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さよなら、二十代

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第一章 ジャネット・ジャクソンの物語

 私の名前はジャネット・ジャクソン。ここいらじゃ結構有名なシンガー。兄弟であるマイケル・ジャクソンは数年前に他界したわ。それに関してどうこう言うつもりは無い。ただ、私が生きていた証をここに残しておきたいの。私が生きているという事は、マイケルは死んだという事に繋がるわけで、だから最初に、兄弟であるマイケル・ジャクソンは数年前に他界したと言ったの。でも……それは間違いだったかもしれない。私は少し後悔しているわ。だって……私はマイケルを愛していたんだもの。そして……マイケルも私を愛していたんだもの。

 カリフォルニアのとある一軒家が私の家。確か……百万ドルで買ったのを覚えているわ。7LDKでバスは三つ、トイレは四つ、四階建て。でも、この家に遊びに来る人なんて殆どいなかったわ。ファンですらも来てくれなかった。と、いうより……私にファンなんているのかしら? シンガーになってもう相当経つけれど、CDの売り上げは右肩下がりで、ライヴを開催しても席は埋まらない。酷い時なんて、観客席にはイチャイチャしているカップルと酔っ払いのオヤジだけって事もあったわ。歌いながら涙を堪えるのに必死だったわ。何で泣いていたかって? 観客が少ない事に泣いていたんじゃないの。一番前の真ん中の席に、マイケルが座って私を見て微笑んでいたの。そこで私ははっと気づかされたの。ファンがいなくても、席は埋まらなくても、マイケルが見ていてくれているんだって!
 それからというもの、私は毎日マイケルと一緒に過ごしていた。マイケルと一緒なら、何だって怖くなかったわ! 勇気を与えてくれた。そして生きる意味を与えてくれた。そんなマイケルに……私は心から感謝するわ。
 本当に、ありがとう……そして、天国でも歌って、踊って、ファンから愛されるマイケルでいてね。

第二章 さかなクンの最後

「えー、速報です。四月九日午前十一時、年齢不詳、自称マルチタレントの本名不詳、通称さかなクンが、逮捕されました。東京都大田区蒲田駅前で自称私小説家の本名大畑勇貴、通称れつだんが日課のように駅ビルの本屋で文庫本をディグっているところを背後から思い切り金属バットで殴りつけ、ポケットに入れていた財布から千二百円を奪い取り――えー、速報です。アメリカで不動の人気を誇るシンガー、ジャネット・ジャクソンが、兄弟であるマイケル・ジャクソンの墓の前で全裸になって「シンゴー! シンゴー!」と叫んでいるところを通報され、身柄を拘束されていました。ジャネット・ジャクソンは「酔っぱらっていたからよく覚えていない」と犯行を否定しています。速報でした」

最終章 SMAPの伝説

 自称私小説家の本名大畑勇貴、通称れつだんこと僕の家にSMAPの面々が集まったのは、三月も終わりの少し肌寒い夜の事だった。五畳しかない広さのアパートに、木村拓哉、草彅剛容疑者、稲垣吾郎メンバー、中居正広リーダー、香取慎吾の六人が銘々座っているので、殆ど座るスペースは無い。
「ビールでも呑まないか?」と僕が言うが、木村拓哉はずっと「ちょ、待てよ!」と言いながら髪の毛をいじりいじり、草彅剛容疑者は素っ裸で「シンゴー! シンゴー!」と叫んでいるし、稲垣吾郎メンバーはいつもの通りつまらなくていてもいなくても同じような、つまり空気のような存在を醸し出し、中居正広メンバーは「ぜぇがぁいぃにひぃどぉつぅのはなぁあああああ」と音痴丸出しで歌っているし、香取慎吾は今更女装をし、「オッハー! オッハー!」って言っているし、僕はもうアホらしくなって睡眠薬を飲んで寝た。
 起きたら、誰もいなかった。ただ、一つだけ言える事がある。全ては夢幻の出来事だったんだな、って……。
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