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叶side2
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仕事はいつもより早く、午後九時半に終わっていたけれど心と体が重くて、デスクから立つことができずにいた。メールで謝罪したけど勿論会ってからも、しっかり謝らなければならない。
どんな顔して会おう……気まずいなぁ。
悶々と考え込んでいたら、いつの間にか十時を過ぎていた。慌てて会社を飛び出す。
イライラしながら、交差点で信号を待つ。賢一くんはコンビニで何か立ち読みしているらしく、真剣な顔をして読んでいる姿が遠くから確認できた。
信号が青になり走って交差点を走り抜け、慌ててコンビニに入る。
「ごめんね、遅くなった」
「ちょうど見たい雑誌があったので大丈夫です。行きましょうか」
普通に接してくれる賢一くんに、ホッとした。ひとりで狼狽えているのが、何だか馬鹿みたいに思えてしまう。
背後を気にしつつ(ストーカーがついてきてるかどうか)賢一くんと並んで歩く。
ひとつ溜息をついてから、思いきって口火を切った。
「昨日はごめんね……」
自分の不甲斐なさを押しつけるような形でキスをしてしまった。賢一くんは、何も悪くないのに――
「そんなに気にしないで下さいっ。あんなの蚊に刺された程度のことですよぅ」
なぁんて言ってのけて、必死に明るく振る舞う。ものすごく気を遣っているのが手に取るように分かったのに、うまい言葉が見つからない。
「私は蚊なんだ……」
「いや、あの、そんなつもりじゃなかったんです……」
そして何とか言い訳する彼に、心がじんとした――優しすぎるよ、もう……。
「どうしてそんな素直に、自分の気持ちを言うことができるの?」
素朴な疑問だった。恥ずかしいとか照れなんかもあるけど、私自身なかなか想いを伝えることができない。まずはどうしても、相手の気持ちを考えてしまう。相手が自分に好意を抱いている場合なら問題はない。
だけど違う場合だってある。嫌いな相手に無理やりに、想いをぶつけられても迷惑なだけだと思うから。
「だって、好きな人にこの想いを知ってほしいからです」
あっさり答える賢一くん。真っすぐ過ぎる、彼の気持ちが痛いほど分かる。
「私のどこが好きなの?」
そう聞いたら、すぐに答えない。顎に手を当てて考え込んでいる。
考え込みながら、チラチラとこっちを見る。顔が真っ赤になっていて、何気に可愛い。
「全部って言ったら、月並みかなと思って。何かいい言葉が出てこないし」
おどおどしながら言いながら今度は前方を見据えて「あ…」と、右手人差し指を立てる。
そして私が仕事をしているところを、細かく並べ上げる。本当によく見ているなぁ、ストーカーみたいだよ。
「そんなの表面上のことじゃない。私であって、ホントの私じゃない」
そう言うと今度は私をじっと見て、自信満々な顔で言う。何がそんなに自信があるのやらと、彼の視線に合わせてみた。
「叶さんは素直じゃない。イジワルする時は俺のことを君って言う」
実に楽しそうに笑いながら告げてきた賢一くんに、思わずつられて笑うしかない。素直じゃないは、史哉さんにも言われたな……。
「あと今の笑顔、お店で見る笑顔より自然で好きっす」
私の顔にそっと指を差す。さらりと好きって言われて内心困惑した。
どうしていいか分からずに渋い顔をしたら、同じように困った顔をする。
「折角の笑顔が……」
「君にはスマイル有料です」
賢一くんの普通さのお陰で、いつも通りの会話が成り立つ。
私が好きで、ちょこちょこっと想いを伝えつつ、何事もなかったかのように普段通りの会話に戻せるって、ある意味神業かもしれないな。
はじめの気の遣い方はどうかと思うけど、この会話術って社会人になったら武器になるんだろうなぁ。
そんなことを考えている間に、マンション前に到着。明日のお迎えを頼む。賢一くんの気持ちを知りつつお迎えを頼むのは正直気がひけたけど、他に頼れる人はいない――。
おやすみの挨拶をして、その日は終了した。
どんな顔して会おう……気まずいなぁ。
悶々と考え込んでいたら、いつの間にか十時を過ぎていた。慌てて会社を飛び出す。
イライラしながら、交差点で信号を待つ。賢一くんはコンビニで何か立ち読みしているらしく、真剣な顔をして読んでいる姿が遠くから確認できた。
信号が青になり走って交差点を走り抜け、慌ててコンビニに入る。
「ごめんね、遅くなった」
「ちょうど見たい雑誌があったので大丈夫です。行きましょうか」
普通に接してくれる賢一くんに、ホッとした。ひとりで狼狽えているのが、何だか馬鹿みたいに思えてしまう。
背後を気にしつつ(ストーカーがついてきてるかどうか)賢一くんと並んで歩く。
ひとつ溜息をついてから、思いきって口火を切った。
「昨日はごめんね……」
自分の不甲斐なさを押しつけるような形でキスをしてしまった。賢一くんは、何も悪くないのに――
「そんなに気にしないで下さいっ。あんなの蚊に刺された程度のことですよぅ」
なぁんて言ってのけて、必死に明るく振る舞う。ものすごく気を遣っているのが手に取るように分かったのに、うまい言葉が見つからない。
「私は蚊なんだ……」
「いや、あの、そんなつもりじゃなかったんです……」
そして何とか言い訳する彼に、心がじんとした――優しすぎるよ、もう……。
「どうしてそんな素直に、自分の気持ちを言うことができるの?」
素朴な疑問だった。恥ずかしいとか照れなんかもあるけど、私自身なかなか想いを伝えることができない。まずはどうしても、相手の気持ちを考えてしまう。相手が自分に好意を抱いている場合なら問題はない。
だけど違う場合だってある。嫌いな相手に無理やりに、想いをぶつけられても迷惑なだけだと思うから。
「だって、好きな人にこの想いを知ってほしいからです」
あっさり答える賢一くん。真っすぐ過ぎる、彼の気持ちが痛いほど分かる。
「私のどこが好きなの?」
そう聞いたら、すぐに答えない。顎に手を当てて考え込んでいる。
考え込みながら、チラチラとこっちを見る。顔が真っ赤になっていて、何気に可愛い。
「全部って言ったら、月並みかなと思って。何かいい言葉が出てこないし」
おどおどしながら言いながら今度は前方を見据えて「あ…」と、右手人差し指を立てる。
そして私が仕事をしているところを、細かく並べ上げる。本当によく見ているなぁ、ストーカーみたいだよ。
「そんなの表面上のことじゃない。私であって、ホントの私じゃない」
そう言うと今度は私をじっと見て、自信満々な顔で言う。何がそんなに自信があるのやらと、彼の視線に合わせてみた。
「叶さんは素直じゃない。イジワルする時は俺のことを君って言う」
実に楽しそうに笑いながら告げてきた賢一くんに、思わずつられて笑うしかない。素直じゃないは、史哉さんにも言われたな……。
「あと今の笑顔、お店で見る笑顔より自然で好きっす」
私の顔にそっと指を差す。さらりと好きって言われて内心困惑した。
どうしていいか分からずに渋い顔をしたら、同じように困った顔をする。
「折角の笑顔が……」
「君にはスマイル有料です」
賢一くんの普通さのお陰で、いつも通りの会話が成り立つ。
私が好きで、ちょこちょこっと想いを伝えつつ、何事もなかったかのように普段通りの会話に戻せるって、ある意味神業かもしれないな。
はじめの気の遣い方はどうかと思うけど、この会話術って社会人になったら武器になるんだろうなぁ。
そんなことを考えている間に、マンション前に到着。明日のお迎えを頼む。賢一くんの気持ちを知りつつお迎えを頼むのは正直気がひけたけど、他に頼れる人はいない――。
おやすみの挨拶をして、その日は終了した。
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