17 / 25
番外編
「教育的指導」という名の溺愛過剰供給
しおりを挟む
三好直人は、現在とても困っている。原因は明確だ――高瀬恒一が離れない。
しかも朝から。平日の出勤前。キッチンでコーヒーを淹れている俺の背中に、ぴったりと高瀬の胸が当たっている。
「……恒一」
「ん?」
「近いです」
言った瞬間、腰に回された腕がむしろ強くなった。
「同棲してるんだから、これくらい普通だろ」
「普通の基準がおかしいです」
そう言いながらも、俺は一歩も動けない。なぜなら、高瀬の顎が俺の肩に乗っているからだ。
重い。温かい。そして、やけに落ち着いた呼吸が首元にかかる。
「直人さ」
「はい」
「まだ遠慮してるだろ」
ぎくりとする。
「してません」
「嘘」
即答で切り捨てられた。
「洗濯物も、寝る位置も、ソファの座り方も意識してる」
「……」
「全部、俺を避ける方向に最適化されてる」
(――最適化って何だ? 忙しくて疲れている恒一の負担にならないように、配慮していただけなのに)
「直人には、教育が必要だな」
「なぜ、そこで教育になるんですか」
そう言った瞬間、頬に柔らかい感触。
――キスされた。しかも軽くじゃない。頬、こめかみ、首筋と、間髪入れずに。
「っ、ま、待って」
「待たない」
宣言と同時に、脚まで絡めてくる。さらに密着度がアップした。
「恒一、出勤前なのに……困る」
「だからだろ」
「意味が……」
「直人が甘えないから、俺が甘やかす」
理不尽すぎる理屈に言葉を失っていると、今度はソファに引きずられた。
座らされる、ではない。高瀬の膝に乗せられる。
「……あの」
「逃げない」
肩を抱き、背中を撫で、指先で耳を触る。
「ほら」
「何がですか」
「何も言わずに、身を預ける練習」
そんな練習、聞いたことがない。でも高瀬の手は迷いがなくて、触れ方がやけに優しい。
逃げ場を塞ぐくせに、乱暴にはしない。それが余計に困る。
「直人」
「……はい」
「俺に触られるの、嫌か?」
即座に首を振った。
「……嫌じゃ、ないです」
正直すぎたかもしれない。でも噓はつきたくなかった。
高瀬は満足そうに笑って、俺の額に額を当てた。
「なら合格」
「何が」
「教育、進捗良好」
そのまま、ぎゅっと抱きしめられる。俺はしばらく、腕の置き場がわからず硬直していたが、諦めて背中に手を回した。
……ほんの一瞬だけ。それだけで、高瀬の機嫌が目に見えて良くなるのだから、卑怯だ。
「直人、自分から来るの初めてだな」
「違います、これは……」
「甘え」
断定されたせいで、心臓がうるさくなる。
「教育的指導、続行決定」
「まだやるんですか」
「毎日」
そんなの――困る。困るはずなのに。高瀬の胸に顔が埋まって鼓動を聞いていると、どうでもよくなってしまった。
俺は小さく息を吐いて、観念した。
「お願いですから……手加減、してください」
「それは無理」
相変わらず即答だった。
――同棲しても、相変わらず甘え下手な三好直人は、本日も高瀬恒一の“教育”に翻弄されている。
しかも、少しずつそれを――嫌じゃないと思い始めているのだから、どうにも救いがない。
しかも朝から。平日の出勤前。キッチンでコーヒーを淹れている俺の背中に、ぴったりと高瀬の胸が当たっている。
「……恒一」
「ん?」
「近いです」
言った瞬間、腰に回された腕がむしろ強くなった。
「同棲してるんだから、これくらい普通だろ」
「普通の基準がおかしいです」
そう言いながらも、俺は一歩も動けない。なぜなら、高瀬の顎が俺の肩に乗っているからだ。
重い。温かい。そして、やけに落ち着いた呼吸が首元にかかる。
「直人さ」
「はい」
「まだ遠慮してるだろ」
ぎくりとする。
「してません」
「嘘」
即答で切り捨てられた。
「洗濯物も、寝る位置も、ソファの座り方も意識してる」
「……」
「全部、俺を避ける方向に最適化されてる」
(――最適化って何だ? 忙しくて疲れている恒一の負担にならないように、配慮していただけなのに)
「直人には、教育が必要だな」
「なぜ、そこで教育になるんですか」
そう言った瞬間、頬に柔らかい感触。
――キスされた。しかも軽くじゃない。頬、こめかみ、首筋と、間髪入れずに。
「っ、ま、待って」
「待たない」
宣言と同時に、脚まで絡めてくる。さらに密着度がアップした。
「恒一、出勤前なのに……困る」
「だからだろ」
「意味が……」
「直人が甘えないから、俺が甘やかす」
理不尽すぎる理屈に言葉を失っていると、今度はソファに引きずられた。
座らされる、ではない。高瀬の膝に乗せられる。
「……あの」
「逃げない」
肩を抱き、背中を撫で、指先で耳を触る。
「ほら」
「何がですか」
「何も言わずに、身を預ける練習」
そんな練習、聞いたことがない。でも高瀬の手は迷いがなくて、触れ方がやけに優しい。
逃げ場を塞ぐくせに、乱暴にはしない。それが余計に困る。
「直人」
「……はい」
「俺に触られるの、嫌か?」
即座に首を振った。
「……嫌じゃ、ないです」
正直すぎたかもしれない。でも噓はつきたくなかった。
高瀬は満足そうに笑って、俺の額に額を当てた。
「なら合格」
「何が」
「教育、進捗良好」
そのまま、ぎゅっと抱きしめられる。俺はしばらく、腕の置き場がわからず硬直していたが、諦めて背中に手を回した。
……ほんの一瞬だけ。それだけで、高瀬の機嫌が目に見えて良くなるのだから、卑怯だ。
「直人、自分から来るの初めてだな」
「違います、これは……」
「甘え」
断定されたせいで、心臓がうるさくなる。
「教育的指導、続行決定」
「まだやるんですか」
「毎日」
そんなの――困る。困るはずなのに。高瀬の胸に顔が埋まって鼓動を聞いていると、どうでもよくなってしまった。
俺は小さく息を吐いて、観念した。
「お願いですから……手加減、してください」
「それは無理」
相変わらず即答だった。
――同棲しても、相変わらず甘え下手な三好直人は、本日も高瀬恒一の“教育”に翻弄されている。
しかも、少しずつそれを――嫌じゃないと思い始めているのだから、どうにも救いがない。
10
あなたにおすすめの小説
攻められない攻めと、受けたい受けの話
雨宮里玖
BL
恋人になったばかりの高月とのデート中に、高月の高校時代の友人である唯香に遭遇する。唯香は遠慮なく二人のデートを邪魔して高月にやたらと甘えるので、宮咲はヤキモキして——。
高月(19)大学一年生。宮咲の恋人。
宮咲(18)大学一年生。高月の恋人。
唯香(19)高月の友人。性格悪。
智江(18)高月、唯香の友人。
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
【完結】恋した君は別の誰かが好きだから
海月 ぴけ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。
青春BLカップ31位。
BETありがとうございました。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
二つの視点から見た、片思い恋愛模様。
じれきゅん
ギャップ攻め
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
ある新緑の日に。
立樹
BL
高校からの友人の瑛に彼女ができてから、晴臣は彼のことが好きなのだと認識した。
けれど、会えば辛くなる。でも、会いたい。
そんなジレンマを抱えていたが、ある日、瑛から
「肉が食べたい」と、メールが入り、久しぶりに彼に会うことになった。
「出来損ない」オメガと幼馴染の王弟アルファの、発情初夜
鳥羽ミワ
BL
ウィリアムは王族の傍系に当たる貴族の長男で、オメガ。発情期が二十歳を過ぎても来ないことから、家族からは「欠陥品」の烙印を押されている。
そんなウィリアムは、政略結婚の駒として国内の有力貴族へ嫁ぐことが決まっていた。しかしその予定が一転し、幼馴染で王弟であるセドリックとの結婚が決まる。
あれよあれよと結婚式当日になり、戸惑いながらも結婚を誓うウィリアムに、セドリックは優しいキスをして……。
そして迎えた初夜。わけもわからず悲しくなって泣くウィリアムを、セドリックはたくましい力で抱きしめる。
「お前がずっと、好きだ」
甘い言葉に、これまで熱を知らなかったウィリアムの身体が潤み、火照りはじめる。
※ムーンライトノベルズ、アルファポリス、pixivへ掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる