こんなに好きなのに伝わらないのなら――

相沢蒼依

文字の大きさ
45 / 114
兄貴の困惑

しおりを挟む
 先に入室した若林先輩が僕に抱きつこうとしたが、素早く身を翻して山のように積まれている教材の隙間に視線を飛ばしてチェックをはじめた。

「辰之くん、なにをやってるんだ。俺の相手をしてくれ」

「少しだけ待ってください。この間のように盗聴器を仕掛けられていたら、ふたり揃って誰かに脅されるかもしれないんですよ」

 節操のなさにうんざりしつつ、たくさんの教材を見渡しながら盗聴器を探していく。

 僕なりにしっかり注意をしたというのに、若林先輩は探し物をする僕の背後から両腕を伸ばし、躰をまさぐりながらうなじにキスを落とした。ぞくっとする唇の感触に、頭を振ってやり過ごす。

「辰之くんとなら、どんな噂をされてもかまわないけど」

「あんな派手な呼び出しされた時点で、尾ひれがついた噂をされそうですけどね。ンンっ!」

 若林先輩のいやらしい手の動きで感じてしまい、探し物をする集中力が一瞬で削がれた。

(くそっ! 大事なときだっていうのに、敏感な自分の躰が疎ましい……)

「いい匂い。こっちを向いて」

 首筋を執拗に責めることに飽きたのか、僕が振り返る前に強引に振り向かせ、ぐぐっと顔を寄せる。

「キスはダメですよ!」

 目の前に迫った唇を、右手でやんわりと塞いだ。油断も隙もありゃしない。

「俺、キスはうまいよ。挿れたくなるくらいに、感じさせてあげる」

 キスを強請っているくせに僕の尻を揉みしだく感じで、念入りに両手を使って撫でまわされた。

「だったらなおのこと、遠慮させていただきます」

「ふーん。辰之くんがそういうつもりなら、俺にも考えがある」

 含みのあるまなざしに嫌な予感しかしない。黙ったまま若林先輩の唇から、静かに手を退けた。

「辰之くんとのデートは、明日のこの時間だろ?」

「はい、そうですけど……」

「キス以外は、なにをしてもいい約束だったよね。だからさ――」

 わざわざ耳元に寄せて楽しげに語られたセリフの続きに、顔を歪ませるしかない。

 若林先輩は、告げられた言葉に絶句して固まる僕のワイシャツのボタンを数個だけ外し、片手を忍ばせて胸の頂きに触れる。

「辰之くんとの短い逢瀬の時間を、俺なりに楽しませてもらうから」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

処理中です...