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act:毒占欲の果てに
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「キレイな顔して、随分とヤりまくってるんだって? 仕事が終わったら森って男に抱かれて、家に帰ったら克巳さんに抱かれて。呆れちゃうくらいに、稜くんってお盛んなのね」
(――ああ、そうか。これで全部繋がってしまった)
「だから……なんだね? 損得勘定で動く森さんをうまいこと言ってそそのかして、俺に攻撃するように、リコちゃんが仕組んだんでしょ?」
克巳さんが森さんの電話を切ったあと、改めてふたりきりで話し合いをした。あれは克巳さんが一方的に想っていることで、俺としては森さんと、これからも変わらずにヤっていきたいと、何度もしつこく頭を下げた。
森さんの方が大事だと、これでもかと念を押してみせた。俺の言葉に渋い顔をしながらも、それで彼が納得してくれたはずだったのに――。
「ホント馬鹿ね、人の心は単純じゃないのよ。アナタがよろしくヤってる声を目の前でちょっとだけ聞かせてやったら、このザマなんだから」
克巳さんに取り押さえられている森さんに、視線を飛ばしたリコちゃん。
「……それって俺の部屋に、盗聴器を仕掛けたの?」
「私のような素人がそんなこと、できるワケがないでしょ。克巳さんのカバンに仕込んでおいたのよ。あーあ、私にだけ優しくて、すっごくいい人だと思ったのになぁ。どうして、稜くんの毒牙にかかっちゃったのか。欲望に走る男って、みんなバカだよね」
リコちゃんは吐き捨てるように言い放ち、俺を踏みつけていた足を退けると、弾んだ足取りで克巳さんたちの元に向かった。そして足元に落ちていたナイフを、音もなく拾い上げる。
「理子さん……それを、どうするつもりなんだ?」
「決まってるでしょう。調子こき過ぎた稜くんを、この手で殺ってやるのよ」
俺、リコちゃんに殺されちゃうのか――。
「稜はなにも悪くない。悪いのは俺だ、俺を刺せばいい」
克巳さんは森さんの躰からゆっくりと立ち上がり、リコちゃんが手にしているナイフを、自分の胸元へ強引に導いた。
「純粋に理子さんを愛してる彼よりも、そんな彼を愛してしまった俺のことを、君の手で罰してくれ」
「克巳さん、なにを言ってるの、悪いのは稜くんだよ。あんな気持ち悪い人、死んでしまえばいいんだって!」
「理子さん頼む、俺から殺してくれないか……稜を愛しても、どうせ彼は理子さん以外愛せない、そう思うんだ。わかっているのにこの気持ちは、どうにもならなくて苦しすぎる。だから君の手で、俺の命を奪ってほしい。この苦しさから解放してくれ……」
(克巳さん――俺の気持ちを、アナタは理解していたの?)
「私が克巳さんを、殺れるワケないじゃない。好きな人に手をかけるなんて、そんなことできないよ」
「理子さん……?」
ところどころ震えるように告げられた声色に、克巳さんが困惑した表情を浮かべた。
リコちゃんの手で、克巳さんを殺らせちゃダメだ――それだけは、なんとしてでも阻止しなければならないと考え、ふたりの会話を耳にしながら、その隙を窺った。
「全部あのコが……稜くんが悪いのよ。変な毒を振りまいて、周りの人間に悪影響を及ぼすんだもん。だから私がその命を奪ってやるの、大事な人を守るためにね。そしたら克巳さん、きっと目が覚めるわよ。稜くんがいなくなったら、また私を愛してくれるんでしょう?」
どこか悔しそうな表情を浮かべて、必死に訴えかけるリコちゃんの言葉に、無言で首を左右に振った克巳さん。
狂気じみた彼女の言葉を聞き、周囲からただならぬ雰囲気がひしひしと流れてくるのを肌で感じた。克巳さんに断られたこともそうだけど、その雰囲気に当てられたリコちゃんの瞳に、涙が滲みはじめる。
「なんで? 私、間違ったこと言ってないよね? 稜くんは人を惑わす、悪魔みたいな男なのに……」
「そうだよ、リコちゃん。君は間違ってない! 俺は自分の毒占欲を盛大に振りかざす、悪魔みたいな男だ。だから遠慮なくヤっちゃってよ! 大好きなリコちゃんに、この命を奪われるなら本望だね!!」
最初のときとは違い、俺は渾身の力を込めて、大きな声で叫んでやった。
俺のせいで、克巳さんが死ぬことはない。それに彼女が心から望んでることを、進んですればいいと思った。
そう……リコちゃんの躰を奪ったところで、心までは手に入らない――勝敗は最初からわっていたのに、自分の中にある毒占欲をどうしても止められなかった。
(――惨めにキズつき、こんな場所で倒れてる茶番劇がその結果だ……)
それに俺がいなくなれば、すべて丸く収まる――毒の元凶である自分が、この世からいなくなれば……。
「ほらね、稜くんが死にたがっているじゃない。希望通り、殺してあげないと」
俺の声に反応して、リコちゃんが克巳さんに向けていたナイフを離そうとしたときだった。
「……大好きな君が俺の愛する人を、殺すところなんて見たくない――」
静かに……だけどはっきりと告げられたその言葉に、嗚咽を漏らしながら顔を歪ませたリコちゃんは、握りしめていたナイフを手からゆっくりと落とす。
真っ赤な血のついたナイフが、アスファルトに寝転がっている今の無様な自分の姿と、なぜだか綺麗に重なった。
結局リコちゃんに殺されることもなく、手に入れることもできず、彼女に対して燻っていた毒占欲をそのままに――死に損なった俺は、テレビや新聞・週刊誌の格好の餌食となったのだった。
(――ああ、そうか。これで全部繋がってしまった)
「だから……なんだね? 損得勘定で動く森さんをうまいこと言ってそそのかして、俺に攻撃するように、リコちゃんが仕組んだんでしょ?」
克巳さんが森さんの電話を切ったあと、改めてふたりきりで話し合いをした。あれは克巳さんが一方的に想っていることで、俺としては森さんと、これからも変わらずにヤっていきたいと、何度もしつこく頭を下げた。
森さんの方が大事だと、これでもかと念を押してみせた。俺の言葉に渋い顔をしながらも、それで彼が納得してくれたはずだったのに――。
「ホント馬鹿ね、人の心は単純じゃないのよ。アナタがよろしくヤってる声を目の前でちょっとだけ聞かせてやったら、このザマなんだから」
克巳さんに取り押さえられている森さんに、視線を飛ばしたリコちゃん。
「……それって俺の部屋に、盗聴器を仕掛けたの?」
「私のような素人がそんなこと、できるワケがないでしょ。克巳さんのカバンに仕込んでおいたのよ。あーあ、私にだけ優しくて、すっごくいい人だと思ったのになぁ。どうして、稜くんの毒牙にかかっちゃったのか。欲望に走る男って、みんなバカだよね」
リコちゃんは吐き捨てるように言い放ち、俺を踏みつけていた足を退けると、弾んだ足取りで克巳さんたちの元に向かった。そして足元に落ちていたナイフを、音もなく拾い上げる。
「理子さん……それを、どうするつもりなんだ?」
「決まってるでしょう。調子こき過ぎた稜くんを、この手で殺ってやるのよ」
俺、リコちゃんに殺されちゃうのか――。
「稜はなにも悪くない。悪いのは俺だ、俺を刺せばいい」
克巳さんは森さんの躰からゆっくりと立ち上がり、リコちゃんが手にしているナイフを、自分の胸元へ強引に導いた。
「純粋に理子さんを愛してる彼よりも、そんな彼を愛してしまった俺のことを、君の手で罰してくれ」
「克巳さん、なにを言ってるの、悪いのは稜くんだよ。あんな気持ち悪い人、死んでしまえばいいんだって!」
「理子さん頼む、俺から殺してくれないか……稜を愛しても、どうせ彼は理子さん以外愛せない、そう思うんだ。わかっているのにこの気持ちは、どうにもならなくて苦しすぎる。だから君の手で、俺の命を奪ってほしい。この苦しさから解放してくれ……」
(克巳さん――俺の気持ちを、アナタは理解していたの?)
「私が克巳さんを、殺れるワケないじゃない。好きな人に手をかけるなんて、そんなことできないよ」
「理子さん……?」
ところどころ震えるように告げられた声色に、克巳さんが困惑した表情を浮かべた。
リコちゃんの手で、克巳さんを殺らせちゃダメだ――それだけは、なんとしてでも阻止しなければならないと考え、ふたりの会話を耳にしながら、その隙を窺った。
「全部あのコが……稜くんが悪いのよ。変な毒を振りまいて、周りの人間に悪影響を及ぼすんだもん。だから私がその命を奪ってやるの、大事な人を守るためにね。そしたら克巳さん、きっと目が覚めるわよ。稜くんがいなくなったら、また私を愛してくれるんでしょう?」
どこか悔しそうな表情を浮かべて、必死に訴えかけるリコちゃんの言葉に、無言で首を左右に振った克巳さん。
狂気じみた彼女の言葉を聞き、周囲からただならぬ雰囲気がひしひしと流れてくるのを肌で感じた。克巳さんに断られたこともそうだけど、その雰囲気に当てられたリコちゃんの瞳に、涙が滲みはじめる。
「なんで? 私、間違ったこと言ってないよね? 稜くんは人を惑わす、悪魔みたいな男なのに……」
「そうだよ、リコちゃん。君は間違ってない! 俺は自分の毒占欲を盛大に振りかざす、悪魔みたいな男だ。だから遠慮なくヤっちゃってよ! 大好きなリコちゃんに、この命を奪われるなら本望だね!!」
最初のときとは違い、俺は渾身の力を込めて、大きな声で叫んでやった。
俺のせいで、克巳さんが死ぬことはない。それに彼女が心から望んでることを、進んですればいいと思った。
そう……リコちゃんの躰を奪ったところで、心までは手に入らない――勝敗は最初からわっていたのに、自分の中にある毒占欲をどうしても止められなかった。
(――惨めにキズつき、こんな場所で倒れてる茶番劇がその結果だ……)
それに俺がいなくなれば、すべて丸く収まる――毒の元凶である自分が、この世からいなくなれば……。
「ほらね、稜くんが死にたがっているじゃない。希望通り、殺してあげないと」
俺の声に反応して、リコちゃんが克巳さんに向けていたナイフを離そうとしたときだった。
「……大好きな君が俺の愛する人を、殺すところなんて見たくない――」
静かに……だけどはっきりと告げられたその言葉に、嗚咽を漏らしながら顔を歪ませたリコちゃんは、握りしめていたナイフを手からゆっくりと落とす。
真っ赤な血のついたナイフが、アスファルトに寝転がっている今の無様な自分の姿と、なぜだか綺麗に重なった。
結局リコちゃんに殺されることもなく、手に入れることもできず、彼女に対して燻っていた毒占欲をそのままに――死に損なった俺は、テレビや新聞・週刊誌の格好の餌食となったのだった。
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