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君のために3
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「は? 今 何て言った?」
翌日。 ユキが口にしたことに、カエデは聞き間違いではないかと、再度 訊き直した。
「昨日、ようやく助力の件が可決したの。私は明後日、町に下りるわ」
目を剥くカエデの一方、ユキは可決したことで、少し嬉しそうだった。
先代長のこともあり、今回のことは見送られるだろうと思っていたのだが。 まさかあの頑固な長老達が了承するとは。 カエデはにわかには信じられなかった。
―― ユキはどんな魔法を使った?
カエデの頭の中は、疑問符で一杯だった。
「それで、私が町へ行っている間、カエデには森を守っていてほしいの」
「……ちょっと待て、ユキ。君、本当に行くつもりか?」
急な話にカエデはついていけず、ユキにもう一度 確認をとる。
重大な事のはずなのに、「えぇ」と頷くユキの返事はあまりにも軽い。
「だから、お留守番よろしくね」
「だから待て。何故 オレが行けない?ユキが行くんだったら、オレも行く」
直接 戦場へ赴くわけではないが、仮にも戦場と十分なりうる場所にユキ一人で行かせたくはない。
だが、カエデの申し出に、ユキは首を振った。
「駄目よ。もし何かあった時、森を守る人がいなくなってしまう」
「なら、ユキに何かあった時は誰が君を守る?それに、次代の長はどうするんだ?」
当然、会議に次代の長について議論はされたはずだ。 長老らの了解を得たということは、長の目途はついているのだろう。
ユキは笑みを消し、目の前のカエデを真剣に見つめた。
「私が帰らなかった場合、次代の長は……あなたよ。カエデ」
「…………何?」
――会議が佳境に入り、否決とほぼ決まった時、ユキはこう提案した。
『もし私が消滅してしまったら、次代はカエデに引き継がせて下さい』
ユキの台詞に、その場にいた誰もが動揺を隠せなかった。
最初に口を出したのは、一番年かさの低い長老だ。
『ユキ様、カエデはまだ生まれて三十年しか経っておらん。いくら何でも無茶だ』
『いいえ。カエデなら、きっとやれます。皆さんも、あの子の力は、十分 ご存知のはずでしょう?』
長老達は押し黙る。 長であるユキの涙から生まれたカエデの力は、誰もが知るところだったからだ。 恐らく、ユキを除けば、カエデの力は精霊の中でぬきんでている。
力だけで考えれば、ユキの後釜を継ぐのは、カエデだ。
『私はここに帰ってくると、約束します。でも、私が約束を破ってしまった時は、カエデに。お願いします』
――議論は夜半を過ぎても続けられた。 これ以上の会議は無意味だろうとのことで、最終的に長老らの挙手により、僅か一人の差で可決されたのだった。
事の経緯を知ったカエデは、開いた口が塞がらなかった。
自分の知らない間に、そんな話がついていたことが衝撃だった。
「あなたが長になるのは、本当に万が一の時だから。安心して。私は必ずここに帰って来るから」
あんぐりするカエデに安心させようと、ユキは自分の手に触れて来る。
本当に、どうしてこうも分かってくれないのだろうか。 驚きの次にカエデの中には怒りに似た感情が湧き上がる。
――どうして、いつも、いつも
「……カエデ、どうしたの?」
カエデの様子がおかしいと感じたのか、ユキは顔を覗きこんでくる。
こうやって、いつも人のことを心配してばかりで、彼女は自分のことなど何も考えはしない。 それが、無性に腹立たしい。
「……君は、何も分かっていない」
「え?」
カエデは何の事を言っているのか分からないようで、ユキは首を傾げる。
自分はこんなにもユキを想っているのに、届かない。 今ほど、虚しく感じたことはなかった。
「待って、カエデ。ねぇ!」
ユキの隣にいるのが苦しくなり、カエデは木々の枝を伝ってその場から離れた。
ユキが何度も自分を呼ぶ声がしたが、振り返ることが出来なかった。
「は? 今 何て言った?」
翌日。 ユキが口にしたことに、カエデは聞き間違いではないかと、再度 訊き直した。
「昨日、ようやく助力の件が可決したの。私は明後日、町に下りるわ」
目を剥くカエデの一方、ユキは可決したことで、少し嬉しそうだった。
先代長のこともあり、今回のことは見送られるだろうと思っていたのだが。 まさかあの頑固な長老達が了承するとは。 カエデはにわかには信じられなかった。
―― ユキはどんな魔法を使った?
カエデの頭の中は、疑問符で一杯だった。
「それで、私が町へ行っている間、カエデには森を守っていてほしいの」
「……ちょっと待て、ユキ。君、本当に行くつもりか?」
急な話にカエデはついていけず、ユキにもう一度 確認をとる。
重大な事のはずなのに、「えぇ」と頷くユキの返事はあまりにも軽い。
「だから、お留守番よろしくね」
「だから待て。何故 オレが行けない?ユキが行くんだったら、オレも行く」
直接 戦場へ赴くわけではないが、仮にも戦場と十分なりうる場所にユキ一人で行かせたくはない。
だが、カエデの申し出に、ユキは首を振った。
「駄目よ。もし何かあった時、森を守る人がいなくなってしまう」
「なら、ユキに何かあった時は誰が君を守る?それに、次代の長はどうするんだ?」
当然、会議に次代の長について議論はされたはずだ。 長老らの了解を得たということは、長の目途はついているのだろう。
ユキは笑みを消し、目の前のカエデを真剣に見つめた。
「私が帰らなかった場合、次代の長は……あなたよ。カエデ」
「…………何?」
――会議が佳境に入り、否決とほぼ決まった時、ユキはこう提案した。
『もし私が消滅してしまったら、次代はカエデに引き継がせて下さい』
ユキの台詞に、その場にいた誰もが動揺を隠せなかった。
最初に口を出したのは、一番年かさの低い長老だ。
『ユキ様、カエデはまだ生まれて三十年しか経っておらん。いくら何でも無茶だ』
『いいえ。カエデなら、きっとやれます。皆さんも、あの子の力は、十分 ご存知のはずでしょう?』
長老達は押し黙る。 長であるユキの涙から生まれたカエデの力は、誰もが知るところだったからだ。 恐らく、ユキを除けば、カエデの力は精霊の中でぬきんでている。
力だけで考えれば、ユキの後釜を継ぐのは、カエデだ。
『私はここに帰ってくると、約束します。でも、私が約束を破ってしまった時は、カエデに。お願いします』
――議論は夜半を過ぎても続けられた。 これ以上の会議は無意味だろうとのことで、最終的に長老らの挙手により、僅か一人の差で可決されたのだった。
事の経緯を知ったカエデは、開いた口が塞がらなかった。
自分の知らない間に、そんな話がついていたことが衝撃だった。
「あなたが長になるのは、本当に万が一の時だから。安心して。私は必ずここに帰って来るから」
あんぐりするカエデに安心させようと、ユキは自分の手に触れて来る。
本当に、どうしてこうも分かってくれないのだろうか。 驚きの次にカエデの中には怒りに似た感情が湧き上がる。
――どうして、いつも、いつも
「……カエデ、どうしたの?」
カエデの様子がおかしいと感じたのか、ユキは顔を覗きこんでくる。
こうやって、いつも人のことを心配してばかりで、彼女は自分のことなど何も考えはしない。 それが、無性に腹立たしい。
「……君は、何も分かっていない」
「え?」
カエデは何の事を言っているのか分からないようで、ユキは首を傾げる。
自分はこんなにもユキを想っているのに、届かない。 今ほど、虚しく感じたことはなかった。
「待って、カエデ。ねぇ!」
ユキの隣にいるのが苦しくなり、カエデは木々の枝を伝ってその場から離れた。
ユキが何度も自分を呼ぶ声がしたが、振り返ることが出来なかった。
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