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Piano:決別
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※ここでの内容の一部は掲載している【FF~フォルテシモ~】とリンクしております
***
今日は会長命令で、お孫さんの護衛役を仰せつかっている。買物だけの外出なのだが、あまりの可愛らしさに変な男が寄ってくるかもと心配した会長が、俺を抜擢した。
何だかよく分からないが、目をかけられている。会長とは話をしたことがないんだけど……。
「山田くん、ごめんなさい。お仕事中なのに、おじいちゃんが我が侭を言っちゃって」
「大丈夫だよ。ちょうど煮詰まってたトコだったから、逆に助かったしさ」
彼女とは同期で入社していた。でも部署が違うので、なかなか会う機会がなかったのだけれど、ふとしたことがきっかけで、話をするようになったのである←今は多くを語れない
叶さんへのアプローチじゃないが、タイミングって大切だと思う。
「朝比奈さん、今日の買物は何の予定なの?」
「社長室に来たお客様に出すお茶菓子と、こっそり、おじいちゃんの誕生日プレゼントも一緒に買っちゃおうかなって。山田くん、趣味が良さそうだから」
にっこりと微笑む彼女。
「それなら、あの人に頼めばいいのに」
俺が言うと、頬をプゥと膨らませて不満顔を露にする。
「だって、迷ってばかりで全然決めてくれないんだもん。山田くんみたいに速決してくれないから、私イライラしちゃってケンカになっちゃった」
どこのカップルも、女性が強い――
「それだけ、真剣に選んでくれてたってことだよ」
「だけど今回だって、山田くんと出掛けるって言っても、何も言ってくれないんだよ。ただ若者同士、話が弾むといいね、だって」
む――フォローしたくても、上手くいかない……。
「私、何で山田くんを好きにならなかったんだろう」
そう言って、俺の顔を仰ぎ見る。
「朝比奈さんの好みの範囲に、入ってなかったからじゃないのかな」
好かれても困る、俺には叶さんがいるんだから。
「ルックスでいったら、むしろ山田くんOKだよ。しかも仕事はできるし、バンドやってて格好いいし、おじいちゃんにも好かれてる」
「朝比奈さん……」
「山田くんと付き合ったら楽しそうだなぁ、趣味も合いそうだし。友達にも自慢できちゃいそう」
そう言って突然、俺の腕に自分の腕を絡める。ふくよかな胸が、左腕にあたるんですけど。
「山田くんの好みの中に、私は入らない?」
「俺の好みはツワモノな人がいいから、朝比奈さんは無理」
「何それ、変なのぉ」
コロコロと笑う彼女に、俺はこっそりため息をついた。微妙に疲れる。何だか、子犬の散歩をしている気分。
今度は突然、腕を引っ張られる。そこはとあるブランドのショーウィンドーだった。
「見て見て、素敵!」
俺も彼女の背後から拝見。うん、確かに綺麗――
ショーウィンドーの中にあったのは、真っ白なタキシードとウェディングドレス。時期的に、ブライダルフェアをやっているようだ。
このウェディングドレス、叶さんに着てほしいなぁ。背が高くてスレンダーだから、きっと映えるだろう。
「山田くん、彼女のことでも考えてるでしょ?」
なぁんて、ズバリと指摘されてしまった。俺は言葉に詰まるしかない。
「目尻が下がって、いい男が台無しになってるよ」
「そんなことを言われても、こればっかりはしょうがないと、目をつぶって下さい」
「いいな……。そんな風に想われる彼女さん」
淋しそうに、ドレスを見上げる。
そんな朝比奈さんの手を、強引に引っ張ってみた。
「それよりも買物早くしなきゃ。俺でよければ選んであげるよ、会長のプレゼント。だから元気だして?」
繋いだ手に力を込めて引っ張ると、握り潰す勢いで握り返してくる。
「山田くん、気を遣い過ぎ。しかも私に触っていいのは、あの人だけなんだからねっ」
「あはは、元気で何より」
握り潰された手をさする。女心ってわかんねー、複雑怪奇……。
俺は知らなかった。いつからか分からないがこの様子を、叶さんが通りの向こうからずっと見ていたことに――
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今日は会長命令で、お孫さんの護衛役を仰せつかっている。買物だけの外出なのだが、あまりの可愛らしさに変な男が寄ってくるかもと心配した会長が、俺を抜擢した。
何だかよく分からないが、目をかけられている。会長とは話をしたことがないんだけど……。
「山田くん、ごめんなさい。お仕事中なのに、おじいちゃんが我が侭を言っちゃって」
「大丈夫だよ。ちょうど煮詰まってたトコだったから、逆に助かったしさ」
彼女とは同期で入社していた。でも部署が違うので、なかなか会う機会がなかったのだけれど、ふとしたことがきっかけで、話をするようになったのである←今は多くを語れない
叶さんへのアプローチじゃないが、タイミングって大切だと思う。
「朝比奈さん、今日の買物は何の予定なの?」
「社長室に来たお客様に出すお茶菓子と、こっそり、おじいちゃんの誕生日プレゼントも一緒に買っちゃおうかなって。山田くん、趣味が良さそうだから」
にっこりと微笑む彼女。
「それなら、あの人に頼めばいいのに」
俺が言うと、頬をプゥと膨らませて不満顔を露にする。
「だって、迷ってばかりで全然決めてくれないんだもん。山田くんみたいに速決してくれないから、私イライラしちゃってケンカになっちゃった」
どこのカップルも、女性が強い――
「それだけ、真剣に選んでくれてたってことだよ」
「だけど今回だって、山田くんと出掛けるって言っても、何も言ってくれないんだよ。ただ若者同士、話が弾むといいね、だって」
む――フォローしたくても、上手くいかない……。
「私、何で山田くんを好きにならなかったんだろう」
そう言って、俺の顔を仰ぎ見る。
「朝比奈さんの好みの範囲に、入ってなかったからじゃないのかな」
好かれても困る、俺には叶さんがいるんだから。
「ルックスでいったら、むしろ山田くんOKだよ。しかも仕事はできるし、バンドやってて格好いいし、おじいちゃんにも好かれてる」
「朝比奈さん……」
「山田くんと付き合ったら楽しそうだなぁ、趣味も合いそうだし。友達にも自慢できちゃいそう」
そう言って突然、俺の腕に自分の腕を絡める。ふくよかな胸が、左腕にあたるんですけど。
「山田くんの好みの中に、私は入らない?」
「俺の好みはツワモノな人がいいから、朝比奈さんは無理」
「何それ、変なのぉ」
コロコロと笑う彼女に、俺はこっそりため息をついた。微妙に疲れる。何だか、子犬の散歩をしている気分。
今度は突然、腕を引っ張られる。そこはとあるブランドのショーウィンドーだった。
「見て見て、素敵!」
俺も彼女の背後から拝見。うん、確かに綺麗――
ショーウィンドーの中にあったのは、真っ白なタキシードとウェディングドレス。時期的に、ブライダルフェアをやっているようだ。
このウェディングドレス、叶さんに着てほしいなぁ。背が高くてスレンダーだから、きっと映えるだろう。
「山田くん、彼女のことでも考えてるでしょ?」
なぁんて、ズバリと指摘されてしまった。俺は言葉に詰まるしかない。
「目尻が下がって、いい男が台無しになってるよ」
「そんなことを言われても、こればっかりはしょうがないと、目をつぶって下さい」
「いいな……。そんな風に想われる彼女さん」
淋しそうに、ドレスを見上げる。
そんな朝比奈さんの手を、強引に引っ張ってみた。
「それよりも買物早くしなきゃ。俺でよければ選んであげるよ、会長のプレゼント。だから元気だして?」
繋いだ手に力を込めて引っ張ると、握り潰す勢いで握り返してくる。
「山田くん、気を遣い過ぎ。しかも私に触っていいのは、あの人だけなんだからねっ」
「あはは、元気で何より」
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俺は知らなかった。いつからか分からないがこの様子を、叶さんが通りの向こうからずっと見ていたことに――
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