闇より深い暗い闇

伊皿子 魚籃

文字の大きさ
30 / 154

闇-30

しおりを挟む
「ふん、たかが帝国の田舎者風情が。皇帝ならまだしも…ふん。こんな魔物の娘なんて興味もない」
 ジョルジュがツキヨを壊れた馬車から半裸の状態で突き出した。
 詰め込まれたハンカチをアレックスはツキヨから慌てて引っこ抜くとベストしか着ていないことを後悔しながら脱いでツキヨを覆うと王国方面から「お館様ーー!!」と御者が大声でアレックスを呼ぶ。
 馬車が停まるとジョルジュの言葉に何も答えずにアレックスは怯えてボロボロと泣くツキヨを強く抱きしめながら乗り込むと座席下の収納から膝かけを取り出してベストの上にさらに被せた。

「おう。公爵様よぅ。これは修理にでも使えよ」
 アレックスはジョルジュの財布を屋根のなくなった白い馬車へ投げ込んでから御者へ屋敷へ急いで戻るように命じた。

「ツキヨ、怪我はないか?大丈夫か?すまねぇ…俺が…悪い…こんなことに…すまない。悪かった…」
 大判の膝かけでぐるぐる巻きにされたツキヨを再度抱きしめてから確かめるように唇を塞ぎ、離れるとツキヨは最後に一粒大きな涙を流した後に「怖かった…です…でも…きっとアレックス様が来てくれると…信じて…ました…」と少し震える声を誤魔化すように額をアレックスの胸へとん、と押しつけた。
 アレックスは「すまない…」と何度も繰り返しながらツキヨの背中を撫で続け、レオに屋敷の準備を整えるよう言霊を飛ばした。

【後悔ってこういうことか…】

 抱きしめながら後悔と言う言葉を反芻した。

---------------------

 ツキヨを抱えたまま馬車を降りるとアレックスは出迎えたレオとフロリナに言霊で予め伝えていたことが整っているか確認をして足早に2階の自分の私室へ向かった。フロリナもツキヨの着替えを持ち追った。
 御者は事のあらましをレオに伝えてから、タルトが入っているひしゃげた箱とスコーンの袋を渡した。
 
 レオも御者も誰もがツキヨのことに心を痛めていた。

 ツキヨを抱えたまま私室へ飛び込んだアレックスをフロリナは追いかけると「後は俺がやる」とツキヨの着替えを受け取りフロリナを下がらせた。
 長椅子に横抱きにしたまま座ると既にテーブルに飲み物が幾つかありツキヨが好きなリンゴ汁をグラスからそっと飲ます…「だ、大丈夫か?どこか痛むか?」と顔を覗く。
「少し体が…手首が痛みますが大丈夫…です」と少し笑みを見せるがアレックスは抱き締めなおして膝かけに顔を埋めながら「すまない…」と何度も繰り返す。
「怖かったです…でも、アレックス様が…いてくれて…よかったです」
「俺は初めて『後悔』って言葉を理解した。こんな後悔するのは、もう嫌だ。ツキヨ…俺はお前を…何でも…何がなんでも守る…もう嫌だ…」
 ツキヨは自分を包んでいる膝かけが微かに濡れていることに気がついた。
「アレックス様…」
「んぁ!ど、どうした!痛いのか!??」
 がばっと顔をあげたアレックスの菫色の瞳は涙目で赤かった。
「泣かないでください…大丈夫です…いつも信じてますから…」
 目の前の菫色の瞳の瞼に唇で優しく触れた。
「お、俺は泣いてないぞ!ツキヨの勘違いだ!」
 ツキヨの行動に動揺しているのか今度は顔を赤くした。
「ほ、ほら。俺の部屋だけど…浴槽に湯を溜めておいたから…その…ゆっくりしてこい!」
 フロリナから受け取った着替えを持ってそのまま浴室へ問答無用に連れて行く…今度はツキヨが動揺して「ひ、1人で入れます!大丈夫です!」とアワアワと答える。
 脱衣所に着替えなどを置いてからアレックスはそっとツキヨを下した。
 アレックスの私室の脱衣所と浴室はツキヨの使う客間のものより一回りもふた回りも大きくて広い造りになっている。微かにハーブの香りが漂う。
 ちらっと見えた浴槽も部屋の主アレックスに合わせて大きくて子供用のプールくらいはありそうだった。

「なんか…溺れないか心配になってきた」
 ボソリと心配性な言葉が聞こえた。

「溺れません」
「いや…もしかしかたら…溺れて…」
「溺れませんよ!」
「結構深いし…危険だ…」
「普通より大きいくらいなので大丈夫です」
「いや、油断大敵ともいう…滑って溺れる…とか」
「…滑りません」
「心配だ…一緒にはいら…」「入りません!溺れません!」

 ツキヨは心配しすぎているアレックスを

 膝かけやベスト、破れたドレス…思い出すと恐怖が一瞬蘇る半面、ツキヨを助けだした銀髪で菫色の瞳の…狼のような男を思い出す…不思議と恐怖が薄まる…忘れるようにバサッと全て脱いだ。
 浴槽を覗く…湯が白くて底が見えない。最近の流行りだとフロリナが言っていた白い薬湯だった。
 ツキヨはシャワーをざっと浴びて白い湯へ体を沈める…少し腕や脚がチリッとする…あの時、掠って傷になったのかもしれない。フロリナに頼んで傷薬を用意してもらおうと思った。
 大きな浴槽でゆっくり温まると知らぬ間に強張っていた筋肉も解れてきて腕を伸ばしたりしてから湯から上がり、シャワーで髪を濡らし、洗浄粉を手に取って泡だててから髪を洗う…汗をたくさんかいた一日だったせいか清涼感が気持ちいい…短い髪なのですぐに洗い終わりシャワーで泡を流す。
 今度は洗い布にハーブの香りのする石鹸を擦りつけて泡立てて足から洗い始めた…が見えない掠り傷を布で触れてしまい思わず「いっ…」と小声を出した…

「今!声!なんだぁ!!!!何があったんだー!!溺れたかー!緊急!緊急!ツキヨォォォォ!!!!」

 ドカーン!と飛び込んできた。泡だらけのツキヨの両肩を持ち「大丈夫か!意識はあるか!?」とがっくんがっくんとツキヨを揺する…「あ、あの、ア、アレックス様…お、落ち…着いて…あの…無事で…す」といろいろ隠しながらがっくんがっくんと無罪?を主張する。

「あの…」
 アレックスはツキヨの現状を視認して「キャアァアアァァァァァ!」と乙女おっさんが野太い声で叫びながら出て行った。

【私って…】
 いろいろ考えた方がいいかもしれないとツキヨはシャワーで泡を流し終え、再度浴槽へドボンと浸かると小さく溜息をついた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

辺境伯と幼妻の秘め事

睡眠不足
恋愛
 父に虐げられていた23歳下のジュリアを守るため、形だけ娶った辺境伯のニコラス。それから5年近くが経過し、ジュリアは美しい女性に成長した。そんなある日、ニコラスはジュリアから本当の妻にしてほしいと迫られる。  途中まで書いていた話のストックが無くなったので、本来書きたかったヒロインが成長した後の話であるこちらを上げさせてもらいます。 *元の話を読まなくても全く問題ありません。 *15歳で成人となる世界です。 *異世界な上にヒーローは人外の血を引いています。 *なかなか本番にいきません

追放された王女は、冷徹公爵に甘く囲われる

vllam40591
恋愛
第三王女エリシアは、魔力も才覚もない「出来損ない」として、 婚約破棄と同時に国外追放を言い渡された。 王家に不要とされ、すべてを失った彼女を保護したのは、 王家と距離を置く冷徹無比の公爵――ルシアン・ヴァルグレイヴ。 「返すつもりだった。最初は」 そう告げられながら、公爵邸で始まったのは 優しいが自由のない、“保護”という名の生活だった。 外出は許可制。 面会も制限され、 夜ごと注がれるのは、触れない視線と逃げ場のない距離。 一方、エリシアを追放した王家は、 彼女の価値に気づき始め、奪い返そうと動き出す。 ――出来損ないだったはずの王女を、 誰よりも手放せなくなったのは、冷徹公爵だった。 これは、捨てられた王女が 檻ごと選ばれ、甘く囲われていく物語。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...