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第一章:火花と氷
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掃除を終えた教室は、窓からの夕陽で赤く染まっていた。赤い光が床に長い影を落とし、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っている。ほんの一瞬、胸の奥までその静けさが染み込んだ――そのときだった。
「おーい、委員長! 一緒に帰ろーぜ」
後ろから響く声に振り向くと、榎本が当然のように俺の隣に並んできた。まるで、俺が待っているとでも思っているような顔で。思わず、ため息がこぼれそうになる。
「……好きにしろ」
追い払うのも面倒になり、俺は歩調を変えずに答える。
校門を抜けるまでの間、榎本はずっと落ち着きなく喋った。購買のパンの話、昼間の授業の退屈さ、明日の体育でサッカーがあること。どれもくだらない話題の羅列なのに、不思議と耳障りではなかった。
「なぁ、委員長」
「……なんだ」
「今日さ、ちょっと思ったんだよ」
いつもの軽口かと思いきや、榎本が急に真剣な顔になった。何を言い出すつもりだ――そんな予感に、思わず足が止まる。
「お前、笑ったら絶対かっけぇだろ」
「は?」
「だっていつも無表情でさ。怒ってんだか呆れてんだか、わかんねー顔してんじゃん。……だから俺、委員長を笑わせたい」
あまりに突拍子もない言葉に、眉根を寄せながら榎本の顔を見た。榎本は本気の目で俺を見つめ返す。
「くだらない。人を笑わせるなんて無意味だ」
「無意味じゃねーよ」
榎本は即答した。
「人間、笑ってなんぼだろ。俺はそう思う。だから明日から俺、お前を笑わせるために全力を出すからな」
「ふざけるな。そんな必要は――」
「必要ある! 俺が決めた!」
無鉄砲な宣言に、思わず言葉を失った。
夕陽の下で屈託なく笑う榎本は、俺とはまるで正反対の存在だった。その笑顔は赤い光を受けてさらに輝きを増し、真正面から見ていられないほど眩しい。視線を逸らしたのは、きっと夕陽のせいじゃない。
(……コイツはいったい、何を考えているんだ)
胸の奥に言葉にならないざわめきが、否応なしに広がっていく。
「おーい、委員長! 一緒に帰ろーぜ」
後ろから響く声に振り向くと、榎本が当然のように俺の隣に並んできた。まるで、俺が待っているとでも思っているような顔で。思わず、ため息がこぼれそうになる。
「……好きにしろ」
追い払うのも面倒になり、俺は歩調を変えずに答える。
校門を抜けるまでの間、榎本はずっと落ち着きなく喋った。購買のパンの話、昼間の授業の退屈さ、明日の体育でサッカーがあること。どれもくだらない話題の羅列なのに、不思議と耳障りではなかった。
「なぁ、委員長」
「……なんだ」
「今日さ、ちょっと思ったんだよ」
いつもの軽口かと思いきや、榎本が急に真剣な顔になった。何を言い出すつもりだ――そんな予感に、思わず足が止まる。
「お前、笑ったら絶対かっけぇだろ」
「は?」
「だっていつも無表情でさ。怒ってんだか呆れてんだか、わかんねー顔してんじゃん。……だから俺、委員長を笑わせたい」
あまりに突拍子もない言葉に、眉根を寄せながら榎本の顔を見た。榎本は本気の目で俺を見つめ返す。
「くだらない。人を笑わせるなんて無意味だ」
「無意味じゃねーよ」
榎本は即答した。
「人間、笑ってなんぼだろ。俺はそう思う。だから明日から俺、お前を笑わせるために全力を出すからな」
「ふざけるな。そんな必要は――」
「必要ある! 俺が決めた!」
無鉄砲な宣言に、思わず言葉を失った。
夕陽の下で屈託なく笑う榎本は、俺とはまるで正反対の存在だった。その笑顔は赤い光を受けてさらに輝きを増し、真正面から見ていられないほど眩しい。視線を逸らしたのは、きっと夕陽のせいじゃない。
(……コイツはいったい、何を考えているんだ)
胸の奥に言葉にならないざわめきが、否応なしに広がっていく。
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