Piano~ピアノ~

相沢蒼依

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叶side

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***

「こっ、こんばんは」

 体育会系よろしく、大きな声(しかも顔がかなり赤い状態)で挨拶をしてきた賢一くん。そして今頃なれど、ライブのお礼を直接言ってくれた。

 律義な男だなぁと思いながら、彼の腕に自分の腕を絡ませる。途端にカチンコチンになる姿に笑いを堪えつつ、無理矢理引っ張って歩き出した。

 ドナドナ状態の賢一くんに、しゃんとするよう睨みを利かせる。

 リードしてくれるのはいいけど何だか顔の緊張感は解けてない、引きつったままなんですけど。この代理彼氏、大丈夫だろうか……?

 賢一くんにあの男がストーカーになったという話を、思いきってしてみた。すると少し考えてから、自分がこれから迎えに行きましょうかと提案してくれる。

 ホントのところ、史哉さんに頼みたかった。だけど仕事の関係上、お互いすれ違うことが多いし、会社の人間に見つかったら、もっと厄介なことになる。

 賢一くんとはこうして気軽に腕を絡めるけど、史哉さんとは今まで一度もしたことがなかった。

「それとも、一緒に帰る人がいるとか?」

 私がずっと考えこんでいる様子に、賢一くんが聞いてきた。勿論いないと即答する。帰りたい相手はいるけど、実際は帰れない。

 多少なりとも賢一くんに無理がかかるかもしれないけれど、頼むことにした。彼は嬉しそうにOKしてくれる。

「有り難う、賢一くん」

 ご褒美に、初めて名前を呼んであげた。すると見る間に顔が真っ赤になった。さっきまで緊張感がいっぱいだったのが嘘みたい。

 それを見て私は、心の中でほくそ笑む。授業で分からないトコがあるのが嘘でしょうと、突っ込むタイミングとしては最高だろうな。

 指摘をしたら思った通り青くなりながら、素直に非を認める賢一くんの頭を撫でてあげる。下手な言い分けをしないのが良いと思った。

 そんなことを考えながら、お茶をご馳走するからあがりなさいと言ってみる。

「はい!」

 満面の笑みで元気よく答えた。

 その様子にイヤな予感がしたので、何かしたら追い出すからと先に釘を刺す。果たしてこの言葉、彼には有効なんだろうかと訝しげに思いながら、自宅の扉を開けたのだった。
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