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番外編
神在祭〜花畑の約束〜2
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長門を出発したのは、10日の夕方だった。
留守神――タイカに七日分の仕事の引継ぎを行い、霊達に挨拶をしてから出たために、少し遅くなってしまったのだ。
「そういえば、よくタイカ様に仕事を任せられましたね」
新幹線の中で駅弁を美味しそうに食べているカエデに、シキは思い出したように言う。
「あぁ、新任された長のことか。中々やっかいではあったが、あちらのお好きな勝負とやらで勝って、仕事を押し付けてきたんだ。 長門には二人も長がいるから、どちらかは残らないといけないからな」
やたらとしつこく勝負を申し込んでくるタイカは、二年前に隣町の長に任命された。 カエデが無断で領地に踏み込んできたことが原因で、タイカとは仲がこじれてしまった。
そして厄介なことに、タイカはカエデに敗北して以来、ひっきりなしに勝負を申し込んでくる。 最近、それがカエデの頭痛の種となっている。
「まぁ、今回は彼のおかげでシキを連れてくることができたんだ。よしとしよう。ところで、シキ」
「はい?」
「駅弁を食べないなら、貰っていいか?」
「……」
どこまでも食べ物には目がないカエデに、シキは周りに怪しまれないよう、ひっそりと渡す。
カエデは気にしなかったが、今の彼は誰もいない座席相手に話している状態である。
シキはただの霊で、カエデのように人間に姿を現すことは出来ない。
おかしな行動をとる上、カエデはやたらと顔立ちがいいものだから、なおさら目立つのだ。
「シキ、駅弁おかわり」
「もう勘弁してください……」
出雲に着くまでの間、シキは一人、羞恥心と闘っていた。
---------------------- -------------------
長門から出雲までは思いのほか遠く、到着する頃にはすっかり日が暮れていた。
「うわぁ、大きな所ですね」
七日分の荷物を抱えながら、シキは感嘆の声を洩らす。 三つ目の鳥居をくぐり、最初に見えたのは拝殿だった。人々が参拝に訪れる場所だ。
拝殿だけでもシキが見てきたどの社よりも大きい。 それ以外にも、いくつも社があるというのだから驚きだ。
「オレ達が泊まるは、東十九社 (ひがしじゅうくしゃ) と呼ばれる宿舎だ。 とりあえずそこに荷物を置いて、着替えたら神楽殿へ行くぞ」
「え?どうして、神楽殿へ行くんですか?」
神楽殿は祭事を行う場であるため、会議を目的で来たシキ達には関係ないはずだ。
そう不思議に思っていると、いきなり川の向こうに建つ建物に明かりが点いた。
「な、何ですか」
「あぁ、始まったか」
動揺するシキの一方、カエデは悟ったように口角を上げる。 同時に、太鼓や笛の音が響き出した。
まるで、今から祭りが始まるかのような騒ぎだ。
「行くぞ、シキ。祭りだ」
「えぇ?」
何の説明も受けず、足早になったカエデの後を、シキは追う。
二人は一度、宿舎である東十九社に荷物を下ろし、直垂を身につけた。
公式の場ともなると、さすがに正装で出席しなければならない。
「カエデ様! 直垂ではなく、狩衣をお召しになってください! カエデ様は侍従ではないのですよ」
「いいじゃないか。こっちの方が動きやすいんだから」
昔からの風習で、身分によって着衣が決められている。 侍従は直垂、地方の長は四位以上に数えられるので、狩衣だ。
しかし身分などといった制度に全く頓着しないカエデは、平気で常識破りのことをする。 シキのお説教にも慣れたもので、どこ吹く風だ。
睨むシキに、会議の時は狩衣に着替えるという約束をして、神楽殿へ向かった。
留守神――タイカに七日分の仕事の引継ぎを行い、霊達に挨拶をしてから出たために、少し遅くなってしまったのだ。
「そういえば、よくタイカ様に仕事を任せられましたね」
新幹線の中で駅弁を美味しそうに食べているカエデに、シキは思い出したように言う。
「あぁ、新任された長のことか。中々やっかいではあったが、あちらのお好きな勝負とやらで勝って、仕事を押し付けてきたんだ。 長門には二人も長がいるから、どちらかは残らないといけないからな」
やたらとしつこく勝負を申し込んでくるタイカは、二年前に隣町の長に任命された。 カエデが無断で領地に踏み込んできたことが原因で、タイカとは仲がこじれてしまった。
そして厄介なことに、タイカはカエデに敗北して以来、ひっきりなしに勝負を申し込んでくる。 最近、それがカエデの頭痛の種となっている。
「まぁ、今回は彼のおかげでシキを連れてくることができたんだ。よしとしよう。ところで、シキ」
「はい?」
「駅弁を食べないなら、貰っていいか?」
「……」
どこまでも食べ物には目がないカエデに、シキは周りに怪しまれないよう、ひっそりと渡す。
カエデは気にしなかったが、今の彼は誰もいない座席相手に話している状態である。
シキはただの霊で、カエデのように人間に姿を現すことは出来ない。
おかしな行動をとる上、カエデはやたらと顔立ちがいいものだから、なおさら目立つのだ。
「シキ、駅弁おかわり」
「もう勘弁してください……」
出雲に着くまでの間、シキは一人、羞恥心と闘っていた。
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長門から出雲までは思いのほか遠く、到着する頃にはすっかり日が暮れていた。
「うわぁ、大きな所ですね」
七日分の荷物を抱えながら、シキは感嘆の声を洩らす。 三つ目の鳥居をくぐり、最初に見えたのは拝殿だった。人々が参拝に訪れる場所だ。
拝殿だけでもシキが見てきたどの社よりも大きい。 それ以外にも、いくつも社があるというのだから驚きだ。
「オレ達が泊まるは、東十九社 (ひがしじゅうくしゃ) と呼ばれる宿舎だ。 とりあえずそこに荷物を置いて、着替えたら神楽殿へ行くぞ」
「え?どうして、神楽殿へ行くんですか?」
神楽殿は祭事を行う場であるため、会議を目的で来たシキ達には関係ないはずだ。
そう不思議に思っていると、いきなり川の向こうに建つ建物に明かりが点いた。
「な、何ですか」
「あぁ、始まったか」
動揺するシキの一方、カエデは悟ったように口角を上げる。 同時に、太鼓や笛の音が響き出した。
まるで、今から祭りが始まるかのような騒ぎだ。
「行くぞ、シキ。祭りだ」
「えぇ?」
何の説明も受けず、足早になったカエデの後を、シキは追う。
二人は一度、宿舎である東十九社に荷物を下ろし、直垂を身につけた。
公式の場ともなると、さすがに正装で出席しなければならない。
「カエデ様! 直垂ではなく、狩衣をお召しになってください! カエデ様は侍従ではないのですよ」
「いいじゃないか。こっちの方が動きやすいんだから」
昔からの風習で、身分によって着衣が決められている。 侍従は直垂、地方の長は四位以上に数えられるので、狩衣だ。
しかし身分などといった制度に全く頓着しないカエデは、平気で常識破りのことをする。 シキのお説教にも慣れたもので、どこ吹く風だ。
睨むシキに、会議の時は狩衣に着替えるという約束をして、神楽殿へ向かった。
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