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兄貴の悦び

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 箱崎の視線は僕に向いておらず、目の前にある青空に釘付けだった。避けられている理由を知りたくて、質問をぶつけるべく声をかけた。

「箱崎としては僕らの付き合い、どう思う?」

 箱崎に視線をロックオンしたまま、単刀直入に訊ねた。どんな返答が返ってくるのか、まったく予想がつかないゆえに、無駄にドキドキする。

「どう思うかって聞かれても、黒瀬のプライベートなことを、俺がなにか言ったところで」

「箱崎の率直な意見が聞きたい。教えてくれないか?」

 言い淀む箱崎にたいして、瞬時に食らいついた。僕がどんな顔をしていたのかまったくわからないが、僕の声を聞いた箱崎が、逸らしていた顔をこちらに向けるくらいの迫力があったことは理解した。

「率直な意見って、う~ん……。好き合っている同士が付き合うんだから、別にいいんじゃないかと思うけど」

「本当にそれは、おまえの気持ちなのか?」

 間髪おかずに質問を続ける。箱崎の心を丸裸にするために、手を抜いたりなんてしないつもりだった。

「そうだよ。嘘偽りのない俺の気持ち」

 僕の顔をまっすぐ見つめたまま答えた箱崎に、いつもより低い声で問いかける。

「だったら、どうしてあのとき嘘をついたんだ?」

「あのときって?」

 箱崎は何度か瞬きしながら、小さく首を傾げる。あえて僕が言葉を濁したことにより、話に集中してもらえた。

「兄貴が付き合ってた彼女の情報を、わざわざ教えてくれたろ。『俺の彼女がさ、黒瀬先輩の彼女についての噂話を、たまにしてるんだよ』って。噂話というのは第三者の思惑やら、いろんなものがついてくる。よく聞く噂話の尾ひれだったりね。僕はそういうのを、ちゃんと確かめたくなるんだよ。真実を見極めるために!」

 あからさまに箱崎の顔色が変わった。瞳が意味なく揺らめき、呼吸が浅くなっているのが見てとれる。

「箱崎、どうした? 顔色が悪いみたい」

「ぁ、そ……そうかな」

 ふいっと僕から視線を逸らして、足元を見つめる箱崎。横顔からも動揺の色が窺えた。

「僕ね、その日のうちに隣のクラスに行って、箱崎の彼女に声をかけた。「箱崎と同じクラスの黒瀬って言うんだけど、僕の兄貴の彼女が君のクラスにいること知ってる?」ってね」
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