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6*(完)
森の奥にある、小さな家。
ここは、俺とシオンの家だ。
魔王によって燃やされて、焼け落ちてしまった家がどういう訳か元通りになっていたので、俺はやっぱり夢を見ているのではないかと思った。
「んん~。おかしいな、俺達の家、燃やされたはずなのに」
首をひねっていると、シオンがとんでもないことを言い出した。
「ああ、これは新しく建てた家。前の家は燃えてなくなってしまったから」
「へ、あ!? 新しく家を建てたって、お、お金は!?」
まさかシオンがローンを組んだのか?
「安心してくれ。魔王討伐の報奨金が出たから一括で買ったよ。ローンはない」
こちらの気持ちを読んだのか、先回りして言葉を続けたシオン。
「現金一括。ひえ、どんだけお金もらったんだよ。す、すごいな」
「本当は使い切れないぐらいもらって、もっと大きい家も建てられたんだけど、俺はこの家が好きだったから元に戻してもらった」
「そっか。お前も気に入ってくれてたんだな!」
「当たり前」
俺はどこでだって寝られるし、むしろじめっとした洞窟も好きだ。
でもなくなってしまった家は人間であるシオンが快適に過ごせるように色々と工夫を凝らして考えたものだったから、当の本人が気に入ってくれていたなら良かった。
「あ~。でも、何か悪いな。俺もそのうち働いてお金払うからな」
「前の家はルピンが払ってくれたんだから、今度は俺が出してもいいだろ」
「いやいや、そんなわけには……。ってああっ。前の家のローンも残ってるじゃないか!」
俺が死んでないからローンは相殺されてないんだ。大変な事実に気付いてアワアワする。
「それなら平気。ちゃんと保険が下りたから」
「ほっ。それなら良かったけど。でも、俺、色々情けないかも」
自分の手で家のお金を払い切れず、それどころか子分に家を建ててもらったなんて、親分として情けない。
「そんなこと言うなよ。ルピンは俺に色々してくれたじゃないか。子供を大人になるまで面倒みるってすごく大変なことだと、今なら分かる。それに、俺、もう子供じゃないんだって。たくさん苦労させた分、今度は俺がルピンに色々してやりたい。好きな人を自分の建てた家に住まわせたいって俺の気持ちも汲んでくれ」
「ひえ、好きな人……」
シオンに好きな人だと言われるのはまだ慣れなくて、体がぽぽっと熱くなる。
「シオンが…シオンが大人の男になってしまった。ひゃああ」
「そろそろ分からせるか」
ぼそっとシオンがつぶやく。
「え?」
分からせる……分からせるって何を?
***
さて。どういう訳だか俺はシオンと共に風呂に入っている。
「新築した記念に、一緒に風呂入るか。風呂だけはちょっと広くしたから使ってみようか」
流れとしてはこんな感じでシオンに誘われた。
広くなった風呂。興味があった。
昔はシオンと一緒に入っていたのだから、この状況は何らおかしなことはない。
ない、はずなのだが……。
どうしてだろう。
一緒に風呂に入っているとひどく目のやり場に困ってしまって視線をうろうろさせる。
俺の知っているシオンと違って見えるから?
スライム姿の俺は、湯につかっているシオンから背を向けて、ぷかぷか…と浮かびながらそうっと離れようとする。
離れようとして……捕まった。
シオンの手の平にがしっと掴まれて、引き寄せられる。
「わああ」
「なあに逃げようとしてんの?」
風呂場の反響のせいか、シオンの声が低く色っぽく聞こえるのだ。そのせいでさらにドキドキしてくる。
「べ、別に、逃げようとなんてしてねえしっ」
「その割には頑なにこっち見ないよな」
「そんなことねえっ」
慌てて振り返って、別に逃げてませんけどアピールする。
しようとして、俺はカチンと固まった。
シオンの逞しい体が視界に飛び込んできたら、動きを止められたみたいになってしまった。
スライムみたいなぷるぷるの欠片もない、硬そうな体なのに……。
な、何でこんなにドキドキするんだ!?
心臓がバクッと口から飛び出そう。
「ルピンは今日もぷるぷるだなぁ」
その声が聞こえた瞬間、嫌な予感がした。
「ちょ、待っ……うひゃっ!? な、なに撫でてんだよ、いきなり!」
「何でだと思う? あ~柔らかい」
ぺた、ぷにゅ、むにゅ……
「わわっ!? や、やめろって! くすぐったいってば~っ!」
体をちょっとでも押されたら形が変わるから、抵抗できない!
しかも……撫で方がやたら丁寧というか――何だか覚えのある撫で方だ。
昔も、こんな風に触ってきたことがあった。
「……っ、し、シオン。そ、そのへんは、だめ……!」
「ん? どのへんがダメなの?」
「ひゃ~~~~~」
シオン指先が俺のぷるぷるを、なぞるように……!
「はっ……はぁぁ……っ! おま、ほんと、やめろ……バカ……っ」
思わず声を張り上げる俺に、シオンはにやにやとした顔を向けてくる。
お湯が波打つ。視線の高さが合う。
こんなときに限って、こいつの顔が近いんだよ。
「前言ってた、あれ、やってよ」
「な、何をだ!?」
呼吸をはあはあ整えながら睨みつける。
「人間の姿になって風呂に入ってやるって言ってたじゃん。今やってどうぞ」
「な、何言ってんだよぉ」
「前の時はすごいやる気だっただろ。ほら、やってみせて」
そりゃあ前はシオンが真っ赤になって恥ずかしがるのが面白かったから人間の姿になって風呂に入ってやろうと思ったさ。
だけどあの時と今では状況が全然違う。
なったところでシオンが俺の思う反応をするとはどうしても思えない。
それに何でかは分からないが、どう考えたって今この状況で人間の姿になるのはマズい気がするのだ。
危機感、そう…危機感を覚える。
「うぅっ、イヤだっ」
「そんなこと言うなよ。お願いだ、ルピン。可愛い子分の頼みを聞いてくれよ」
こんな時ばかり子分ということを強調して、頼んでくる。
普段自分のことを子分とか言わないくせに。
お前、絶対わかっててやってるだろ!?
「お願い、ルピン」
シオンの唇が落ちてくる。
「んむっ……」
ぷるぷる…と震えるのは口を吸われたばかりではない。
「んあっ、シオ…ン、俺、なんか、溶けそ……」
何だかこのままだとお湯に溶けて、排水溝で流れていきそう。そう伝えると「それは大変だ。風呂から出るか」とシオンに抱えられて風呂から出された。
連れていかれたのは寝室だ。
これまた前の家を忠実に再現していて、大きな天窓からは星空と真ん丸の月が見えている。静かな夜だった。
ベッドの上にぽてっと置かれて、隣にシオンが滑り込んできた。
その上で体を撫で回される。
「う、あ~~~……」
あうあう、まだ続くのか。これ。
「俺さ、ルピンのスライム姿も好きなんだけど、エロいことは人間の姿の時でしたいんだよな」
シオンの言葉に体に電気が走ったみたいにシビビ…と震える。
「エッ、ロいことって何をするつもりなんだ、この俺にぃ!?」
「そりゃあセックスですけど。好きな人と体を重ねたいと思うのは自然のことだろ」
「セッ…!?」
シオンの口からとんでもない言葉が飛び出してきた。
俺だってその言葉の意味を知らないわけじゃない。
人間の生殖行動のことだ。
つまりシオンは俺とそういう行為がしたいのだ。
「おま。お前、どどどどこでそんな言葉を覚えてきたんだよぉ!?」
俺は教えていない。いないのに……っ。
「それはまあ、色々。先生とか、旅の間とか……」
「あんのガイコツッ!!」
俺のシオンに何てこと教えてくれてんじゃあ!
それに旅の間って、何があったんだよ!?
「まあまあ。実践はこれが初めてだから、安心してくれ。俺は絶対にルピンとしかしないって決めていたから」
つつーっとシオンの指が俺のぷるぷるをなぞるので「うひゃあ」と変な声が出る。
「旅の間にそういう誘いはいっぱいあったんだよ。でも、どんな時でもルピンのことが必ず思い浮かんじゃって、ダメだったな。ルピンとまた会いたくて、会話がしたくてたまらなかった。俺はさ、本当にずっとルピンだけなんだよ。だからこんな風にした責任を取ってくれ」
「シオン……」
「でもさ、ルピンが嫌なら無理強いはしたくない。もうすでに何年も待っていた訳だから今更って感じもするし。ルピンってこういうことあんまり知識なさそうだし、お子様だからもうちょっと心が大人になるのを待つよ」
「にゃにい!!?」
はぁ~?
お子様って何だ。お前よりもずっと年上ですけど~!?
「このっ、生意気シオンめ。ルピン様の魅力でお前をイチコロにしてやるわぁ」
年長者の本気を見せてやろうじゃないか。
売り言葉に買い言葉。
俺は人間姿になった。しかもだ、服を身に着けていない裸の状態だ。
「お、おぉ……」
シオンの頬が赤く染まって、目がこちらに釘付けになる。視線が顔を見て、それから体の方を辿っていって……フフフ、見てる見てる。
魅惑のぷるボディではないが、それと同じぐらいシオンの目には魅力的に映っているに違いない。
「どうだ、まいったか」
「うん。すご……興奮する。人間の姿になったってことはいいってことだよな。俺、ルピンに色々すると思うけど、本当にいいんだな」
シオンが何度も念押ししてくる。
色々って何だ……。何をする気なんだ。
だがもうここまで来たら後には引けない。子分にお子様扱いされて逃げ出すわけにはいかないのだ!
「来い、シオン!」
そう言ったら、ためらいなんて微塵もないキスをされた。
これまでの重ねるだけのものとは全然違う。シオンの舌が入ってきたのだ。
舌と舌が絡まって、呼吸が奪われて、どんどん熱が上がっていく。
「ん、あ……っ」
キスだけで体の奥が火照って、このまま溶かされそうになる。
「ん……シオンっ……待って、ちょ、ちょっと落ち着――」
「落ち着いてなんかいられない」
低く囁かれて、背中がゾクリとした。
その声はまるで熱を帯びた刃物みたいに、俺の奥までまっすぐ突き刺さってくる。
「もっと触れたい。もっと深くまで。ずっと我慢してた。あんたの全部、俺だけのものにしたい」
背中がシーツに沈み、シオンの体重がのしかかってくる。
だけど重さなんて気にならない。
むしろ包まれてる感じがして安心するのに、同時に――怖くなるくらい心臓が鳴っていた。
「……ルピン、触れるよ」
「き、聞くな……バカ……っ」
改めて聞かれるとすごく恥ずかしい。
「うん。じゃあ、遠慮なく」
シオンの手が、俺の頬から首筋へ、そして胸元へとすべる。
指先が肌の上をなぞるたび、くすぐったいような、くすぶるような感覚が走った。
ああ、こんなふうに触れられるのは、初めてだ――心まで、全部見透かされてしまいそう。
「すごいな。ルピンの変身は人間の体とそっくり同じだ」
「そ、そうかよ。すごいスライムである俺の変身能力は完ペキだからな」
「うん。ここも……」
シオンの手が際どいところに触れて、ぶるっと体が震える。
「ひあっ。ん、う……」
「怖がらなくていい。焦らないから」
「っく……そんな言い方されたら、逆に緊張するっての……」
「はは。じゃあ、もっと安心させてやろうか」
キスが、喉元に降りる。鎖骨に、胸元に、それから―――……。
舌先が、まるで想いを刻むように這っていく。
これのどこが安心できるというのだ。
「っ……や、あ……そこ、っ……」
体の奥がじわりと熱くなっていく。
シオンによって触れられるたびに、知らない感覚が押し寄せてきて、思考が、柔らかくほどけていく。
やがてシオン自身が俺の奥深くへと到達する。
肌と肌が触れ合った部分から、互いの体温が混ざる。
一つになって、もうどこが自分の肌で、どこからがシオンの肌なのかわからなかった。
「あ、あ……っシオン」
「気持ちいいの? 俺も……気持ちいい」
耳元で囁かれると、心の奥が甘く疼いた。
シオンの顔は少し苦しそうで、それ以上に気持ちが良さそうだった。
目を細めて笑う姿に昔の面影が見つかって、ドキドキするのに可愛くてたまらないとも思う。
「……ルピン、好きだよ」
シオンの声は優しくて、本当に好きだと言う思いが伝わってくるようなもので、俺も気持ちが溢れ出す。
「俺も、好き。大好きだ……シオン」
大切な子分。大切な家族。そして……大切な俺の恋人。
あの日お前を炎の中から見つけられて良かった。
夜が更けていくほどに、俺たちはお互いの心と体をひとつにしていった。
もう二度と離れたくない。このままずっと、シオンの隣で――。
***
「で~いっ、このガイコツめ、このっこのっ」
昼頃になって、うちを訪れて来たガイコツ剣士を見るなり俺は飛びついて、鎧をぺちぺちと軽く叩いた。
ガイコツ剣士はスライム姿の俺の体を抱き上げるとふっと笑ったような気がした。
「ルピン、元気そうでよかった。シオンから聞いてはいたが、目が覚めたようで何より」
「おう、元気だぞ。心配かけたな、色々と」
そういえば魔王にやられたあの日以来、ガイコツ剣士には会っていなかった。
「もう体は痛くないのか?」
体は痛くないのか問われて、俺はハッとする。
魔王にやられた傷は痛くない。
だが、今は別の場所が痛い。
筋肉痛だ。
俺の体はぷるぷるだから筋肉痛など起こるはずもないのに、人間姿になってシオンとあんなことや、こんなこと……もとい変な態勢を取っていた後遺症だろうか、あちこちが痛いのだ。
「くぅっ、痛いぞ。この、この~~~~っ」
ガイコツ剣士の手の平からすり抜けて、またぺちっと鎧に張り付いた。
「うん? どうして私が責められているんだ」
不思議そうに骨の首を傾げている。
「シオンに妙なことを教えたのはお前だろ~っ。よくも、よくも純粋無垢でかわいいシオンにあんなことを教えたなぁ!」
そのせいでシオンがあんなことやこんなことを……っ。
途中からタガが外れちゃったのか、シオンは止まらなかった。
気持ちは良かった……が、それ以上に恥ずかしい目に遭わされて、俺はもう何度も気絶寸前になったり、目をくるくる回したりと大変だった。
絶対にあんなのガイコツの入れ知恵に違いない。
ぎゅむぎゅむガイコツに張り付いていると、体を引っ張られた。引き剥がしてきたのは、シオンだった。
「あっ、何するんだシオン。離せぇ」
「相手は先生とはいえ、ちょっとくっつきすぎだから。あんたがくっつくのは、俺だけ」
「んなっ」
シオンときたら口が尖って、面白くないって顔している。これは、嫉妬というやつか。
暴れるべきか大人しくすべきか考えた末、俺は静かにシオンに抱えられるままになった。
そっとシオンの腕にぷるぷるの体を絡める。
「なるほど。それでルピンは私に攻撃を。そうか、なるほど」
何も言ってないのに、ガイコツ剣士はすべてを察したようだ。しきりに「なるほど」と口にしている。
「先生もルピンのこと心配していたのに、ごめんなさい。俺、どうしてもルピンと二人きりで話がしたくて」
「ふふ、気にするな。良かったなシオン。それからルピンも。おめでとう」
「うん」
ガイコツ剣士に祝福されて、俺とシオンはそろって顔を見合わせ、照れて瞳を伏せさせた。
***
ちょっと変わり者達が住むモンスターの村。
森の奥には小さな家がある。
勇者とスライムの暮らす家だ。
勇者とスライムは子分と親分でもあり、家族でもあり、恋人でもある。
二人の暮らすこじんまりとした小さな家の屋根は丸みを帯びた赤茶色の瓦屋根で、季節の花が咲く小道を通って玄関にたどり着くと、そこには手作りの木のプレートがかかっている。
かつては小さな子供が彫ったつたない文字だったプレートは以前の家と共に燃え落ちてなくなり、現在では大人の彫った美しい文字と装飾に変わっている。
それでもプレートに書かれている内容はそっくり同じだ。
『ようこそ。ぷるぷる注意』
END
ここは、俺とシオンの家だ。
魔王によって燃やされて、焼け落ちてしまった家がどういう訳か元通りになっていたので、俺はやっぱり夢を見ているのではないかと思った。
「んん~。おかしいな、俺達の家、燃やされたはずなのに」
首をひねっていると、シオンがとんでもないことを言い出した。
「ああ、これは新しく建てた家。前の家は燃えてなくなってしまったから」
「へ、あ!? 新しく家を建てたって、お、お金は!?」
まさかシオンがローンを組んだのか?
「安心してくれ。魔王討伐の報奨金が出たから一括で買ったよ。ローンはない」
こちらの気持ちを読んだのか、先回りして言葉を続けたシオン。
「現金一括。ひえ、どんだけお金もらったんだよ。す、すごいな」
「本当は使い切れないぐらいもらって、もっと大きい家も建てられたんだけど、俺はこの家が好きだったから元に戻してもらった」
「そっか。お前も気に入ってくれてたんだな!」
「当たり前」
俺はどこでだって寝られるし、むしろじめっとした洞窟も好きだ。
でもなくなってしまった家は人間であるシオンが快適に過ごせるように色々と工夫を凝らして考えたものだったから、当の本人が気に入ってくれていたなら良かった。
「あ~。でも、何か悪いな。俺もそのうち働いてお金払うからな」
「前の家はルピンが払ってくれたんだから、今度は俺が出してもいいだろ」
「いやいや、そんなわけには……。ってああっ。前の家のローンも残ってるじゃないか!」
俺が死んでないからローンは相殺されてないんだ。大変な事実に気付いてアワアワする。
「それなら平気。ちゃんと保険が下りたから」
「ほっ。それなら良かったけど。でも、俺、色々情けないかも」
自分の手で家のお金を払い切れず、それどころか子分に家を建ててもらったなんて、親分として情けない。
「そんなこと言うなよ。ルピンは俺に色々してくれたじゃないか。子供を大人になるまで面倒みるってすごく大変なことだと、今なら分かる。それに、俺、もう子供じゃないんだって。たくさん苦労させた分、今度は俺がルピンに色々してやりたい。好きな人を自分の建てた家に住まわせたいって俺の気持ちも汲んでくれ」
「ひえ、好きな人……」
シオンに好きな人だと言われるのはまだ慣れなくて、体がぽぽっと熱くなる。
「シオンが…シオンが大人の男になってしまった。ひゃああ」
「そろそろ分からせるか」
ぼそっとシオンがつぶやく。
「え?」
分からせる……分からせるって何を?
***
さて。どういう訳だか俺はシオンと共に風呂に入っている。
「新築した記念に、一緒に風呂入るか。風呂だけはちょっと広くしたから使ってみようか」
流れとしてはこんな感じでシオンに誘われた。
広くなった風呂。興味があった。
昔はシオンと一緒に入っていたのだから、この状況は何らおかしなことはない。
ない、はずなのだが……。
どうしてだろう。
一緒に風呂に入っているとひどく目のやり場に困ってしまって視線をうろうろさせる。
俺の知っているシオンと違って見えるから?
スライム姿の俺は、湯につかっているシオンから背を向けて、ぷかぷか…と浮かびながらそうっと離れようとする。
離れようとして……捕まった。
シオンの手の平にがしっと掴まれて、引き寄せられる。
「わああ」
「なあに逃げようとしてんの?」
風呂場の反響のせいか、シオンの声が低く色っぽく聞こえるのだ。そのせいでさらにドキドキしてくる。
「べ、別に、逃げようとなんてしてねえしっ」
「その割には頑なにこっち見ないよな」
「そんなことねえっ」
慌てて振り返って、別に逃げてませんけどアピールする。
しようとして、俺はカチンと固まった。
シオンの逞しい体が視界に飛び込んできたら、動きを止められたみたいになってしまった。
スライムみたいなぷるぷるの欠片もない、硬そうな体なのに……。
な、何でこんなにドキドキするんだ!?
心臓がバクッと口から飛び出そう。
「ルピンは今日もぷるぷるだなぁ」
その声が聞こえた瞬間、嫌な予感がした。
「ちょ、待っ……うひゃっ!? な、なに撫でてんだよ、いきなり!」
「何でだと思う? あ~柔らかい」
ぺた、ぷにゅ、むにゅ……
「わわっ!? や、やめろって! くすぐったいってば~っ!」
体をちょっとでも押されたら形が変わるから、抵抗できない!
しかも……撫で方がやたら丁寧というか――何だか覚えのある撫で方だ。
昔も、こんな風に触ってきたことがあった。
「……っ、し、シオン。そ、そのへんは、だめ……!」
「ん? どのへんがダメなの?」
「ひゃ~~~~~」
シオン指先が俺のぷるぷるを、なぞるように……!
「はっ……はぁぁ……っ! おま、ほんと、やめろ……バカ……っ」
思わず声を張り上げる俺に、シオンはにやにやとした顔を向けてくる。
お湯が波打つ。視線の高さが合う。
こんなときに限って、こいつの顔が近いんだよ。
「前言ってた、あれ、やってよ」
「な、何をだ!?」
呼吸をはあはあ整えながら睨みつける。
「人間の姿になって風呂に入ってやるって言ってたじゃん。今やってどうぞ」
「な、何言ってんだよぉ」
「前の時はすごいやる気だっただろ。ほら、やってみせて」
そりゃあ前はシオンが真っ赤になって恥ずかしがるのが面白かったから人間の姿になって風呂に入ってやろうと思ったさ。
だけどあの時と今では状況が全然違う。
なったところでシオンが俺の思う反応をするとはどうしても思えない。
それに何でかは分からないが、どう考えたって今この状況で人間の姿になるのはマズい気がするのだ。
危機感、そう…危機感を覚える。
「うぅっ、イヤだっ」
「そんなこと言うなよ。お願いだ、ルピン。可愛い子分の頼みを聞いてくれよ」
こんな時ばかり子分ということを強調して、頼んでくる。
普段自分のことを子分とか言わないくせに。
お前、絶対わかっててやってるだろ!?
「お願い、ルピン」
シオンの唇が落ちてくる。
「んむっ……」
ぷるぷる…と震えるのは口を吸われたばかりではない。
「んあっ、シオ…ン、俺、なんか、溶けそ……」
何だかこのままだとお湯に溶けて、排水溝で流れていきそう。そう伝えると「それは大変だ。風呂から出るか」とシオンに抱えられて風呂から出された。
連れていかれたのは寝室だ。
これまた前の家を忠実に再現していて、大きな天窓からは星空と真ん丸の月が見えている。静かな夜だった。
ベッドの上にぽてっと置かれて、隣にシオンが滑り込んできた。
その上で体を撫で回される。
「う、あ~~~……」
あうあう、まだ続くのか。これ。
「俺さ、ルピンのスライム姿も好きなんだけど、エロいことは人間の姿の時でしたいんだよな」
シオンの言葉に体に電気が走ったみたいにシビビ…と震える。
「エッ、ロいことって何をするつもりなんだ、この俺にぃ!?」
「そりゃあセックスですけど。好きな人と体を重ねたいと思うのは自然のことだろ」
「セッ…!?」
シオンの口からとんでもない言葉が飛び出してきた。
俺だってその言葉の意味を知らないわけじゃない。
人間の生殖行動のことだ。
つまりシオンは俺とそういう行為がしたいのだ。
「おま。お前、どどどどこでそんな言葉を覚えてきたんだよぉ!?」
俺は教えていない。いないのに……っ。
「それはまあ、色々。先生とか、旅の間とか……」
「あんのガイコツッ!!」
俺のシオンに何てこと教えてくれてんじゃあ!
それに旅の間って、何があったんだよ!?
「まあまあ。実践はこれが初めてだから、安心してくれ。俺は絶対にルピンとしかしないって決めていたから」
つつーっとシオンの指が俺のぷるぷるをなぞるので「うひゃあ」と変な声が出る。
「旅の間にそういう誘いはいっぱいあったんだよ。でも、どんな時でもルピンのことが必ず思い浮かんじゃって、ダメだったな。ルピンとまた会いたくて、会話がしたくてたまらなかった。俺はさ、本当にずっとルピンだけなんだよ。だからこんな風にした責任を取ってくれ」
「シオン……」
「でもさ、ルピンが嫌なら無理強いはしたくない。もうすでに何年も待っていた訳だから今更って感じもするし。ルピンってこういうことあんまり知識なさそうだし、お子様だからもうちょっと心が大人になるのを待つよ」
「にゃにい!!?」
はぁ~?
お子様って何だ。お前よりもずっと年上ですけど~!?
「このっ、生意気シオンめ。ルピン様の魅力でお前をイチコロにしてやるわぁ」
年長者の本気を見せてやろうじゃないか。
売り言葉に買い言葉。
俺は人間姿になった。しかもだ、服を身に着けていない裸の状態だ。
「お、おぉ……」
シオンの頬が赤く染まって、目がこちらに釘付けになる。視線が顔を見て、それから体の方を辿っていって……フフフ、見てる見てる。
魅惑のぷるボディではないが、それと同じぐらいシオンの目には魅力的に映っているに違いない。
「どうだ、まいったか」
「うん。すご……興奮する。人間の姿になったってことはいいってことだよな。俺、ルピンに色々すると思うけど、本当にいいんだな」
シオンが何度も念押ししてくる。
色々って何だ……。何をする気なんだ。
だがもうここまで来たら後には引けない。子分にお子様扱いされて逃げ出すわけにはいかないのだ!
「来い、シオン!」
そう言ったら、ためらいなんて微塵もないキスをされた。
これまでの重ねるだけのものとは全然違う。シオンの舌が入ってきたのだ。
舌と舌が絡まって、呼吸が奪われて、どんどん熱が上がっていく。
「ん、あ……っ」
キスだけで体の奥が火照って、このまま溶かされそうになる。
「ん……シオンっ……待って、ちょ、ちょっと落ち着――」
「落ち着いてなんかいられない」
低く囁かれて、背中がゾクリとした。
その声はまるで熱を帯びた刃物みたいに、俺の奥までまっすぐ突き刺さってくる。
「もっと触れたい。もっと深くまで。ずっと我慢してた。あんたの全部、俺だけのものにしたい」
背中がシーツに沈み、シオンの体重がのしかかってくる。
だけど重さなんて気にならない。
むしろ包まれてる感じがして安心するのに、同時に――怖くなるくらい心臓が鳴っていた。
「……ルピン、触れるよ」
「き、聞くな……バカ……っ」
改めて聞かれるとすごく恥ずかしい。
「うん。じゃあ、遠慮なく」
シオンの手が、俺の頬から首筋へ、そして胸元へとすべる。
指先が肌の上をなぞるたび、くすぐったいような、くすぶるような感覚が走った。
ああ、こんなふうに触れられるのは、初めてだ――心まで、全部見透かされてしまいそう。
「すごいな。ルピンの変身は人間の体とそっくり同じだ」
「そ、そうかよ。すごいスライムである俺の変身能力は完ペキだからな」
「うん。ここも……」
シオンの手が際どいところに触れて、ぶるっと体が震える。
「ひあっ。ん、う……」
「怖がらなくていい。焦らないから」
「っく……そんな言い方されたら、逆に緊張するっての……」
「はは。じゃあ、もっと安心させてやろうか」
キスが、喉元に降りる。鎖骨に、胸元に、それから―――……。
舌先が、まるで想いを刻むように這っていく。
これのどこが安心できるというのだ。
「っ……や、あ……そこ、っ……」
体の奥がじわりと熱くなっていく。
シオンによって触れられるたびに、知らない感覚が押し寄せてきて、思考が、柔らかくほどけていく。
やがてシオン自身が俺の奥深くへと到達する。
肌と肌が触れ合った部分から、互いの体温が混ざる。
一つになって、もうどこが自分の肌で、どこからがシオンの肌なのかわからなかった。
「あ、あ……っシオン」
「気持ちいいの? 俺も……気持ちいい」
耳元で囁かれると、心の奥が甘く疼いた。
シオンの顔は少し苦しそうで、それ以上に気持ちが良さそうだった。
目を細めて笑う姿に昔の面影が見つかって、ドキドキするのに可愛くてたまらないとも思う。
「……ルピン、好きだよ」
シオンの声は優しくて、本当に好きだと言う思いが伝わってくるようなもので、俺も気持ちが溢れ出す。
「俺も、好き。大好きだ……シオン」
大切な子分。大切な家族。そして……大切な俺の恋人。
あの日お前を炎の中から見つけられて良かった。
夜が更けていくほどに、俺たちはお互いの心と体をひとつにしていった。
もう二度と離れたくない。このままずっと、シオンの隣で――。
***
「で~いっ、このガイコツめ、このっこのっ」
昼頃になって、うちを訪れて来たガイコツ剣士を見るなり俺は飛びついて、鎧をぺちぺちと軽く叩いた。
ガイコツ剣士はスライム姿の俺の体を抱き上げるとふっと笑ったような気がした。
「ルピン、元気そうでよかった。シオンから聞いてはいたが、目が覚めたようで何より」
「おう、元気だぞ。心配かけたな、色々と」
そういえば魔王にやられたあの日以来、ガイコツ剣士には会っていなかった。
「もう体は痛くないのか?」
体は痛くないのか問われて、俺はハッとする。
魔王にやられた傷は痛くない。
だが、今は別の場所が痛い。
筋肉痛だ。
俺の体はぷるぷるだから筋肉痛など起こるはずもないのに、人間姿になってシオンとあんなことや、こんなこと……もとい変な態勢を取っていた後遺症だろうか、あちこちが痛いのだ。
「くぅっ、痛いぞ。この、この~~~~っ」
ガイコツ剣士の手の平からすり抜けて、またぺちっと鎧に張り付いた。
「うん? どうして私が責められているんだ」
不思議そうに骨の首を傾げている。
「シオンに妙なことを教えたのはお前だろ~っ。よくも、よくも純粋無垢でかわいいシオンにあんなことを教えたなぁ!」
そのせいでシオンがあんなことやこんなことを……っ。
途中からタガが外れちゃったのか、シオンは止まらなかった。
気持ちは良かった……が、それ以上に恥ずかしい目に遭わされて、俺はもう何度も気絶寸前になったり、目をくるくる回したりと大変だった。
絶対にあんなのガイコツの入れ知恵に違いない。
ぎゅむぎゅむガイコツに張り付いていると、体を引っ張られた。引き剥がしてきたのは、シオンだった。
「あっ、何するんだシオン。離せぇ」
「相手は先生とはいえ、ちょっとくっつきすぎだから。あんたがくっつくのは、俺だけ」
「んなっ」
シオンときたら口が尖って、面白くないって顔している。これは、嫉妬というやつか。
暴れるべきか大人しくすべきか考えた末、俺は静かにシオンに抱えられるままになった。
そっとシオンの腕にぷるぷるの体を絡める。
「なるほど。それでルピンは私に攻撃を。そうか、なるほど」
何も言ってないのに、ガイコツ剣士はすべてを察したようだ。しきりに「なるほど」と口にしている。
「先生もルピンのこと心配していたのに、ごめんなさい。俺、どうしてもルピンと二人きりで話がしたくて」
「ふふ、気にするな。良かったなシオン。それからルピンも。おめでとう」
「うん」
ガイコツ剣士に祝福されて、俺とシオンはそろって顔を見合わせ、照れて瞳を伏せさせた。
***
ちょっと変わり者達が住むモンスターの村。
森の奥には小さな家がある。
勇者とスライムの暮らす家だ。
勇者とスライムは子分と親分でもあり、家族でもあり、恋人でもある。
二人の暮らすこじんまりとした小さな家の屋根は丸みを帯びた赤茶色の瓦屋根で、季節の花が咲く小道を通って玄関にたどり着くと、そこには手作りの木のプレートがかかっている。
かつては小さな子供が彫ったつたない文字だったプレートは以前の家と共に燃え落ちてなくなり、現在では大人の彫った美しい文字と装飾に変わっている。
それでもプレートに書かれている内容はそっくり同じだ。
『ようこそ。ぷるぷる注意』
END
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