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彼女と結婚したら♡
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就業時間まであと少し――予定では定時で帰宅だったのに、直前にもたらされた外部からの情報により、残業を余儀なくされて、ガックリと落ち込む。
「須藤課長、営業部に例の書類を渡してきました」
気落ちしてると、部署の扉を勢いよく開けた恋人の愛衣さんがデスクに駆け寄り、心配そうな面持ちで俺を見つめる。
営業部に頼まれた企画書関連の書類なのだが、修正しなければならない文章を、わざと作った。きちんと書類のチェックをすれば、絶対に見逃すことがないそれを、営業部の課長が発見できるのか。
(――忙しさにかまけて、アイツがチェックを怠ったら、会議で重役にどやされるのは、俺だけじゃない)
「そんな顔をするな。アイツがきちんと仕事をしているのか、見極めるための書類なんだから」
蹴落とすための一蓮托生を目論み、うまくいくことを心の中で願う俺に、愛しの彼女は憂鬱な表情をキープした。
「私の予想では、きっとそのまま、会議に使われると思います」
愛衣さんは、営業部から経営企画部に異動してきた職員ゆえに、アイツのことをよく知っているのだろう。
「大丈夫だ。営業部に茶々入れるのは、俺の仕事だからな。ほかの重役に叱られたって、ウチの味方になる副社長は理由がわかってる」
「ヒツジちゃんだって、わかってるやろ。須藤課長は重役に叱られたくらいで、へこたれん男やで」
「そうそう、むしろヒツジに叱られたときのほうが、しょぼくれてるからな」
フォローとは思えないセリフを部下たちから告げられたせいで、残業の道連れが決定する。
「猿渡に松本、おまえらは俺の補佐として残業しろ。あとの者は、定時で帰宅してよし!」
社内の情報調査を仕事にしている松本と、社外の情報調査を専門としている猿渡のふたりが残れば、今回の残業をするのに、実にちょうど良かった。
「やった! 生贄のふたりのおかげで、残業を免れた。お疲れ様でしタンザニア」
手早く帰り支度をはじめた原尾が歓喜の声をあげると、それに続き高藤が「おふたりの献身で、僕はデートの時間を早めることができました。ありがとうございます」と言って、足早に部署をあとにする。
「それでは僕もお先です」
誰とも馴れ合わない山田が、先に出て行ったふたりを追うように帰り、騒がしかった職場に静寂が訪れる。
とっとと厄介な仕事をやっつけて、早々に帰ろうと考え、仕事の続きをしようとした俺に手に、小さな手が重ねられる。それを見てから、小さな手の持ち主に視線を飛ばすと、耳元で囁かれた。
「先に帰って、充明くんの好きなものを作って、ご自宅で待ってますね。この間プレゼントしてもらった合鍵を、早速使わせていただきます」
照れた口調で告げるなり、テキパキ帰り支度をして、颯爽と部署を出て行ってしまった愛衣さん。俺の心をかき乱すセリフを言ってから帰るあたり、確信犯だと思われる。
「あーあ、見ていられない顔してる」
「ホンマやね。このふたりが結婚したら、どうなるんやろか」
「けけっ、結婚っ⁉」
恋人同士になれた関係を維持するのに必死で、結婚なんて考えたこともなかった。
「須藤課長、営業部に例の書類を渡してきました」
気落ちしてると、部署の扉を勢いよく開けた恋人の愛衣さんがデスクに駆け寄り、心配そうな面持ちで俺を見つめる。
営業部に頼まれた企画書関連の書類なのだが、修正しなければならない文章を、わざと作った。きちんと書類のチェックをすれば、絶対に見逃すことがないそれを、営業部の課長が発見できるのか。
(――忙しさにかまけて、アイツがチェックを怠ったら、会議で重役にどやされるのは、俺だけじゃない)
「そんな顔をするな。アイツがきちんと仕事をしているのか、見極めるための書類なんだから」
蹴落とすための一蓮托生を目論み、うまくいくことを心の中で願う俺に、愛しの彼女は憂鬱な表情をキープした。
「私の予想では、きっとそのまま、会議に使われると思います」
愛衣さんは、営業部から経営企画部に異動してきた職員ゆえに、アイツのことをよく知っているのだろう。
「大丈夫だ。営業部に茶々入れるのは、俺の仕事だからな。ほかの重役に叱られたって、ウチの味方になる副社長は理由がわかってる」
「ヒツジちゃんだって、わかってるやろ。須藤課長は重役に叱られたくらいで、へこたれん男やで」
「そうそう、むしろヒツジに叱られたときのほうが、しょぼくれてるからな」
フォローとは思えないセリフを部下たちから告げられたせいで、残業の道連れが決定する。
「猿渡に松本、おまえらは俺の補佐として残業しろ。あとの者は、定時で帰宅してよし!」
社内の情報調査を仕事にしている松本と、社外の情報調査を専門としている猿渡のふたりが残れば、今回の残業をするのに、実にちょうど良かった。
「やった! 生贄のふたりのおかげで、残業を免れた。お疲れ様でしタンザニア」
手早く帰り支度をはじめた原尾が歓喜の声をあげると、それに続き高藤が「おふたりの献身で、僕はデートの時間を早めることができました。ありがとうございます」と言って、足早に部署をあとにする。
「それでは僕もお先です」
誰とも馴れ合わない山田が、先に出て行ったふたりを追うように帰り、騒がしかった職場に静寂が訪れる。
とっとと厄介な仕事をやっつけて、早々に帰ろうと考え、仕事の続きをしようとした俺に手に、小さな手が重ねられる。それを見てから、小さな手の持ち主に視線を飛ばすと、耳元で囁かれた。
「先に帰って、充明くんの好きなものを作って、ご自宅で待ってますね。この間プレゼントしてもらった合鍵を、早速使わせていただきます」
照れた口調で告げるなり、テキパキ帰り支度をして、颯爽と部署を出て行ってしまった愛衣さん。俺の心をかき乱すセリフを言ってから帰るあたり、確信犯だと思われる。
「あーあ、見ていられない顔してる」
「ホンマやね。このふたりが結婚したら、どうなるんやろか」
「けけっ、結婚っ⁉」
恋人同士になれた関係を維持するのに必死で、結婚なんて考えたこともなかった。
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