闇より深い暗い闇

伊皿子 魚籃

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闇-71

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「このたびはこのおめでたい席で…私の父…いえ、国王がとんでもないことをして申し訳ございません!!!」

 騒ぎを聞きつけたユージス王太子とアリシア王妃が現場に近衛兵と一緒にすっ飛んできて、アレックスとツキヨに地に着くほど頭を下げ謝罪をする。
 アリシアも女性として…そして、ツキヨの友として謝罪を述べ頭を垂れる。美しいまとめ髪がはらりと一筋落ちた。

 トルガー国王は空いている控室で近衛兵とレオとフロリナと一緒に隔離されている。
 侍従が服を抱えて着たので恐らく着替えもしているだろう。

「この国の主である王たるものが…おぞましい…なんたることを…王妃として一人の女性として恥ずかしい…アレクサンダー皇帝陛下並びにツキヨ様…申し訳ございません」
 アリシアの顔は泣き顔や憐憫、悲哀の表情ではなく王への怒りに溢れていた。

「アリシア王妃陛下…ユージス王太子殿下…どうか頭を上げてくださいませ。お二人が悪いのではありません」
「あぁ…そうだ。名代としての謝罪はいただくが、トルガー国王から何も謝罪をされていない。我々はそちらを重く思うゆえ、もう二人は頭を下げずにいてほしい」
 ツキヨはアリシアの手を取り、アレックスはユージスの肩を叩いた。

「寛大なお言葉になんて申し上げていいのか…元より酒癖が悪いとはいえこのような…」
「王太子殿下…申し上げます」

 レオがトルガーのいる控室からするりと出てきた。

「今、落ち着かれたトルガー国王陛下に…今までもに少なくとも10代から40代の女性数十人を手篭めにしたり、猥褻なことをされたと

 ここに駆け付けたときから既に青ざめていたユージスとアリシアはさらに顔が青くなった。
 一瞬、アリシアがふらついたがキッと顔をあげ耐えると、また怒りを露わにしてそばにいた侍従、侍女に声を張り上げた。
「あの愚か者の犠牲になった全ての女性たちを調べ上げるよう宰相に伝えなさい!!そして、早急に謝罪とそれによって心身の健康を害することになっていたらそれの保障も早々に行いなさい!!」


「恐れながら…王妃陛下。国王陛下は女性は決して忘れない性分なのか名前を覚えていたため一覧にいたしました」
 レオは上着の内ポケットからきちんと折りたたまれた紙をアリシアに渡した。

 アリシアとユージスは紙を開くと…そこには今夜も来ていると思われる貴族の令嬢や当主夫人の名前がずらりと書き記されていた。恐らくは王に逆らったりできず、泣き寝入りしたものが大半だろう。
「その名前を元に、突然、爵位の没収や遠方へ領地替えや縮小など明らかに意味のない不当な処罰をされた貴族がいないか調べよう…」
 ユージスはぐっと手を握りしめた。

「レオ、トルガー国王の様子はどうだ?」
「今は着替えて酒精抜きの薬草茶を飲んで落ち着いています」
「よし、会おう」
 アレックスはトルガーのいる控室の扉を開けて入るとユージスとアリシアも続いて入り、最後にレオとツキヨが扉の一番近くにそっと立った。



 トルガーは毛足の長い絨毯の敷き詰められた床の上に座り、項垂れていた。
 髪は乱れ、着ていた豪奢な上着は椅子の背もたれにかけられて、アレックスに真っ二つに叩き切られた夜会用の王冠が椅子の座面に大切そうに置かれていた。

 元より『良く言えば気さくな王』と評されたものの姿はそこにはなかった。

「国王…いや、今は王と呼ぶことはできません!私の父として情けない!国中の女性に謝罪をしていただきたい!!!」
「私の女性向けの政策を王も賛同をして、地位向上や女子学校の設立を王として担ってきたのが一番女性を貶めていたとは…」

 今は『妻、息子』として『夫、父』を叱責をする。
 項垂れ、やや饐えた臭いがする『男』は「うぅ…すまない」と消え入りそうな声で謝罪をするが王妃は「謝るべきは私たちではありません!全国民ですわ!!」とガツンと言う。

「ユージスに王位を譲り、すべての人々に謝罪をしたのちに離宮で大人しく隠居生活でもされてはいかがですか?!!」 
 思わず怒りにまかせてアリシアがトルガーへ今後の提案をする。

「ん?おぅ、そうか!国王陛下…この際だから譲ってしまえばいいと思うぜ。あんたはあちこちに謝罪をして修道士になるかでもすればいい。王の器になれないやつなんだよ『気さくなヤツ』とか『優しいヤツ』とかは王とかなれないんだよ。俺が王太子が王になるのに立会人になってやるからよ!」

 つい、話口調がいつものように戻ってしまったがそれすら気がつかないアリシアとユージスはぽかんとしていた。

 アレックスはずかずかと机に近付いて置かれていた、紙にペンでサラサラと書き始めた。

「えーっと…今日の日付と…私はトルガーこくおーが今日、譲位をしますー。だから…王太子がー新しいおーさまになりまーす。よろしくねー。新しいおーさまは帝国のこーてーへーかが立会人でーみとめますー。よし、ここは王太子の名前で…こっちにアレクサンダーこーてーへーか…っと。よし!これで署名をすれば問題ないぞ!俺の立会人署名もあるしな!!」
 ニカニカと自慢気に紙をペロンとユージスに渡すと…口述のままの文章が美しい文字で書かれていた。

【美しい文字の無駄遣い!!】

「よし、これで、しょんべん漏らした親父様を連れて舞踏会の終会のご挨拶をして、これに署名をすれば問題ねぇな!こんなバカなことをしたんだ、このくらいしないと誰にも許されねぇよ。表舞台に立っている姿を見るだけで嫌な気持ちになるご令嬢や淑女が今夜も山ほどいるかもしれねぇんだから、これを最後に裏方にいけよ。あんた、王様に向いてねぇよ。
王太子はべっぴんな奥様大切にして、母ちゃん…王妃陛下と上手くやっていけば問題ない!…たぶん!!!」

 バンバン!と唖然とするユージスの肩を叩く。

 トルガーは俯いて何も反応はなかった。

「こ、皇帝陛下…そんな急に…」
「そんなもんだよ。国なんて。臨機応変っていう言葉を覚えておいたほうがいいぜ。正直、親父様の評判の悪さには困っていたんだろ?それをナァナァであと何年王様やらせんだよ?その間にも女に手を出して、女に金を散在して…そんなことしていたら国民はあっという間にそっぽ向いちまうぜ」
 ユージスに向かって美しい菫色の瞳の片方をパチリと閉じた。睫毛も美しい銀髪だ。

 一瞬、その艶美にドキリとしたのは永遠の秘密にして墓まで持っていこうとユージスは何かに誓った。
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