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act:毒占欲の果てに
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『まだ生きてるの? やっぱりしぶといのね』
『リコちゃん……?』
理子さんが口元にふんわりとした柔らかい笑みを浮かべながら、ゆっくりとした足取りで稜に近づき、容赦なくヒールで顔を踏みつける。
『っ、なっ、なんで!?』
『なんでって、それはこっちのセリフなんだけど。自分のやったことを思い出しなさいよ』
(――もしかして彼女、俺たちの関係を知っている!?)
内心酷く焦ったとき、理子さんが頭を踏んでいた足を退けて、稜の顔を蹴りあげようとした。しかしその動きを稜は素早く見極め、うまく腕でガードする。腹に力を入れたせいで、彼の出血が見る間に酷くなっていった。
『黙って蹴られなさいよ。それだけのことをアナタ、してくれたでしょ?』
『な、なにを言ってるのかな。俺はなにも――』
苦痛に顔を歪めながら理子さんの顔を仰ぎ見る、稜を直視するのがつらくて堪らない。彼女から放たれる言動に、ものすごく傷ついて見えるのは明らかだった。
『昔からそう……稜くんは私の物を欲しがって、なんでも奪い取っちゃうんだから。本当に悪いクセだよね』
『それはリコちゃんが好きだから、持っている物がどうしても欲しかったんだ』
素直な気持ちを語っているのに、理子さんは忌々しそうな顔でチッと舌打ちし、稜の顎をヒールで持ち上げる。普段は大人しい彼女の意外な一面に、言葉をかけることすら忘れてしまった。
『親には片親で不憫な稜くんに、よくしてあげなさいと言われてたから、仕方なく面倒見てあげていたのに、それを見事に勘違いしてくれちゃって、困ったコだよね』
『それでも俺は君と一緒にいる事ができて、すっごく嬉しかったんだ。たとえそれが強制されたことだとしても、リコちゃんに優しくされたことが、本当に――っ』
『だからってどうして、克巳さんを奪ったの? 女の私から男であるアナタがどうやって、克巳さんをうまいことたらしこんで、骨抜きにしたのかしらね?』
言いながら一瞬だけ視線をこちらに向けて、悲しそうな顔をする。俺はなんとも言えず、男を押さえながら俯くしかできなかった。
『克巳さんがどこかおかしくなったのは、アナタの家に初めて行ってから。それでピンときたのよ、なにかあったんだって』
『……そう、気がついてたんだ』
稜が力なくそう言うと、理子さんは掬い上げていたヒールを移動させ、頬に向かって尖った踵を使い、容赦なく彼を踏みつけた。
躰だけじゃなく、心までどんどん傷ついていく稜を助けたいのに、押さえ込んでる男の存在が邪魔で、歯がゆさを覚える。これ以上、ふたりの争いを見たくはないというのに――。
『昔からアナタが私のモノを強請るクセがあったからこそ、気がついたの。それで探偵に依頼して、芸能人の葩御 稜のことを、徹底的に調べてもらったわ。キレイな顔して、随分とヤりまくってるんだって? 仕事が終わったら森って男に抱かれて、家に帰ったら克巳さんに抱かれて。呆れちゃうくらい、稜くんってお盛んなのね』
『だから、なんだ……損得勘定だけで動く森さんを、うまいことそそのかして、リコちゃんが俺に攻撃するように、なにか言ったんでしょ?』
『ホント馬鹿ね、人の心は単純じゃないのよ。アナタがよろしくヤってる声を、目の前でちょっとだけ聞かせてやったら、このザマなんだから』
自分の顎を使って、俺たちの方を指し示す。理子さんの表情が、やけに嬉しそうに見えるのは、気のせいだろうか?
『……それって俺の部屋に、盗聴器を仕掛けたの?』
『素人がそんなこと、出来るワケがないでしょ。克巳さんのカバンに仕込んでおいたのよ。私だけに優しくしてくれて、いい人だと思ったのになぁ。どうして、稜くんの毒牙にかかっちゃったのか。男ってみんなバカだよね』
理子さんはふうぅっとため息をついて、稜の顔からヒールを退けると、弾んだ足取りでこっちに向かってきた。そして俺が蹴飛ばしたナイフを手に取り、目を細めて見つめる。その面持ちは、とても悲壮な感じに俺の目に映った。
『理子さん……それを、どうするつもりなんだ?』
彼女自身から放たれる、凍りつくような雰囲気を感じながら低い声で唸るように問いかけると、稜に向かってナイフを振り下ろす前に見た、男と同じような形相で答える。
『決まってるでしょう。調子こき過ぎた稜くんを、この手で殺ってやるのよ』
『稜はなにも悪くない。悪いのは俺だ、俺を刺せばいい』
(かわいそうな人だ……この男も理子さんも。そんなことをしたって、なにも手に入らないのに)
俺は唇を噛みしめ男から躰を退けると、理子さんの元に向かい合い、持っているナイフを自分の胸元に導いてやった。
『純粋に理子さんを愛してる彼よりも、そんな彼を愛してしまった俺のことを、君の手で罰してくれ』
『克巳さん、なにを言ってるの、悪いのは稜くんだよ。あんな気持ち悪い人、死んでしまえばいいんだって!』
悲鳴に近い声を聞きながら、力なく首を横に振ってみせる。
『理子さん頼むっ、俺から殺してくれないか……稜を愛しても、どうせ彼は理子さん以外愛せない、そう思うんだ。わかっているのにこの気持ちはどうにもならなくて、苦しすぎる。だからもう君の手で、俺の命を奪ってほしい。この苦しさから解放してくれ……』
『私が克巳さんを、殺れるワケないじゃない。好きな人に手をかけるなんて、そんなことできないよ』
『理子さん……?』
持っているナイフが、ガタガタと揺れはじめた。大きな瞳から止めどなく溢れてくる涙が、そうさせていたからだろう。
『全部あのコが……稜くんが悪いのよ。変な毒を振りまいて、周りの人間に悪影響を及ぼすんだから。だから私がその命を奪ってやるの、大事な人を守るためにね。そしたら克巳さん、きっと目が覚めるわよ。稜くんがいなくなったら、また私を愛してくれるんでしょ?』
ナイフを持っていない手で、俺をぎゅっと掴んで揺さぶってくる。今度はしっかりと、首を左右に振ってやった。
――君を愛することはできない。
言葉にするには、あまりに残酷なセリフだから口にせず、あえて首を横に振ってそれを表す。
『なんで? 私、間違ったこと言ってないよね? 稜くんは人を惑わす、悪魔みたいな男なのに……』
理子さんにとっては悪魔に見えるかもしれないが、俺にはそう見えないんだ。もっと綺麗な――。
『そうだよ、リコちゃん。間違ってない! 俺は自分の毒占欲を盛大に振りかざす、悪魔みたいな男だ。だから遠慮なく君の手でヤっちゃってよ! 大好きなリコちゃんに、この命を奪われるなら本望だね!!』
俺の考えを大きな声で、稜が遮った。出血が酷くて、それどころじゃないはずなのに。
『ほらね、稜くんがみずから死にたがっているじゃない。希望通り、殺してあげないと』
諭すように言い放つと俺の手を強引に振りほどき、手にしていたナイフを下げて、稜のところに行こうとするその小さな背中に、心を込めて告げてやる。
『……大好きな君が俺の愛する人を、殺すところなんて見たくない――』
本心を聞いた理子さんはその場で立ち止まり、持っていたナイフをポロッとその場に落とした。
その後、騒ぎを聞きつけた警察官がやって来て、男と理子さんを取り押さえる。怪我をした俺と稜は、一緒に救急車に乗せられたのだった。
『リコちゃん……?』
理子さんが口元にふんわりとした柔らかい笑みを浮かべながら、ゆっくりとした足取りで稜に近づき、容赦なくヒールで顔を踏みつける。
『っ、なっ、なんで!?』
『なんでって、それはこっちのセリフなんだけど。自分のやったことを思い出しなさいよ』
(――もしかして彼女、俺たちの関係を知っている!?)
内心酷く焦ったとき、理子さんが頭を踏んでいた足を退けて、稜の顔を蹴りあげようとした。しかしその動きを稜は素早く見極め、うまく腕でガードする。腹に力を入れたせいで、彼の出血が見る間に酷くなっていった。
『黙って蹴られなさいよ。それだけのことをアナタ、してくれたでしょ?』
『な、なにを言ってるのかな。俺はなにも――』
苦痛に顔を歪めながら理子さんの顔を仰ぎ見る、稜を直視するのがつらくて堪らない。彼女から放たれる言動に、ものすごく傷ついて見えるのは明らかだった。
『昔からそう……稜くんは私の物を欲しがって、なんでも奪い取っちゃうんだから。本当に悪いクセだよね』
『それはリコちゃんが好きだから、持っている物がどうしても欲しかったんだ』
素直な気持ちを語っているのに、理子さんは忌々しそうな顔でチッと舌打ちし、稜の顎をヒールで持ち上げる。普段は大人しい彼女の意外な一面に、言葉をかけることすら忘れてしまった。
『親には片親で不憫な稜くんに、よくしてあげなさいと言われてたから、仕方なく面倒見てあげていたのに、それを見事に勘違いしてくれちゃって、困ったコだよね』
『それでも俺は君と一緒にいる事ができて、すっごく嬉しかったんだ。たとえそれが強制されたことだとしても、リコちゃんに優しくされたことが、本当に――っ』
『だからってどうして、克巳さんを奪ったの? 女の私から男であるアナタがどうやって、克巳さんをうまいことたらしこんで、骨抜きにしたのかしらね?』
言いながら一瞬だけ視線をこちらに向けて、悲しそうな顔をする。俺はなんとも言えず、男を押さえながら俯くしかできなかった。
『克巳さんがどこかおかしくなったのは、アナタの家に初めて行ってから。それでピンときたのよ、なにかあったんだって』
『……そう、気がついてたんだ』
稜が力なくそう言うと、理子さんは掬い上げていたヒールを移動させ、頬に向かって尖った踵を使い、容赦なく彼を踏みつけた。
躰だけじゃなく、心までどんどん傷ついていく稜を助けたいのに、押さえ込んでる男の存在が邪魔で、歯がゆさを覚える。これ以上、ふたりの争いを見たくはないというのに――。
『昔からアナタが私のモノを強請るクセがあったからこそ、気がついたの。それで探偵に依頼して、芸能人の葩御 稜のことを、徹底的に調べてもらったわ。キレイな顔して、随分とヤりまくってるんだって? 仕事が終わったら森って男に抱かれて、家に帰ったら克巳さんに抱かれて。呆れちゃうくらい、稜くんってお盛んなのね』
『だから、なんだ……損得勘定だけで動く森さんを、うまいことそそのかして、リコちゃんが俺に攻撃するように、なにか言ったんでしょ?』
『ホント馬鹿ね、人の心は単純じゃないのよ。アナタがよろしくヤってる声を、目の前でちょっとだけ聞かせてやったら、このザマなんだから』
自分の顎を使って、俺たちの方を指し示す。理子さんの表情が、やけに嬉しそうに見えるのは、気のせいだろうか?
『……それって俺の部屋に、盗聴器を仕掛けたの?』
『素人がそんなこと、出来るワケがないでしょ。克巳さんのカバンに仕込んでおいたのよ。私だけに優しくしてくれて、いい人だと思ったのになぁ。どうして、稜くんの毒牙にかかっちゃったのか。男ってみんなバカだよね』
理子さんはふうぅっとため息をついて、稜の顔からヒールを退けると、弾んだ足取りでこっちに向かってきた。そして俺が蹴飛ばしたナイフを手に取り、目を細めて見つめる。その面持ちは、とても悲壮な感じに俺の目に映った。
『理子さん……それを、どうするつもりなんだ?』
彼女自身から放たれる、凍りつくような雰囲気を感じながら低い声で唸るように問いかけると、稜に向かってナイフを振り下ろす前に見た、男と同じような形相で答える。
『決まってるでしょう。調子こき過ぎた稜くんを、この手で殺ってやるのよ』
『稜はなにも悪くない。悪いのは俺だ、俺を刺せばいい』
(かわいそうな人だ……この男も理子さんも。そんなことをしたって、なにも手に入らないのに)
俺は唇を噛みしめ男から躰を退けると、理子さんの元に向かい合い、持っているナイフを自分の胸元に導いてやった。
『純粋に理子さんを愛してる彼よりも、そんな彼を愛してしまった俺のことを、君の手で罰してくれ』
『克巳さん、なにを言ってるの、悪いのは稜くんだよ。あんな気持ち悪い人、死んでしまえばいいんだって!』
悲鳴に近い声を聞きながら、力なく首を横に振ってみせる。
『理子さん頼むっ、俺から殺してくれないか……稜を愛しても、どうせ彼は理子さん以外愛せない、そう思うんだ。わかっているのにこの気持ちはどうにもならなくて、苦しすぎる。だからもう君の手で、俺の命を奪ってほしい。この苦しさから解放してくれ……』
『私が克巳さんを、殺れるワケないじゃない。好きな人に手をかけるなんて、そんなことできないよ』
『理子さん……?』
持っているナイフが、ガタガタと揺れはじめた。大きな瞳から止めどなく溢れてくる涙が、そうさせていたからだろう。
『全部あのコが……稜くんが悪いのよ。変な毒を振りまいて、周りの人間に悪影響を及ぼすんだから。だから私がその命を奪ってやるの、大事な人を守るためにね。そしたら克巳さん、きっと目が覚めるわよ。稜くんがいなくなったら、また私を愛してくれるんでしょ?』
ナイフを持っていない手で、俺をぎゅっと掴んで揺さぶってくる。今度はしっかりと、首を左右に振ってやった。
――君を愛することはできない。
言葉にするには、あまりに残酷なセリフだから口にせず、あえて首を横に振ってそれを表す。
『なんで? 私、間違ったこと言ってないよね? 稜くんは人を惑わす、悪魔みたいな男なのに……』
理子さんにとっては悪魔に見えるかもしれないが、俺にはそう見えないんだ。もっと綺麗な――。
『そうだよ、リコちゃん。間違ってない! 俺は自分の毒占欲を盛大に振りかざす、悪魔みたいな男だ。だから遠慮なく君の手でヤっちゃってよ! 大好きなリコちゃんに、この命を奪われるなら本望だね!!』
俺の考えを大きな声で、稜が遮った。出血が酷くて、それどころじゃないはずなのに。
『ほらね、稜くんがみずから死にたがっているじゃない。希望通り、殺してあげないと』
諭すように言い放つと俺の手を強引に振りほどき、手にしていたナイフを下げて、稜のところに行こうとするその小さな背中に、心を込めて告げてやる。
『……大好きな君が俺の愛する人を、殺すところなんて見たくない――』
本心を聞いた理子さんはその場で立ち止まり、持っていたナイフをポロッとその場に落とした。
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