闇より深い暗い闇

伊皿子 魚籃

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闇-93

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 もそり…とカーテン越しに日差しが入る部屋でツキヨは目を覚ました同時に、ふわふわの枕が筋肉質なものに変わり、柔らかい肌触りの薄掛けが一枚だけだったのに逞しい腕が追加されていた。
 「ぐかー」という『小鳥の囀り』が背後から聞こえると、昨夜宿に戻った後に出かけて行ったアレックスがいつの間にか帰ってきたことにホッとした反面、寝台に入ってきたことに全く気がつかないで眠っていたほど疲れていたのかと驚いた。

 僅かに酒の匂いが残っている様子から王国内の重鎮たちと酒を酌み交わしていたのかと思うと、これからツキヨも皇后としていろいろなお付き合いが増えるのだろうなどと考えながらアレックスの腕に触れた。

 あの戦闘ではたくさんの血が流れて、立場はどうであれ目の前で死者も出た。それなのにアレックスの腕に傷もなく無事でいたと考えるのは自分勝手なものだと自嘲をした。

「んぐぁ…ん???お?おはよう…もう起きたのか?」
 ぐいっと力任せにツキヨの体をアレックスのほうに向かせると額にそっと口付けた。
「お、おはようございます。アレックス様…いつの間に戻ったのかもわからないくらい眠ってしまっていました」
「はは、いいんだよ。あんな一日だったんだ。疲れてグーグー寝ちまうのは仕方がないぜ。でも、疲れはとれたか?どこか痛いところとかあるか?」
 少し眠そうな菫色の瞳が黒い瞳を見つめる。
「いいえ。大丈夫です。今日はまた登城する予定ですし、体に問題はないです」
「そうか、ならいい。ツキヨが無事ならなんでもいい。俺は登城なんてしないでここでツキヨと一緒にゴロゴロしていたいぜ」
 アレックスの唇がツキヨの唇に触れる。
「駄目ですよ!ちゃんとしないと」
 

寝室の扉がトントンと叩かれた。
「おはようございます。お館様、ツキヨ様」
「おう、おはよう」
 アレックスが返事をするとフロリナがにっこりと入ってきた。
「おはようございます。フロリナ」
「はい、おはようございます」
 ペコリと挨拶をして「朝食が届きましたのでお知らせに参りましたが、ダイニングで召し上がりますか。それとも…」と気を使う。
「いや、ダイニングで食べよう。窓が大きくて明るかったし王都の町並みも見えて興味深かったからな」
「私もダイニングがいいです」
「では、そちらにご用意をいたします」
 主の命を受けたフロリナは準備のために退室をした。
「ふーーー!あーーーー、結構寝たな!」
 起き上がると上半身裸のまま腕をあげてのびをする…筋肉がグッと引き締まるのをツキヨはドキリとしながら見てしまった。

「あ!ツキヨが見た!恥ずかしい!!」
 笑いながら乙女のように薄掛けに隠れてしまったがいつもの何気ないやり取りが今は愛おしい。
「そういって、また寝ようとしても駄目ですよ!起きてください!」
 アハハと笑いながらアレックスが薄掛けから菫色の瞳でチラリと覗く…がツキヨが「えい!」と薄掛けを引っ張ると小さく?丸くなったアレックスがいた。

「きゃー!」
「もう!ちゃんと着替えてください!」
「やだー。ツキヨとイチャイチャしたいー」
「駄目です!」
「ケチー。ツキヨのケチー!!」
「子供じゃないのですから、起きてください」
「よし。ツキヨから口付けてくれたら起きてやろう!」
 なぜか慇懃無礼なアレックスだった。
「え…うぅ…はい!」
 一瞬、頬を赤らめたツキヨの表情が好きなアレックスはそれだけでも充分満足だったが、ツキヨはぷるぷるした桃色の唇で恥ずかしそうに引き締まった唇に口付けた。

「もう!起きてくださいね!!!」
 恥ずかしいのを誤魔化すようにツキヨは寝台から急いで逃げ出した。
すぐに離れないとあの逞しい腕に捕まえられて納得するまで抱き締められて、また準備が遅くなるということを何度も経験している。
 ツキヨは自分の着替えが置いてあるドレッシングルームへ逃げた。

「あ!逃げた!ずるいぞ!」
 文句を言いながらアレックスも寝台からのそのそと出ると別の収納にしまわれた着替えを取り出して着替えた。

 ドレッシングルームに衣類を一緒にしまうと着替えだけでイチャイチャしようとするアレックス対策に別々にしまって正解だったとダイニングで準備をしているフロリナはフフフ…と笑った。

 今日は午後から登城をして国王家族たちと昼餐ののち会談を行うが昨日の舞踏会の円卓会議でほとんど内容は決まっているため早々に終わらせてから他の主な主要な地位の者や貴族と挨拶をしてから宿へ戻ることになっていた。

 ツキヨは楽な室内着に着替えるとアレックスと寝室を出て明るい応接室を通り抜けて、もう一つの扉を開けると朝食のいい香りが漂うダイニングへ入った。
 簡易的な台所があり、その場で卵などは好みで焼いてくれ、パンもスープも温かいものが提供される。
 大きな窓の向こうは快晴の空の下に王都の町並みが広がり、遠くには緑に豊かな地平線が見える。
 あれは何か、あの煙は何かとツキヨは初めて見る王都の景色をアレックスやレオ、フロリナ、宿の給仕係に好奇心が趣くままに訊ねては関心をしたり驚いたり笑ったりと、皆で賑やかな朝食の時間を楽しんだ。

 
応接室で食後の紅茶を楽しんでから、午後の登城の準備を始めた。
昼食会に相応しくツキヨは何枚もの薄い菫色の生地がふんわりと重なった裾が少し初々しい印象のドレスに着替え、フロリナが昨夜よりも控え目な化粧をして、落ち着いた意匠の装飾品をつける。
アレックスはベストなど全て黒で統一していたがトレードマークのスカーフとチーフはあの月色の布製だった。

ほんの少し共通点のあるお互いの衣装に思わず笑みが零れた。

 また、裏側の出入り口に馬車を横付けしてもらいアレックスとツキヨ、そして護衛兼おもり兼副官兼秘書としてレオが乗り込んだ。
 フロリナは笑顔で送り出しながらレオを呪ってみた。
【足の小指をカドにぶつけて苦しみますように】

 馬車は国賓のみが利用できる城門に向かって軽快に走りだすとあっという間に城門をくぐり抜け、国賓のみに開かれる玄関前の馬車停まりに到着をするとアレックスのエスコートで馬車からツキヨは優雅に降り立った。
 昨日、国王になったばかりのユージスとエレナ王妃が出迎えると音楽隊たちが歓迎の曲を奏でる。

「皇帝陛下、ツキヨ様…いえ、皇后陛下とお呼びさせてください。ようこそ、エストシテ王城へ。お待ちしておりました」
 ニコニコと嬉しそうにユージスはアレックスとツキヨに握手を交わす。
「お待ちしておりました。今日は天気もいい中で昼餐をご一緒していただけること楽しみしておりました。料理長も腕によりをかけてご用意させていただきましたわ」
 エレナも優しい笑顔で二人を歓迎する。
「お二人の仲睦まじい歓迎にお礼を申し上げます」
 一礼をアレックスがするとその横でツキヨも美しい淑女の礼をする。
「ささ。お二人とも、堅苦しいことは抜きにしてどうぞ昼餐の間へ…」

 笑顔の眩しいユージスの案内で優雅な内装の昼餐の間へ着くと、そこには前王妃のアリシアとユージスの弟王子と妹姫が待っていた。
 昨日の騒ぎの疲れはないのか、清々しい笑顔でアリシアが挨拶をすると少し緊張した面持ちで弟妹が挨拶をした。
 各々、着席をすると明るい昼餐の間はより華々しい雰囲気となり笑い声の絶えない昼餐となった。
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