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番外編
ユリスが媚薬を盛られる話④
しおりを挟む俺の名前はユリス・アデレーゼ。この屋敷の当主レギオン・アデレーゼの弟である。だが本当は別の世界に住んでいた、ただのゲーム好きの冴えない陰キャの男である。学校の帰り道、車に轢かれて死亡してしまい、気付いたら遊んでいたノベルゲームの悪役令息になっていた。
しかもユリスは死亡フラグ乱立した哀れなキャラである。兄がヤンデレキャラなのも含めてマジ哀れ。もう笑うしかない。
そんなユリス・アデレーゼはだいたいのルートで兄のレギオンに殺されるのだ。死んだ先の世界でまたすぐに死ぬ可能性が浮上しているとか、俺が一体何をしたって言うんだ。
そんなわけでなんとか回避しようとしたら、このヤンデレ兄様に溺愛される結果になった。クソが。
だが不幸中の幸いな事もある。何がきっかけかは分からないが、監禁エンドで詰んだかと思ったら両想いエンドに切り替わった。最悪の事態は何故か回避されたのだ。
ゲームの世界は対象キャラと結ばれればクリアになるが、残念ながら俺とレギオンが(不本意ながら)結ばれてもこの世界は終わらない。俺は前世の知識を生かし、両想い後はそれなりに上手いことレギオンをコントロールして暮らしていたはずだ。
いろいろ不満はあるが不満の中で最上位なのは週に1度レギオンとセックスしないといけないことである。
普通に考えてくれ、実の兄としたいか? 俺はしたくない。だが残念ながらレギオンにとってこれは譲れないらしく、これだけはいろいろ言っても拒否は無理だった。
じゃあ逃げると普通の人間は考えると思うが、多分レギオン相手にそれをすると人生詰む。だから、本当は嫌だがちゃんとレギオンの部屋をノックする。何故か分からないが逃げたらマジで終わる気配を感じたんだ。
幸いなことにレギオンは結ばれた場合、愛する者に甘い。行為の際『優しくして』と言えば無理はさせないよう動いてくれる。……たまに暴走するが。だが逃げるリスクを考えたら受け入れた方が消去法でマシである。
そして過去一の暴走が、昨日の晩の話である。
―――――――――
「ユリス、本当に反省している……機嫌を直してくれ……」
「レギオン兄様、もう仕事の時間ですよ……。俺は大人しく療養しているのでそっとしておいてください……」
「こんな状況では仕事なんて無理だ。頼む、そこから出てきてくれ。可愛い顔を見せてくれ……」
俺は朝起きてすぐ自室に戻り、布団の中に潜り込んで引きこもっていた。その布団を、レギオンは引っ張って何度も謝ってくる。俺より力があるレギオンがその気になれば布団を引き剥がす事は容易だが、それでは解決しないからこうして弱々しく引っ張っているのだ。
多分本当に反省している。それは分かっているが、それで何でも許せるほど俺の心は広くない。
昨日の晩はレギオンとセックスする日だった。うん、嫌ではあるがまあそれはいい。俺が怒っている問題はそこではない。
「何で媚薬を盛ったのですか?」
「ユリスにもっと気持ち良くなってもらいたくて…」
「何でもう無理と言ったのに続けたのですか?」
「可愛すぎてつい……」
意味が分からねぇ!!
これが絶世の美女ならともかく相手は俺よりガタイが良い男、しかも兄である。
「分かった。じゃあユリスも私に媚薬を盛っていいから」
「……それを鎮める俺の役ですよね?」
「……うん」
本当に意味が分からねぇ!!
今レギオンを見たらいろいろ思い出して泣きそうなんだ。昨日は結局気絶するまでやられた。レギオンとは何度も身体を重ねたが気絶するまでされたのは初回含めて2回目である。
あの後もう変な薬を盛らない、無理はさせないと約束したのにそれをされた。本当に俺が何をしたって言うんだ!!
「ユリス……」
「えっ……ちょ……」
引いて駄目だと分かったからかレギオンが布団の中に潜り込んできやがった。俺と布団の間にレギオンは身体を滑り込ませてきて、俺の背中に覆いかぶさってくる。昨日の事があるから反射的に恐怖で身体が震える。
「本当にすまない……ユリス、許してくれ……」
後ろから俺の肩口にレギオンは顔を埋める。お腹に腕が回ってきて、優しく抱きかかえられる。冷たい水で肩が濡れた。レギオンの身体が小刻みに震えており、声も弱々しくなっていく。
「……なんで泣いているんですか?」
「ユリスに嫌われたら生きていけない、なんでもするから許してほしい……」
お、重すぎる……体重も感情も。
いや、今なんでもするって言ったよな。だったらこのクソみたいな週末セックスを終わらせることが出来るんじゃないか?
「じゃあもう俺とセックスしないでください」
「……嫌だ」
駄々をこねられた。こんなのキャラ崩壊だろ。
「ユリスの事を本当に愛しているんだ。両想いになったことが嬉しくて、お前のためならなんでも出来る。でも時々この幸せが夢なんじゃないかと不安になる。
でもそんな不満も毎週ユリスが来てくれると消えてくれる。繋がってくれていると愛されていると感じる。1週間に一度でも我慢しているんだ。これがなくなったら可愛いユリスにもっと酷いことをしてしまうかもしれない」
……それは嫌すぎるな。正直俺も性欲のある男である。相手に不満があるだけで気持ちの良いこと自体は好きだ。
監禁とか流血沙汰の暴力に比べれば全然マシである。前世の記憶的にはレギオンは束縛監禁、最悪の場合相手を殺して遺体を自分の傍に置くタイプのヤンデレだ。
……うん、嫌すぎる。人権のあるセックスの方がマシでは?
俺は首を捻ってレギオンを見る。頭を上げたレギオンと目が合うと、昨日の迫りくる恐怖とか羞恥心とか、言葉に出来ない感情が一気に昇り詰めて涙を流してしまった。
泣いている俺を見てレギオンの表情が恐怖で固まる。
「すまない……! 本当にすまないユリス……!」
より一層……俺よりポロポロ涙を流し始めたレギオンは、ポケットからハンカチを取り出して俺の目元に押し当ててくれる。自分の方が泣いているというのに……俺の目元にハンカチを押し当てる手は震えていた。
気遣ってくれるのは嬉しいと感じると同時にゲームのバッドエンドを思い出す。大好きで大好きでたまらない相手……そんな相手に嫌われ、拒絶され続けた後のレギオンの行動を……
…
……。
自分にとって何が一番嫌か考え、俺は下唇を噛んで決断した。
「……分かりました。許します」
「ユリス……! 本当かい!? その…また来週も部屋に来てくれるかい?」
「……行きます。でも次からは絶対に約束を守ってください。……守ってくれなかったら俺はレギオン兄様に愛されていないと判断して死にます」
「……っ!! わ、分かった……絶対にもうしないと誓おう」
まあ本音を言えば死ぬ度胸なんてないけど、俺も本当に腹が立っているのでこれくらい許してくれ。レギオンは相手を殺してでも傍に置くタイプだが、それはあくまでも最後の手段であって両想い関係を壊すのは絶対に嫌だろう。今の言葉はかなり心に刺さったはずだ。
最後に一度だけぎゅっと抱かれ、レギオンが布団から出ていく。仕事に向かうようだ。俺ももう拗ねて引きこもっているわけにもいかないので布団をどけて上半身を起こす。
レギオンは俺と目が合うと、口を開いた。
「ユリス……」
「なんでしょう?」
「ずっと傍にいてくれ……」
蚊の鳴くような小さな声だった。それだけ言うと、レギオンは振り返って部屋から出ていってしまった。
はぁ……やれやれ、世話の焼ける兄様である。
とりあえず腰と尻がマジで痛い俺はその場で大の字になって寝ころんだ。
――――――――――――――――――
ユリスが媚薬を盛られる話(完)
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