闇より深い暗い闇

伊皿子 魚籃

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闇-17

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 席に着いてアレックスとツキヨはティースタンドを二段にするか三段にするか攻防を繰り広げていた。
 ティースタンドの段数で種類は多いのは魅力的ではあるが、きれいなケーキのイラストに悩み続けるツキヨに「ご注文はいかがなさいますか?」びしっとしたウェイターが声をかけてきた。
「あ、少しまっても…」「この、季節のプレートのアフターヌーンティーの三段のセット」「かしこまりました」とすっと音もなくウェイターが厨房へ下がって行った。
「…アレックス様!もう!意地悪!!」
「俺もケーキとか食うから大丈夫だろ。ハハ」
 プリプリと怒るツキヨの顔をアレックスは大人の余裕でも内心ウキウキでかわす。

 店内は貴族や富裕層の客層のせいか笑い声は聞こえても落ち着いている。
 その中、アレックスは美しい立ち居振る舞いで、その長身をグレーのベストとトラウザーズで身を包んでいる。胸元には紺色のスカーフ、ポケットのチーフも同系色で揃えている。
 背も高く、胸板が厚く、本人も着道楽のようなのでで先日の仕立屋とは親しいのだろう。
 そんなことを考えながらアレックスを思わずじっと見つめていた。
「ん?どうした?」
 先にサービスされた紅茶を飲みながら菫色の瞳が静かに目線を返す。
「あ、いえ。ケ、ケーキが楽しみだなと…」
 菫色の瞳が細められ二カッ笑う。
「レオも褒めていたからな。あいつはうまいもんも作るが、うまい店をも詳しいんだ」
「紅茶もいつもと違うのか花の香りもいいですし、味もおいしいです」
「そうかぁ、よかったな!!」
 ポンと大きな手がツキヨの頭の上に乗るが、髪飾りが落ちそうになりツキヨは飾りを手で止めた。
「あ。すまねえ…ちょっとつけてやる…」
 大きな手がサラサラの黒髪を耳横にまとめると髪飾りを挿してとめる…と、アレックスの手がツキヨの耳に触れる…
「よ、よし。ぅうん。これで大丈夫だ。うん」
「すい、すいません。あ、ありがとうございます」

 お互い俯いた。ふんわりと不思議な…温かい空気が2人を包み込む。

 入口の扉がチリンと鈴を鳴らしながら開いた。
「いらっしゃいませ」
「2人だが席は…」
「かしこまりました。ではこちらへご案内いたします」
 ウェイトレスが奥の席へドタドタと歩く2人の男性客を案内をする。
 お洒落なベストとトラウザーズ姿ではあるが乱暴に着席をするも周囲をジロジロと見回す。
 一礼をしてからウェイトレスはカウンター内で作業を始めた。

「俺はスコーンが好きなんだよな。あれだけは譲ってほしいんだ…ドレスと交換条件はどうだ?ククク…」
 奇妙な取引を持ちかけるアレックス。どうみても怪しい取引をするおっさんだ。
「ドレスはもう充分です。スコーンはアレックス様がどうぞ。むしろ、この季節のタルトは絶対譲りませんよ…うふふ」
 お互いニッコリと握手をする。一応の取引は成立したようだ。

 突然、奥の席からドタンと音がする。
「お前ら。殺されたくなければ、金目のもんを全部出せ。女は装飾品全てだ!」
「おら。とっととだせ!」
 先ほどの2人組が立ち上がり長剣を振りかざし怒鳴り声をあげる。
「きゃあ!」と傍にいた女性客が小さな悲鳴をあげると、髭の生えた男が剣を女性客の前に出し「その首の邪魔そうなもんを寄こせ。お前も金を出しな」と顎で女性と一緒の男性客に命じる。

 入口の鈴が鳴る。
 男が1人入ってきたがその手にはナイフが握られている。
「遅くなったな!お前も出せよ、おらぁ」
 新たな仲間は近くの男性客にナイフを突き付け財布を奪うと同席の女性客の首飾りを切り、散らばる宝石を拾い、髪飾りや指輪を乱暴に奪う。
 奥にいた紫色の髪の男はカウンターのウェイトレスに「店の金も出せ」と同じく長剣を喉元に向けて脅す。いつの間にか厨房にいた2人のウェイターと調理人は腕と足を拘束されていた。

「ア、アレックス様…」
 真っ青な顔でツキヨは声を出すが震えている。
「おう、俺がいる、慌てんな。安心しな」
 今にも泣きそうなツキヨの頭を優しく撫でる。

 3人が袋に客や店の金や宝石を入れていく。
 入口寄りの男性客が手から炎のような光を出すが髭の男は「おい、残念だけど魔気では攻撃できねえように魔封じをしてあるからな。財布でも出せよ」とニヤリと笑う。

「魔鬼死魔無君は…」
「あいつはさっきからずっと呑気に昼寝してるぜ。まぁ、気にすんな。安心しろ」
 ニッと菫色の瞳がツキヨにだけ優しく微笑む。

「よう、兄ちゃん。ずいぶん威勢がいいねぇ」
 アレックスが立ち上がり、朗らかに3人に声をかける。
 髭の男が長剣をアレックスに向けながら近づいてきた。
「なんだ、このおっさん。ナマ生意気言ってねぇで財布でもだせよ、おっさんよぅ」
「あっ…」
 禁句に気がついて小さな声を出してしまったツキヨ。
「お、こんなガキとデートかよ。おっさんやるねぇ。しかも、これプラチナか?最高じゃねぇか。腕輪も髪飾りも首飾りも寄こしな!」
 髭の男がツキヨの手首を握り、長剣を突きつけて首飾りや腕輪に手をかけた…「キャッ!」と悲鳴があがる。
「こらぁ!お前てめぇ、汚い手でツキヨに触れて何してんだぁ!おらぁ!俺はおっさんじゃねえ!!!!」
 アレックスの手刀で髭の男の剣を叩き落として、髭面をバシィン!と平手で張り倒す。髭の男はそのままどぅと倒れて呻き声を出して気を失った。
「この野郎!!おっさんは黙ってろぉぉ!!!」
 入口近くにいた男がナイフを握りしめてアレックスに向かってくるが、ナイフどころか接近する前にアレックスの履いている黒い革靴がそのまま顔面にめり込む。
 男は鼻血を出して、そのまま昏倒した。
 アレックスは紫色の髪の男に近づく…が「俺は元兵士だからな。なぁ、おっさんよぉ」と脇を狙い剣を振るが、傍の椅子でアレックスは剣を受け止めて、右足を男の脇腹に叩き込むと壁際まで吹っ飛んで倒れた。
「これが元兵士ならもっと訓練基準を考えねぇとな」と全員ずるずる回収をして外のゴミ捨て場に投げ捨てていた。
 盗られたものや金を取り出して各々に返却する。
 感謝の言葉を述べる人を適当にあしらってアレックスは泣いているウェイトレスに「おう、今度またゆっくり来るからよ、それまでこれで店の中を直せよ。直ったらまた来るから」とドサと財布から出して握らせる。
「あと、俺はスコーンが好きだから、特によろしくな」
「あの、こんなたくさんのお金…お、お返しします。せめてお名前を…」「あぁ。気にすんな。ナイスミドルのこの顔を覚えていてくれよ」と言葉を遮って荷物を持つとやや腰の抜けたツキヨの腰にそっと手を回して足早に店を出た。

 ゴミ捨て場の3人組は警備隊が回収していた。
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