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番外編
リップクリームチャレンジ3
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「あれ、もうわかったの?」
物足りなさを示すように、和臣が上目遣いで榊を見つめる。
「プリン……」
「正解。正解したのに、どうして恭ちゃんの顔色がすぐれないのかがわからないんだけど」
ふたたびティッシュで唇を拭う和臣が、不思議そうに目を瞬かせながら榊の顔をしげしげと眺めた。それを真似るように、榊も箱ティッシュに手を伸ばし、素早くティッシュを引き出すと、ちょっとだけついているであろうリップクリームを落とす。
「俺の予想したものじゃないものだったから。まさかデザート系でくるとは思わなかった」
「恭ちゃんの予想していたものって、なんだったの?」
「レモンとバナナとパイナップル」
恭介の回答を聞いた和臣は、どこか得意げに瞳を三日月のように細めた。しかも偉そうに胸の前で腕まで組む。
「恭ちゃんとは、長いこと幼なじみをしているからね。そんな簡単なものを用意してぱぱっと当てられたら、すぐに終わっちゃうじゃないか。僕とのスキンシップの時間を少しでも長くするために用意したんだから、心して味わってから当ててほしいんだ」
「なるほど、そういう意図があったんだ」
仕事で使う株の値動きよりも難しそうなリップクリームチャレンジの難易度を知り、榊の眉間にくっきりとした深い皺が寄った。表情は真剣そのもので、その気迫を目の当たりにした和臣は、なんとか笑いを堪える。
「恭ちゃんの気合いが入ったところで、それじゃあ次は、この緑色のリップクリームを塗ってみようかな」
ケースの蓋を外し、和臣の唇にリップクリームが触れる瞬間だった。
「きゅうり、マスカット、抹茶、メロン、ほうれん草、ブロッコリー、キャベツ、ピーマン、小松菜、セロリ……」
榊が念仏のように、緑色の食べ物を唱えはじめた。あまりに鬼気迫る様子に、和臣はリップクリームを塗るのを忘れる。
「ニラ、アスパラガス、枝豆、かぼちゃ、春菊とそれからそれから」
言葉に詰まったセリフを聞いたことで、やっと我に返った和臣が、空いた片手を榊の肩に慌ててのせた。
「恭ちゃん恭ちゃん、ストップ!」
「なんだよ、今いいところなのに」
「いいところじゃないって、むしろ怖いから!」
必死な顔をした和臣の訴えに、榊はきょとんとする。
「俺はただ、ヤマを張っていただけだぞ」
「張り方がえぐいって。恭ちゃんは頭の中に浮かんだ緑色の食べ物を言ってるだけだろうけど、傍から見たらすっごい怖いし、えっと春菊だっけ? そんなリップクリームを作る人も買う人もいないと思うよ」
和臣が呆れながら指摘したら、目の前にある顔がしょんぼりとした様相に変わり、まるで榊が捨てられた子犬みたいになった。
「だって、絶対に当てたかったから……」
どんな小さなことでも全力でやってのけようとする恋人の姿に、和臣の胸がきゅんと疼いた。
物足りなさを示すように、和臣が上目遣いで榊を見つめる。
「プリン……」
「正解。正解したのに、どうして恭ちゃんの顔色がすぐれないのかがわからないんだけど」
ふたたびティッシュで唇を拭う和臣が、不思議そうに目を瞬かせながら榊の顔をしげしげと眺めた。それを真似るように、榊も箱ティッシュに手を伸ばし、素早くティッシュを引き出すと、ちょっとだけついているであろうリップクリームを落とす。
「俺の予想したものじゃないものだったから。まさかデザート系でくるとは思わなかった」
「恭ちゃんの予想していたものって、なんだったの?」
「レモンとバナナとパイナップル」
恭介の回答を聞いた和臣は、どこか得意げに瞳を三日月のように細めた。しかも偉そうに胸の前で腕まで組む。
「恭ちゃんとは、長いこと幼なじみをしているからね。そんな簡単なものを用意してぱぱっと当てられたら、すぐに終わっちゃうじゃないか。僕とのスキンシップの時間を少しでも長くするために用意したんだから、心して味わってから当ててほしいんだ」
「なるほど、そういう意図があったんだ」
仕事で使う株の値動きよりも難しそうなリップクリームチャレンジの難易度を知り、榊の眉間にくっきりとした深い皺が寄った。表情は真剣そのもので、その気迫を目の当たりにした和臣は、なんとか笑いを堪える。
「恭ちゃんの気合いが入ったところで、それじゃあ次は、この緑色のリップクリームを塗ってみようかな」
ケースの蓋を外し、和臣の唇にリップクリームが触れる瞬間だった。
「きゅうり、マスカット、抹茶、メロン、ほうれん草、ブロッコリー、キャベツ、ピーマン、小松菜、セロリ……」
榊が念仏のように、緑色の食べ物を唱えはじめた。あまりに鬼気迫る様子に、和臣はリップクリームを塗るのを忘れる。
「ニラ、アスパラガス、枝豆、かぼちゃ、春菊とそれからそれから」
言葉に詰まったセリフを聞いたことで、やっと我に返った和臣が、空いた片手を榊の肩に慌ててのせた。
「恭ちゃん恭ちゃん、ストップ!」
「なんだよ、今いいところなのに」
「いいところじゃないって、むしろ怖いから!」
必死な顔をした和臣の訴えに、榊はきょとんとする。
「俺はただ、ヤマを張っていただけだぞ」
「張り方がえぐいって。恭ちゃんは頭の中に浮かんだ緑色の食べ物を言ってるだけだろうけど、傍から見たらすっごい怖いし、えっと春菊だっけ? そんなリップクリームを作る人も買う人もいないと思うよ」
和臣が呆れながら指摘したら、目の前にある顔がしょんぼりとした様相に変わり、まるで榊が捨てられた子犬みたいになった。
「だって、絶対に当てたかったから……」
どんな小さなことでも全力でやってのけようとする恋人の姿に、和臣の胸がきゅんと疼いた。
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