闇より深い暗い闇

伊皿子 魚籃

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闇-6

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【どこへ連れて行かれるのかしら…】
 荷馬車に乗せられてから、だんだんツキヨは冷静に考えられるようになってきた。少しでも逃げられる可能性がないか…耳を澄まして場所を探ったりもした。

 しかし、荷馬車に乗せられて以降たまに袋を開けられて猿轡の隙間から水を流し込まれる以外に食事は与えられることはなかった。
やがて空腹で考えることができなくなり、日時の感覚も分らなくなりツキヨはただの荷物になっていた。

 途中、川の音に気がついたが何川なのか、ここがどこなのか…。

 気がつくと荷馬車の幌に雨がぶつかる音がする。
「おい、この地図だとここのゴミの山みたいだな」
「まぁ、違っていても人間ならうまくいけばペットにしてくれるいいやつもいし。運が悪きゃ…それだけだ」
 荷馬車からツキヨ入り袋を担ぎだしてゴミの山に寄りかからせた。
【…ここが終点?】
「よし。じゃあ、お嬢さん元気でな」
「恨むなら、売り飛ばしたあんたのおふくろを恨むんだな」
【あの人は私のお母様じゃないわ!】
 それだけは全力で否定した。
 ガラガラと荷馬車はどこかへいってしまった。
 ここに放置されてからどのくらい経つのか不明だが、ずぶ濡れで寒い。飢え死にではなく凍え死にそうだが、ツキヨはもう泣きたくても涙すら出てこなかった。

「これか?」
「結んでる紐が青いと言っていたからな。開けてみるか」
 紐が解かれて久しぶりに顔を袋から出した。
「げっ。オスのガキが入ってる。若い人間のメスって発注したのに…しかもボロボロ。ボスは人間のメスの肉がご希望なんだ。こんなの持って帰ったらボスにボコボコにされる」
【にんげんのにく?ここはいったい?】
 ツキヨの霞む目には顔に稲妻状の入れ墨がある黒髪で赤い瞳の男と同じ色で入れ墨が蜘蛛の巣状の男の二人組の男がいた。
【え?!なんなのこのひとたち】
「でも、意外と気に入って食うかもよ?」
「少し太らせればデザートくらいにはなるか」
「一応人間だし持って帰ってだめなら俺たち下っ端にも一口くらい食わせてもらえるかもな」
 ツキヨを担ごうとした男がニヤリと笑うと大きな牙が見えた。
【くう?たべるってこと?なに?】

「よぅ。兄ちゃん!なんかいいもん持ってるなぁ。俺にもよぅ、ちーーーーっと見せてくんねぇか?」
 足音も聞こえなかったのに、響くような低い声が聞こえた。
 ツカツカとお構いなしに二人組に近づくと「おう。人間かよ」とツキヨの顔をじっと見た。
「こんなに汚れちまって、可哀想に。可愛い女の子じゃねぇかよ」男の顔をうまく焦点の合わない黒い瞳でぼんやりと見た。
オールバックの長い絹のような銀髪、宝石のような菫色の瞳にツキヨは驚く。首はガッチリとしていて、二人組よりも背が高いようだ。
「おい、おっさん。邪魔しないでくれよ。だいたいおっさん、誰なんだよ。おっさん」
「お、おっさん?!おい!おっさんだと!?俺がおっさんだとぉ?!?!しかも、3回も言いやがった!」
「おっさんにおっさんって言って何が悪いんだよ。おっさん、邪魔だよ。おっさんは早く帰って孫と遊んでなよ」
「おっさん?!てめぇら、何回おっさんって言いやがる!俺は、ナイスミドルだってーんだよ!」
 自称ナイスミドルが大人げなくプリプリと言い返すが稲妻の刺青男が「おっさん、怒ると血圧が上がるぜ。これ以上、邪魔するなよ。な、おっさん」と改めてツキヨを担いだ。
「ナイスミドルだって言ってんだろうぅ!!くっそー!
おめぇのボスっちゅうのはアレか?この子をステーキとかおいしく料理にしてディナーにでもするのかい?」
【え?!】
「おっさん、しつこいなぁ」蜘蛛の巣の刺青男がぼやく。
「うちのボスはおっさんと違ってグルメなんだよ」と、ツキヨを担ぐ男と路地の奥へ歩き始めた。
「うぉーい。てめぇらのボスって、デネブのアホ子爵のことか?」
 二人がぴたりと立ち止った。
「おっさん、あんた孫と遊びたくないようだな」
 ツキヨをどさりと置くと二人組は大きく息を吸う。2人の体の輪郭がズズズとぼやけ始めると、みるみるうちに二頭の巨大な狼になった。
「グゥルルルル…」と鋭い牙を見せつけ二頭の狼は自称ナイスミドルを威嚇をする。
「ったくよぉ。デネブの馬鹿野郎め。やっぱり最近の人間の密輸を仕切っていたのかよ。
どーりで最近、羽振りはいいしお肌がツヤツヤ、髪もフサフサ…何人さらって、売りさばいて、食ったんだぁぁ?!」
 自称ナイスミドルの左手全体に黒い炎がぞろりと纏わりつく。
「闇より生れし、闇。来い」と静かに呼びかけると黒い炎が再びぞろぅりと大きくなると一瞬ですぅっと鞘に入った不思議な剣になった。
 珍しい意匠の鞘からすっと抜くと真っ黒な片刃の剣が出てきたのを合図としてか「来やがれ、子犬ちゃんんん!!」と怒号と巨大な狼の牙が襲いかかってきた。

 ツキヨは「ヒッ!」と小さな声を上げ目をぎゅっと閉じた。
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