闇より深い暗い闇

伊皿子 魚籃

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闇-136

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「おっ…ツキヨ、あっち見てみろよ。スコーンの店のやつらがいるぜ」
 アレックスがツキヨを腰に抱いて右に向かせる。
「本当ですね!今夜の晩餐会のデザートも提供していただいているのに…嬉しいです!!」
 楽しそうに手を振るツキヨに店員たちもわぁわぁと手を振り返す。


 ツキヨが手を振っていた頃、その反対側左手後方からドラゴンのようなものが城に向かって来ていることにアレックスたちは気がついていた。
【遠方ですが慣れたものですわ…!!神代の古武器…今、命を吹き返せ…銀の小惑星!!】
 鈍色をした長い円筒形状のものがフロリナの手元に現れると重さをものとせずに肩に担いでドラゴンに向ける。
 大歓声の中、ツキヨはアレックスによって右側で手を振っている。誰が撒いたのか花弁がちらちらと舞う。

 ジャギン……

 細い筒を覗き、まだ遠方で小さな黒い点のようなをフロリナは捉える。
 既に武器には魔気で充填されている……しっかりと右手で握り込んでいる部分の小さな引き金に指をかけてぐっと引く。

【吹っ飛べ!このゴミクソトカゲ野郎がっっ!!!】

 ドォンッ……ィィィィィンッ!!!

 フロリナの『憤怒の塊』が真っ直ぐな軌道を描いて黒い点に襲い掛かる。
 遠方からの攻撃を受けるなどとは一切想定していなかったのか黒い点が一瞬、躊躇をするようにはためく翼を止めて防御体勢をとる……前に一撃で吹っ飛んだ。

 ド…ォォォォォンッ!!!

 跡形もなく煙とバラバラになった血肉が撒き散らされたのと同時にドン!ボン!と露台の正面で赤や青の花火が何発か打ちあがった。
「ふふふ、昼の花火も珍しいし青空にもきれいですね」
 またも歓声が上がり、ツキヨも拍手をして喜ぶとアレックスもそうだろう?とまた腰を抱き締めてこめかみに口付ける。
 【ツキヨが幸せだけを感じさせるためなら、なんでもやるぜ!!】

 その間、フロリナの立つ露台の近くにコソコソと忍び込もうとしている異国の服を着た『男』を見つけたエリはシャッと取り出した紐状の鞭であっという間に絡めとり、そのまま何も言わずウキウキとした良い笑顔で部屋にある衣装部屋に男をズルズルと引きずり込んだ。
【おやつタイムねっ☆】


 ――――しばらくして衣装部屋からエリは戻ってきた。

「あんまりぃ…美味しくなかったわぁん」
 ポツリと感想を述べると艶やかな赤い唇を舐め、まとめた赤い髪を片手で軽く直しながら不満げな顔の美丈夫がつかつかと露台へ戻る。
 それを気にすることなく木の葉たちが入って『男』の回収をして出てくるが、普段顔色を変えることのない彼らだがなぜか終始歩き方が内股で…しょっぱい複雑な顔だった。

 皇帝の人気のお陰なのかあまりにもが多いためビクトリアが露台から降りてそばで警戒をしている…が、あくまでその姿はぴっちりとお仕着せを着た女官や侍女にしか見えない。
 そこへ思っていた通り、新しい客人―――耳と牙を隠している猪の獣人が大柄な身体を屈めてそっと近づいてくる。うまい具合に小さく隠れていると思っているのは本人だけで、ビクトリアにしてみると脱走しようとしているアレックスよりも小さく弱々しい。
 わざとビクトリアは落葉を踏むと歓声の中でもカサリと乾燥した音が響き、猪の獣人はバッと振り向く。
「ちっ…メイドかよ。邪魔だ」
 腰から短剣を抜き出そうと手をかけた。

 シュルルッンッ!!!

 先端に小さな重りのついた革製の長い縄が猪獣人の巨体に蛇のようにまとわりついて四肢を絡めとる。
 帝国民に紛れていたため鎧もつけていない巨体に合わせて革製の縄はギチギチに巻きついて胸や股間も縄に沿って形を無様に晒す。
「くっ…な、なんだ。これはっ!」
「寿ぎの最中の愚か者にお仕置きです」

 ギチィッ!

 ビクトリアの細腕が縄を引く…「グ…ァ」と声にもならない声を残し、四肢や股間など縄が絡みついたところから猪獣人は血を吹き出すとズバァッとバラバラになり露台下で「部品」に成り果てた。
「身体に似合わない大きさね」
 ビクトリアはポロリと転がった血塗れの小さな何かの部品を踏み潰した。

 戻りながら途中で客人をもてなしたビクトリアは、お仕着せに汚れ一つつけずに部屋に戻る。
 ツキヨは幸せそうに微笑み、帝国民に皇后陛下として受け入れられている様子に安堵する。


「うぉーっす!!!アレックスの兄貴ーーっ!!!」
 突如、アレックスの立つ側の一団が声を上げる。
 20人程の狼の獣人たちらしく耳や尻尾をフリフリしながら露台に向かって手を振る。
「おぅっ!お前らも来たのかよ?!!ありがとよー!」
 アレックスも大笑いをしながらそれに応じる。
「兄貴、最近飲みに来ないと思ったらこんな可愛い嫁さん捕まえてズルいっすよー!!」
「俺にも誰か可愛い子を紹介してくださいよーーっ!!」
「兄貴のくせに生意気だー!ばかやろー!」
「リア充死ね…リア充死ね…リア充死ね…リア充死ね…」

 罵詈雑言?を跳ね返すように「当たり前だろう!お前らみたいにアホと飲むよりうちの可愛い可愛い奥様とイチャイチャしているほうが大事なんだよ!」と自慢げに叫び返す。
「まぁ、俺達はここで勝手に飲んでるけどなー」
「うぇーぃ!」
 狼獣人たちは持ち込んだビールの樽から各自ジョッキに注ぎ入れてグビグビと飲む。
「おうおう、勝手に飲んでやがれ!暴れたら渾身の蹴りをケツにブチ込むからな!!」
「勘弁してくださいよー、祝い事なんすからー」
 ゲラゲラと彼らは大笑いをする。

「あー、それはそうと。今日はスーの野郎は来てねえのか?」
「相変わらずあっちでドンパチしてるっすよ!小声で『馬鹿に祝う言葉はないが、奥方には祝福を』とお祝いしてたっすー!!」
「けっ!ご真祖様はケツの穴小せえやつだな!」
「がはは!お祝いの言葉をいっただけでも奇跡だと思ってくださいよー!!」
「おう、確かに明日の天気は雪になるぜ!今度、古い友人のよしみでスーのところにでも顔を出すからよろしく伝えてくれよ!」
「わっかりやしたー!兄貴ーーっ!嫁さん大切にしてくださいよー!」
 ガツーン!と狼獣人たちはジョッキを高々と掲げて乾杯をした。

「あったりまえだろーがっっ!とっとと帰れ!酔っ払いどもめっ!!」
「うぇーーっい!!」
 その場で狼獣人たちはアレックスそっちのけで宴会を始めてしまった。

「あのかたたちは??」
「しっ!見ちゃいけません!あんなの見たらバカになるぞ!」
 ツキヨの目をアレックスは大きな手で覆う。
「まぁ、古い友人の仲間たちだ。今度、そいつらの族長のスーに会いに行くか?ちょいと捻くれてるが、義理堅い良いやつなんだぜ」
「ふふふ、お会いできたら楽しそうですね」
 アレックスの手の目隠しにツキヨはそっと触れて手を優しくどかす。
 いつもより何倍も優しい菫色の瞳が覗き込んでいる。
「おう。約束だ」

 そして、なにもなく露台の上でいきなりツキヨの小さな身体を抱き締めると唇を塞いだ。
 熱く、愛おしさを感じる口づけに今までツキヨの耳に響いていた歓声が消えた。

 魔族の国に歴史上、初めて人間が皇帝に嫁ぎ、帝国民たちからも愛される皇后陛下が誕生した瞬間だった。
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