ茶のチノパン、耳にはワイヤレスイヤホン、どこのなにかもわからないキャップを被り顔はコットンマスクで覆い、びしっと決めた男が颯爽と歩いている。僕が女だったら惚れていたかもしれない。しかし僕は異性愛者の男なので男である僕に惚れるわけはないのであって、蒲田駅の東口に立ってマスクで汗をかきかき歩いている老若男女を眺めていた。
僕がクレイジーマンであれば、拡声器を持って汗みずくになってウイルスなど存在しないのです、と訴えていただろう。しかし僕はクレイジーマンではないのでもちろんそんなことはしない。立ったまま老若男女を眺めている。と、エスカレーターを降りてくる男が目に入った。男はよれよれのスーツを着て禿げ散らかし太っているという蒲田駅には不適切な男であり、僕が女であれば当然心のなかで蔑み決して近寄ろうとはしない男であるが、しかし僕は同じ男なのでその苦しみがよくわかるのであって、もちろん悪い印象は持ってはいない。男は東口の信号前という一番人が行き交う場所に立ち止まり、拡声器を持って叫び始めた。
「みなさん、聞いてください! 私は真実に気づいてしまったのです! しかしその真実を言ったことで、みなさんの怒りを買ってしまうかもしれません! しかし、真実なのです! 今から言う僕の言葉を信じてください、なんてことは言いません! なぜなら、荒唐無稽な話だからです! つまり僕がなにを言いたいかと言うと、ウイルスなど存在しないということなのです! 製薬会社の陰謀なのであります! ウイルスが存在しているように見せかけて、あとになって薬を出してきてそれで一攫千金を狙っているわけなのであります! しかしみなさん、安心してください! ウイルスは存在しないのであります! 今すぐそのマスクを取っていただきたい! 消毒液だのうがい薬を流しに捨てていただきたい! みなさん、騙されてはいけません! ウイルスは存在しません! 亡くなった人は別の病気で亡くなっただけです! フェイクドキュメンタリーであります! モキュメンタリーであります! アポロ計画であります! メディアに騙されてはいけません!」
僕はぽかんとしていた。誰がどう見てもみっともない面構えをしていた。その実、感動していた。あまりの感動に顔が追いついていないという状況で、すぐにでも涙が出る状態になっていた。僕以外にも同じことを考えている人が居たのだ。
不適切な男に声をかけて、すぐ近くのドトール2階で談笑したかった。コーヒーを奢ってやってもいい。どうせこんな男、コーヒーを買う金もないだろう。僕の財布には1000円は入っていたはずだ。いやあ、君、僕とまったく同じだね、と片手を上げ笑顔で不適切な男に近づいていった。不適切な男は近くを通りかかった美人風のオフィスレディに近づいてマスクを強引に剥ぎ取った。マスクを剥ぎ取られたオフィスレディはウイルスにやられてその場に倒れ込んで32年という短い人生を終えた。それを見ていた両腕が入墨だらけのチンピラ男が不適切な男に向かっていった。不適切な男は無我夢中で入墨男のマスクを剥ぎ取った。入墨男も同じように倒れ込んで21年という短い人生を終えた。が、両腕に入墨だらけなんてどうせヤクザにしかならないだろうしドメスティックバイオレンスを働くような人間だろうしそれは別にいい。女子高生が床にへたり込んで小水を漏らしながら泣き叫んでいる。不適切な男は女子高生に飛びかかって下着を剥ぎ取った。周りに囲む老若男女が不適切な男に拳を雨あられのように浴びせる。不適切な男は血だらけになって動かなくなった。それを見ていた僕は、ウイルスなど存在しないという自分の考えが間違っていることに気づき、自動販売機で炭酸水を買ってそれを飲みながら家に帰り、コデントンうがい薬で喉を洗浄してからシャワーを浴び、ゆったりした後に久しぶりに焼きうどんを食べた。キャベツと豚肉と玉ねぎを炒めて作った焼きうどんはとても美味しく感動した。その日つけていたマスクを手洗いし干して、アマゾンで新たに布マスクを二枚買った。除菌シートがなくなったので今度ドラッグストアで買わなければ。ウイルスは怖いから、ちゃんと予防しないと駄目だよね。
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