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兄貴の悦び
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箱崎と同じクラスというワードを聞いた箱崎の彼女は、僕に呼び出されたときに見せた警戒しているような表情を緩めて、首を横に振りながら答えた。「ごめんね、そういう話は疎くて」と。
「箱崎、どうして嘘をついたんだ? 僕はそれを知りたくて、今日ここに呼びだした」
核心に迫るべく、ところどころアクセントを置きながら言の葉を告げた。それでも逸らしたままでいる、箱崎の視線が戻らない。伏せたまぶたが影を落として、箱崎の苦悩を色濃くする。
「黒瀬はすべてわかっていて、今日まで俺を野放しにしてたってのか。あの時点でわかっていたなんて、驚きしかないよ」
「ピアノの裏に盗聴器を仕掛けたのも、箱崎だろう?」
「うん。休み時間に黒瀬のスマホの内容が見えて、黒瀬先輩とわざわざ音楽室で逢うっていうのが引っかかったから。ふたりは兄弟なんだし、自宅でも話ができるだろう?」
やけにあっさりとゲロした箱崎に、内心あっけにとられた。
「そうだね。自宅でできない話の内容について箱崎が気になって、持っていた盗聴器を仕掛けたのはわかったけれど、おまえはいつでも、そんなものを持ち歩いていたのか?」
「……持ち歩いてた。理由は――」
「好きな相手の声を盗聴するためだろう? もちろん、彼女の声じゃない」
言いきったセリフで箱崎はやっと顔をあげて、隣にいる僕の顔を見る。まぶたを伏せていたときに見せた翳りが一切ないことで、心の内を明かしてくれることがわかった。
「俺ね、声を聞いた瞬間、雷に打たれたみたいに躰が強張ったんだ。俺が理想にしている声を持っているなって」
確かに兄貴の声は耳障りがいい。艶のある低音で愛の告白をされたら躰が意味なく震えるし、卑猥なおねだりをされたら、喜んでやってしまう自分がいるのも事実だ。箱崎の言葉に、なぜだか納得してしまった。
「箱崎って、声フェチだったんだ」
「盗聴器を買ってしまうとは思いもしなかった。だけどいつでも声を聞いていたいと思ったら、購入する意欲に拍車がかかってしまって」
「ふ~ん」
「箱崎って呼ばれるだけで最初は幸せだったのに、それだけじゃ足りなくなっていった」
苦しそうに微笑む箱崎の表情につられるように、僕も苦笑を浮かべた。気持ちがわかりすぎるくらいに理解できてしまうせいで。
「箱崎、どうして嘘をついたんだ? 僕はそれを知りたくて、今日ここに呼びだした」
核心に迫るべく、ところどころアクセントを置きながら言の葉を告げた。それでも逸らしたままでいる、箱崎の視線が戻らない。伏せたまぶたが影を落として、箱崎の苦悩を色濃くする。
「黒瀬はすべてわかっていて、今日まで俺を野放しにしてたってのか。あの時点でわかっていたなんて、驚きしかないよ」
「ピアノの裏に盗聴器を仕掛けたのも、箱崎だろう?」
「うん。休み時間に黒瀬のスマホの内容が見えて、黒瀬先輩とわざわざ音楽室で逢うっていうのが引っかかったから。ふたりは兄弟なんだし、自宅でも話ができるだろう?」
やけにあっさりとゲロした箱崎に、内心あっけにとられた。
「そうだね。自宅でできない話の内容について箱崎が気になって、持っていた盗聴器を仕掛けたのはわかったけれど、おまえはいつでも、そんなものを持ち歩いていたのか?」
「……持ち歩いてた。理由は――」
「好きな相手の声を盗聴するためだろう? もちろん、彼女の声じゃない」
言いきったセリフで箱崎はやっと顔をあげて、隣にいる僕の顔を見る。まぶたを伏せていたときに見せた翳りが一切ないことで、心の内を明かしてくれることがわかった。
「俺ね、声を聞いた瞬間、雷に打たれたみたいに躰が強張ったんだ。俺が理想にしている声を持っているなって」
確かに兄貴の声は耳障りがいい。艶のある低音で愛の告白をされたら躰が意味なく震えるし、卑猥なおねだりをされたら、喜んでやってしまう自分がいるのも事実だ。箱崎の言葉に、なぜだか納得してしまった。
「箱崎って、声フェチだったんだ」
「盗聴器を買ってしまうとは思いもしなかった。だけどいつでも声を聞いていたいと思ったら、購入する意欲に拍車がかかってしまって」
「ふ~ん」
「箱崎って呼ばれるだけで最初は幸せだったのに、それだけじゃ足りなくなっていった」
苦しそうに微笑む箱崎の表情につられるように、僕も苦笑を浮かべた。気持ちがわかりすぎるくらいに理解できてしまうせいで。
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