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第2章 トーキョー編 目指せ! モンスター・ゼロ!
第30話 「2位じゃ駄目なんですか?」
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第30話 「2位じゃ駄目なんですか?」
「ぎゃあっははははははは!!」
もえちゃんが僕の目の前で、腹を抱えて笑い転げていた。
時はアマツ暦、アテナイス108年6月30日。
フライヤとひーりんぐ・えっちをして、スメラギ連合チームとヨミカイ・ジャイアンツの馬鹿試合を観戦した日(第27話~第29話)の翌日である。
この日、エイルと2回目のひーりんぐ・えっちをして、昨日の試合に関する例の新聞記事を読んだ後、以前ドンキで注文していた僕向けの当世具足が届いたので試着していたのだが、その様子を見に来たもえちゃんが、当世具足を身に着けた僕の姿を見るなり、一体何がおかしいのかと思うくらいの勢いで笑い始めたのである。
・・・・・・いや、もえちゃんが笑い始めた理由自体については、僕も概ね察しが付くんだけど。
「もえちゃん、何もそこまで笑うことはないと思うんだけど」
「だ、だってきよたん、その股間に生えてる鷲みたいなのは何よ? あんた、いくら自分のモノが大きいからって、名槍清隆丸を武器にして敵を攻撃する気? ああ、笑い過ぎてお腹痛い」
「いや、この仕様には事情があってね」
僕が試着している当世具足は、基本的に和風の鋼鉄製全身鎧である。ちなみに、和風といっても鎌倉時代のものではなく、ヨーロッパの影響が入った戦国時代のものに近い。
ただし、一般的な当世具足と明らかに違うのは股間の仕様で、僕のモノを収容する部分が尖っており、その先端には鷲の装飾があしらわれている。届けに来た店員さんの説明によると、僕のモノは通常の男性よりかなり大きく、通常の仕様ではどうしても股間が苦しくなってしまうので、職人さんが悩んだ挙げ句股間だけ特別仕様にしたのだという。
今までの装備では大事な股間を守るものが無くて不安があったが、この当世具足なら股間を含め全身を守ってくれるので安心だし、勃起状態でも股間がきつくならないのも有り難いのだが、股間に鷲の装飾をあしらったチ○コケースが生えているような見た目には、僕も正直違和感があった。しかも、鷲の嘴にあたる部分が尖っているため、格闘戦にでもなったら、もえちゃんの言うとおりこの部分で敵を攻撃することも出来そうである。
「きよたん、一体どういう事情があったらそんな鎧になるのよ?」
「知ってのとおり、僕のモノは普通の男性に比べてかなり大きい上に、ほぼ常に勃起した状態になっているから、こういう仕様にでもしないと、鎧の中に僕のモノが収まらないんだって」
「それは分かるけど、いくら何だってそんな鎧はないわって思うわよ。そんな鎧着ていったら、行く先々で笑いものになるんじゃない?」
「そうかなあ? 今までのところ、爆笑したのはもえちゃんだけで、みなみちゃんと瑞穂はちょっと苦笑いして、まあ仕方ないですねって言う程度だったけど。それに、見た目がおかしいからと言って、他にやりようも無かっただろうし」
「まあ、きよたんがそれで良いってんなら良いんじゃない? 行く先々で、俺様の名槍清隆丸はこんなに凄いんだぞって自慢して回って、おちんちんモンスターなんて呼ばれてもあたしは知らないけど」
「その・・・・・・ちょっと良いですか?」
それまで、僕の側で黙って話を聞いていたみなみちゃんが、おずおずと話に入ってきた。
「良いわよ。みなみちゃん、何が言いたいの?」
「もえさんの言いたいことは分かるんですけど、別にこれまでと変わらないような気もするんです。私、先日タマキ先生から聞いたんですけど、きよたかさんはその戦いぶりだけじゃなくて、服の上でも分かる大きさも結構話題になっていて、訓練生の時代から陰で『もっこり君』とか、『トーキョー第一の巨根』とか噂されていたらしいんです。それが、モンスターとの戦いで大活躍して、今では巨根だけが取り柄の子じゃなかったのかって評判になっているらしいんです」
「僕って、そんな風に言われてたの!?」
「ふむ。そうした噂なら我も聞いておるぞ。いまやトーキョー市民で、名槍清隆丸の名を知らぬ者はモグリであるとな」
「瑞穂まで! というか、その名槍清隆丸って名前を広めたの、たぶんタマキ先生だよね!?」
「そうだったんだ。じゃあきよたん、今日からあんたのこと、『もっこりきよたん』って呼んであげようか?」
もえちゃんが、いかにも嬉しそうな様子で、僕をからかってきた。
「それなら、僕は今日からもえちゃんのこと、『トーキョー迷子ちゃん』って呼んであげるね。もえちゃん、昨日も野球場から一人で帰ろうとして迷子になって、夜中に泣きながら警察の人にセンターまで送り届けてもらったってエイルから聞いてるけど」
「きよたん、どさくさに紛れて『トーキョー迷子』を歌うのは止めて!! それにきよたん、他人のことを言える立場なの? あんた、球場からセンターに帰ってくるまで我慢できなくて、球場のすぐ側の林でみなみちゃんやがきんちょとえっちしてたでしょ。おかげで、きよたんたちが帰った後、『球場内及びその周辺での性行為はお控えください』ってアナウンスが流れてたわよ」
「それは、僕じゃなくて瑞穂が我慢できなくなったんだよ! それに、球場外でえっちしてたの僕たちだけじゃないから」
「やっぱりヤッてたのね、このエロたん」
「もえちゃん、他人のこと言える立場じゃないでしょ? 僕とえっちする日以外は、なぜか僕の名前を呼びながら、毎晩周囲がドン引きするくらいのハードオナニーを繰り返してるくせに。瑞穂を見習って、少しは自粛したら?」
「何よ、別にオナニーしてるのはあたしだけじゃないわよ。みなみちゃんも、きよたんが他の女の子とえっちしていると、大体覗き見しながらオナニーしてるんだから、ある意味あたしより趣味悪いわよ」
「私にまで火の粉が飛ぶんですか!?」
こんな感じで不毛な言い争いがしばらく続き、
「・・・・・・もう止めましょ。これ以上続けても、お互いに自爆するだけだわ」
「そうだね。お互いに傷つくだけだし」
こうして停戦合意が成立した頃には、巻き込まれたみなみちゃんや瑞穂を含め、4人とも精神的に疲れ果てていた。
◇◇◇◇◇◇
「そうそう、あたしはこんな言い争いをするために来たんじゃないのよ。危うく用事を忘れるところだったわ」
「何の用事だったの?」
「あのね、明日はゴリンピックの3日目で、武闘大会の種目があるんだけど、訓練生時代にあたしの師匠だったレン・ポウさんが出場するのよ。それで挨拶に行こうと思って」
「レン・ポウさんって、確かエダマメさんパーティーの人だっけ?」
「そうよ。格闘術の腕はトーキョー・シティー随一って言われてるわ」
「それじゃあ、一緒に行こうか。僕も、エダマメさんにはテレポート講習のときお世話になったし。みなみちゃんと瑞穂はどうする?」
「それなら、私も一緒に行きます。特にやることもありませんし」
「ふむ。ならば我も同行するとしよう」
こうして、僕たち4人は、レン・ポウさんのところへ挨拶に行くことになった。
その道中。
「エダマメさんとレン・ポウさんは、トーキョー・シティーで随一の冒険者であると同時に、政治家としても知られているんだよ」
「きよたかさん、冒険者と政治家って兼ねられるんですか?」
「うん。アマツではそう珍しいことでもないらしい。エダマメさんは、リッケン民主党っていう政党の党首で、レン・ポウさんもその政党の幹部なんだって。もっとも、リッケン民主党自体、最近は党勢が振るわないらしいんだけど」
「どうしてですか?」
「リッケン民主党は、かつて『民主党』という名前で、このトーキョー・シティーの政権与党だったんだけど、オーサカ・シティーとの七年戦争で国力を消耗させてしまい、10年前に起きた魔軍の侵攻にも対抗できず服属を余儀なくされてしまい、大幅に支持率を下げてしまったんだって。そして6年前、新興政党『トミンファーストの会』を立ち上げたユーリコ・コイケヤ氏に知事の座を奪われ、都議会でも少数派に転落してしまい、その後2度にわたり政党の名前を変えたけど、党勢回復には至っていないらしい。レン・ポウさんも、かつてはトーキョー・シティーで随一の人気を誇っていたけど、自身の国籍問題で評判を落としてしまったんだって」
「きよたん、国籍問題って何よ? そもそも、アマツに国籍なんてあるの?」
「あるよ。オダ朝が断絶した後、アマツ世界の全土を支配する統一国家は無くなって、現在は主要都市ごとの都市国家群に分かれているんだ。そして、レン・ポウさんは、アマツ世界の西方にあるチュウカ島の出身で、チュウカの国籍とトーキョー国籍の二重国籍状態になっていたんだ」
「きよたん、その二重国籍で何か問題があるの?」
「そこが微妙なところなんだけど、トーキョー・シティーの国籍法では、トーキョー国籍と他の国籍の二重国籍になっている人は、22歳までにどちらかの国籍を選択しなければならないことになっているんだ。もっとも、選択せず二重国籍のままでも罰則は特に無くて、ただ二重国籍で何らかの問題が生じた場合に備えて、トーキョー・シティーの知事は国籍の選択をしない二重国籍者に対し、期間を定めてどちらの国籍を選択するか催告をすることができ、期間内に国籍の選択をしないと、トーキョー国籍を失うということになっている。もっとも、実際に催告が行われたことは無く、いろんな都市を股に掛けて活動している冒険者や商売人などには、二重国籍者も結構いるらしい」
「なんで、そんなややこしい法律になってるのよ?」
「何でも、トーキョー・シティーで現在の国籍法を制定するとき、二重国籍だと何らかの弊害が生じるかも知れないという議論になったので、念のため建前上は二重国籍を認めないという制度にしたんだって。もっとも、実際にはトーキョー国籍と他の国籍との二重国籍でも、今のところ弊害らしい弊害は生じていないので、現在の運用では二重国籍者が現れても事実上放置しているらしい」
「きよたかさん。だったら、レン・ポウさんが二重国籍でも、問題は無いと思うんですけど?」
「みなみちゃん、そこが微妙なところでね。法律家のほとんどは、二重国籍でも特に違法では無いという見解を取っているんだけど、世の中にはレン・ポウさんのことを快く思っていない人たちもいて、その問題が発覚すると、ここぞとばかり『二重国籍は違法だ』と騒ぎ立てたんだ。さらに、国籍問題に関するレン・ポウさんの説明が一貫していなかったこともあり、政治家としての評判が大きく下がっちゃったんだって。今では、チュウカ国籍を抹消して二重国籍は解消されているんだけど、未だに色々言われているらしい。どうやら、背後にはレン・ポウさんの評判を落とそうとする、魔軍の策略があるらしいとも言われているんだけど」
「きよたん、そんな情報を一体どこから仕入れてくるのよ?」
「基本的なことは訓練生時代の講義で習ったし、後は授業で紹介された『現代アマツ社会の基礎知識』を読んだりしてるよ」
「・・・・・・あたし、訓練生のときそんなこと全然教わらなかったし、そもそもレン・ポウさんが政治家やってるなんて、今初めて聞いたんだけど」
「もえちゃんの場合、どうせ説明しても理解できないだろうからと思って、省略されちゃったんだと思うよ。タマキ先生は、訓練生の頭の良さに応じて講義の内容を変える人だから、僕も途中からみなみちゃんや瑞穂とは別メニューになったし」
「そうですね。私や瑞穂ちゃんも、先生の授業を理解できていない様子だと、先生が『分からないことは後できよたんに聞きなさい。あの子なら難しい話でも理解できてるから』で済まされちゃったことがよくありましたから」
みなみちゃんまでそんなことを言い出した。どうやら、頭脳労働の問題に関しては僕に頼りっぱなしにされているようである。
「みなみちゃん。訓練生時代は仕方なかったと思うけど、これからは自分のペースで構わないから、この世界のことも頑張って覚えていってね」
「はい、きよたかさん。でも、レン・ポウさんの二重国籍がどうとかいう話は、きよたかさんの話を聞いても、いまいちよく理解できないんですけど・・・・・・」
「それは法律的な話だから、無理して理解しようとしなくてもいいよ。僕が覚えて欲しいって言ってるのは、あくまでこの世界の常識に関する話」
◇◇◇◇◇◇
そんなことを話しているうち、僕たちはエダマメさんやレン・ポウさんが、トーキョー・シティーにいるときはいつも利用しているという、ホテル『リトル・トーキョー』に到着した。なお、訓練生時代に行った同名のレストランは、このホテルに併設されているものである。
「モエ・カミズルです。レン・ポウ先生、長らくご無沙汰してすみませんでした」
もえちゃんが、年齢の頃30代ないし40代程度と思われる凜とした女性に向かって、彼女にしては珍しく、礼儀正しい口調で挨拶した。
「お久しぶりですね、モエさん。そちらにいる男の子は、モエさんの彼氏くんかな?」
「ち、違います! 誰がこんな奴、彼氏にするかっての! ここにいるきよたんは、一応あたしのいるパーティーのリーダーだから、付いてきてもらっただけです!」
レン・ポウさんの問いに、もえちゃんはムキになって反論した。
「そうなの? でも、同じパーティーの若い男の子と女の子なんだから、普通はえっちなこともしてるんじゃないの?」
「別に、してないわけじゃありませんけど! きよたんはインテリぶって、肝心なところでは意気地無しで、男としては全然気に食わないですけど、見てのとおりおちんちんがとても大きくて、しかも何回発射させても小さくならないから便利使いしてるだけです!」
「モエ君、せっかくパーティーメンバーとして拾ってもらったのに、その言い草はないんじゃないか?」
同じ部屋にいたエダマメさんが口を挟んできた。
「あ、エダマメさんね。こんちわ」
もえちゃんがエダマメさんに挨拶するも、レン・ポウさんに対する挨拶とは態度が全く異なり、明らかに敬意が感じられない。
「もえちゃん、確か訓練生時代にはエダマメさんにもお世話になったんでしょ? さすがにその態度は無いんじゃない?」
「いいんだよ、キヨタカ君。モエ君はこういう子だって分かってるから」
エダマメさんが、僕をそう諭してきた。
この物語も結構話が長くなってきたので事情を整理すると、もえちゃんはセンターでの訓練生時代、武闘家職の先輩であるレン・ポウさんに色々指導してもらったほか、冒険者見習いとしてエダマメさんやレン・ポウさんのパーティーに同行させてもらったこともある。
ただし、もえちゃんはエダマメさんの命令をろくに聞かず、隊商護衛の仕事なのにモンスター相手に単独で突撃して危うく殺されそうになったこともあるため、エダマメさんはうちのパーティーでは面倒を見られないと、結局もえちゃんの加入を断った。
他のパーティーでも同様だったらしく、おかげでもえちゃんは武闘家として十分な実力と才能がありながら、加入するパーティーが見つからないため中々訓練生を卒業できず、僕が訓練生として入ってくる頃には、通常なら1ヶ月程度で卒業するはずの訓練生生活が半年を超えてしまい、しかも訓練生でありながら上級職のモンクにクラスチェンジ済みという異例の事態になっていたのである。
「それより、キヨタカ君からテレポート講習のときに事情を聞かせてもらったが、モエ君をパーティーメンバーとして使いこなせるのは、おそらくキヨタカ君以外にいないと思うぞ。私より、むしろキヨタカ君にもっと敬意を払ったらどうなんだ?」
「エダマメさん、そんなこと分かってるわよ! だから一層気に食わないだけで!」
「エダマメさん、僕ももえちゃんがこういう娘だってことは分かってますから、別に気にしなくても結構です」
「それなら良いが・・・・・・。ところで、後ろにいる女の子たちは?」
「うちのパーティーメンバーです。巫女服を着ているのが、僧侶のミナミ・クリバヤシで、怪しげな黒いドレスを着ていのが、魔術師のミズホ・ヤマナカです。どちらも、僕と同じ日本人の冒険者です」
僕がそう説明すると、エダマメさんはもえちゃんとみなみちゃんを見比べて、
「モエ君、そんなツンケンした態度でいいのか? ウカウカしてると、キヨタカ君のお嫁さんの座は、こっちの可愛い子に取られちゃうぞ?」
「別に、あたしはきよたんの嫁なんて狙ってないわよ!」
「どうして? この前会ったときには、キヨタカさんがあたしに振り向いてくれないって必死に悩んでたのに」
レン・ポウさんが、そんな話を振ってきた。もえちゃんが露骨に動揺する。
「そ、それは・・・・・・。だって、あたしと同じパーティーに、あたしと違って女子力に全振りした、こんなに可愛い女の子がいるのよ? えっちはしてもらえるようになったけど、どう考えたってあたしに勝ち目なんか無いじゃない!」
あ、もえちゃんってそういうことで悩んでたんだ・・・・・・。
「あ! きよたん、今のナシ! 別にあたしは、みなみちゃんと違ってきよたんなんて嫌いだから嫁になんかなりたくないだけで、みなみちゃんと競争しても勝ち目無いから諦めてるとかじゃないんだからね! 勘違いしないでよね!」
「はいはい。そんな話より、今日はレン・ポウさんの応援に来たんじゃないの?」
「あ、そうだったわ! レン・ポウ先生から変な話を振られたせいで、危うく忘れるところだったわ!」
「すみません。僕たち、レン・ポウさんが明日の武闘大会に出場されるという話を聞いて、応援の挨拶に来たはずだったのですが、なんか痴話喧嘩みたいな話になってしまって」
「いいのよ。私も、結構面倒を見ていたモエさんが無事冒険者になれて、キヨタカ君とも無事結ばれて元気そうにしているのを見て安心できたから。ところで、モンクとしてのレベルはいくつになったの?」
「レベル13です」
「モエさん、ずいぶん成長が早いじゃないの! 上級職になってからのレベル13って、1年くらい真面目に冒険者やって、ようやく上がるかどうかってくらいよ。私はレベル32だけど、この調子だと5年後には、まず確実に追い抜かれてるわね」
「レン・ポウ君。どうやらキヨタカ君のパーティーは、冒険者としてのやり方が尋常では無いようだ。モンスターたちがモエ君の姿を見ただけで逃げ出すのを良いことに、そのままモンスターたちをアジトまで追いかけて全滅させるのを生業としているらしい。最近チバ・シティーからやってきた隊商たちの話によると、散々モンスターや盗賊たちに悩まされていたフナバシ・タウンがすっかり平和になっていて、アラ川の近辺がモンスターや盗賊たちの死体で埋め尽くされていたということだが、たぶんキヨタカ君たちの仕業だろう」
エダマメさんの説明を聞いて、レン・ポウさんの顔色が明らかに変わった。明らかに、僕を恐れている様子である。
「・・・・・・キヨタカ君って、見た目は優しそうな顔しているけど、今までそんな戦い方してきたの?」
「まだ、冒険者としては駆け出しですけど、もえちゃんがご存じのとおり敵を見たら全滅させないと気が済まない性格なんで、僕たちもそれに合わせる形でやってきています。僕たちのことより、明日の武闘大会は大丈夫なんですか?」
「ああ、あれは単なるゴリンピックの一環だから、そんなに気にしなくても大丈夫よ。コンディションも良好だし、今のところ私が優勝候補の筆頭に挙げられているみたいだから、サクッと金メダルもらって帰ってくるつもりだわ」
「でも、例の魔軍のことだから、何かよからぬ事を企んでいたりするんじゃないでしょうか?」
「キヨタカ君、もちろん油断は禁物だが、私としてはその可能性は低いと思うよ。5年前に行われた初回のゴリンピックでは、キヨタカ君と同じような心配から武闘大会への出場辞退者が続出し、レン・ポウ君も含め有力な冒険者はほとんど出場しなかったが、蓋を開けてみれば出場者全員が無事に帰ってきた。今年も、5年前に比べ魔軍が追い詰められているわけでも無いし、武闘大会にかこつけて有力な冒険者を暗殺しようなどと企んでいる可能性は低い。単に、スポーツを振興させて自分たちの支持率を上げようとか、見当外れのことを考えているだけじゃないのか?」
「魔軍なのに、自分たちが人類に支持されているかどうかを気にしているんですか?」
「結構気にしているらしい。そもそも、魔軍というのは人類側の呼び方で、彼ら自身は民主自由党と名乗っているし、少なくとも建前としては武力ではなく、人類たちの支持を受けてその頂点に君臨しているという形を取りたいようだ。もっとも、おそらくはその方が支配する側にとって都合が良いだけだからだとは思うが」
「それだったら良いのですが・・・・・・」
余談だが、エダマメさんが『人間』では無く『人類』という言葉を使っているのには、ちょっと深い理由がある。このアマツ世界には狭義の人間以外にも、エルフ族をはじめとする人間に似た様々な種族が暮らしているため、『人間』は地球の人間に類似した種族のみを指す狭義の概念であり、『人類』はそうした人間類似の種族たちを含む概念として使い分けられているからである。
なお、強大な力を持っているという魔王ガースーや魔軍の幹部たちも、自分たちは狭義の『人間』では無いが、広義の『人類』には含まれると考えているらしい。
◇◇◇◇◇◇
エダマメさんと僕がそんな話をしているとき、今まで話を聞いていたエダマメさんの仲間の一人が、レン・ポウさんに声を掛けた。
「レン・ポウさん、今回は2位じゃ駄目なんですよ!」
「そんなことわかってますよ、キヨミさん」
キヨミさんという、商人らしい見た目をした女性の発言を聞いて、エダマメさんとその仲間たちが思わず苦笑いを浮かべる。
「・・・・・・今のって何? 『2位じゃ駄目なんですよ』の何が面白いの?」
もえちゃんがそのやり取りを聞いて困惑しているので、面倒だけど僕が説明することにした。
「もえちゃん、エダマメさんたちが政治家もやっているという話はしたよね?」
「それはさっき聞いたわ」
「かつて、このトーキョー・シティーは、エダマメさんやレン・ポウも所属していた『民主党』という政党が政権を取っていたんだけど、七年戦争と呼ばれるオーサカ・シティーとの戦争があって、トーキョー・シティーの財政状態が極度に悪化したんだ。そこで、民主党の若手幹部たちは、財政再建のため無駄な支出を切り詰める『事業仕分け』を実行することにした。それで、レン・ポウさんも『事業仕分け』チームの一員になったわけ」
「それで?」
「レン・ポウさんたちは、トーキョー・シティーの職員たちに容赦なく鋭い質問を浴びせて、その予算が本当に必要なものなのか追及していったんだ。そして、事業仕分けの対象は、トーキョー大学の研究予算にまで及び、当時トーキョー大学が研究していた超大型魔法情報処理コンピューター『フウガク』について、担当職員が『世界一の性能を目指します』と説明したところ、レン・ポウさんがその職員に『2位じゃ駄目なんですか?』って質問をして、その質問がトーキョー・シティー中で物議を醸したことがあるんだって」
僕が長い説明を終えると、エダマメさんが感心したように声を掛けてきた。
「ほう、よく知ってるじゃないか。もう10年以上前の話だから、キヨタカくんのような若い子は知らないだろうと思っていたのだが」
「訓練生時代、現代アマツの政治情勢に関する講義を担当した先生が結構お喋りな人で、そういう話もしてくれたんです」
「その先生って誰だったんだね」
「そこにいる、キヨミ・ツジモンさんです」
「ばーれーたーかー」
「キヨミさん、また若い子に余計な話を!」
「レン・ポウさん、余計な話じゃあらへんで。政治の話は、若い子でも覚えてくれるように、面白おかしく話さなあかん」
「まあ、キヨミさんのおかげで政治の授業は楽しかったですけど」
「・・・・・・ねえきよたん」
話について行けなくなったもえちゃんが、僕の袖を引っ張って声を掛けてきた。
「何? もえちゃん」
「さっき、コンピューターがどうとか言ってたけど、この世界にコンピューターなんてあるの? そもそも電気通ってないじゃない」
「確かに電気は通ってないけど、魔法の力を使って日本の機械と似たような効果を出すマジックアイテムは結構発明されているんだ。どれも高価で、しかも魔法を使える人が必要だから、一般庶民の手に届くようなものではないけど。『フウガク』もそういうマジックアイテムの一種で、地球のスーパーコンピューターと同じように膨大な情報の解析なんかに使われているんだ。ただし、電気では無く魔力で動くから、魔法を使える人が魔力を注がないと起動しない」
「それで、レン・ポウさんが文句を付けた『フウガク』ってのは、結局予算通ったの?」
「それについては私から説明するわ。この問題については当時の民主党でも議論になったけど、今のアマツはモンスター以外に急激な気候変動に関する問題も抱えているから、その原因を突き止めるために『フウガク』は必要だし、コンピューターの性能でライバルのオーサカ・シティーに後れを取ったら、それが原因で戦争に負ける可能性もあり得るってことで、結局『フウガク』の開発予算は削れないって結論になったわ。今は『フウガク』も実用段階に入って、気象の解析なんかに使われているって話だけど」
レン・ポウさんが、僕に代わって説明してくれた。
「すみません。それで、結局『事業仕分け』って、上手く行ったんですか?」
話に割って入ったのは、みなみちゃんだった。
「痛いところを突いてくるわね。結論から言うと、あんまり削減できる予算は無かったわ。その後に魔軍の襲来もあって、トーキョー・シティーの財政はむしろ悪化するばかりで、今のユーリコ知事に政権を取られる原因を作っちゃったかも」
「でも、今のトーキョー・シティーって、そこまで財政難って感じはしないんですけど。ユーリコ知事の肝煎りで作られた冒険者なんとかセンターって、すごい立派な建物ですし」
「ユーリコ知事も独自の財政再建をやったのよ。しかも、私たちと違ってかなり乱暴な方法でね」
「どんな方法なんですか?」
「まず、刑務所を全部廃止。刑務所に入っていた罪人のうち、罪の軽い人たちは社会奉仕命令と引き換えに命を助けられたけど、それ以外は全員殺されたわ」
レン・ポウさんの説明に、みなみちゃんだけでなく、もえちゃんや瑞穂まで顔面蒼白となり、言葉を失った。ちなみに、僕はキヨミさんから授業で説明を受けているので、今更驚かない。
「それだけじゃないわよ。城壁内の使われていない土地家屋で所有者の分からないものは全部無償で接収。さらに、冒険者たちの自治に委ねられていた冒険者ギルドは、クエスト報酬のピンハネなど不正がはびこっているという理由で廃止し、ギルドから没収した資産で作られたのが今の冒険者人材育成センター。当然、冒険者の多くから反対意見が挙がったけど、ユーリコ知事は『排除します』の一言で片付けて、抵抗した冒険者たちは軍隊を送って皆殺し。おかげで、冒険者関係の財政は透明化されたけど、モンスターに対抗できる戦力はかなり減っちゃったのよ」
・・・・・・・・・・・・。
「ユーリコ知事の説明では、センターで優秀な冒険者が輩出されるから一時的な戦力減は埋め合わせできるってことだったけど、規律が厳しくなりすぎて冒険者のなり手が減っちゃって、日本から来る人もあまり優秀な人がいなくて、少し前までセンター最大の成果はトーキョー大学のコバヤカワ准教授を輩出したことだなんて言われていたのよ」
「少し前までってことは、今は?」
僕が恐る恐る尋ねると、レン・ポウさんは僕の方を指さして答えた。
「あなたたちに決まってるじゃない。タマキ所長やセンターの人たちも、ようやく卒業生で優秀な冒険者が頭角を現したって事で、あなたたちのことを一生懸命宣伝しているわ。この調子で成果と人気を上げていったら、いずれアマツの政界からもお呼びがかかるんじゃない?」
「えーと、僕は政治にはあまり関わりたくないんですけど。しかも、日本と違ってアマツの政治って、かなり物騒な世界ですし・・・・・・」
「キヨタカ君。そういう話は、本人が好むか好まざるかに関係なく付いてくるものよ。特に、君たちの目標どおりアマツ世界から魔軍を一掃でもしようものなら、政治家どころか、かつてのノブナガ公のように、スメラギとしてアマツ世界を治めて欲しいなんて声が挙がると思うわ。私たちとしても、本音を言えばキヨタカ君をトミンファーストの会に取られてしまう前に、私たちのリッケン民主党にスカウトしたいくらいなのよ」
「・・・・・・将来的にはともかく、今は冒険者としての仕事に専念したいので、遠慮させて頂きます」
◇◇◇◇◇◇
武闘大会に出場するレン・ポウさんへ挨拶に来ただけのつもりだったのに、話があらぬ方向へ飛んでしまったので、僕たちはこのくらいで話を切り上げ、ひとまずセンターへ帰ることにした。
しかし、当のレン・ポウさんは大丈夫だと言っていたが、キヨミさんから以前授業で聞いた話だと、現在トーキョー・シティーの都議会は、ユーリコ知事率いるトミンファーストの会、魔軍の支援を受ける民主自由党トーキョー都連、そしてリッケン民主党をはじめとする野党勢力が三つ巴の状態になっており、いずれの勢力を過半数を取れていないという。
そんな状況の中、魔軍を支持する勢力が、若干人気を落としているとはいえリッケン民主党の論客であり、都議会の議席も持っているレン・ポウさんを、武闘大会にかこつけて始末してしまおうなどと考えないのだろうか。
センターに帰った後も、僕はそんな不安を拭うことが出来なかった。
(第31話に続く)
「ぎゃあっははははははは!!」
もえちゃんが僕の目の前で、腹を抱えて笑い転げていた。
時はアマツ暦、アテナイス108年6月30日。
フライヤとひーりんぐ・えっちをして、スメラギ連合チームとヨミカイ・ジャイアンツの馬鹿試合を観戦した日(第27話~第29話)の翌日である。
この日、エイルと2回目のひーりんぐ・えっちをして、昨日の試合に関する例の新聞記事を読んだ後、以前ドンキで注文していた僕向けの当世具足が届いたので試着していたのだが、その様子を見に来たもえちゃんが、当世具足を身に着けた僕の姿を見るなり、一体何がおかしいのかと思うくらいの勢いで笑い始めたのである。
・・・・・・いや、もえちゃんが笑い始めた理由自体については、僕も概ね察しが付くんだけど。
「もえちゃん、何もそこまで笑うことはないと思うんだけど」
「だ、だってきよたん、その股間に生えてる鷲みたいなのは何よ? あんた、いくら自分のモノが大きいからって、名槍清隆丸を武器にして敵を攻撃する気? ああ、笑い過ぎてお腹痛い」
「いや、この仕様には事情があってね」
僕が試着している当世具足は、基本的に和風の鋼鉄製全身鎧である。ちなみに、和風といっても鎌倉時代のものではなく、ヨーロッパの影響が入った戦国時代のものに近い。
ただし、一般的な当世具足と明らかに違うのは股間の仕様で、僕のモノを収容する部分が尖っており、その先端には鷲の装飾があしらわれている。届けに来た店員さんの説明によると、僕のモノは通常の男性よりかなり大きく、通常の仕様ではどうしても股間が苦しくなってしまうので、職人さんが悩んだ挙げ句股間だけ特別仕様にしたのだという。
今までの装備では大事な股間を守るものが無くて不安があったが、この当世具足なら股間を含め全身を守ってくれるので安心だし、勃起状態でも股間がきつくならないのも有り難いのだが、股間に鷲の装飾をあしらったチ○コケースが生えているような見た目には、僕も正直違和感があった。しかも、鷲の嘴にあたる部分が尖っているため、格闘戦にでもなったら、もえちゃんの言うとおりこの部分で敵を攻撃することも出来そうである。
「きよたん、一体どういう事情があったらそんな鎧になるのよ?」
「知ってのとおり、僕のモノは普通の男性に比べてかなり大きい上に、ほぼ常に勃起した状態になっているから、こういう仕様にでもしないと、鎧の中に僕のモノが収まらないんだって」
「それは分かるけど、いくら何だってそんな鎧はないわって思うわよ。そんな鎧着ていったら、行く先々で笑いものになるんじゃない?」
「そうかなあ? 今までのところ、爆笑したのはもえちゃんだけで、みなみちゃんと瑞穂はちょっと苦笑いして、まあ仕方ないですねって言う程度だったけど。それに、見た目がおかしいからと言って、他にやりようも無かっただろうし」
「まあ、きよたんがそれで良いってんなら良いんじゃない? 行く先々で、俺様の名槍清隆丸はこんなに凄いんだぞって自慢して回って、おちんちんモンスターなんて呼ばれてもあたしは知らないけど」
「その・・・・・・ちょっと良いですか?」
それまで、僕の側で黙って話を聞いていたみなみちゃんが、おずおずと話に入ってきた。
「良いわよ。みなみちゃん、何が言いたいの?」
「もえさんの言いたいことは分かるんですけど、別にこれまでと変わらないような気もするんです。私、先日タマキ先生から聞いたんですけど、きよたかさんはその戦いぶりだけじゃなくて、服の上でも分かる大きさも結構話題になっていて、訓練生の時代から陰で『もっこり君』とか、『トーキョー第一の巨根』とか噂されていたらしいんです。それが、モンスターとの戦いで大活躍して、今では巨根だけが取り柄の子じゃなかったのかって評判になっているらしいんです」
「僕って、そんな風に言われてたの!?」
「ふむ。そうした噂なら我も聞いておるぞ。いまやトーキョー市民で、名槍清隆丸の名を知らぬ者はモグリであるとな」
「瑞穂まで! というか、その名槍清隆丸って名前を広めたの、たぶんタマキ先生だよね!?」
「そうだったんだ。じゃあきよたん、今日からあんたのこと、『もっこりきよたん』って呼んであげようか?」
もえちゃんが、いかにも嬉しそうな様子で、僕をからかってきた。
「それなら、僕は今日からもえちゃんのこと、『トーキョー迷子ちゃん』って呼んであげるね。もえちゃん、昨日も野球場から一人で帰ろうとして迷子になって、夜中に泣きながら警察の人にセンターまで送り届けてもらったってエイルから聞いてるけど」
「きよたん、どさくさに紛れて『トーキョー迷子』を歌うのは止めて!! それにきよたん、他人のことを言える立場なの? あんた、球場からセンターに帰ってくるまで我慢できなくて、球場のすぐ側の林でみなみちゃんやがきんちょとえっちしてたでしょ。おかげで、きよたんたちが帰った後、『球場内及びその周辺での性行為はお控えください』ってアナウンスが流れてたわよ」
「それは、僕じゃなくて瑞穂が我慢できなくなったんだよ! それに、球場外でえっちしてたの僕たちだけじゃないから」
「やっぱりヤッてたのね、このエロたん」
「もえちゃん、他人のこと言える立場じゃないでしょ? 僕とえっちする日以外は、なぜか僕の名前を呼びながら、毎晩周囲がドン引きするくらいのハードオナニーを繰り返してるくせに。瑞穂を見習って、少しは自粛したら?」
「何よ、別にオナニーしてるのはあたしだけじゃないわよ。みなみちゃんも、きよたんが他の女の子とえっちしていると、大体覗き見しながらオナニーしてるんだから、ある意味あたしより趣味悪いわよ」
「私にまで火の粉が飛ぶんですか!?」
こんな感じで不毛な言い争いがしばらく続き、
「・・・・・・もう止めましょ。これ以上続けても、お互いに自爆するだけだわ」
「そうだね。お互いに傷つくだけだし」
こうして停戦合意が成立した頃には、巻き込まれたみなみちゃんや瑞穂を含め、4人とも精神的に疲れ果てていた。
◇◇◇◇◇◇
「そうそう、あたしはこんな言い争いをするために来たんじゃないのよ。危うく用事を忘れるところだったわ」
「何の用事だったの?」
「あのね、明日はゴリンピックの3日目で、武闘大会の種目があるんだけど、訓練生時代にあたしの師匠だったレン・ポウさんが出場するのよ。それで挨拶に行こうと思って」
「レン・ポウさんって、確かエダマメさんパーティーの人だっけ?」
「そうよ。格闘術の腕はトーキョー・シティー随一って言われてるわ」
「それじゃあ、一緒に行こうか。僕も、エダマメさんにはテレポート講習のときお世話になったし。みなみちゃんと瑞穂はどうする?」
「それなら、私も一緒に行きます。特にやることもありませんし」
「ふむ。ならば我も同行するとしよう」
こうして、僕たち4人は、レン・ポウさんのところへ挨拶に行くことになった。
その道中。
「エダマメさんとレン・ポウさんは、トーキョー・シティーで随一の冒険者であると同時に、政治家としても知られているんだよ」
「きよたかさん、冒険者と政治家って兼ねられるんですか?」
「うん。アマツではそう珍しいことでもないらしい。エダマメさんは、リッケン民主党っていう政党の党首で、レン・ポウさんもその政党の幹部なんだって。もっとも、リッケン民主党自体、最近は党勢が振るわないらしいんだけど」
「どうしてですか?」
「リッケン民主党は、かつて『民主党』という名前で、このトーキョー・シティーの政権与党だったんだけど、オーサカ・シティーとの七年戦争で国力を消耗させてしまい、10年前に起きた魔軍の侵攻にも対抗できず服属を余儀なくされてしまい、大幅に支持率を下げてしまったんだって。そして6年前、新興政党『トミンファーストの会』を立ち上げたユーリコ・コイケヤ氏に知事の座を奪われ、都議会でも少数派に転落してしまい、その後2度にわたり政党の名前を変えたけど、党勢回復には至っていないらしい。レン・ポウさんも、かつてはトーキョー・シティーで随一の人気を誇っていたけど、自身の国籍問題で評判を落としてしまったんだって」
「きよたん、国籍問題って何よ? そもそも、アマツに国籍なんてあるの?」
「あるよ。オダ朝が断絶した後、アマツ世界の全土を支配する統一国家は無くなって、現在は主要都市ごとの都市国家群に分かれているんだ。そして、レン・ポウさんは、アマツ世界の西方にあるチュウカ島の出身で、チュウカの国籍とトーキョー国籍の二重国籍状態になっていたんだ」
「きよたん、その二重国籍で何か問題があるの?」
「そこが微妙なところなんだけど、トーキョー・シティーの国籍法では、トーキョー国籍と他の国籍の二重国籍になっている人は、22歳までにどちらかの国籍を選択しなければならないことになっているんだ。もっとも、選択せず二重国籍のままでも罰則は特に無くて、ただ二重国籍で何らかの問題が生じた場合に備えて、トーキョー・シティーの知事は国籍の選択をしない二重国籍者に対し、期間を定めてどちらの国籍を選択するか催告をすることができ、期間内に国籍の選択をしないと、トーキョー国籍を失うということになっている。もっとも、実際に催告が行われたことは無く、いろんな都市を股に掛けて活動している冒険者や商売人などには、二重国籍者も結構いるらしい」
「なんで、そんなややこしい法律になってるのよ?」
「何でも、トーキョー・シティーで現在の国籍法を制定するとき、二重国籍だと何らかの弊害が生じるかも知れないという議論になったので、念のため建前上は二重国籍を認めないという制度にしたんだって。もっとも、実際にはトーキョー国籍と他の国籍との二重国籍でも、今のところ弊害らしい弊害は生じていないので、現在の運用では二重国籍者が現れても事実上放置しているらしい」
「きよたかさん。だったら、レン・ポウさんが二重国籍でも、問題は無いと思うんですけど?」
「みなみちゃん、そこが微妙なところでね。法律家のほとんどは、二重国籍でも特に違法では無いという見解を取っているんだけど、世の中にはレン・ポウさんのことを快く思っていない人たちもいて、その問題が発覚すると、ここぞとばかり『二重国籍は違法だ』と騒ぎ立てたんだ。さらに、国籍問題に関するレン・ポウさんの説明が一貫していなかったこともあり、政治家としての評判が大きく下がっちゃったんだって。今では、チュウカ国籍を抹消して二重国籍は解消されているんだけど、未だに色々言われているらしい。どうやら、背後にはレン・ポウさんの評判を落とそうとする、魔軍の策略があるらしいとも言われているんだけど」
「きよたん、そんな情報を一体どこから仕入れてくるのよ?」
「基本的なことは訓練生時代の講義で習ったし、後は授業で紹介された『現代アマツ社会の基礎知識』を読んだりしてるよ」
「・・・・・・あたし、訓練生のときそんなこと全然教わらなかったし、そもそもレン・ポウさんが政治家やってるなんて、今初めて聞いたんだけど」
「もえちゃんの場合、どうせ説明しても理解できないだろうからと思って、省略されちゃったんだと思うよ。タマキ先生は、訓練生の頭の良さに応じて講義の内容を変える人だから、僕も途中からみなみちゃんや瑞穂とは別メニューになったし」
「そうですね。私や瑞穂ちゃんも、先生の授業を理解できていない様子だと、先生が『分からないことは後できよたんに聞きなさい。あの子なら難しい話でも理解できてるから』で済まされちゃったことがよくありましたから」
みなみちゃんまでそんなことを言い出した。どうやら、頭脳労働の問題に関しては僕に頼りっぱなしにされているようである。
「みなみちゃん。訓練生時代は仕方なかったと思うけど、これからは自分のペースで構わないから、この世界のことも頑張って覚えていってね」
「はい、きよたかさん。でも、レン・ポウさんの二重国籍がどうとかいう話は、きよたかさんの話を聞いても、いまいちよく理解できないんですけど・・・・・・」
「それは法律的な話だから、無理して理解しようとしなくてもいいよ。僕が覚えて欲しいって言ってるのは、あくまでこの世界の常識に関する話」
◇◇◇◇◇◇
そんなことを話しているうち、僕たちはエダマメさんやレン・ポウさんが、トーキョー・シティーにいるときはいつも利用しているという、ホテル『リトル・トーキョー』に到着した。なお、訓練生時代に行った同名のレストランは、このホテルに併設されているものである。
「モエ・カミズルです。レン・ポウ先生、長らくご無沙汰してすみませんでした」
もえちゃんが、年齢の頃30代ないし40代程度と思われる凜とした女性に向かって、彼女にしては珍しく、礼儀正しい口調で挨拶した。
「お久しぶりですね、モエさん。そちらにいる男の子は、モエさんの彼氏くんかな?」
「ち、違います! 誰がこんな奴、彼氏にするかっての! ここにいるきよたんは、一応あたしのいるパーティーのリーダーだから、付いてきてもらっただけです!」
レン・ポウさんの問いに、もえちゃんはムキになって反論した。
「そうなの? でも、同じパーティーの若い男の子と女の子なんだから、普通はえっちなこともしてるんじゃないの?」
「別に、してないわけじゃありませんけど! きよたんはインテリぶって、肝心なところでは意気地無しで、男としては全然気に食わないですけど、見てのとおりおちんちんがとても大きくて、しかも何回発射させても小さくならないから便利使いしてるだけです!」
「モエ君、せっかくパーティーメンバーとして拾ってもらったのに、その言い草はないんじゃないか?」
同じ部屋にいたエダマメさんが口を挟んできた。
「あ、エダマメさんね。こんちわ」
もえちゃんがエダマメさんに挨拶するも、レン・ポウさんに対する挨拶とは態度が全く異なり、明らかに敬意が感じられない。
「もえちゃん、確か訓練生時代にはエダマメさんにもお世話になったんでしょ? さすがにその態度は無いんじゃない?」
「いいんだよ、キヨタカ君。モエ君はこういう子だって分かってるから」
エダマメさんが、僕をそう諭してきた。
この物語も結構話が長くなってきたので事情を整理すると、もえちゃんはセンターでの訓練生時代、武闘家職の先輩であるレン・ポウさんに色々指導してもらったほか、冒険者見習いとしてエダマメさんやレン・ポウさんのパーティーに同行させてもらったこともある。
ただし、もえちゃんはエダマメさんの命令をろくに聞かず、隊商護衛の仕事なのにモンスター相手に単独で突撃して危うく殺されそうになったこともあるため、エダマメさんはうちのパーティーでは面倒を見られないと、結局もえちゃんの加入を断った。
他のパーティーでも同様だったらしく、おかげでもえちゃんは武闘家として十分な実力と才能がありながら、加入するパーティーが見つからないため中々訓練生を卒業できず、僕が訓練生として入ってくる頃には、通常なら1ヶ月程度で卒業するはずの訓練生生活が半年を超えてしまい、しかも訓練生でありながら上級職のモンクにクラスチェンジ済みという異例の事態になっていたのである。
「それより、キヨタカ君からテレポート講習のときに事情を聞かせてもらったが、モエ君をパーティーメンバーとして使いこなせるのは、おそらくキヨタカ君以外にいないと思うぞ。私より、むしろキヨタカ君にもっと敬意を払ったらどうなんだ?」
「エダマメさん、そんなこと分かってるわよ! だから一層気に食わないだけで!」
「エダマメさん、僕ももえちゃんがこういう娘だってことは分かってますから、別に気にしなくても結構です」
「それなら良いが・・・・・・。ところで、後ろにいる女の子たちは?」
「うちのパーティーメンバーです。巫女服を着ているのが、僧侶のミナミ・クリバヤシで、怪しげな黒いドレスを着ていのが、魔術師のミズホ・ヤマナカです。どちらも、僕と同じ日本人の冒険者です」
僕がそう説明すると、エダマメさんはもえちゃんとみなみちゃんを見比べて、
「モエ君、そんなツンケンした態度でいいのか? ウカウカしてると、キヨタカ君のお嫁さんの座は、こっちの可愛い子に取られちゃうぞ?」
「別に、あたしはきよたんの嫁なんて狙ってないわよ!」
「どうして? この前会ったときには、キヨタカさんがあたしに振り向いてくれないって必死に悩んでたのに」
レン・ポウさんが、そんな話を振ってきた。もえちゃんが露骨に動揺する。
「そ、それは・・・・・・。だって、あたしと同じパーティーに、あたしと違って女子力に全振りした、こんなに可愛い女の子がいるのよ? えっちはしてもらえるようになったけど、どう考えたってあたしに勝ち目なんか無いじゃない!」
あ、もえちゃんってそういうことで悩んでたんだ・・・・・・。
「あ! きよたん、今のナシ! 別にあたしは、みなみちゃんと違ってきよたんなんて嫌いだから嫁になんかなりたくないだけで、みなみちゃんと競争しても勝ち目無いから諦めてるとかじゃないんだからね! 勘違いしないでよね!」
「はいはい。そんな話より、今日はレン・ポウさんの応援に来たんじゃないの?」
「あ、そうだったわ! レン・ポウ先生から変な話を振られたせいで、危うく忘れるところだったわ!」
「すみません。僕たち、レン・ポウさんが明日の武闘大会に出場されるという話を聞いて、応援の挨拶に来たはずだったのですが、なんか痴話喧嘩みたいな話になってしまって」
「いいのよ。私も、結構面倒を見ていたモエさんが無事冒険者になれて、キヨタカ君とも無事結ばれて元気そうにしているのを見て安心できたから。ところで、モンクとしてのレベルはいくつになったの?」
「レベル13です」
「モエさん、ずいぶん成長が早いじゃないの! 上級職になってからのレベル13って、1年くらい真面目に冒険者やって、ようやく上がるかどうかってくらいよ。私はレベル32だけど、この調子だと5年後には、まず確実に追い抜かれてるわね」
「レン・ポウ君。どうやらキヨタカ君のパーティーは、冒険者としてのやり方が尋常では無いようだ。モンスターたちがモエ君の姿を見ただけで逃げ出すのを良いことに、そのままモンスターたちをアジトまで追いかけて全滅させるのを生業としているらしい。最近チバ・シティーからやってきた隊商たちの話によると、散々モンスターや盗賊たちに悩まされていたフナバシ・タウンがすっかり平和になっていて、アラ川の近辺がモンスターや盗賊たちの死体で埋め尽くされていたということだが、たぶんキヨタカ君たちの仕業だろう」
エダマメさんの説明を聞いて、レン・ポウさんの顔色が明らかに変わった。明らかに、僕を恐れている様子である。
「・・・・・・キヨタカ君って、見た目は優しそうな顔しているけど、今までそんな戦い方してきたの?」
「まだ、冒険者としては駆け出しですけど、もえちゃんがご存じのとおり敵を見たら全滅させないと気が済まない性格なんで、僕たちもそれに合わせる形でやってきています。僕たちのことより、明日の武闘大会は大丈夫なんですか?」
「ああ、あれは単なるゴリンピックの一環だから、そんなに気にしなくても大丈夫よ。コンディションも良好だし、今のところ私が優勝候補の筆頭に挙げられているみたいだから、サクッと金メダルもらって帰ってくるつもりだわ」
「でも、例の魔軍のことだから、何かよからぬ事を企んでいたりするんじゃないでしょうか?」
「キヨタカ君、もちろん油断は禁物だが、私としてはその可能性は低いと思うよ。5年前に行われた初回のゴリンピックでは、キヨタカ君と同じような心配から武闘大会への出場辞退者が続出し、レン・ポウ君も含め有力な冒険者はほとんど出場しなかったが、蓋を開けてみれば出場者全員が無事に帰ってきた。今年も、5年前に比べ魔軍が追い詰められているわけでも無いし、武闘大会にかこつけて有力な冒険者を暗殺しようなどと企んでいる可能性は低い。単に、スポーツを振興させて自分たちの支持率を上げようとか、見当外れのことを考えているだけじゃないのか?」
「魔軍なのに、自分たちが人類に支持されているかどうかを気にしているんですか?」
「結構気にしているらしい。そもそも、魔軍というのは人類側の呼び方で、彼ら自身は民主自由党と名乗っているし、少なくとも建前としては武力ではなく、人類たちの支持を受けてその頂点に君臨しているという形を取りたいようだ。もっとも、おそらくはその方が支配する側にとって都合が良いだけだからだとは思うが」
「それだったら良いのですが・・・・・・」
余談だが、エダマメさんが『人間』では無く『人類』という言葉を使っているのには、ちょっと深い理由がある。このアマツ世界には狭義の人間以外にも、エルフ族をはじめとする人間に似た様々な種族が暮らしているため、『人間』は地球の人間に類似した種族のみを指す狭義の概念であり、『人類』はそうした人間類似の種族たちを含む概念として使い分けられているからである。
なお、強大な力を持っているという魔王ガースーや魔軍の幹部たちも、自分たちは狭義の『人間』では無いが、広義の『人類』には含まれると考えているらしい。
◇◇◇◇◇◇
エダマメさんと僕がそんな話をしているとき、今まで話を聞いていたエダマメさんの仲間の一人が、レン・ポウさんに声を掛けた。
「レン・ポウさん、今回は2位じゃ駄目なんですよ!」
「そんなことわかってますよ、キヨミさん」
キヨミさんという、商人らしい見た目をした女性の発言を聞いて、エダマメさんとその仲間たちが思わず苦笑いを浮かべる。
「・・・・・・今のって何? 『2位じゃ駄目なんですよ』の何が面白いの?」
もえちゃんがそのやり取りを聞いて困惑しているので、面倒だけど僕が説明することにした。
「もえちゃん、エダマメさんたちが政治家もやっているという話はしたよね?」
「それはさっき聞いたわ」
「かつて、このトーキョー・シティーは、エダマメさんやレン・ポウも所属していた『民主党』という政党が政権を取っていたんだけど、七年戦争と呼ばれるオーサカ・シティーとの戦争があって、トーキョー・シティーの財政状態が極度に悪化したんだ。そこで、民主党の若手幹部たちは、財政再建のため無駄な支出を切り詰める『事業仕分け』を実行することにした。それで、レン・ポウさんも『事業仕分け』チームの一員になったわけ」
「それで?」
「レン・ポウさんたちは、トーキョー・シティーの職員たちに容赦なく鋭い質問を浴びせて、その予算が本当に必要なものなのか追及していったんだ。そして、事業仕分けの対象は、トーキョー大学の研究予算にまで及び、当時トーキョー大学が研究していた超大型魔法情報処理コンピューター『フウガク』について、担当職員が『世界一の性能を目指します』と説明したところ、レン・ポウさんがその職員に『2位じゃ駄目なんですか?』って質問をして、その質問がトーキョー・シティー中で物議を醸したことがあるんだって」
僕が長い説明を終えると、エダマメさんが感心したように声を掛けてきた。
「ほう、よく知ってるじゃないか。もう10年以上前の話だから、キヨタカくんのような若い子は知らないだろうと思っていたのだが」
「訓練生時代、現代アマツの政治情勢に関する講義を担当した先生が結構お喋りな人で、そういう話もしてくれたんです」
「その先生って誰だったんだね」
「そこにいる、キヨミ・ツジモンさんです」
「ばーれーたーかー」
「キヨミさん、また若い子に余計な話を!」
「レン・ポウさん、余計な話じゃあらへんで。政治の話は、若い子でも覚えてくれるように、面白おかしく話さなあかん」
「まあ、キヨミさんのおかげで政治の授業は楽しかったですけど」
「・・・・・・ねえきよたん」
話について行けなくなったもえちゃんが、僕の袖を引っ張って声を掛けてきた。
「何? もえちゃん」
「さっき、コンピューターがどうとか言ってたけど、この世界にコンピューターなんてあるの? そもそも電気通ってないじゃない」
「確かに電気は通ってないけど、魔法の力を使って日本の機械と似たような効果を出すマジックアイテムは結構発明されているんだ。どれも高価で、しかも魔法を使える人が必要だから、一般庶民の手に届くようなものではないけど。『フウガク』もそういうマジックアイテムの一種で、地球のスーパーコンピューターと同じように膨大な情報の解析なんかに使われているんだ。ただし、電気では無く魔力で動くから、魔法を使える人が魔力を注がないと起動しない」
「それで、レン・ポウさんが文句を付けた『フウガク』ってのは、結局予算通ったの?」
「それについては私から説明するわ。この問題については当時の民主党でも議論になったけど、今のアマツはモンスター以外に急激な気候変動に関する問題も抱えているから、その原因を突き止めるために『フウガク』は必要だし、コンピューターの性能でライバルのオーサカ・シティーに後れを取ったら、それが原因で戦争に負ける可能性もあり得るってことで、結局『フウガク』の開発予算は削れないって結論になったわ。今は『フウガク』も実用段階に入って、気象の解析なんかに使われているって話だけど」
レン・ポウさんが、僕に代わって説明してくれた。
「すみません。それで、結局『事業仕分け』って、上手く行ったんですか?」
話に割って入ったのは、みなみちゃんだった。
「痛いところを突いてくるわね。結論から言うと、あんまり削減できる予算は無かったわ。その後に魔軍の襲来もあって、トーキョー・シティーの財政はむしろ悪化するばかりで、今のユーリコ知事に政権を取られる原因を作っちゃったかも」
「でも、今のトーキョー・シティーって、そこまで財政難って感じはしないんですけど。ユーリコ知事の肝煎りで作られた冒険者なんとかセンターって、すごい立派な建物ですし」
「ユーリコ知事も独自の財政再建をやったのよ。しかも、私たちと違ってかなり乱暴な方法でね」
「どんな方法なんですか?」
「まず、刑務所を全部廃止。刑務所に入っていた罪人のうち、罪の軽い人たちは社会奉仕命令と引き換えに命を助けられたけど、それ以外は全員殺されたわ」
レン・ポウさんの説明に、みなみちゃんだけでなく、もえちゃんや瑞穂まで顔面蒼白となり、言葉を失った。ちなみに、僕はキヨミさんから授業で説明を受けているので、今更驚かない。
「それだけじゃないわよ。城壁内の使われていない土地家屋で所有者の分からないものは全部無償で接収。さらに、冒険者たちの自治に委ねられていた冒険者ギルドは、クエスト報酬のピンハネなど不正がはびこっているという理由で廃止し、ギルドから没収した資産で作られたのが今の冒険者人材育成センター。当然、冒険者の多くから反対意見が挙がったけど、ユーリコ知事は『排除します』の一言で片付けて、抵抗した冒険者たちは軍隊を送って皆殺し。おかげで、冒険者関係の財政は透明化されたけど、モンスターに対抗できる戦力はかなり減っちゃったのよ」
・・・・・・・・・・・・。
「ユーリコ知事の説明では、センターで優秀な冒険者が輩出されるから一時的な戦力減は埋め合わせできるってことだったけど、規律が厳しくなりすぎて冒険者のなり手が減っちゃって、日本から来る人もあまり優秀な人がいなくて、少し前までセンター最大の成果はトーキョー大学のコバヤカワ准教授を輩出したことだなんて言われていたのよ」
「少し前までってことは、今は?」
僕が恐る恐る尋ねると、レン・ポウさんは僕の方を指さして答えた。
「あなたたちに決まってるじゃない。タマキ所長やセンターの人たちも、ようやく卒業生で優秀な冒険者が頭角を現したって事で、あなたたちのことを一生懸命宣伝しているわ。この調子で成果と人気を上げていったら、いずれアマツの政界からもお呼びがかかるんじゃない?」
「えーと、僕は政治にはあまり関わりたくないんですけど。しかも、日本と違ってアマツの政治って、かなり物騒な世界ですし・・・・・・」
「キヨタカ君。そういう話は、本人が好むか好まざるかに関係なく付いてくるものよ。特に、君たちの目標どおりアマツ世界から魔軍を一掃でもしようものなら、政治家どころか、かつてのノブナガ公のように、スメラギとしてアマツ世界を治めて欲しいなんて声が挙がると思うわ。私たちとしても、本音を言えばキヨタカ君をトミンファーストの会に取られてしまう前に、私たちのリッケン民主党にスカウトしたいくらいなのよ」
「・・・・・・将来的にはともかく、今は冒険者としての仕事に専念したいので、遠慮させて頂きます」
◇◇◇◇◇◇
武闘大会に出場するレン・ポウさんへ挨拶に来ただけのつもりだったのに、話があらぬ方向へ飛んでしまったので、僕たちはこのくらいで話を切り上げ、ひとまずセンターへ帰ることにした。
しかし、当のレン・ポウさんは大丈夫だと言っていたが、キヨミさんから以前授業で聞いた話だと、現在トーキョー・シティーの都議会は、ユーリコ知事率いるトミンファーストの会、魔軍の支援を受ける民主自由党トーキョー都連、そしてリッケン民主党をはじめとする野党勢力が三つ巴の状態になっており、いずれの勢力を過半数を取れていないという。
そんな状況の中、魔軍を支持する勢力が、若干人気を落としているとはいえリッケン民主党の論客であり、都議会の議席も持っているレン・ポウさんを、武闘大会にかこつけて始末してしまおうなどと考えないのだろうか。
センターに帰った後も、僕はそんな不安を拭うことが出来なかった。
(第31話に続く)
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