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第2章:感じるキモチ

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 ポケットに忍ばせていた髪留めを取り出して、肩のラインを超えた髪を束ねててから、身に着けている洋服をさっさと脱いでシャワーを浴びる。

 ケンジさんが待っている間に、枕に隠した防御グッズに気がついて、どこかにポイする恐れがある。まずはそれを防ぎたいのと、あまり待たせて興奮が頂点に達したあまりに、濡れてもいないのに挿れてくる人もいるからこそ、ここは手早く終えなければならなかった。

(すべては元彼の借金を返済するためなのに、どうしてこんな苦労を自ら背負わなきゃならないんだか――)

 自嘲気味に笑ってシャワーのスイッチをオフにし、躰の水滴をしっかり拭ってからバスタオルを巻きつけて部屋に戻る。

「お待たせ、ケンジさん」

「わっ、綾香さん。まっ待ってませんよ、全然っ!」

 しどろもどろに答えて座っていたベッドから腰を上げるなり、無意味に頭をペコペコ下げてきた。

「あのね、いきなりで悪いんだけど、先に前金を払ってもらえないかな?」

「は? 前金?」

「そう。お金を払うっていう口約束はしたけど、確実に払ってくれるという保証がないわけでしょ? だからHする前に、手付金が欲しくて」

 今は手持ちがないから、あとから金を支払うというお客だっているからこそのこの言葉。事前にサイトでいくらでヤるかという条件が分かっているんだから、手持ちのお金くらいはちゃんと用意しなさいよねって、心の中でいつも思っていた。

「済みません。実は3万円しかなくて」

「ううん、十分だよ。大丈夫」

 だって、いつもの倍の額ですもの。大喜びで受け取らせてもらうわ。
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