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20歳まで覚えていたら呪われて死ぬ言葉
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今から25年前、10歳の冬に起きた話だ。
2階にある6帖の部屋を妹と僕で分け合っていた。部屋には机とベッドと本棚があるのみ。テレビのアンテナは1階の居間しかないので、夜は読書しかすることがない。ゲームは買わない、バラエティは見ない、夜は8時に寝るが一家のルールだったので日中は幼馴染であるH君の家に行って一緒にゲームをして過ごしていた。
僕が読書好きになったのはこのルールのおかげであるが、スーパーファミコン全盛期にゲーム禁止というルールはかなり重いものだった。中学以降は許されたものの、クラスで話題に取り残されるというのは下手すればいじめ被害者になっていた可能性もある。
母親も間違っていたと感じたようで、下2人の弟はゲーム許可になっていた。
テレビを見ながら夕食を食べて8時には部屋に戻る。もちろんすぐに眠れるわけもなく、ベッドで暖かく重い布団に包まり図書館で借りた本や漫画雑誌を読んで過ごす。部屋の奥にあるベッドの隣は窓、あとは本棚と机が2つ。木造の一軒家で暖房器具はない。外は冷たい風が音を立てている。
小学生が読む活字といえばズッコケ三人組か子ども向けの怪談本の2択だろうか。その日僕はある怪談本を読んでいた。夜、一人部屋で怪談本を読むのはぞくぞくしてたまらない。それは今も変わらない。
その中に、20歳まで覚えていると呪われて死ぬ言葉という1篇があった。
今読めばただの子ども騙しだと鼻で笑うだろう。覚えているだけで呪われて死ぬわけがない。馬鹿にするな。
しかし10歳の僕は小便を漏らしかねない衝撃を受けた。その頃はかの名作リングは活字でリリースされたものの、まだ映画化はされていない。今は廃れてしまった心霊番組や再現ドラマがよくテレビで流れていた。そういうものに触れる中で呪いが何たるかは理解していたのだろう。
10歳の僕はそのタイトルを見た瞬間、「これはやばい!」と一旦本を閉じた。しかし考えてみる。そんな危険な言葉がこんな子ども向けの怪談本に載るか? その言葉が本物だとして、読者が死ねば日本中は大パニックになる。創作か本物か、じっくり考える。眠気はない。時間ならいくらでもある。
本物であったら、10年後に死ぬ。
1999年に恐怖の大王がやってきて世界を破滅させるとテレビで言っていた。大昔の偉いノストラダムスという人が未来を予言したという。ノストラダムスが誰なのかは知らないが、いろいろと予言を的中させたすごい人のようだ。クラスでも連日話題になった。予言が真実であれば、1986年生まれの僕は13歳で死ぬことになる。
結局13歳で死ぬなら、呪いの言葉を読んでもダメージは少ない。でもそうか、僕はあと13歳で死ぬのか。両親や兄弟、祖母やいとこにあと3年しか会えない。泣きたくなってきた。
創作だろうが本物だろうがどうせ3年後に死ぬなら、呪いの言葉を見て呪われてもいいか。どうせ20歳までは生きられないんだから。
本の作者は逮捕されないのか、という疑問が頭を過ぎった。
この間見たジョーズという映画を思い出す。
凶暴なサメにたくさんの人が食べられて死んでいた。
父に「なんでサメに食べられていっぱい人が死んでるのに、誰も止めないの? 警察に捕まらないの?」と聞くと「監督は特別な権利を持っているから捕まらないんだよ」と答えていた。
だからこの本の作者も逮捕されないのかもしれない。
父曰く、ジョーズは本物。ではこの本も本物だ。ノストラダムスも本物。
結局3年後には恐怖の大王がやってきてみんな死ぬ。
そう考えると気が楽になってきた。3年間を楽しく生きよう。友達と遊んで祖母の家に泊まって母親と話して妹や弟の相手をして。よし、呪いの言葉を見るぞ!
この言葉を20歳まで覚えていたら呪われて死にます。
その覚悟がある人だけ続きを読んでください。
後で後悔しても知りませんよ。
なお、この言葉を覚えていた私の兄は20歳の誕生日に死にました。
兄は「呪いの言葉なんかあるわけないだろ」と笑っていましたが、呪われて死んでしまいました。
次のページを開くなら、覚悟してください。
7行を何度も読み返す。震えが止まらない。
やっぱり呪いの言葉は本物だった!
作者のお兄さんが20歳で死んだ!
次のページを開くか、ここで読むのをやめるか。
長考した結果、恐怖の大王も嫌だし呪われて死ぬのも嫌だという結論に至り、次のページは飛ばすことにした。2ページ先を開く。そこには「呪いの言葉はムラサキカガミです。これを20歳まで覚えていると呪われて死にます。」と書かれていた。
えっ……。うそーん。
思考停止。
前のページを開くと呪いが絵で表現してあった。ポケモンのゴーストをイメージして欲しい。
言葉を見てしまった。僕は20歳で死ぬ。あと10年で死ぬ。あと10年しか生きられない。あと10年しか両親、兄弟、祖母、いとこに会えない。あと10年しか友達と遊べない。あと10年。あと10年。
涙は静かに流れ、それが嗚咽となる。呪いの言葉を見てしまった後悔と、息子があと10年しか生きられない両親への申し訳なさで涙が止まらない。えづくほど号泣した。心の中で家族や友人に謝罪する。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。
泣いている内に疲れて眠っていた。
翌朝、母に叩き起こされる。兄弟とともに母の作った朝食を食べる。こうやってお母さんのご飯を食べるのもあと10年だけなのかと思うと朝食を食べながら涙が出てきた。3歳年下の妹が「お母さーん、お兄ちゃんが泣いてるー」と笑っている。妹にも謝る。こんな兄でごめん。先に死ぬけど幸せに生きてくれ。
母は僕が学校に行きたくないから泣いていると勘違いしているようだった。ランドセルを背負い玄関に行く前に台所にいる母に「お母さん、僕、長生きできないかも……」と言うと「なにわけのわかんないこと言ってんの。さっさと行きなさい。もう迎え来てるんだから」と言い台所に戻って行った。
グループで登校している間、気分は沈んでいた。校門を通り下駄箱で履き替え教室に入る。クラスメイトはみんな楽しそうに盛り上がっている。席に座ると友人が数人やってきて昨日のテレビの話を始めた。適当に相槌を打っていると「こいつらは、僕が10年後に呪われて死ぬことを知らないんだよなぁ」と冷めた気分になってくる。
学校が終わると保育園から仲のよい親友のH君の家に行って漫画を読んだりゲームをして過ごす。H君の家は洋服屋を営んでおり店の2階がH君の部屋になっている。階段を上がってすぐ左に漫画用の3帖ほどの部屋があり、その隣がH君の部屋で奥に行くとH君の兄の部屋となっている。漫画部屋はその名のとおり漫画で溢れている。漫画を読んで大学ノートに落書きしゲームをして遊ぶ。
僕とH君は将来漫画家になることを夢見ていた。小学生の将来の夢の上位が野球選手や漫画家という時代だった。好きな漫画を模写したりストーリーを考えて見様見真似で漫画を描く。小学生の落書きが「上手い」と褒められるのは小学生の間だけだろう。なにをしても褒められるという時代が僕にもあった。
その日の僕は先日の呪いの言葉のせいで漫画もゲームも模写も雑談も心ここにあらずという状態だった。H君は明るく元気で優しい性格で顔もよく、バレンタインデーではいくつかチョコレートを貰うほどだった。もちろん僕はクラスの女子が男子全員にチョコを配るというお情けでしか貰ったことはない。スポーツも勉強も下の下で顔も性格も悪い僕を、クラスの女子が好意を持つことはありえない。
そんなH君なので僕の状態を風邪かなにかかと勘違いしたようで、いろいろと声をかけてくれる。しかし、「読んだ怪談本に呪いの言葉が書いてあり、覚えていると20歳で死ぬ」とは言えない。それを言うことはH君の人生を奪ってしまうことになるからだ。それは絶対にできない。救いようのないクズであっても最後の一線は超えてはならないことだけはわかっている。
H君に呪いの言葉を言ってしまうと、H君も呪われてしまい20歳で死んでしまう。ただでさえ自分が死ぬことへの申し訳なさで号泣するほどなのに、H君の家族の悲しみも背負うことは許容範囲外だ。
言ってはいけないとわかっている。でも、この悩みを誰かと共有したい。一人で背負うにはあまりにも重すぎる。一人なら悩んで後悔して20歳で死ぬだけだが、二人いれば解決策も思いつくかもしれない。一人より二人。二人で励まし合って20歳まで生きる。
僕は一度大きく息を吸い込み、「昨日読んだ本に呪いの言葉が書いてあったんだよね。それを覚えてると20歳で死ぬんだって」と一気に吐き出した。
ごめん、ごめん、ごめん……心の中でH君に何度も謝罪する。道連れにしてごめん……。でも僕一人では背負いきれない。半泣きでうつむき何度も謝罪をする。H君は大声で笑った。
「そんなの、あるわけないじゃん!」と言いながらまだ笑い続ける。まさかの反応に僕の思考回路はショート寸前。「いや、それがあるんだって。本当なんだよ」とむきになって反論する。
「その本俺も持ってるよ」と言い漫画部屋から怪談本を持ってきた。「まだ最初しか読んでないんだけど、その呪いの言葉って何ページ?」と言いながら適当にぱらぱらとめくる。腕を掴み「いや、ほんと、駄目だから! 責任取れないから!」と大声で止める。
H君は一切信じていないようで、「呪われて死ぬような言葉を書くわけないじゃん」と笑いながら諭すように言う。
「僕も思ったよ。書くわけないって。あるわけないって。でもあるかもしれないじゃん! この言葉を覚えたら20歳で死ぬんだよ! H君は信じてないとして、もし本当に20歳で死んだら僕のせいでしょ! 責任取れないから!」
僕の必死に訴えにH君は腕を組んで「うーん……」と唸っている。
「わかった。俺は言葉を見る。これは俺の責任だ。俺が呪いの言葉を見ると決めたから見る。それで20歳で死んだとしても、君のせいにはしない」
「なんでそんなに言葉を見たいの……?」
「そりゃ、親友が苦しんでるからだよ!」
H君の僕を思う言葉に涙が出た。そりゃ女の子にモテるわけだよな……。僕は僕のことしか考えていない。保身に逃げた。親友を道連れにしようとした。腐った人間、救いようのないクズだ。そんな僕が唯一救われる道は、H君に呪いの言葉を見せないことだ。これだけは絶対に成し遂げなければならない。人としての最低ラインだ。僕は見ようとするH君を何度も止めた。
が、結局H君は呪いの言葉を見てしまった――
その日の夜から、僕は自分の家族への謝罪に合わせてH君とH君の家族にも謝罪を続けた。毎日、毎日、寝る前に謝罪をし続けた。
半年後、次のページに「でも大丈夫! 白い水晶玉という言葉を20歳まで覚えていれば呪いは無効化されます」という文を読むまで謝罪をし続けた。
白い水晶玉という言葉を忘れないように脳内に留めておくとムラサキカガミも一緒になって覚え続けるわけで、15歳になっても20歳になっても25歳、30歳、35歳と25年間ムラサキカガミと白い水晶玉を覚え続けることになってしまった。
僕が35歳の今まで生き続けているのは、H君の言うように呪いの言葉などただの嘘だったのか、それともそれを無効化する言葉を覚えていたからなのかは誰にもわからない。
2階にある6帖の部屋を妹と僕で分け合っていた。部屋には机とベッドと本棚があるのみ。テレビのアンテナは1階の居間しかないので、夜は読書しかすることがない。ゲームは買わない、バラエティは見ない、夜は8時に寝るが一家のルールだったので日中は幼馴染であるH君の家に行って一緒にゲームをして過ごしていた。
僕が読書好きになったのはこのルールのおかげであるが、スーパーファミコン全盛期にゲーム禁止というルールはかなり重いものだった。中学以降は許されたものの、クラスで話題に取り残されるというのは下手すればいじめ被害者になっていた可能性もある。
母親も間違っていたと感じたようで、下2人の弟はゲーム許可になっていた。
テレビを見ながら夕食を食べて8時には部屋に戻る。もちろんすぐに眠れるわけもなく、ベッドで暖かく重い布団に包まり図書館で借りた本や漫画雑誌を読んで過ごす。部屋の奥にあるベッドの隣は窓、あとは本棚と机が2つ。木造の一軒家で暖房器具はない。外は冷たい風が音を立てている。
小学生が読む活字といえばズッコケ三人組か子ども向けの怪談本の2択だろうか。その日僕はある怪談本を読んでいた。夜、一人部屋で怪談本を読むのはぞくぞくしてたまらない。それは今も変わらない。
その中に、20歳まで覚えていると呪われて死ぬ言葉という1篇があった。
今読めばただの子ども騙しだと鼻で笑うだろう。覚えているだけで呪われて死ぬわけがない。馬鹿にするな。
しかし10歳の僕は小便を漏らしかねない衝撃を受けた。その頃はかの名作リングは活字でリリースされたものの、まだ映画化はされていない。今は廃れてしまった心霊番組や再現ドラマがよくテレビで流れていた。そういうものに触れる中で呪いが何たるかは理解していたのだろう。
10歳の僕はそのタイトルを見た瞬間、「これはやばい!」と一旦本を閉じた。しかし考えてみる。そんな危険な言葉がこんな子ども向けの怪談本に載るか? その言葉が本物だとして、読者が死ねば日本中は大パニックになる。創作か本物か、じっくり考える。眠気はない。時間ならいくらでもある。
本物であったら、10年後に死ぬ。
1999年に恐怖の大王がやってきて世界を破滅させるとテレビで言っていた。大昔の偉いノストラダムスという人が未来を予言したという。ノストラダムスが誰なのかは知らないが、いろいろと予言を的中させたすごい人のようだ。クラスでも連日話題になった。予言が真実であれば、1986年生まれの僕は13歳で死ぬことになる。
結局13歳で死ぬなら、呪いの言葉を読んでもダメージは少ない。でもそうか、僕はあと13歳で死ぬのか。両親や兄弟、祖母やいとこにあと3年しか会えない。泣きたくなってきた。
創作だろうが本物だろうがどうせ3年後に死ぬなら、呪いの言葉を見て呪われてもいいか。どうせ20歳までは生きられないんだから。
本の作者は逮捕されないのか、という疑問が頭を過ぎった。
この間見たジョーズという映画を思い出す。
凶暴なサメにたくさんの人が食べられて死んでいた。
父に「なんでサメに食べられていっぱい人が死んでるのに、誰も止めないの? 警察に捕まらないの?」と聞くと「監督は特別な権利を持っているから捕まらないんだよ」と答えていた。
だからこの本の作者も逮捕されないのかもしれない。
父曰く、ジョーズは本物。ではこの本も本物だ。ノストラダムスも本物。
結局3年後には恐怖の大王がやってきてみんな死ぬ。
そう考えると気が楽になってきた。3年間を楽しく生きよう。友達と遊んで祖母の家に泊まって母親と話して妹や弟の相手をして。よし、呪いの言葉を見るぞ!
この言葉を20歳まで覚えていたら呪われて死にます。
その覚悟がある人だけ続きを読んでください。
後で後悔しても知りませんよ。
なお、この言葉を覚えていた私の兄は20歳の誕生日に死にました。
兄は「呪いの言葉なんかあるわけないだろ」と笑っていましたが、呪われて死んでしまいました。
次のページを開くなら、覚悟してください。
7行を何度も読み返す。震えが止まらない。
やっぱり呪いの言葉は本物だった!
作者のお兄さんが20歳で死んだ!
次のページを開くか、ここで読むのをやめるか。
長考した結果、恐怖の大王も嫌だし呪われて死ぬのも嫌だという結論に至り、次のページは飛ばすことにした。2ページ先を開く。そこには「呪いの言葉はムラサキカガミです。これを20歳まで覚えていると呪われて死にます。」と書かれていた。
えっ……。うそーん。
思考停止。
前のページを開くと呪いが絵で表現してあった。ポケモンのゴーストをイメージして欲しい。
言葉を見てしまった。僕は20歳で死ぬ。あと10年で死ぬ。あと10年しか生きられない。あと10年しか両親、兄弟、祖母、いとこに会えない。あと10年しか友達と遊べない。あと10年。あと10年。
涙は静かに流れ、それが嗚咽となる。呪いの言葉を見てしまった後悔と、息子があと10年しか生きられない両親への申し訳なさで涙が止まらない。えづくほど号泣した。心の中で家族や友人に謝罪する。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。
泣いている内に疲れて眠っていた。
翌朝、母に叩き起こされる。兄弟とともに母の作った朝食を食べる。こうやってお母さんのご飯を食べるのもあと10年だけなのかと思うと朝食を食べながら涙が出てきた。3歳年下の妹が「お母さーん、お兄ちゃんが泣いてるー」と笑っている。妹にも謝る。こんな兄でごめん。先に死ぬけど幸せに生きてくれ。
母は僕が学校に行きたくないから泣いていると勘違いしているようだった。ランドセルを背負い玄関に行く前に台所にいる母に「お母さん、僕、長生きできないかも……」と言うと「なにわけのわかんないこと言ってんの。さっさと行きなさい。もう迎え来てるんだから」と言い台所に戻って行った。
グループで登校している間、気分は沈んでいた。校門を通り下駄箱で履き替え教室に入る。クラスメイトはみんな楽しそうに盛り上がっている。席に座ると友人が数人やってきて昨日のテレビの話を始めた。適当に相槌を打っていると「こいつらは、僕が10年後に呪われて死ぬことを知らないんだよなぁ」と冷めた気分になってくる。
学校が終わると保育園から仲のよい親友のH君の家に行って漫画を読んだりゲームをして過ごす。H君の家は洋服屋を営んでおり店の2階がH君の部屋になっている。階段を上がってすぐ左に漫画用の3帖ほどの部屋があり、その隣がH君の部屋で奥に行くとH君の兄の部屋となっている。漫画部屋はその名のとおり漫画で溢れている。漫画を読んで大学ノートに落書きしゲームをして遊ぶ。
僕とH君は将来漫画家になることを夢見ていた。小学生の将来の夢の上位が野球選手や漫画家という時代だった。好きな漫画を模写したりストーリーを考えて見様見真似で漫画を描く。小学生の落書きが「上手い」と褒められるのは小学生の間だけだろう。なにをしても褒められるという時代が僕にもあった。
その日の僕は先日の呪いの言葉のせいで漫画もゲームも模写も雑談も心ここにあらずという状態だった。H君は明るく元気で優しい性格で顔もよく、バレンタインデーではいくつかチョコレートを貰うほどだった。もちろん僕はクラスの女子が男子全員にチョコを配るというお情けでしか貰ったことはない。スポーツも勉強も下の下で顔も性格も悪い僕を、クラスの女子が好意を持つことはありえない。
そんなH君なので僕の状態を風邪かなにかかと勘違いしたようで、いろいろと声をかけてくれる。しかし、「読んだ怪談本に呪いの言葉が書いてあり、覚えていると20歳で死ぬ」とは言えない。それを言うことはH君の人生を奪ってしまうことになるからだ。それは絶対にできない。救いようのないクズであっても最後の一線は超えてはならないことだけはわかっている。
H君に呪いの言葉を言ってしまうと、H君も呪われてしまい20歳で死んでしまう。ただでさえ自分が死ぬことへの申し訳なさで号泣するほどなのに、H君の家族の悲しみも背負うことは許容範囲外だ。
言ってはいけないとわかっている。でも、この悩みを誰かと共有したい。一人で背負うにはあまりにも重すぎる。一人なら悩んで後悔して20歳で死ぬだけだが、二人いれば解決策も思いつくかもしれない。一人より二人。二人で励まし合って20歳まで生きる。
僕は一度大きく息を吸い込み、「昨日読んだ本に呪いの言葉が書いてあったんだよね。それを覚えてると20歳で死ぬんだって」と一気に吐き出した。
ごめん、ごめん、ごめん……心の中でH君に何度も謝罪する。道連れにしてごめん……。でも僕一人では背負いきれない。半泣きでうつむき何度も謝罪をする。H君は大声で笑った。
「そんなの、あるわけないじゃん!」と言いながらまだ笑い続ける。まさかの反応に僕の思考回路はショート寸前。「いや、それがあるんだって。本当なんだよ」とむきになって反論する。
「その本俺も持ってるよ」と言い漫画部屋から怪談本を持ってきた。「まだ最初しか読んでないんだけど、その呪いの言葉って何ページ?」と言いながら適当にぱらぱらとめくる。腕を掴み「いや、ほんと、駄目だから! 責任取れないから!」と大声で止める。
H君は一切信じていないようで、「呪われて死ぬような言葉を書くわけないじゃん」と笑いながら諭すように言う。
「僕も思ったよ。書くわけないって。あるわけないって。でもあるかもしれないじゃん! この言葉を覚えたら20歳で死ぬんだよ! H君は信じてないとして、もし本当に20歳で死んだら僕のせいでしょ! 責任取れないから!」
僕の必死に訴えにH君は腕を組んで「うーん……」と唸っている。
「わかった。俺は言葉を見る。これは俺の責任だ。俺が呪いの言葉を見ると決めたから見る。それで20歳で死んだとしても、君のせいにはしない」
「なんでそんなに言葉を見たいの……?」
「そりゃ、親友が苦しんでるからだよ!」
H君の僕を思う言葉に涙が出た。そりゃ女の子にモテるわけだよな……。僕は僕のことしか考えていない。保身に逃げた。親友を道連れにしようとした。腐った人間、救いようのないクズだ。そんな僕が唯一救われる道は、H君に呪いの言葉を見せないことだ。これだけは絶対に成し遂げなければならない。人としての最低ラインだ。僕は見ようとするH君を何度も止めた。
が、結局H君は呪いの言葉を見てしまった――
その日の夜から、僕は自分の家族への謝罪に合わせてH君とH君の家族にも謝罪を続けた。毎日、毎日、寝る前に謝罪をし続けた。
半年後、次のページに「でも大丈夫! 白い水晶玉という言葉を20歳まで覚えていれば呪いは無効化されます」という文を読むまで謝罪をし続けた。
白い水晶玉という言葉を忘れないように脳内に留めておくとムラサキカガミも一緒になって覚え続けるわけで、15歳になっても20歳になっても25歳、30歳、35歳と25年間ムラサキカガミと白い水晶玉を覚え続けることになってしまった。
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