人外のご主人様に買われましたが毎晩愛されて幸せです【完結】

ノノノ @3/28新作投稿

文字の大きさ
10 / 11

第10話:君でしか満たされない(クロード視点)

 
 目の前に白濁色の液体がたっぷり注がれた大きな皿と、小瓶に閉じ込められたピンク色のエネルギーの塊がある。液体から発せられる匂いが、肺の中でまとわりついて気持ち悪い。
 昔はこの瞬間がとても高揚したものだった。1日で1番の楽しみであった。そうだったなんて今では信じられない。

 飲みたくないが飲まなくてはならない複雑な気持ちを表すように、添えられたスプーンを指で撫でていた。

「……クロード様、お召し上がりください」

 傍に立つポチが言う。
 目の前にあるこれは、私が夢の中でシオンと会っていた時に彼が採取してきたものだ。相変わらず仕事が早い。数人分の顔も忘れた男の新鮮な精液だ。

 私の……食事だ。

 私は腕から1本の触手を伸ばし、皿の中の精液のスープに潜らせる。触手で飲むのも口から飲むのも大して変わらないが、この口にはシオンの柔らかい肌とシオンから発せられる温かい精以外は触れたくなかった。

 触手からスープを一口飲み込み、腕から喉へ伝う度に、気持ち悪さで顔をしかめてしまう。

 不味い。
 非常に不快感を催す味だ。

 胃の中でねっとりまとわりつく不快感が、少しずつ溜まっていく。気持ち悪さで今しがた飲んだものを全て吐いてしまいたくなる。以前は喜んですぐに飲み干していたというのに、今では完全に身体が拒否反応を示していた。
 あの子に……シオンに惹かれ始めた時から、彼のもの以外受け入れられなくなってしまった。

「……ご馳走様」

「クロード様……半分も飲んでおられぬではないですか……」

 ポチが静かに呟く。
 皿を見ると、確かに半分ほどしか減っていなかった。たいした量ではないはずなのに、食が進まない。

「シオン以外、胃が受け付けないんだ……」

「クロード様、いくらシオン様がご成長なされても食べる総量を減らされては飢餓状態のままですよ。使用人に分け与える力を失くすとか、何か対処しなければ貴方は本当に倒れてしまう。そうなればシオン様はこの世界では生きていけません」

「……分かっている。すまない、もう少し頂こう」

 皿の近くに置いてあるエネルギーが詰まった小瓶に手を伸ばし、目の前で蓋を開けた。隙間からふわりと溢れ出すその生命エネルギーを吸い込んだ途端、あまりの気持ち悪さで咽せてしまった。

「ウッ……! ゲホッ……ゲホッ……」

 咳で広がってしまったエネルギーを魔力を使って一箇所にまとめ、触手を使って一口で食う。皿に入れた触手からもさらにスープを吸い上げる。喉の奥で不快感がウネウネと蠢いて暴れる感覚に、強い吐き気を催す。

 額に汗が滲み出て、眩暈がする。
 それでもシオンの笑顔を思い浮かべながら、あらゆる衝動を抑えて無理やり飲み込んだ。

「……クロード様、やっぱりもう下げましょう。シオン様のおかげでいつもより栄養を摂取できているみたいですしね」

 見かねたポチの触手が皿を取り上げた。
 皿に僅かに残ったスープが水音をたてて揺れる。

「シオン様が『至高』まで成長なされば、シオン様だけで足りるでしょう。それまでの辛抱です」

「ああ、分かっている。あの子の成長が楽しみだよ」

 気分は最悪だが、少しだけ力が湧き上がる感覚がする。あんな不味い精液でも夢魔には生きる上で必要不可欠な栄養源なのだと感じた。それがなんだか嫌だった。

「はぁ……勿体無いですぅ……」

 ポチが取り上げた食器を回収に来た使用人が、皿に残った僅かなスープを見てぽつりと呟く。顔のない可愛らしい蝙蝠の姿に変身しているが、私と同じ夢魔だ。と言っても、私とは天と地ほどの力の差があるが。

「飲みたければ飲め。どうせ捨てるものだ」

「えー、クロード様、ここ数ヶ月食が細いですねぇ。『至高の珍味』様ってそんなに素晴らしい味なんですか?」

「おい、シオンと呼べ。偶然通りかかったシオンがその呼び名を聞いたらどうする」

「大丈夫じゃないですかぁ? 今日うっかり『至高の珍味』様をそう呼んじゃいましたけど、そんなに気にしている様子でもなかったですよ」

 蝙蝠は全く悪びれた様子もなくヘラヘラ笑う。どこからか口が出現し、皿に残ったスープを美味しそうにペロペロ舐めている。

「……そうか、お前だったのか」

 胸の奥から強い怒りが湧き上がり、頭が沸騰しそうになる。殺気を込めた目を蝙蝠に向けると、それを感じたポチの前足がピクリと動く。だが無我夢中で皿を舐めている蝙蝠は、私の怒りに気づこうともしない。

「んー美味しー! それよりクロード様、私も『至高の珍味』様の精液舐めてみたいです。今度味見しても良いですかぁ?」

「……ポチ」

「はい、クロード様」

 ようやく私の様子がおかしい事に気が付いた蝙蝠は困惑したように口を開けたが、それも一瞬で消えた。

 黒い粘膜の塊が一瞬で蝙蝠の全身を絡め取り、バキッという骨が砕ける大きな音を立てて全身を押しつぶす。全身の骨を一瞬で砕かれた蝙蝠は叫び声を上げる間もなく絶命し、身体から真っ赤な血を垂れ流しながら粘膜の中へ吸い込まれていった。

 うようよと蠢く粘膜の塊の中から、蝙蝠をさらに細かくガリ……ゴリ……と噛み砕く咀嚼音が響く。
 私はそんな蝙蝠の様子に目もくれず、またカーペットを敷き直し、きっちり消臭しなければと考えていた。ここはシオンが食事をする食堂でもある。美味しい食事の最中に血の匂いで不快な思いをさせては可哀想だ。

「骨と皮ばかりで非常に美味しくないです」

 不定形の粘膜の塊からいつもの犬の姿に戻ったポチが文句を言う。

「すまない。まずい食事を食わされる不快感は知っているというのに……」

「まあ私は生理的に受け付けないとかではないので平気です」

 蝙蝠を食らう直前で奪い取っていた食器を触手に乗せ、舌をぺろりと動かした。そしてポチは何かを思い出したかのようにハッとする。

「ところでクロード様、本日新しい媚薬を仕入れました。今まで使っていたものより強力らしいです。明日のシオン様の食事に……」

「そうか、明日にでも地下牢のたちで試してみよう。そうそう、シオンの食事だが媚薬を入れるのはもう夕食だけで良い。半日以上も射精を我慢させるのは可哀想だ」

「しかしクロード様……媚薬で長く我慢させた方が精は熟成され、濃度も量も増します」

「十分濃いかったから問題ない。量も極端には減らないだろう。ああ、それとどうやらいらぬ悩みを抱えさせている。知能を下げる薬の量を少し増やし……いや、下げ過ぎると人格を変えてしまうかもしれない。慎重に行動しなければ……」

「クロード様……!」

 珍しくポチが大声で私の名を叫ぶ。僅かに前足が震えるその様子は何かを恐れ、我慢しているようだった。

「恐れながら私の意見を申し上げます……!!」

 しばらくの沈黙の後、意を決したポチは声を上げる。私は彼に頷き、静かに耳を傾ける。正直、何を言われるか予想出来ていた。

「シオン様の食事に、許容量を超える媚薬と知能を下げる薬を一度に大量に投薬しましょう。そうすればシオン様は快楽を得る事しか考えられなくなる。『至高の珍味』への成長に正常な精神は必要ありません」

「……」

「射精できないように陰茎をきつく縛り、他の同様、地下牢に閉じ込めて一日中触手で刺激を与えれば、摂取できる精液の量もかなり増えます。使用人に力を分け与える理由もなくなります。1週間もすればクロード様は、今の強い飢餓状態から解放される」

「……分かった、もういい」

「しかしクロード様……!」

「ポチ!! それ以上シオンをすることはお前でも許さない!!」

 我慢するべきだと分かっているのに全身から魔力があふれ出し、全身の体毛が逆立つ。放たれた魔力余波で机や椅子がガタガタと揺れ、ポチが持っていた皿も床に落ちてパキンと音を立てて割れた。

 目の前が強い怒りで真っ赤に染まり、息遣いも荒くなる。
 目線の先ではポチは俯きながら静かに震えていた。正直こう言われることは分かっていた。分かった上でポチに発言を許可したというのに、ポチ以外の部下なら問答無用でその身を切り裂いていただろう。

「大変……申し訳ございません……」

 ポチが震えた声で首を垂らす。
 ……落ち着け。ポチも私が怒る事を分かった上で、それでも言わずにはいられなかったのだ。私は目を閉じて深呼吸をする。今は感情的な行動をとるべきではない。

「……分かっている、悪魔にとって人間は所詮慰みの道具、もしくは食料だ。それ以上でもそれ以下でもない。私もシオンに会うまではそうだったから」

「クロード様……それでも私は心配です。私はシオン様より、クロード様の方が大切なのです」

「ありがとう。怒ってすまない……」

私はポチの背中を撫でる。
ポチはもう震えてはいなかったが、暗い表情でうつむいたままだった。


感想 0

あなたにおすすめの小説

俺は触手の巣でママをしている!〜卵をいっぱい産んじゃうよ!〜

ミクリ21
BL
触手の巣で、触手達の卵を産卵する青年の話。

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

【BL】魔王様の部下なんだけどそろそろ辞めたい

のらねことすていぬ
BL
悪魔のレヴィスは魔王様の小姓をしている。魔王様に人間を攫ってきて閨の相手として捧げるのも、小姓の重要な役目だ。だけどいつからかレヴィスは魔王様に恋をしてしまい、その役目が辛くなってきてしまった。耐えられないと思ったある日、小姓を辞めさせてほしいと魔王様に言うけれど……?<魔王×小姓の悪魔>

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。