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闇-69
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マリアンナと娘2人はツキヨのことは忘れて夢と希望の溢れる未来に嬉々としていた。
「これであんたたちはアルフレッド様とニール様のいる公爵家にこのあと伺うだけよ!おほほほ!!!」
『その舞踏会が終わったら…公爵邸へいらしてください。お二人をお待ちしています』
アルフレッドとニールがメリーアンとミリアンにドレスを持参したときの言葉が脳内を支配すると興奮が増す。
「ああ!お母様…決して今生の別れではありませんが愛する家から嫁ぐこの身…幸福の中とはいえ寂しく思いますわ!」
「わたくしはお姉様と…必ずや幸せになりますわぁ!!」
母に縋りつく美しい姉妹にウィリアムは目頭を押さえた。
【あとはツキヨの方から…ふふふ…】
大切な娘を抱き締めるマリアンナの太い腕に力が入った。
***
アリシア王妃とエレナ王太子妃とすっかり打ち解けたツキヨだったが、先ほどツキヨたちと挨拶をした他国の国王夫妻が一旦話が途切れたところでアリシアたちにも声をかけてきた。
「あぁ…また、ゆっくりお話をいたしましょうね。ツキヨ様、よろしくお願いします」
「ツキヨ様、どうぞ私を姉と思って…またこちらへいらしてくださいね」
「はい。また、必ず伺います。王妃陛下も王太子妃殿下も帝国へいらしてくださいませ」
三人の淑女が美しい礼をすると周囲もほぅと溜息をつく。
一瞬、一人になったツキヨに声をかけようとする王族、貴族がいたが光速でアレックスがツキヨの隣に立ち、護衛をするように腰に手を回し、耳元で囁く。
「すっかり仲良しさんで俺はつまらねぇヤローどもと会話ばかりで寂しいぜ…」
こめかみにそっと口づける。
「わた…私は王妃陛下と王太子妃殿下と交流を深めて、この布を披露して…経済交流を行っていただけです!」
「俺とは交流をしてくれないのか?意地悪な皇后陛下だ」
「意地悪なんてしていません。私もアレックス様がいなくて寂しいから王妃陛下たちと交流をしていただけです」
ぷい、と横を向く。
「そうか…あとでお互いに寂しかったのを埋め合わせないといけないかもな…」
「埋め合わせ…は今は関係ありません」
「やっぱり、意地悪皇后だなぁ…」
横を向いた顔をくいっとアレックスの方に向かせると手加減をして額に口づけた。
「も、もう!私、控室でフロリナにお化粧を直してもらいに行ってきます!」
真っ赤になってツキヨはアレックスから離れる。
「…そうか、また直してもらうことになるのになぁ。衛兵もたくさんいるが、気をつけろよ」
「うぅ…分かりました」
アレックスの拘束からなんとか逃れて、ツキヨは皇帝付で一緒にいた近衛兵が後ろについて広間をあとにした。
扉を開けられ、廊下に出ると一息をついている貴族たちの間を抜けて、控室のある棟に続く扉の近くで声をかけられた。
「おほほほほほほ。お久しぶりでございますわね。未来の皇后陛下のツキヨ様」
ツキヨが声の主に振り返ると近衛兵も剣に手をかける。
「あら、剣なんかに手をかけて失礼な!私はこのツキヨ様の継母であるカトレア男爵家の妻のマリアンナ・ドゥ・カトレアですわよ!」
「マ、マリアンナ様…お久しぶりでございます」
未来の皇后陛下が首を垂れるのをみると近衛兵たちも剣から手を離す。
「陛下の姉君たちにもご挨拶をされてもいかがかしら?ほほほ…」
水色と桃色のドレスで着飾ったメリーアンとミリアンにも同じく頭を垂れる。
「あーら。ツキヨ様ってお優しいわぁ…姉としてとても誇らしくて嬉しいわぁ」
「あら、ミリアンったら。誰にでもお優しいからこそ今のお立場があるのよ」
ほほほと笑みを浮かべる。
「お母様とお話ができませんかしら、慈悲深い皇后陛下」
「…は、はい。取り急ぎ、こちらの方が静かかと…」
騒ぎにしてはと思い、控室の並ぶ廊下へ続く扉を開けてもらい、近衛兵たちには下がってもらった。
廊下の途中には美しい庭がよく見えるところに応接用の椅子が置かれた箇所があり、そこへ四人で座った。
癖…習性…なのかツキヨは息苦しさや緊張に包まれていた。
「こぉんな素敵なところをご存じなんてさすが皇后陛下。羨ましい限りですわ、おほほ」
人で賑わっているが、それでも花が咲き誇る美しい庭をマリアンナは眺める。
「あの、ボロを纏って馬の世話をしていたツキヨ様とは信じられないですわぁ!」
「そうですわ!庭いじりも得意でしたから、ここの庭もお手入れされてはいかがかしら?麗しい皇后陛下が泥まみれになるなんて素晴しい詩ができそうよ!」
おほほほ…と声が廊下に響く。
「まさか、皇后陛下になるなんてあの魔物の王をどうやって騙して、誑かしたのかその破廉恥な手腕をお聞きしたいところでございます。継母として尊敬いたしますわ!」
「騙して誑かすなんて…そんなこと…」
俯きながらドレスに纏われた膝をくっと握る。
「そんな娼婦のような胸元の空いたはしたないドレスで誑かせたのかと思うと、悩ましいこと。姉として恥ずかしい」
「そうですわぁ!帝国の魔族の女はそのような娼婦みたいな服を着ているのかと考えるとおぞましいですわぁ!!」
「ましてや、そんな宝飾品なんて魔族故盗品か偽物か高が知れているもの…本物ならば私達は親切だから預かって鑑定をいたしますわ。おほほほほ!」
マリアンナはつんつんと首飾りの真珠の突く。
「そ…それに触れないでいただけませんか…」
震える声で言い返すと「おお。魔族はこわい、こわい」とマリアンナは嘲笑う。
「そういえば、おめでたい事があるのよ!あなたの姉君2人は王国のマリスス公爵家の三男と四男のご兄弟に嫁ぐことが決まったの。皇后陛下の麗しい姉君にお祝いが必要だと思うのだけど、そのお立場から姉君たちに失礼がないお祝いをご用意いただけるかしら…」
扇子を広げ、マリアンナはツキヨの黒い瞳をちらりと見る。
「お祝い…ですか…」
「そうよ!お姉様2人はあのマリスス公爵家へ嫁ぐのよ。恥をかかないお祝いが必要よ!」
「皇后陛下ならぁ…姉に対して、それ相応なお祝いが当たり前ですわぁ!」
2人ともにやり…と笑う。
「明日には公爵家にはいます。皇后陛下にも魔王のベッドで用意のご相談をする都合があると思うのでお待ちしていますよ。おほほほほほほ!」
「まぁ!お母様!破廉恥ですわよぉ!」
ミリアンが頬を赤らめる。
「でも、姉として公爵家へ恥をかかない程のしっかりとしたお祝いをお待ちしてますから。そうしたら、わたくしの詩の一遍として『破廉恥皇后陛下』として歴史に残して差し上げますね」
「お姉様、羨ましいですわぁ!」
「わたくしたちは、2人で愛の詩を紡げばいいのですよ」
おほほほほほ!と三人の笑いが響く。
きぃ…と奥の方の扉が開く音が聞こえ、警戒したマリアンナたちは「それではまた。御機嫌よう、皇后陛下」と淑女の礼…らしきことをして、広間へ戻って行った。
応接椅子で呆けていると「ツキヨ様…」とフロリナが声をかけてきた。
「あ、フ、フロリナ…えっと…あの…」
「お化粧直しいたしましょう。少し、汗で乱れていますわ」
にっこりと怯えるツキヨに笑顔で手を取り控室へ戻った。
【ご安心ください。今の暴言は全て記録していますわ…魔鬼死魔無君…】
控室に入る瞬間、黒い影に記憶した小さな宝珠をさっと渡した。彼はまた進化をしたのか小さなものであれば持てるようになったため、受け取ると大切そうに宝珠を持ちニヤニヤとした目で主の元へずずずと戻った。
***
正直、ツキヨには悪いことをしたと深く反省をしてし過ぎて凹んで涙目になりかけたところでレオに「おいおい…アレックス!」と声をかけられてはっとした。
「今、魔鬼死魔無君が俺に宝珠を持って戻った。これで復讐の用意は完璧だぜ」
「あまり派手なことはするなよ」
ツキヨのいない間にアレックスは不本意ではあるが、アリシア王妃とエレナ王太子妃とダンスを踊ったりをしていたが心ここにあらずだった。
あの脅迫は想定内とはいえ、記録を残すためにツキヨに暴言を聞かせて悲しませた自分を殴りたかった。
アリシアとエレナの顔はもう既に忘れた。
俺の贈ったドレスを身にまとったツキヨに暴言を吐き、俺の贈った首飾りに触れ、娼婦だと嘲笑い…そして悲しませた、苦しませたバカ3匹…地獄を見せてやる。
***
鏡台の前でフロリナの淹れた温かく甘い紅茶を飲むと、ふぅ…と思わず一息ついてしまった。
「ツキヨ様…いかがされまして?」
「あ、いいえ。大丈夫です。少し、人が多いので気が張ってしまって…」
まだ、楽しそうな音楽が奏でられワイワイとした賑わいが広間や庭からも漏れ聞こえる。
「ここで一息ついて、お化粧を直してゆっくり戻りましょう。立つことが多いでしょうし足もお疲れでしょう」
「え、えぇ。そうするわ…」
ツキヨはフロリナにいくらお祝いとはいえ相談をしていいのか…継母に対して怒りを表すアレックスにもなんて話せばいいのか頭を抱えていた。
弱い、勇気がない己を叱りつけた。
今は甘い紅茶だけがツキヨに味方をしている気がした。
フロリナはツキヨの顔に軽く白粉をはたいていた。
「…顔が少しお疲れですね。もし、今日の舞踏会で何かあってもお館様が必ずツキヨ様が困ることを解決いたしますわ…例えばそのお疲れになった足も必ず解決していただけますよ」
【必ず解決を…】
ツキヨはアレックスに解決されるのが当たり前になってはいけないと、少しばかりの勇気を出した。
「ね、ねぇ。フロリナ。た、例えば…あまり普段からお付き合いがない友達や親戚が…け、結婚をすると聞いたら…ど、どうするかしら…?」
フロリナは分かっていた。あの継母たちに対してだけは気の弱いツキヨが相談をしてきたことを。
そして、その女主人が自分に遠回しであっても相談してきたことに心が震えていた。
「そうですね…まずはどうするかは家族に相談をしてお祝金にするか贈り物にするかを決めますね。もし、その親戚が気難しい相手なら尚更ですね」
宝冠をそっとを外して髪を櫛で整える。
「家族だからこそ少しでも相談するべきですわ。あとで問題が大きくなっても大変ですから」
鏡を見ながらフロリナは宝冠をツキヨの黒髪に乗せ、固定をすると鏡の中のツキヨににっこりと微笑んだ。
「これであんたたちはアルフレッド様とニール様のいる公爵家にこのあと伺うだけよ!おほほほ!!!」
『その舞踏会が終わったら…公爵邸へいらしてください。お二人をお待ちしています』
アルフレッドとニールがメリーアンとミリアンにドレスを持参したときの言葉が脳内を支配すると興奮が増す。
「ああ!お母様…決して今生の別れではありませんが愛する家から嫁ぐこの身…幸福の中とはいえ寂しく思いますわ!」
「わたくしはお姉様と…必ずや幸せになりますわぁ!!」
母に縋りつく美しい姉妹にウィリアムは目頭を押さえた。
【あとはツキヨの方から…ふふふ…】
大切な娘を抱き締めるマリアンナの太い腕に力が入った。
***
アリシア王妃とエレナ王太子妃とすっかり打ち解けたツキヨだったが、先ほどツキヨたちと挨拶をした他国の国王夫妻が一旦話が途切れたところでアリシアたちにも声をかけてきた。
「あぁ…また、ゆっくりお話をいたしましょうね。ツキヨ様、よろしくお願いします」
「ツキヨ様、どうぞ私を姉と思って…またこちらへいらしてくださいね」
「はい。また、必ず伺います。王妃陛下も王太子妃殿下も帝国へいらしてくださいませ」
三人の淑女が美しい礼をすると周囲もほぅと溜息をつく。
一瞬、一人になったツキヨに声をかけようとする王族、貴族がいたが光速でアレックスがツキヨの隣に立ち、護衛をするように腰に手を回し、耳元で囁く。
「すっかり仲良しさんで俺はつまらねぇヤローどもと会話ばかりで寂しいぜ…」
こめかみにそっと口づける。
「わた…私は王妃陛下と王太子妃殿下と交流を深めて、この布を披露して…経済交流を行っていただけです!」
「俺とは交流をしてくれないのか?意地悪な皇后陛下だ」
「意地悪なんてしていません。私もアレックス様がいなくて寂しいから王妃陛下たちと交流をしていただけです」
ぷい、と横を向く。
「そうか…あとでお互いに寂しかったのを埋め合わせないといけないかもな…」
「埋め合わせ…は今は関係ありません」
「やっぱり、意地悪皇后だなぁ…」
横を向いた顔をくいっとアレックスの方に向かせると手加減をして額に口づけた。
「も、もう!私、控室でフロリナにお化粧を直してもらいに行ってきます!」
真っ赤になってツキヨはアレックスから離れる。
「…そうか、また直してもらうことになるのになぁ。衛兵もたくさんいるが、気をつけろよ」
「うぅ…分かりました」
アレックスの拘束からなんとか逃れて、ツキヨは皇帝付で一緒にいた近衛兵が後ろについて広間をあとにした。
扉を開けられ、廊下に出ると一息をついている貴族たちの間を抜けて、控室のある棟に続く扉の近くで声をかけられた。
「おほほほほほほ。お久しぶりでございますわね。未来の皇后陛下のツキヨ様」
ツキヨが声の主に振り返ると近衛兵も剣に手をかける。
「あら、剣なんかに手をかけて失礼な!私はこのツキヨ様の継母であるカトレア男爵家の妻のマリアンナ・ドゥ・カトレアですわよ!」
「マ、マリアンナ様…お久しぶりでございます」
未来の皇后陛下が首を垂れるのをみると近衛兵たちも剣から手を離す。
「陛下の姉君たちにもご挨拶をされてもいかがかしら?ほほほ…」
水色と桃色のドレスで着飾ったメリーアンとミリアンにも同じく頭を垂れる。
「あーら。ツキヨ様ってお優しいわぁ…姉としてとても誇らしくて嬉しいわぁ」
「あら、ミリアンったら。誰にでもお優しいからこそ今のお立場があるのよ」
ほほほと笑みを浮かべる。
「お母様とお話ができませんかしら、慈悲深い皇后陛下」
「…は、はい。取り急ぎ、こちらの方が静かかと…」
騒ぎにしてはと思い、控室の並ぶ廊下へ続く扉を開けてもらい、近衛兵たちには下がってもらった。
廊下の途中には美しい庭がよく見えるところに応接用の椅子が置かれた箇所があり、そこへ四人で座った。
癖…習性…なのかツキヨは息苦しさや緊張に包まれていた。
「こぉんな素敵なところをご存じなんてさすが皇后陛下。羨ましい限りですわ、おほほ」
人で賑わっているが、それでも花が咲き誇る美しい庭をマリアンナは眺める。
「あの、ボロを纏って馬の世話をしていたツキヨ様とは信じられないですわぁ!」
「そうですわ!庭いじりも得意でしたから、ここの庭もお手入れされてはいかがかしら?麗しい皇后陛下が泥まみれになるなんて素晴しい詩ができそうよ!」
おほほほ…と声が廊下に響く。
「まさか、皇后陛下になるなんてあの魔物の王をどうやって騙して、誑かしたのかその破廉恥な手腕をお聞きしたいところでございます。継母として尊敬いたしますわ!」
「騙して誑かすなんて…そんなこと…」
俯きながらドレスに纏われた膝をくっと握る。
「そんな娼婦のような胸元の空いたはしたないドレスで誑かせたのかと思うと、悩ましいこと。姉として恥ずかしい」
「そうですわぁ!帝国の魔族の女はそのような娼婦みたいな服を着ているのかと考えるとおぞましいですわぁ!!」
「ましてや、そんな宝飾品なんて魔族故盗品か偽物か高が知れているもの…本物ならば私達は親切だから預かって鑑定をいたしますわ。おほほほほ!」
マリアンナはつんつんと首飾りの真珠の突く。
「そ…それに触れないでいただけませんか…」
震える声で言い返すと「おお。魔族はこわい、こわい」とマリアンナは嘲笑う。
「そういえば、おめでたい事があるのよ!あなたの姉君2人は王国のマリスス公爵家の三男と四男のご兄弟に嫁ぐことが決まったの。皇后陛下の麗しい姉君にお祝いが必要だと思うのだけど、そのお立場から姉君たちに失礼がないお祝いをご用意いただけるかしら…」
扇子を広げ、マリアンナはツキヨの黒い瞳をちらりと見る。
「お祝い…ですか…」
「そうよ!お姉様2人はあのマリスス公爵家へ嫁ぐのよ。恥をかかないお祝いが必要よ!」
「皇后陛下ならぁ…姉に対して、それ相応なお祝いが当たり前ですわぁ!」
2人ともにやり…と笑う。
「明日には公爵家にはいます。皇后陛下にも魔王のベッドで用意のご相談をする都合があると思うのでお待ちしていますよ。おほほほほほほ!」
「まぁ!お母様!破廉恥ですわよぉ!」
ミリアンが頬を赤らめる。
「でも、姉として公爵家へ恥をかかない程のしっかりとしたお祝いをお待ちしてますから。そうしたら、わたくしの詩の一遍として『破廉恥皇后陛下』として歴史に残して差し上げますね」
「お姉様、羨ましいですわぁ!」
「わたくしたちは、2人で愛の詩を紡げばいいのですよ」
おほほほほほ!と三人の笑いが響く。
きぃ…と奥の方の扉が開く音が聞こえ、警戒したマリアンナたちは「それではまた。御機嫌よう、皇后陛下」と淑女の礼…らしきことをして、広間へ戻って行った。
応接椅子で呆けていると「ツキヨ様…」とフロリナが声をかけてきた。
「あ、フ、フロリナ…えっと…あの…」
「お化粧直しいたしましょう。少し、汗で乱れていますわ」
にっこりと怯えるツキヨに笑顔で手を取り控室へ戻った。
【ご安心ください。今の暴言は全て記録していますわ…魔鬼死魔無君…】
控室に入る瞬間、黒い影に記憶した小さな宝珠をさっと渡した。彼はまた進化をしたのか小さなものであれば持てるようになったため、受け取ると大切そうに宝珠を持ちニヤニヤとした目で主の元へずずずと戻った。
***
正直、ツキヨには悪いことをしたと深く反省をしてし過ぎて凹んで涙目になりかけたところでレオに「おいおい…アレックス!」と声をかけられてはっとした。
「今、魔鬼死魔無君が俺に宝珠を持って戻った。これで復讐の用意は完璧だぜ」
「あまり派手なことはするなよ」
ツキヨのいない間にアレックスは不本意ではあるが、アリシア王妃とエレナ王太子妃とダンスを踊ったりをしていたが心ここにあらずだった。
あの脅迫は想定内とはいえ、記録を残すためにツキヨに暴言を聞かせて悲しませた自分を殴りたかった。
アリシアとエレナの顔はもう既に忘れた。
俺の贈ったドレスを身にまとったツキヨに暴言を吐き、俺の贈った首飾りに触れ、娼婦だと嘲笑い…そして悲しませた、苦しませたバカ3匹…地獄を見せてやる。
***
鏡台の前でフロリナの淹れた温かく甘い紅茶を飲むと、ふぅ…と思わず一息ついてしまった。
「ツキヨ様…いかがされまして?」
「あ、いいえ。大丈夫です。少し、人が多いので気が張ってしまって…」
まだ、楽しそうな音楽が奏でられワイワイとした賑わいが広間や庭からも漏れ聞こえる。
「ここで一息ついて、お化粧を直してゆっくり戻りましょう。立つことが多いでしょうし足もお疲れでしょう」
「え、えぇ。そうするわ…」
ツキヨはフロリナにいくらお祝いとはいえ相談をしていいのか…継母に対して怒りを表すアレックスにもなんて話せばいいのか頭を抱えていた。
弱い、勇気がない己を叱りつけた。
今は甘い紅茶だけがツキヨに味方をしている気がした。
フロリナはツキヨの顔に軽く白粉をはたいていた。
「…顔が少しお疲れですね。もし、今日の舞踏会で何かあってもお館様が必ずツキヨ様が困ることを解決いたしますわ…例えばそのお疲れになった足も必ず解決していただけますよ」
【必ず解決を…】
ツキヨはアレックスに解決されるのが当たり前になってはいけないと、少しばかりの勇気を出した。
「ね、ねぇ。フロリナ。た、例えば…あまり普段からお付き合いがない友達や親戚が…け、結婚をすると聞いたら…ど、どうするかしら…?」
フロリナは分かっていた。あの継母たちに対してだけは気の弱いツキヨが相談をしてきたことを。
そして、その女主人が自分に遠回しであっても相談してきたことに心が震えていた。
「そうですね…まずはどうするかは家族に相談をしてお祝金にするか贈り物にするかを決めますね。もし、その親戚が気難しい相手なら尚更ですね」
宝冠をそっとを外して髪を櫛で整える。
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