レツダンセンセイ・グレーテストヒッツ

れつだん先生

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ありがとうとさようなら

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 まるで目が悪い人が眼鏡を掛けたように、ぼんやりとした風景がはっきりと写りだしていく。まずは色が広がる。緑、青、茶、そして様々な色が次々と。その色と色が重なり合って物を表していく。僕は茶色の上に座りこんでそれを触っている。僕が座っている場所は砂場で、その隣には小さなブランコが見える。後は鉄棒がいくつか……。僕は一生懸命砂場に水を流し、川を作って遊んでいる。手の届くところに怪獣のおもちゃとスコップが置いてある。ブランコには女性が座っている。暖かいイメージは全く無い。母親なのだろうか? いや、母親じゃないような気がする。

 けたたましい目覚まし時計の音は僕を現実へと引き戻してくれる。心地よい睡眠はその音で終わり、まだ開ききっていない目を無理やりこじ開け、目覚まし時計の音を消して時間を確認する。まだ朝の七時を回った所だ。これから僕が何をしなければならないかを頭の中で思い出しながら、今日一日のスケジュールを立てる。薄暗い部屋にはカーテンの隙間から零れる光がまるで僕を空へ導くように床にまで伸びている。その光を避けるようにしてベッドから立ち上がり、寝癖でぐしゃぐしゃになった髪の毛を掻き毟りながら、部屋を出てキッチンへと行く。歯を磨き終わる頃には眠気も消えうせていた。髪の毛を寝癖直しで直し、服を着替える。テーブルの上に置いてあった煙草を手に取り、火をつけて一服してから外へと出る。眩しさでまぶたに痛みが走り、思うように目が開けられない。少し風が強い。鳥の鳴き声が聞こえる。集団登校する小学生の元気な声が今日はやけに耳に付いた。欠伸を一度だけして、アパートの階段を下りる。

 教室の扉を開けて、教師が入ってくる。僕たちはそれと同時に自分の席へ戻り、机の中にしまっていた教科書を取り出す。教師が何かを喋り、廊下へまた戻り、そこでまた喋る。教室の臭い。開けたままの窓からは体育をしている生徒たちの声と気持ちのいい風が流れてくる。後ろの扉が開き、母親が入ってくる。そこで僕はようやく気づく。今日は参観日の日なのか。だから僕たちはこんなに緊張しているんだろう。みんなの緊張が僕にも伝わってくるような気がした。ぞろぞろと母親が入ってくる。僕の母親はどこだろう、と後ろを振り向くと、一人の女性が僕をじっと見つめながら立っている。母親だろうか? いや、母親じゃないような気がする。

 けたたましい目覚まし時計の音は僕を現実へと引き戻してくれる。心地よい睡眠はその音で終わり、まだ開ききっていない目を無理やりこじ開け、目覚まし時計の音を消して時間を確認する。まだ朝の七時を回った所だ。これから僕が何をしなければならないかを頭の中で思い出しながら、今日一日のスケジュールを立てる。雨が振っているのだろうか、雨音がかすかに聞こえる。今日は洗濯が出来ない、などと考えながらベッドから立ち上がり、寝癖でぐしゃぐしゃになった髪の毛を掻き毟りながら、部屋を出てキッチンへと行く。歯を磨き終わる頃には眠気も消えうせていた。髪の毛を寝癖直しで直し、服を着替える。テーブルの上に置いてあった煙草を手に取るが、残念ながら空だった。途中で買おうかと諦め、外へ出る。雨の日の独特の臭さが鼻をくすぐる。少し風が強い。鳥の鳴き声が聞こえる。集団登校する小学生の元気な声が今日は雨音に重なってよく聞こえない。欠伸を一度だけして、アパートの階段を下りる。

 中学の卒業式だということが一瞬にして理解できた。なぜだろうかと考える暇もなく、僕たちは立ち上がり、仰げば尊しを歌う。周りを見渡すと、泣いている生徒もいるようだった。僕は中学自体にそこまで思い入れがあるわけでも無かった。背伸びをしながら後ろを見た。沢山の父兄の中に、誰かがいた。母親だろうか? いや、母親じゃないような気がする。

 眠りから引き戻すかのように、誰かの声が僕の頭の中に入ってきて、ぐるぐると回り続けている。その声は何度も何度も聞こえてくる。僕の名前を呼んでいるのだろうか。その言葉を無視するようにまた眠りに集中するが、何度も繰り返されるその声は常に僕の意識の中に存在して、眠る事を許さない。目を開けると、誰かがいた。母親だろうか? いや、母親じゃないような気がする。誰かは僕の顔を覗きこむかのようにして体を乗り出した。僕の顔の前に丁度女性の顔がきて、長い髪の毛が僕の頬を撫でて、女性は気持ちの悪い笑みを浮かべて、僕は死んだ。

 目の前に白い世界が広がる。まるで半紙にまかれた墨汁のような黒い斑点が、滲み出るようにして形どっていく。次第にそのスピードは上昇し、辺り一面が真っ黒になった。と思えばまたそこに白い斑点が滲み出て、そのスピードは上昇し、辺り一面が真っ白になる。それを何度か繰り返すと、満足したのだろうか、何色かになった。それが何の色なのか僕にはわからない。僕がこれまで見聞きしていたどんな色でもない色が、何度も何度も変色を繰り返している。それをじっと見ていると、満足したのだろうか、無になった。

 こんなにはっきりと目が覚めたのは生まれて初めてかもしれない。いつもならば目覚まし時計のうるさい音で無理やり睡眠から現実へ引き戻されるのに、今日は自分から現実へと戻ったような気がする。完全に開ききった目の端に違和感を感じ、指で触ると硬い感触がした。指先を確認すると、大きなめやにが指先から転げ落ちて頬を伝って敷布団へと落ちた。無意味に差し出された腕を時計へと動かし、時間を確認する。まだ朝の四時を回った所だ。起きるのには早過ぎるが、二度寝するほどの眠気も無い。これから僕が何をしなければならないかを頭の中で思い出しながら、今日一日のスケジュールを立てる。扉に付いている投函口が開く音がして、新聞紙が玄関へと落ちる音が聞こえた。今日は新聞は休みの日では無かったか、などと考えながらベッドから立ち上がり、寝癖でぐしゃぐしゃになった髪の毛を掻き毟りながら、部屋を出て玄関と行く。やはり新聞は届いてなかった。何の音だったのだろうか。考えていても仕方が無いと、部屋へ戻り髪の毛を寝癖直しで直し、服を着替える。テーブルの上に置いてあった煙草を手に取ろうとするが、煙草だけでなくライターすら無い。どこかで無くしたのか、元々吸っていなかったのか、ぼんやりと考えながら外へ出る。隣の部屋の玄関が乱暴に開き、男が吹き飛んできた。突然の事に僕は大きな声を上げて尻餅をついた。かと思えばそのスピードでまた部屋の中へ戻り、また外へ拭き飛ぶ。どういうことだ? まだ夢の世界にいるのかもしれない。風が吹いている気配がしない。思い起こせば、今日目が覚めてから一度も音を聞いていない気がする。欠伸を一度だけして、アパートの階段を下りようと足を伸ばしたが、そこに階段は無く、僕の体はゆっくりと地面へ落ちていった。

 そこからの事はあまり覚えていない。地面に落ちたはずの僕の体は、いつの間にかベッドの上で仰向けになっていた。今までの事は全て夢だったのだろうか? と記憶を探ろうとするが、何も思い出せない。記憶の引き出しは無数にあるのに、それを開けるための鍵が無いのだ。手を伸ばせば届きそうな所にあるのに、そこまで手を伸ばすことができない。いや、出来たとしてもそこまで届かないかもしれない。僕にはわからない。
 繰り返される記憶と繰り返される現象。窓の隙間から女が部屋を覗いている。目が合い、とっさに僕は顔を背けた。なぜかはわからないけれど、見てはいけないような気がした。母親だろうか? いや、母親じゃないような気がする。女はいつの間にか開けたままにしていた部屋の扉の前に立っていた。しかしそこには何も無い。女の姿を見ようとしても表現しようとしても言葉が出ない。髪の毛は短いのかも知れないし長いのかも知れないし、若いのかも知れないしそうでないのかもしれない。それ以前に女なのか男なのか、わからない。女が部屋へ入ってくる。僕はそれをじっと見ている。体は動かない。女がカーペットの上を歩く。カーペットは女の重みで少しへこみ、僕はそれをじっと見ている。女がテーブルを避けて僕へ近づいてくる。僕はそれをじっと見ている。女の顔が僕の視界一面に広がる。僕はそれをじっと見







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