ビザンティンの風 ~歴オタ少年は、滅亡に瀕したローマ帝国を救えるか?~

灯水汲火

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第2章 僕が摂政をやらなければならないの!?

第42話 武闘大会

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「大将、戦争やるんじゃなかったのかよ……」
 ビザンティオンの聖戦士を名乗る、テオドロス・ラスカリスがそんな愚痴をこぼしていた。

 ミラスの町とペチンの城を無血で接収し、戦わずして小アジア南西部の地を手に入れたまでは良かったが、せっかく戦いに来たのに出番が無いと言って不満を持て余しているのは、テオドラやテオドロスだけではなかった。

「殿下、まだ戦いが無いと決まったわけではございませんが、今の状態を放置するのは若干士気に関わるかと」
「うーん」
 ラスカリス将軍に忠告されるも、僕には良い案が浮かばなかった。

「ラスカリス将軍、こういう状況で兵の士気を鼓舞するのに、何か良い方法はありますか?」
「そうですな、こういうときは催し物を開いたり、武芸の腕を競い合ったり……」
「武芸の腕を?」
「非公式な催し物ですが、時々やるのですよ。帝国軍で一番強い者は誰か、試合で競い合うのです」
「その辺が、一番お手軽に出来そうだね。最近加わったばかりの将兵も結構いるし、兵士たちの親睦を深めるにも役に立つか」


 そんなわけで、ビザンティン帝国軍の中で第一の猛者を決める武闘大会を開催することになった。
 優勝者には、その武勇を称える勲章と、副賞としてジェノヴァ金貨10枚を用意した。なお、自国の金貨ではなくジェノヴァ金貨を使っているのは、ローマ帝国で発行しているノミスマ金貨の質が度重なる貨幣改悪で大きく低下しており、現在は財政に余裕が出来るまで、僕の命令でノミスマ金貨の発行自体を当面中止しているためである。

 参加者として、ビザンティオンの聖戦士ことテオドロス・ラスカリスが真っ先に手を挙げたので、彼の武勇を知っている古参の将兵たちはあまり参加しようとせず、最終的な出場者は8人といい感じに絞られた。
 この世界では、ゲームと異なり武将たちの能力が数値で見られるわけではないので、僕にとっても将兵たちの腕を見る良い機会だ。

 ルールは比較的簡単。
● 徒歩で、それぞれ得意な武器を使って1対1で戦う。
● 飛び道具、神聖術の使用は禁止。
● 相手に負けを認めさせるか、相手の武器を飛ばすか、相手を気絶させるなどして戦闘不能にすれば勝ち。
● 一戦あたりの制限時間は20分。その間に決着が付かなかった場合、勝敗は観戦している将兵たちの声を聞き、最終的には僕が判定する。
 なお、実戦ではないので武器の刃は落としてあるが、負傷者が出たときはいつでも治療できるようイレーネが待機している。
 武闘大会はトーナメント戦で、くじ引きの結果出場者の組み合わせは以下のようになった。

  Aグループ1  テオドロス・ラスカリス 
          メンテシェ(トルコ人)
  Aグループ2  ジョフロワ(イングランド人)
          アレクシオス・ストラテゴプルス(アレス)
  Bグループ1  イサキオス・ラスカリス
          シルギアネス(クマン人)
  Bグループ2  ティエリ・ド・ルース(フランク人)
          ギヨーム(ノルマン人)

 武闘大会の会場は大盛況で、誰が優勝するか賭けをしている兵士たちもいる。テオドラはまだ療養中だが、プルケリアなどの女性陣も観戦に来ている。全員が観戦できる競技場は用意できなかったので、イレーネの術により野営地の10か所くらいに、離れた場所でも試合の様子が見られるオーロラビジョンのようなものが設置されている。

■◇■◇■◇

「では、第1回ローマ帝国武闘大会を開始する。出場者諸君、余の前でその実力を遺憾なく見せて欲しい。皆の健闘を祈る」
 僕による開会宣言を経て、いよいよ試合が始まった。なお、普段はビザンティン帝国と呼んでいるが、この国の公式名称は、今でもローマ帝国である。

 第1試合は、戦闘斧を装備したテオドロス・ラスカリス対、三日月刀を装備したメンテシェ。
 この試合は、パワーで勝るテオドロスが終始優勢に戦いを進め、メンテシェもよく粘ったものの、開始5分でメンテシェが剣を弾き飛ばされ、負けを認めた。メンテシェを応援していた、新参のトルコ人兵士たちは残念がっていたが、メンテシェも十分戦力にはなりそうだ。
「見たか! これがビザンティオンの聖戦士、テオドロス・ラスカリス様の力だ! 優勝はこの俺様が頂だぜ!」
 テオドロスがそう勝ち誇っていた。でも、次の相手はおそらく、以前テオドロスと互角に戦ったことのあるアレスだぞ。そう上手く行くかな?


 第2試合は、戦闘斧を装備したイングランド出身の傭兵隊長ジョフロワ対、長剣を装備したアレス。この勝負は、アレスのスピードにジョフロワがついて行けず、開始3分でアレスがジョフロワの戦闘斧を叩き落とし、アレスの勝利となった。ジョフロワも決して弱いわけではないのだが、相手が悪かったとしか言いようがない。


 第3試合は、テオドロスの弟で15歳になったばかりのイサキオス・ラスカリスが戦闘斧で臨み、対するダフネの副将シルギアネスは剣をもって臨んだ。
 この試合は激戦となり、若さとパワーで勝るイサキオスが優勢かと思われたものの、シルギアネスもよく踏ん張り、制限時間の20分を経過しても勝負は付かなかった。兵士たちに夜判定が行われ、7対3くらいでイサキオスを支持する兵士たちの方が多かったため、イサキオスの勝利と判定した。
「むー。騎射の勝負だったら、絶対シルギアネスが勝つのだ!」
 シルギアネスを応援していたダフネが、文句を言っている。
 ……ダフネの気持ちは分からなくもないけど、今の帝国軍で騎射が得意な人、あんまりいないからね。


 第4試合。元十字軍戦士のティエリ・ド・ルースが大剣を持って臨み、対するノルマンディー出身のギヨームは戦闘斧を持って臨んだ。この戦いではティエリが圧倒的な強さを発揮し、開始5分でギヨームは負けを認めた。
 ……これは凄い。ティエリならテオドロスともいい勝負になりそうだ。

■◇■◇■◇

 休憩を挟んで、準決勝第1試合。お馴染みのテオドロス対アレス。
「アレスか、相手に不足はない。今日こそお前に勝って、このビザンティオンの聖戦士、テオドロス・ラスカリス様が真の最強戦士であることを知らしめてやる」
「私も簡単には負けませんよ、テオドロス」
 山賊だった頃とは打って変わり、アレスの言葉遣いは最近紳士的になっている。本人の言によると、意識的にイメージチェンジを図っているとのこと。
 ごつい感じのテオドロスと異なり、顔立ちも整っているアレスは女性たちに人気があるらしく、女性陣の間ではテオドロスよりアレスを応援する声の方が大きい。アレスがいろんな女性と浮名を流しているとの噂も聞いている。

 それはともかく、以前にも一騎討ちをしたことのある2人の戦いは、予想どおりの激戦となった。
 レベルの高い勝負に会場の兵士たちは固唾を呑んで見守ったが、開始19分、テオドロスの強力な攻撃を受け止め続けるのに体力を使い果たしたアレスが負けを認め、テオドロスの勝利となった。
 勝ったテオドロスも、最初の試合のように勝ち誇るほどの余裕はなかったらしく、決着後2人は握手を交わし、アレスはテオドロスに「決勝戦での健闘を祈ります」と述べた。


 準決勝第2試合。イサキオス対ティエリだが、これは戦う前から勝負が予想できた。
 イサキオスもよく頑張ったものの、まだ15歳で初陣前のイサキオスと、20歳を少し過ぎた若年ながら歴戦の元十字軍戦士でもあるティエリとでは年季が違う。開始5分でイサキオスは戦闘斧を剣で弾き飛ばされ、ティエリの勝利となった。

■◇■◇■◇

 決勝戦。テオドロス・ラスカリス対ティエリ・ド・ルース。
 戦闘斧で戦うテオドロスと、大剣で戦うティエリ。両者の技量はほぼ五分五分と言ったところで、20分では決着が付きそうにない。
 ……どうしよう。このまま判定ということになっても、決めようがないんだけど……。

 もっとも、僕の心配は杞憂に終わった。開始18分頃、ティエリの大剣が折れてしまうというハプニングが発生し、試合はテオドロスの勝利となった。

「ティエリ、お前のことはただのラテン人と侮っていたが、大したものだな。お前の剣が貧弱でなければ、このテオドロス・ラスカリス様も危ないところだったぜ」
 テオドロスの言葉に対し、ティエリは渋々といった感じで負けを認めるも、何か言いたそうなことがあるようだった。ティエリは、まだギリシア語が十分に話せないのだ。

「ティエリ、何か言いたいことがあるなら、僕に言ってごらん。僕なら、ギリシア語でなくても通じるから」
 すると、ティエリはおそらく地元の言語で、このように答えた。
「騎士の本分は馬上槍試合。馬上での勝負なら彼には負けない」
 僕がテオドロスに、ティエリの言葉を通訳してやると、テオドロスはこう答えた。
「ならば明日、お前の言う馬上槍試合で勝負してやる。俺は馬上でも負けないぜ」


 いずれにせよ、第1回武闘大会の優勝者はテオドロスに決まったので、勲章と副賞の賞金はテオドロスに授与したが、その翌日に特別試合として、テオドロスとティエリの馬上試合が行われることになった。
 得意の戦闘斧を持ったテオドロスと、馬上槍を持ったティエリの勝負は、ティエリの突撃を受けたテオドロスが一撃で馬から吹っ飛ばされてしまい、ティエリの勝利となった。
 最強の面目を潰されたテオドロスは、かなり悔しそうだった。

■◇■◇■◇

 新参者を含め、将たちの強さや適性はある程度分かったし、兵士たちの親睦もある程度深まったし、まあイベントとしては成功かなと思っていたところ、トルコ人の動向を調べていたニケフォロス・スグーロスから、『通話』の術で僕のところに急報が入った。
「神聖術学士、ニケフォロス・スグーロスから、ミカエル・パレオロゴス殿下にお伝えします。殿下、今お話しして大丈夫でしょうか?」
「こちらミカエル・パレオロゴス。こちらは大丈夫だ。何があった?」
「一大事でございます! たった今、トルコのスルタン、カイ=ホスローが、10万の軍を召集し、帝国領スミルナに向けて出陣の支度を整えているとの情報が入りました!」

(第43話に続く)
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