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意外な一面 Wedding狂想曲(ラプソディ)
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結婚式を週末に控えつつ私生活が落ち着かない状態で、厄介な仕事をこなしていた。
「鎌田さん、ここミスってるよ」
苦笑いしながら指摘してきた小野寺先輩。半年前まで私の席の隣にいた小野寺先輩が、今は上司として目の前にいる。
それに『鎌田さん』って呼ばれるのが、どうしても慣れないでいた。
半年間の交際を経て、電撃入籍した私たち。ハネムーンを海外へ行く関係で早めに入籍したのだけれど、名字が変わってかなり経つというのに、呼ばれても未だに反応が遅いという有様だった。
「すみません……」
「何かここの席で仕事するの、すっごくイヤなんだよね」
小野寺先輩はポツリと呟くようにグチる。私が小首を傾げると、資料を目の前に展開させながら困惑した顔で口を開いた。
「視線、ここ見てて欲しいんだ。仕事以外の話をしようものなら、部署の奥からレーザービーム砲が、これでもかという感じで飛んでくるから」
「レーザービーム砲?」
夫、正仁(まさひと)さんは、取引先の山田さんとの仕事を見事に成功させて課長に昇進したので、現在はフロアの奥の席に移動していた。
「超音波破砕器並みに、破壊力があるんだよ。短距離で飛ばされてる時よりも、威力は確実に倍増してるから」
「はぁ、何かすみません……」
小野寺先輩と正仁さんは過去にいろいろあったので、尚更警戒しているんだろうな。山田さんが小野寺先輩をけしかけて仕組んだ交際大作戦を、いまだに許せないらしい。
「あの鎌田課長とラブラブしてる姿が、未だに想像ができないよ。家でねちねちとイジメられてないの?」
呆れた顔をして、こっそりと正仁さんの様子を窺う。
「正直、会社にいるときとあまり変わらないですね。恐れ多くて反論できないし。相変わらず私のことは君呼ばわりだし」
「入籍してるのに、名前で呼ばれてないの、何で!?」
ギョッとする小野寺先輩の顔がなんだか可笑しくて、思わず笑ってしまった。
「どうしてでしょう。私も今の今まで違和感なく、いつも通りに過ごしてましたから」
ずっと『君』って呼ばれていたから、会社でも自宅でもそのままの状態でいる。
私は下の名前の正仁さんって呼んでるのに、確かにおかしいよね。今頃、人に指摘されて自覚する私もおかしいかな。
夜の営みの時も――
『君とは何度肌を重ねても、飽きることはありません』
とか何とか言ってるし……。そもそも、どうして名前で呼んでくれないんだろう?
「うっ、バレた!」
そう言って、胸元を押さえる小野寺先輩。思わず後ろを振り返ると、正仁さんがじっとこっちを見ていた。
明らかに眼鏡の奥の瞳が怒っている。その視線に対抗すべく、私はあっかんべーをしてやった。途端に両目を見開き、驚いた表情を浮かべる。意思の疎通って難しいよね。
「夫婦喧嘩は犬も食わない。お願いだから、俺を巻き込まないでよね。鎌田課長に惨殺されたくないからさ」
小野寺先輩は体を小さくさせながら、恐々と首をすくめたのだった。
「鎌田さん、ここミスってるよ」
苦笑いしながら指摘してきた小野寺先輩。半年前まで私の席の隣にいた小野寺先輩が、今は上司として目の前にいる。
それに『鎌田さん』って呼ばれるのが、どうしても慣れないでいた。
半年間の交際を経て、電撃入籍した私たち。ハネムーンを海外へ行く関係で早めに入籍したのだけれど、名字が変わってかなり経つというのに、呼ばれても未だに反応が遅いという有様だった。
「すみません……」
「何かここの席で仕事するの、すっごくイヤなんだよね」
小野寺先輩はポツリと呟くようにグチる。私が小首を傾げると、資料を目の前に展開させながら困惑した顔で口を開いた。
「視線、ここ見てて欲しいんだ。仕事以外の話をしようものなら、部署の奥からレーザービーム砲が、これでもかという感じで飛んでくるから」
「レーザービーム砲?」
夫、正仁(まさひと)さんは、取引先の山田さんとの仕事を見事に成功させて課長に昇進したので、現在はフロアの奥の席に移動していた。
「超音波破砕器並みに、破壊力があるんだよ。短距離で飛ばされてる時よりも、威力は確実に倍増してるから」
「はぁ、何かすみません……」
小野寺先輩と正仁さんは過去にいろいろあったので、尚更警戒しているんだろうな。山田さんが小野寺先輩をけしかけて仕組んだ交際大作戦を、いまだに許せないらしい。
「あの鎌田課長とラブラブしてる姿が、未だに想像ができないよ。家でねちねちとイジメられてないの?」
呆れた顔をして、こっそりと正仁さんの様子を窺う。
「正直、会社にいるときとあまり変わらないですね。恐れ多くて反論できないし。相変わらず私のことは君呼ばわりだし」
「入籍してるのに、名前で呼ばれてないの、何で!?」
ギョッとする小野寺先輩の顔がなんだか可笑しくて、思わず笑ってしまった。
「どうしてでしょう。私も今の今まで違和感なく、いつも通りに過ごしてましたから」
ずっと『君』って呼ばれていたから、会社でも自宅でもそのままの状態でいる。
私は下の名前の正仁さんって呼んでるのに、確かにおかしいよね。今頃、人に指摘されて自覚する私もおかしいかな。
夜の営みの時も――
『君とは何度肌を重ねても、飽きることはありません』
とか何とか言ってるし……。そもそも、どうして名前で呼んでくれないんだろう?
「うっ、バレた!」
そう言って、胸元を押さえる小野寺先輩。思わず後ろを振り返ると、正仁さんがじっとこっちを見ていた。
明らかに眼鏡の奥の瞳が怒っている。その視線に対抗すべく、私はあっかんべーをしてやった。途端に両目を見開き、驚いた表情を浮かべる。意思の疎通って難しいよね。
「夫婦喧嘩は犬も食わない。お願いだから、俺を巻き込まないでよね。鎌田課長に惨殺されたくないからさ」
小野寺先輩は体を小さくさせながら、恐々と首をすくめたのだった。
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