欲しがり男はこの世のすべてを所望する!

相沢蒼依

文字の大きさ
42 / 83
番外編

ピロトーク:楽屋にて

しおりを挟む
※【ピロトークを聴きながら】の作中で、どうして遅れたかの理由を、稜くんは適当に言って誤魔化しましたが、出がけのアレとコレせいで遅刻したのでしたw


***

 楽屋にて――。

「結局、遅刻しちゃったね。どうして不幸って、こうも続いちゃうんだろ」

 あのあとタクシーはすぐに見つからず(ほら最初から呼んでおけばと、文句を言い続けた克巳さん)遅刻した上に衣装選びに時間がかかっちゃって、どれを着ようか迷ってた俺に、克巳さんは奥の方から、赤い色地の派手なTシャツを、押し付けるように手渡してくれたんだ。

 喜んで着たのはいいんだけど――洋服にタグが付いていたから克巳さんに切ってもらったのに、タグの片方が中にある網目に引っかかり、ずっとチクチクしっぱなし。

 微妙すぎるトコなので、指でその場所を差すこともできず、口で言うしかなかった。

「稜……それよりもどこなんだ?」
「えっと、もっと右っ。もうちょっと奥の方」
「むうぅ……」
「あぁん、もう! 引っかかってる、早くしてよ」

 畳の上に寝そべった俺に克巳さんが覆いかぶさり、背中から手を伸ばして、必死に取ろうとしてくれてるんだけど、触れる気配すらないのはどうしてなんだよ?

「……じっとしててくれ、動かれるとズレる」
「だって克巳さんの手の動きが微妙すぎて、うずうずするんだ。しょうがないだろ」
「微妙って……こんなに一生懸命、頑張っているというのに」
「ワザとでしょ。俺だけイって自分がイけてないから、ワザと感じさせてるんだ」
「なにを言ってるんだ、稜」

 顔だけ振り向いて文句を言ったら、渋い表情を浮かべて唇を尖らせる。

 ホントは、すっごく克巳さんとひとつになりたかったのに時間がないせいで、スキンシップのみで終わらせてあげたんだぞ。

 しかも、克巳さんがさっきから探してる場所――。

「だって文句を言いたいよ。右って言ってるのに、さっきから左側ばかり触ってるじゃん」
「…………」
「うわっ、なにその大きなため息。間違ってるの、克巳さんなのに」

 俺は最初から右側って言ってた。向かい合わせじゃないのに、このミスはかなり珍しいかも。

 それとも、やっぱりわざと――?

「脱いだほうが早い」
「え~っ、これ着るのすっげぇ苦労したっていうのに、今さら脱ぐのはイヤだ」
「じゃあ、別の衣装を着ればいい」
「イヤだよ。克巳さんがこれ似合うって言ってくれたから、わざわざ苦労して着たんだし」

 全部、克巳さんのせいだっ! 玄関で襲わなければ時間だって間に合っていたハズだし、洋服だってコレじゃなきゃ、タグは付いてなかっただろうし、タグを見事に落とすこともなかっただろう。

「はぁ……」
「そんな渋い顔をしてないで、早くなんとかしてよ」
「まったく……」

 俺の文句に克巳さんは相変わらず嫌そうな表情を崩さず、きちんと右側に手を伸ばしてくれた。

「そうそう、右の奥だから♪」
「ん~~~……」
「あぁっ、ソコ! 今、触ったよ絶対っ」

 ちょうどチクチクしていた場所だったので、大きな声をあげて指摘してやったのに――。

「チッ!! 確かに触ったのに、稜が勝手に動いたから逃げられた」

 それってやっぱ、俺のせいになるのか!? んもぅ、タイミングが悪すぎるったらありゃしない。

 コンコンッ!

 返事をする前に扉が開いて、知り合いのADが顔を出した。

「すんませぇーん。皆さん、もうお揃いなんですが……って――ひっ!」

 俺らの姿は傍から見たら、いけないコトをしている最中に、見えなくはないからね。うつ伏せに寝そべった俺に、克巳さんが後ろから圧し掛かり、服の中に手を突っ込んでいるんだから。

「ごめんねぇ。やましいことをしてるんじゃないんだよ」
「だだだって、その体勢で服に手を入れて。その、あの」

 赤面しまくりのADの様子に克巳さんとふたり、顔を見合わせながら苦笑してしまった。

「まったく、もう! 本当に、なにもしていないんだってば。スタイリストさんが、洋服のタグを切るのを忘れちゃったみたいでさ。慌てて着てからそれに気がついてハサミで切ったら、プラスチックのアレが、中の網目に引っかかってね。それを取ってもらってたトコなんだよ」
「君も手伝ってくれないか。稜の身体が動かないように、床に押さえつけてほしい」

 なかなか取れないことに、心底辟易したのだろう。克巳さんが他の人に、SOSを出すなんて珍しいことなんだ。

 俺としては、ふたりきりのイチャイチャを楽しんでいるのにな。

「ちょっなにその、3Pみたいな誘い方!」

 いつものごとく、安定したエロワードを言ってやる。

「さささ3Pっ!」

 入ってきたADのコは、さらに顔を真っ赤にして固まってしまった。ふふふ、いい表情くれてありがと。

「稜ふざけてないで、マジメにしなさい」
「マジメに3Pって、どんなのだよ♪」

 俺としてはちょっとだけ経験してみたいけれど、それをやっちゃうと頭を下げて必死に止めに入る人が、目の前にいるからね。

 口角を上げて喜ぶ俺と、相変わらず渋い顔して服の中に手を突っ込み、果敢に取れないモノにチャレンジしてる恋人の克巳さんと、口をぱくぱくさせて俺らの様子を見守るAD。

「やっと取れたぞ!」

 克巳さんの晴れやかな言葉に、ADのコはホッとして。

「お願いしますから、早く行きましょう。皆さん、首を長くしてお待ちですので」
「ごめんねー。すぐに追いかけるから、みんなに伝えてくれないかな」

 ADのコはその言葉に頷いて、飛び出すように部屋から出て行った。扉が閉まる音を聞いてから、克巳さんの首に腕を絡める。

「ほら早く行かないと。皆さんを待たせているんだから」
「わかってるって。ねぇ頑張れるようにさ、いってらっしゃいのキス、克巳さんしてよ♪」

 目を細めながら顔を見上げると腰を抱き寄せて、ちゅっと触れるだけのキス――。

「んもぅ! そんなのじゃ足りないって、もっとちゃんとしたヤツ!」
「しょうがないコだな」

 怒って文句を言ったのにも関わらず、嬉しそうな表情を浮かべて顔の角度を変え、ゆっくりと唇を押し当ててきた克巳さん。ぬるりと割って入ってきた舌に、そのまま身を任せる。キスしただけでもこんなにドキドキしちゃうのは、克巳さんだからだろうな。

 際限なくもっともっと、欲しくなってしまう。

 注がれる唾液と一緒に愛情を飲み込んで、それをしっかり堪能してから、そっと離れた。

「ありがと。すっごく頑張れるよ」
「…………」

 無言で注がれる視線――離れたくない、もっと稜が欲しいと言ってるのが伝わってきた。

 寂しげに俺の頬を撫でるように触れてから、両肩を掴んで扉に押し出す。お互いの寂しさを断ち切るような行動に、苦笑するしかない。

「頑張って行ってらっしゃい。あまり皆さんを困らせちゃダメだよ」
「わかった、行って来るね」
「会社に一本電話を入れたら現場に顔を出すから、先に行っててくれ」

 平日にわざわざ仕事を休んで、顔を出しているからね。なんだか申し訳ないな――。

「そんな顔をするんじゃない。稜は笑ってる顔が一番だよ」

(克巳さんには背中を向けた状態なのに、何故だか沈んでる気持ちが伝わってしまう。どうしてだろ?)

 顔だけで振り返ると俺の好きな柔らかい笑みを浮かべて、後ろからぎゅっと抱きしめてきた。

「いつもの元気で行っておいで。帰ってきたらとびきりの愛情を、稜に注いであげるから」

 わざわざ耳元で囁いてから、オデコにちゅっと音の鳴るキスをした。それだけで元気が出ちゃうんだから、相当参ってるよね。

「わかった。楽しみにしてるからね♪」

 克巳さんに向かって投げキッスをし、振り切るように部屋から飛び出す。すっごく名残惜しいけど仕方ない。

 アナタが好きな笑顔で頑張るから、ずっと傍で見ていて欲しい。

 そんな気持ちで、今日も仕事に臨む――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

ひとりも、ふたりも

鈴川真白
BL
ひとりで落ち着く時間も、ふたりでいる楽しい時間も両方ほしい 1人を謳歌するマイペース × 1人になりたいエセ陽キャ

処理中です...