闇より深い暗い闇

伊皿子 魚籃

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闇-78

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 チュールプ侯爵はモスコス辺境伯と共に今は『反逆者』として城内であっという間に捕縛された。
 私兵たちと同じく項垂れた様子で地下牢へ連れて行かれるとチュールブ侯爵の妻のミハルティも重要参考人として捕えられ女性用の牢へ連行された。

 広間にレオが影移動で戻るとツキヨは無事であることに安心をしたが残りの三人は各々に文句を言い始めたがツキヨの中でこれが「安心」という風景になってしまっていた。

「ふー…まぁいい。レオが少々トロくても俺は優しいから許してやるぜ。ところでアレは?」
「ちっ。お優しい皇帝陛下で有難いことで。あぁ、今はアソコに連れて行って大人しくしていらっしゃるぜ」
「ならいい。あとは適当にいい訳でもしておきゃいいだろ。フロリナは…?」
「こちらも抜かりなく…久し振りとはいえ、歯応えもなさそうでつまらなそうな仕事になりそうですわ」
「フロリナの方で役に立たないようだったら、俺の方で片付けるから問題はねぇな…あとは一度宿に帰って少し休んで本日最後のお仕事だ」
「アレックス様…まだ何かされるのですか?」
 いくら体力が無尽蔵のおっさん…もとい魔人でもツキヨはさすがに心配をした。

「んー…そうだな♪まぁ、心配すんな」
 ニカッとアレックスは笑った。


「アレキサンダー皇帝陛下!」
 ようやく、ある程度まとまったのかユージス国王が騎士団長と一緒に一礼をして現れた。

「このたびは…」「んな、面倒くせえことはいいぜ。また、仲良くやっていきゃいいんだからよ」とユージスの方をポンと叩いた。
「むしろ、庭とかいろいろやっちまったからな…いくら急な戦闘でもさすがにこれは穴をあけた分くらいは帝国からも金を出させてもらうよ…それから…広間の内装ももっとそうだな前王妃様に相談をして修繕をさせてくれよ」
「そんな!王国の窮地を助けていただいた方にそのようなことは…」
「いいんだよ。それよりも最近、帝国の城の専属庭師に良い腕のじいさんが入ってよ…ぜひ仕事をさせてほしいんだよ。ここを天国か楽園かわからねぇくらいの庭にしてやるぜ。
前王妃様もここの内装は多分…好みじゃねぇだろ?この騒ぎで落ち込んでいるはずだから、そういったことで少し気を紛らわしてやったほうがいいぜ。
国王でも家族を大切にしねぇと王国民も大切にできねぇぞ」

「…何からなにまで皇帝陛下には…」
 ユージスは俯いて顔を隠すようにしてアレックスと固い握手を交わした。
「俺は皇帝って柄でもねぇし、こんな風な話し方で悪いけどよ…これからもよろしくな」
「はい!若輩者ですが…よろしくお願いします」
 ズズッとユージスが鼻をすすった音がしたのは聞こえないことにした。

「アレクサンダー皇帝陛下に申し上げます」
 アレックスよりもやや背の低い騎士団長がビシリとした声で様子を見ながら声をかけたきた。

「は。先ほど、チュールプ侯爵とモスコス辺境伯、辺境伯夫人を捕えて侯爵と辺境伯は地下牢へ、夫人は直接的な関わりはないとはいえ重要参考人として女性牢へ連行をいたしました。
現在は侯爵と辺境伯は輸出入禁止物の取引、人身売買、収賄、国家転覆などの容疑になっています。夫人について収賄や輸出入禁止物の売買の容疑ですが…いずれも叩けば埃は山のように積もると思われます。
 前国王の愛妾ナールディアですが現在は私室で軟禁状態ですが、先ほどレアンドロ殿から帝国の薔薇を育てる研究をさせたいとお聞きしました。失礼ながらそれが罰として値するのかと思い…彼女は薔薇を育てるのが趣味でありますので…」
「帝国も多様な薔薇の品種があるが上手く咲かなくてよ…レオが彼女を捕まえたときに魔気が少しあることがわかったから幽閉してそこで魔気を使いつつ研究してもらいてぇな、と。ただ、帝国の薔薇は特殊でねぇ…夜に咲くから毎日ほとんど寝れねぇと思うけどな」
 
 アレックスは少し悪い顔をした。

「なるほど…それは相応しいかもしれませんな…」
 騎士団長は溜息をついた。

 それからユージスらといろいろ話をして、また明日会いに来ると約束をしてアレックスたちは馬車で宿泊先へ戻った。
 
 さすがに高級な宿で城内の騒ぎについて聞き及んでおり舞踏会参加者の部屋の全てにタオルや着替えも多めに置かれ、浴室に薬草の入浴剤、応接間に疲労回復の薬湯やお香などが用意されていた。
 
 ツキヨはフロリナの手伝いで先に浴室へ入り爽やかな香りの入浴剤をいれた湯でしばしの休息をして寝衣にもなる楽な室内着に着替えた。
 幸いなことに月色のドレスは多少の汚れはあるが破れや破損はなく洗えば問題はない状態だった。

 そのまま、ゆったりとした気分でフロリナと応接室へ行くとアレックスは心配そうな顔をしていた。
「ツキヨ…椅子でガツンといったそうだけど腕は痛くねぇか?」
 長椅子に座るアレックスはツキヨが前に立つとそっと利き手の右腕をさすった。浴室から出たばかりで薬草や石鹸の香りが漂う。
「私はいわゆる田舎貴族の娘ですから野山を走り回って育って、普通の貴族の女性よりは力や体力があるので意外と問題はありません。大丈夫です」
「あとから痛くなることもあるから気をつけろよ…無理はするな」
 きゅっとアレックスは抱きしめた。

「お館様…ツキヨ様はだいぶお疲れですので…」
「お。そうだな、こんな騒動に巻き込まれて…せっかくのお披露目が意味不明なものになっちまったしな。変な意味で箔がついたのはいいが…まったくよぉ…俺は風呂に入ってくるから先に寝てろよ。おやすみ…」
「はい、おやすみなさいませ」

 優しい口付けの音が応接室に響くと、ツキヨは大きなベッドのある寝室へ入り、アレックスは鼻歌交じりに浴室へ入った。
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