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第2部
第9話:命の取引③
しおりを挟む【side:ディア】
―――――――――
最悪な一日だ。頼まれて観光に来た国でトラブルに巻き込まれた。
主の友人に頼まれ、本当は来たくもない国に来させられた。
私には主の決定したことに反対するつもりはないし、それでトラブルが起きようとかまわない。だが、全ての元凶が目の前の男なのだとしたら話は別だ。
「君が私の被造物であればこうする必要も無かったのですが、本当にすみませんね」
「黙れ、何故貴様がこんな事をする…」
目の前の白い男…ハルと呼ばれている人間もどきを睨みつける。
先程の魔法で疑惑が確信に変わった。
私はこいつの正体を知っている。
魂が人間のように見えるのも、何かしらの細工をしているに違いない。
だからこそ、何故こんなことをするのか分からなかった。
「恩を作る予定でしたのに、魔力を抑えた君が彼を無効化するなんて計画がズレました。ああでも、この方法でも良いですね」
「寄るな、自分の身体は自分で修復可能だ」
「それには悪魔の力を開放する必要があるでしょう? あの様子だとすぐ国から出られませんよ。それとも、お勧めはしませんがこの国の病院を利用しますか? それに私は君の主に治療を任されました。君は自身の主のご意思を無下にするつもりで?」
「…さっさとしろ」
正直立っているのも辛い状態だ。呼吸もしづらく、このまま真っすぐ国を出るにしても主の肩を借りる必要がありそうだ。もし人間の中に、私を病院に連れていこうとするものが居たらそれこそ大変だ。
魔力を抑えて悪魔だと感づかれないようにしているが、擬態はしていないので身体は悪魔のままだ。身体を直接検査されれば流石に隠しきれない。
観念して肩の力を抜くと、奴の手のひらに魔力が集まる。
ほんの数秒掲げられただけで、全身の痛みがきれいさっぱり消えてしまった。
「痛みはないですか」
涼しげな顔で聞いてくるが、骨が折れるほどの重症は普通の治癒魔法ではこうも早くは治らない。こいつがいかに手に負えない相手か嫌でも理解させられる。
「君たちは私に借りが出来ました。つまり私に恩返しをする必要がある。『借りは返すもの』、そうルキ君も言ってるからね」
「いや、何言ってんのこの白髪。どうせ元凶は君じゃん」
話の途中でやつれた顔をした主が戻ってきた。
広場の方を見ると、今日の商売はお開きになったようで、集まっていた人々も家に戻っているようだ。まだ買い取り手が決まっていない悪魔たちは無理やりトラックに戻され、先程の異形の悪魔も回収され荷台に放り投げられていた。
一部スタッフはステージや割れた床の片づけなど行っている。
「アカツキ、もう話は終わったのですか?」
「うん。とりあえずすごく謝罪されたし喫茶店の飲食代もおごってもらえた。あとクレーム言いまくったおかげで良いホテルも紹介されたぞ! 喜べディア、今日のホテルはスイートルームだ!」
主は疲れた顔をしておられるが、どこか誇らしげにチケットのような2枚の紙をヒラヒラと振って見せつけてきた。どうやら1枚で2名まで利用できる宿泊チケットらしい。
この隣にいる男の分まで貰う必要なんてなかったというのに主は律儀である。
「貸し借りとか知るか。正直ハルさんが居なくても、相手が悪魔なら僕1人でもなんとかなったさ。傷の治療は感謝するけど“国に同行”と“さっきのおじさんとの対応”でチャラだチャラ」
「それは困りましたね、君たちにどうしても頼みたい事があるのです。また別の案を考えなくては」
「…アカツキ、すみません」
私は主の横から一歩前に出て、男を睨みつけた。
目を閉じて息を整えると、少しだけ怒りが遠のき冷静になれた気がした。
「取引だ。貴様の頼みを聞いてやる。だから二度と主を巻き込まないでほしい」
「ディア! なんで? こんなよく分からない人のお願いを聞く必要はないよ!!」
慌てて私の腕を掴んで止めようとする主に『大丈夫ですよ』と笑った。
この男はまだ何かを諦めていないようだ。ならばきっと、また何かをしてくるだろう。
今回の一件は、一歩間違えば主は命を落としていたかもしれない。そして今回の騒動で駄目だったのだから、次はもっと危険な目に合わされる可能性がある。不服ではあったがこれが一番平和で楽な解決策だ。
この解決策がベストなのが歯がゆいが、一番優先すべき事は主の安全だ。
「不躾なことだとは重々承知ですが、この男の頼みを聞いた方が得策かと…この男、私より遥かに強い存在です」
そう言うと、主は目を丸くして驚いていた。
「ディアより強いって本当に?」
「はい、間違いなく」
「ふふっ、破壊や虐殺だけでいえばディア君には負けるだろうけどね」
どうだか、この男が本気を出せば人間界にどれだけ被害が出るか想像もできない。
私が頼みを聞くと言ったからか、見るからに上機嫌になっている。先ほどまでも笑ってはいたが、それらは全て作り物の笑顔だったかと思えるほど本当に嬉しそうだった。
いったい何を頼んでくるのだろう。
「…ずっと変だなと思っていたんだけど、ハルさんは人間じゃないよね? 自分の事を隠す人の言葉は信用できないから頼みも聞けない。せめて何者なのか教えて」
「ああそうだね、では改めて自己紹介をしよう」
警戒した目で睨みつけていることは一切気にせず、深々と一礼して言った。
「私の名前はルシファー。かつて神に最も近いと言われていた天使だよ」
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