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Piano:重なる想い
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カフェスペースに向かう途中、向こう側の廊下から歩いてくる見知らぬ男性が、俺をじっと見て片手を上げた。誰――!?
一瞬そう思ったが顔をまじまじと見て、やっと気がついた。
「まさやんっ、髪切ったの?」
イケメンまさやん、肩まで伸ばしていた髪を切ったらしい。短髪でも似合う何て羨ましい……。
「女装を強要した先輩もいないし、就活もしなきゃならないし、当然の髪型だろ」
「確かに」
「だから、バンドのコンセプトも変えようぜ。ちょうどドラマーとベーシストを捜さなきゃならないんだし」
「まさやん憧れの、骨のあるロック?」
「勿論!」
久しぶりに楽しくまさやんとの会話ができるだけで、心の底から和むことができた。
その感動に浸るべく、じーんと噛みしめていると俺の顔を覗きこんでくる。
「けん坊、少し痩せた?」
「いろいろと気苦労が絶えなくて……」
「気苦労ってなんだよ。念願の年上と付き合うことになったんだろ?」
まさやんには、メールで付き合ったことを報告していた。でも詳しくは割愛している。親友に説明するには、ちょっと言いにくい内容だから。
「付き合ってるよ。だけどいろいろ大変なんだ」
「相手が年上だから、若さを吸いとられてるんじゃないのか?」
呆れた顔で、信じられないことを言い放つ。まさやんの年上嫌いは、相変わらずだな。
「ここで立ち話も何だから、カフェスペースに行こう。まさやんに相談したいことがあるしさ……」
こんな相談、まさやんにしかできない。
赤面する俺をまさやんはなだめるように肩を叩いて、カフェスペースに促してくれた。
「あのさまさやん、笑わないで聞いてね」
カフェスペースの空いてる席に座り、開口一番に告げた言葉。念を押す俺に、素直に頷くまさやんの表情は真剣そのものだった。
「年上との恋愛話なんて、本当は聞きたくないけどな」
冷たい言葉で返されたせいで、ますます言いにくい雰囲気に飲まれそうになる。
「……あのね叶さんが、アノ途中で寝ちゃうんだ」
「アノ途中って、どの途中だ?」
「エッチの途中……」
「わーってる。だから、どこら辺でだよ?」
相変わらず言葉の足りない俺の会話を理解しているまさやんに、すっごく感謝した。持つべきものは親友だなぁ。
「うっ……。えっと愛撫の途中で寝ちゃう。つぅか爆睡してる」
揺り動かしても起きない叶さん。幸せそうな顔をして寝てるもんだから、それ以上は手が出せないのだ。
「年上だから、不感症なんじゃないのか」
出たよ。まさやんお得意の年上こき下ろし。
「もしくは、けん坊が悪いかだよな」
「だから夜がスゴいと噂のまさやんに、こうして相談してるんじゃないか」
「俺、年上としたことないから分からない」
そう言って、知らん顔を決め込む。
「まさやん……」
「だって普通は興奮するもんだろ。それを寝かしつけるとは、俺よりもけん坊の方がスゴいんじゃないか」
そんな風に誉められても嬉しくない。俺は真剣に悩んでるんだ。
キッと涙目で睨んだらしょうがないという顔をして、向かいの席から俺の隣に移動する。きっと大きな声で言えない内容なんだろうと、ワクワクしていたら――
「賢一……」
そう言って俺の頬に両手をかける。しかもまさやんから甘い花の薫りが漂ってきて、一緒にフェロモンまで出ているみたいだった。
まさやんどうして、そんな風に切ない表情しているんだ!?
それを見るだけで、なぜだかすっごくドキドキしているんですけど……。
俺の気持ちを知ってか知らずか、頬にあてた左手は後頭部に、右手は耳の後ろに回し込み、右手中指を使って絶妙な力加減でツツツッと撫でる。
ありっ!? 何だかゾクゾクする。
今度はその手をそのまま首筋に降下させていくのだが、五本の指全てが何とも言えない動きをしていた。俺の後頭部に回していた左手に力を入れ、グイッとまさやんの顔に近づける。
フッと笑うまさやんから、またしてもフェロモンが出ているよ。
「分かったか?」
「うん、分かった。まさやんが現在進行形で恋をしているのが、手に取るように分かった」
手というより鼻でしたな。
「まさやんってば、恋をすると香水変えるもんね」
「全く、けん坊には敵わないな」
「でもそろそろこの体勢をどうにかしないと、周りの視線がイタイです……」
至近距離で見つめ合ってる俺たちは、かなり怪しいだろう。どちらともなく、パッと離れた。
「まさやんの手技よりも」
「何だ?」
腕組みして、しげしげとこっちを見る。
「そのフェロモンの出し方、ぜひとも教えて下さい師匠!」
真剣に頼んだのに何も言わず、その場をあとにしたまさやん。俺、どうしたらいいの――?
カフェスペースに向かう途中、向こう側の廊下から歩いてくる見知らぬ男性が、俺をじっと見て片手を上げた。誰――!?
一瞬そう思ったが顔をまじまじと見て、やっと気がついた。
「まさやんっ、髪切ったの?」
イケメンまさやん、肩まで伸ばしていた髪を切ったらしい。短髪でも似合う何て羨ましい……。
「女装を強要した先輩もいないし、就活もしなきゃならないし、当然の髪型だろ」
「確かに」
「だから、バンドのコンセプトも変えようぜ。ちょうどドラマーとベーシストを捜さなきゃならないんだし」
「まさやん憧れの、骨のあるロック?」
「勿論!」
久しぶりに楽しくまさやんとの会話ができるだけで、心の底から和むことができた。
その感動に浸るべく、じーんと噛みしめていると俺の顔を覗きこんでくる。
「けん坊、少し痩せた?」
「いろいろと気苦労が絶えなくて……」
「気苦労ってなんだよ。念願の年上と付き合うことになったんだろ?」
まさやんには、メールで付き合ったことを報告していた。でも詳しくは割愛している。親友に説明するには、ちょっと言いにくい内容だから。
「付き合ってるよ。だけどいろいろ大変なんだ」
「相手が年上だから、若さを吸いとられてるんじゃないのか?」
呆れた顔で、信じられないことを言い放つ。まさやんの年上嫌いは、相変わらずだな。
「ここで立ち話も何だから、カフェスペースに行こう。まさやんに相談したいことがあるしさ……」
こんな相談、まさやんにしかできない。
赤面する俺をまさやんはなだめるように肩を叩いて、カフェスペースに促してくれた。
「あのさまさやん、笑わないで聞いてね」
カフェスペースの空いてる席に座り、開口一番に告げた言葉。念を押す俺に、素直に頷くまさやんの表情は真剣そのものだった。
「年上との恋愛話なんて、本当は聞きたくないけどな」
冷たい言葉で返されたせいで、ますます言いにくい雰囲気に飲まれそうになる。
「……あのね叶さんが、アノ途中で寝ちゃうんだ」
「アノ途中って、どの途中だ?」
「エッチの途中……」
「わーってる。だから、どこら辺でだよ?」
相変わらず言葉の足りない俺の会話を理解しているまさやんに、すっごく感謝した。持つべきものは親友だなぁ。
「うっ……。えっと愛撫の途中で寝ちゃう。つぅか爆睡してる」
揺り動かしても起きない叶さん。幸せそうな顔をして寝てるもんだから、それ以上は手が出せないのだ。
「年上だから、不感症なんじゃないのか」
出たよ。まさやんお得意の年上こき下ろし。
「もしくは、けん坊が悪いかだよな」
「だから夜がスゴいと噂のまさやんに、こうして相談してるんじゃないか」
「俺、年上としたことないから分からない」
そう言って、知らん顔を決め込む。
「まさやん……」
「だって普通は興奮するもんだろ。それを寝かしつけるとは、俺よりもけん坊の方がスゴいんじゃないか」
そんな風に誉められても嬉しくない。俺は真剣に悩んでるんだ。
キッと涙目で睨んだらしょうがないという顔をして、向かいの席から俺の隣に移動する。きっと大きな声で言えない内容なんだろうと、ワクワクしていたら――
「賢一……」
そう言って俺の頬に両手をかける。しかもまさやんから甘い花の薫りが漂ってきて、一緒にフェロモンまで出ているみたいだった。
まさやんどうして、そんな風に切ない表情しているんだ!?
それを見るだけで、なぜだかすっごくドキドキしているんですけど……。
俺の気持ちを知ってか知らずか、頬にあてた左手は後頭部に、右手は耳の後ろに回し込み、右手中指を使って絶妙な力加減でツツツッと撫でる。
ありっ!? 何だかゾクゾクする。
今度はその手をそのまま首筋に降下させていくのだが、五本の指全てが何とも言えない動きをしていた。俺の後頭部に回していた左手に力を入れ、グイッとまさやんの顔に近づける。
フッと笑うまさやんから、またしてもフェロモンが出ているよ。
「分かったか?」
「うん、分かった。まさやんが現在進行形で恋をしているのが、手に取るように分かった」
手というより鼻でしたな。
「まさやんってば、恋をすると香水変えるもんね」
「全く、けん坊には敵わないな」
「でもそろそろこの体勢をどうにかしないと、周りの視線がイタイです……」
至近距離で見つめ合ってる俺たちは、かなり怪しいだろう。どちらともなく、パッと離れた。
「まさやんの手技よりも」
「何だ?」
腕組みして、しげしげとこっちを見る。
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