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進撃(いや喜劇…いやいや悲劇!?)の学会

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 さっき握りしめた手を使い、勢いよく挙手してやった。

「なっ!?」

「すみませーん。今のところについて、彼から質問があるそうですっ」

 元気ハツラツと言わんばかりに声を張り上げたら、掴んでいる手を素早く引き抜き、やられたと小さく呟いた御堂先輩。

 俺の顔を恨めしげに睨みながら立ち上がると、頭を掻きながら口を開く。

「えっとですね、限られた時間を使うのはもったいないので、後ほど質問をまとめてから個人的にお伺いいたします。すみませんでした……」

 周囲に頭をへこへこ下げ、身体を小さくしながら着席した姿を横目で捉えた。

「……周防てめぇ、やってくれたのな」

「先に手を出してきたのは、どこのどなたでしょうか」

「チッ、無駄に年食った分、可愛くねぇ態度しやがって」

(お互い同じだけ年を取っているというのに、相変わらず子供みたいな態度しているよ――)

 演説している先生の有り難い言葉をところどころメモしながら、隣からの逆襲に備えた。やられたらやり返してくるだろうと睨んでいたのに、ぶーたれた顔をキープして頬杖をついたまま前を見据える。

 しばらくそのままの状態でいてくれたので、安心して演説に集中できたのは幸いだった。自分の知らない最新医学にこうして触れられる機会に感謝しながら、目の前で繰り広げられる情報にしっかりと耳の傾ける。

「なぁ周防。お前、これからどうするんだ?」

「あ?」

 集中していたせいで話しかけられた言葉の意味が分からず、呆けた返事をしてしまった。

「王領寺くんとの交際についてだよ。個人的に気になってさ」

「そんなの……。御堂先輩には関係ないと思いますけど」

 人の恋路に、先輩ヅラして首を突っ込んでこないでほしい――

「確かに関係ないけどさ。どうしても気になるんだ。一応俺、お前に本気だったワケだから」

 下半身に節操のない、御堂先輩の言葉を信じられるはずがないだろうよ。この俺のどこに、本気になる要素があるんだろ。

「御堂先輩が研修医時代の俺の体に触りながら、夜の誘いをかけていた過去があるからこそ、本気という言葉に信用を覚えません」

 冷たく言い放ち、じと目で顔を見つめてやった。

「まぁな。周防の魅力に負けて触れてしまったことは、悪いと思ってる」

(本当かよ、それ――。ニコニコしながら告げられても、信ぴょう性がゼロだぞ)

「だけど思い出してみてほしいんだ。ふたりきりの空間でも、触れる以上のことをしなかっただろ? 無理矢理襲うことが可能だったのにだ」

「……確かに」

「ただでさえ嫌われてるのに、それ以上のことをしてもっと嫌われるのが怖かったんだよ。俺としてはギリギリのラインで、周防に迫っていたんだぜ」

 切なげな顔した御堂先輩の台詞に、歩のことが被ってしまった。

『だってさタケシ先生、俺のこと嫌ってるじゃん。イヤなことしてそれ以上嫌われたくないし、それに体だけの関係なんて虚しいだけだしさ。俺としては、タケシ先生の全部が欲しいって思ってるから』

 そう告げられたことがあるから、嫌というほど御堂先輩の気持ちが分かって困惑するしかなく――右手に持っていたペンを、静かにその場に置く。そのまま御堂先輩の顔を見ているのがつらくなり、慌てて視線を逸らした。

「あ~……。困らせるつもりはなかったのに。いや実際、困らせるようなセクハラまがいのことを思いっきりしたけどさ」

「…………」

「つまみ食いが趣味の俺を本気にした綺麗な後輩が、年の離れた奴と恋愛しているのを知って、興味をそそられないワケがないだろ?」

「俺が、簡単に口を割ると思いますか?」

 鼻で笑いながら言い放ってやると、膝の上にある拳にそっと手を被せてきた。

「次回ある学会の一席を、俺の顔を使ってリザーブしておくっていうのはどう?」

 勉強熱心な俺の性格を知ってる御堂先輩の誘い文句は、予想通りだった。下半身ネタで問題を起こし、全国の病院を転々としているからこそできる技でしょうね。
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