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最終話:歪んだ愛情だとしても(クロード視点)
夢魔は人間の精を啜って生きる下位の悪魔だ。
だが稀に、突然変異で強力な夢魔が生まれる。その突然変異の男の夢魔は『キング・インキュバス』と呼ばれ、上級悪魔に匹敵する力を有する。それが私だ。
だが夢魔の王は良い事ばかりではない。他の夢魔は数日に1度、1人の人間を搾り尽くせば腹を満たせるのに対し、王と呼ばれる私は1日に数人分の人間の精を喰らわなければ腹を満たせない。多い時では1日に10人喰らったこともある。
それを今まで気にしたことはなかった。性行為は気持ちよく、食事も美味かったので何も苦ではなかった。ただ毎回人間を調達するのが面倒で、自分専用の相性の良い身体と上質な精を持つ人間を買おうと決めたのだ。
100年に1度の確率で会えるという最高の相性の貴重な存在……その存在をゆっくり成長させ、熟成させた極上の精液である『至高の珍味』に興味があったという理由も大きい。
すぐに会えるものではないのでまずは10人ほど良さそうな人間を買い、シオンも存在を知らない地下牢に閉じ込めた。
催淫術で強制的に興奮状態を維持させ、媚薬効果のある体液を分泌させた触手で前立腺を激しく刺激し快楽漬けにした。前も後ろも休む暇も与えず触手で弄び、強い快楽で気を失っても何度も精液を搾り続けた。
そして数えきれないほど足を運んだあの日のオークションで、シオンを見つけた。
遠い観客席にも届く旨そうな香りに、私の芯も熱くなったものだ。すぐに彼が、『至高の珍味』になれる人間だと気付いた。私は相場よりかなり高い値を払って彼を買った。
貴重な存在だから、細心の注意を払って彼に接した。警戒心を解くため、まずは城に居る者全てに変身を維持出来る力を分け与えて、人間好みの可愛らしい姿に変身させた。
見張りとして側近のポチにシオンの世話をさせ、心を開くようになるまで待った。その方がただ薬漬けするより感度が良く、余計な雑味もない上質な精液を吐き出すからだ。
普通の人間にはそんな手間をかけないが、彼は至高だ。味に妥協するのは勿体ない。だからゆっくり時間をかけて……夢の中でする味見もじっくりほぐして優しくした。
だが、いつからだろうか。
私の気持ちが徐々に変化していった。
毎日向けられる無垢で可愛らしい笑顔、私の単純な言葉にも嬉しそうに飛び跳ねるその仕草、慣れない快楽を私の為と逃げずに必死に耐える姿、限界を迎えても求めれば応えてくれる献身的な姿。
いつしか私はシオンを食料としてでなく、1人の愛おしい存在として見るようになった。
心が開いたら早々に挿れてやろうと思っていたのに、細い腹に触れてはまた今度で良い……物足りなくても蕩けて痙攣している彼の姿を見ては、どうせ明日も触れられる……そう自分に言い聞かせて自ら手を引いた。
今まで……いや、今でもシオンの知らぬところで数えきれないほどの人間を犯しているのに、シオンにだけはそれが出来なかった。
ああ、私はシオンを心から愛しているのだ。食料でなく人間として、大切に育てたいと思ってしまった。
だがそう気付いた時には、もう彼は後戻りが出来ないほど、その身体は私専用に変化していた。
中枢神経を狂わせて味覚をおかしくする調味料、身体を私好みに変化させる食材、催淫効果のある香、余計な疑問を持たせぬよう知能を下げる薬品。最初に私が指示したあらゆる要因が、シオンの身体も人間性もゆっくりと狂わせていった。
強い罪悪感にさらされながらも、彼を手放す選択肢はなかった。
身体の変化も今更止めてもどうにもならない。もう後戻りができないなら、完全に変化させた方が彼の負担は少ないはずだ。
私は私の罪で狂わされた愛し子を、最後まで責任を取って彼が満足できるまで愛すると心に誓った。
―――――――――
眠る前にシオンの顔が見たくなって、音を立てないように扉を開いた。
シオンは穏やかな寝息を立てて眠っている。泣き腫らした目元が少々赤い。今日はいつもより無理をさせてしまった。それでも、頑張って受け入れてくれたのは本当に嬉しかった。
だが旦那になる者なら、甲斐性が必要だ。もっとしっかりしなくては。君に心配や悩みなどかけさせないように、せめて心だけは君の理想になれるようにならなければ。
「クロード様……」
愛し子が寝言で私の名を呼んでいる。それだけなのに、さっきまで抱えていた不快感が解けていく感じがした。
乱れた髪の毛を整えてやろうと手を伸ばしたが、彼に触れる瞬間咄嗟に動きを止めてしまった。自分の手のひら……そして部屋に置かれている鏡に映る自分の姿を見る。
馬のような形の頭部、腫れ上がっているかのようなぶくぶくした腕には無数の触手が巻きつき、呼吸のたびに僅かに蠢く。背中から蝙蝠のような翼を生やした私の姿は2メートルを軽く越えている。
本当の私は夢の中のクロードとは似ても似つかない全く別の姿をしているのだ。
夢魔は、人間が眠っている時にその精を搾り取り、時には強姦を行い自分の子孫を孕ませる悪魔だ。私たち夢魔はそれを効率よく行うため、性交したくてたまらなくさせるために、襲われる人間の理想の姿をして夢に現れる。だが実際には、醜い化け物と言われている。
醜いと言っても、魔界に住む住民にとっては普通なのだが、人間にとってはおぞましい姿だろう。事実シオンは昔、オークション会場に居た者たちを恐れていた。
私の本当の姿は受け入れ難いだろう。
シオンはクロードを理想の姿をした主人だと信じている。催淫術を使った影響も大きいが、彼が私に悦んで足を開いてくれるのも、あの姿だからという理由も大きいだろう。
飢餓状態に加え、他の者たちに変身を維持できる魔力を分け与えているため、自分が変身するだけの力も残っていない。実際に毎晩自分を抱いている者がこんな醜い化け物だと知ったら、きっと酷くショックを受けてしまう。
寂しい思いをさせるのは心苦しい。
だが、こんな姿では君に会えない……会えないんだ。
「クロード様……会いたい……」
「ごめんね。でも、ここに居るよ」
シオンの理想とはほど遠い膨れ上がった手で、優しく撫でてやると、彼はかすかに笑った気がした。
強いエネルギーを必要とする私に合わせて、君の身体は今なお少しずつ変化していっている。一度に排出される精液の量は成人男性より多く、卵子すら破壊するほど高濃度で生命力も強い。
下がった知性と強い性欲は、日常生活にも支障をきたすだろう。中枢神経をも狂わせる日々の食事の影響で、人間界の普通の食事にも満足出来ないだろう。
シオン、もう君は私の手から逃れようと人間界で普通に生活する事は出来ない。そう君の身体を作り変えた。後戻りができないほどに深く、時間をかけてゆっくり私に合わせて侵食させた。
全て私のせいだ、私が責任を取ろう。
人間にとっては歪んだ愛情だとしても、私は君を心から愛している。
君に私が必要なように、私にも君が必要なのだ。
―――――――――
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