5 / 6
5
しおりを挟む
ここは天国なのかな。
天国なせいか、とてもいい夢を見ている。それは長くて幸せな夢だ。
どんなものかというと、シオンの旅に連れられて行く夢だ。
シオンと旅に出るなんてそんなことあるはずないのにな。
生前の俺ってばどれだけあいつと旅がしたかったんだか。
夢だけど、体は全然動かない。ぷるぷるすらできなくて、シオンの体にぺちゃっと張り付いて、動けない。せっかく旅しているっていうのに。見たこともない景色が広がっているというのに。
それがちょっとだけ残念だ。
夢を見ているせいなのか、そのほとんどの記憶はハッキリしていないんだけど、時々シオンの声も聞こえてきた。
それが妙にこちらを心配しているような声なものだから、夢だと分かっているのににやにやするのを抑えられなかった。
ふふ、シオンはもっともっと俺に構うといいと思う。
俺は親分だぞ。
もっと、もっと大切にするといいぞ。
あーあ。何て素敵な夢なんだろう。
こんないい夢なら、もう醒めなくていいよ。
ふふふ。
***
「えへ、えへへ……」
「ルピン、ルピン……!」
「にゃはは、シオン~」
「ルピン、ルピン! 起きろよ!」
シオンの声が間近に聞こえてきて、パッチリと目を開ける。
「ふにゃっ……」
俺はシオンに抱きかかえられていた。
夢のせいなのか、バラバラになったはずの俺の体が元の大きさに戻っているではないか。
目を真っ赤にしたシオンがこちらを見下ろしていて、これまでになく鮮明な夢だ。
「夢なのに変なの……シオン、また大きくなったのか?」
俺の記憶の中のシオンよりも、もっと大きくなっていて驚いた。
人間ってどこまで大きくなるんだろう。
いつか家よりも大きくなるのかなぁ。
「良かった……ルピン……。俺のこと、ちゃんと覚えているんだな」
シオンが顔をくしゃっと歪めて泣き笑いのようになった。
あーあ。夢なのに泣いてるよ。
俺、シオンの泣いてる姿は見たくないんだって。
思わず、にゅうっと体を伸ばす。
おっ、ようやく体が動いた!
これまでの夢とは違って体が動くようになっている。
嬉しくなって、シオンのほっぺたを触って涙を拭ってやる。もちもちだったほっぺたが、ずいぶんスッキリとなっちゃってまあ。
「ずいぶんとリアルな感触だなぁ」
「夢じゃない。これは現実だ」
「え、え~? だって、俺、魔王にバラバラにされて死んだんだぜ。流石にあの状態で生きていられるわけないじゃんか」
はは、と笑うとシオンが辛そうに眉を下げた。
「俺もルピンは死んだと思っていた。でも、あの時わずかに残っていた体から再生が進んだのはルピンの持っている治癒の力のお陰なんじゃないかと思う。ゆっくりとだけど、少しずつ体が元の大きさになっていったんだ」
「ふぇぇ、そうなのか。俺、そんな状態になってたの」
あんな小さな欠片になった体から再生していくって、俺ってすごくないか?
ははは。
「あれから三年経った。その間ルピンはずっと死んだみたいに眠り続けていた。何度か目を開けていた時もあったけど、覚えてないか?」
三年……。
そりゃあシオンも成長するよなぁ。
そんなに経っていたなんて…びっくりだ。何だか現実味がない。
「うーん…。そういや、何か夢を見ていたみたいだけど。あれって現実だったのかなぁ。俺、シオンと旅していたんだ」
「それは夢じゃない。ルピンのこと懐に入れて、この三年ほど魔王を倒す旅に出ていた。先生も一緒に旅についてきてくれていたんだ」
「そうなのかぁ」
勇者とガイコツのモンスターが一緒に旅をするって、他の人間達は驚かなかったのだろうか。
あ、そんなことよりも……!
「お、お前。怪我はしていないのか。大丈夫なのか! 魔王にひどいことされなかったか!?」
魔王、と口にした瞬間シオンの雰囲気が一瞬ひゅっと変わった。黒いオーラっていうのかな。何かちょっとびくっとしてしまうような雰囲気になったのだ。
「シオン……?」
「ああ、あいつね。あいつがもうルピンの前に姿を現すことはないから安心して」
「もしかして、倒した、とか?」
「そう。ルピンは嫌だったかもしれないけど、倒したよ」
何と、シオンは魔王を倒してしまったのだ。
俺が眠っている間に……。
急展開すぎて、何もかもがびっくりだ。
「ルピンをあんな目に遭わせて、俺の両親も殺したあいつをどうしても許すことはできなかった。先生もそう。同じようにどうしても許せないって言ってついてきてくれたんだ」
瞳を細めて冷たい口調で話すシオンは少しだけ怖いと思った。でも……。
「俺さ、魔王が悪い奴だったってこと、もう知ってるから。シオンが危険な目に遭うのはヤダけど、倒したことに関してはダメだと思ってないから」
「良かった。俺、ルピンに嫌われたら嫌だった」
「馬鹿だなぁ。お前のこと嫌うわけないじゃんか」
成長と共にシオンはどんどん変わっていく。昔の面影はほんの少しだけだ。性格だってかなり変わったと思う。
それでも、どんなシオンだって俺にとっては子分で、大切であることに変わりはないのだ。
嫌うはずなどない。
「ありがとう……。それから、あの時はごめん。ルピンにひどいこと言って」
それはシオンが俺を置いて旅に出ようとしていた時のことを言っているのだと分かった。
『弱いから、一緒には行けない』って。
「あぁ、あれね。確かにあれはすごいショックだった。体が溶けて消えるかと思った」
「う、本当にごめん」
シオンが罪悪感で死にそうな表情になるから、慌てて言葉を続ける。
「でも、理由はちゃんと分かってるから。俺、体をバラバラにされてからも少しの間意識は残ってて、シオンの気持ちを聞いていたからさ。あんなこと言ったのは、俺のためだったんだろ?」
「うん。ルピンにはどうしても死んで欲しくなかった。生きていて欲しかったから」
ぎゅっとシオンによって強く抱き締められる。
ぐえ、ちょっとだけ苦しい。シオン、力が強くなったなぁ。
まあでも当然か。こんなに大きくなったんだもんな。
何だか照れてしまって、雰囲気を変えるために冗談を言ってみる。
「にゃはは、俺ってばシオンに愛されてるなぁ」
「そうだよ。俺、ルピンのこと愛してる。もうずっと前から」
ところが、シオンの思いもかけぬ切り返しを受けて俺の体は一部がぷるぷるんと弾けた。
「へ、えぇ? あ、あぁ」
それは親分としてってこと、だよな?
親分、愛してる。みたいな……。
ぽかんとしているとシオンが眉をひそめた。
「あのさ、ちゃんと分かってるか? 恋愛的な意味ってことだよ」
「ひえ」
再び、体がぷるるーんっと弾けた。あまりの衝撃に何だか体が溶けて落ちていきそうだ。
そんなこと言うなんて、どうしちゃったんだよシオン!?
「ま、待て待て。だって俺はお前の親分で、お前は俺の子分だ。そこに恋愛的な意味の好きっていうのは、並び立たないんじゃないかなぁ」
「そうかな? 親分と子分であり、家族で、恋人。俺は全部あってもいいんじゃないかと思う。全然おかしくなんかない」
「親分と子分、家族で、恋人……」
ぼんやりつぶやくと、体がだんだん熱くなってきた。
ぽーっとする。
そーか、俺ってシオンに愛されてたんだ。
へー、へー…!!
「そ、それはいいかもな。うん、悪くない」
だってそれは親分と子分でいたときよりも、もっともっとシオンとの絆が深くなるということだろう?
もう離れずずっと一緒ということだ。
そんなの素敵すぎるじゃないか。
「恋人、うんうん、それはいいな。じゃあこれからはそういうことで」
「ルピンって本当に分かってんのかな。恋人ってこういうことするんだけど」
シオンが顔を近づけてきて、俺の口にちゅっと唇を落っことしてきた。
重なった場所がぷるんっとする。
「あわ、あわわ……」
俺はびっくりしてしまって、体がでろでろと溶けてしまいそうになった。というか、一部は本当に溶けた。
「な、な、な……」
「分かった? 俺の好きはこういうのを含めての好きだから」
「あわ、あ、わ、わ……」
衝撃的すぎて「あ」と「わ」と「な」しかしゃべれなくなった。
ひたすらぷるんぷるんしているとシオンがぷっと吹き出した。
「ん、ルピンの恋愛遍歴が見えたわ。何か安心した」
「にゃ、にゃにい!?」
何が見えたのかは知らないが、とても失礼なことを思われたのは確かだ。年長者として、このままシオンを放っておくのは面白くなかった。
こうなったら、見てろ……!
久しぶりに体を人間姿に変化させる。
シオンの目の前に降り立つと、今度はこちらからやり返した。
目の前の唇に顔を寄せて、ちゅっと重ねてやったのだ。
シオンはかなり背が高くなっていたので、つま先を伸ばさなければならなかった。
紫色の瞳が真ん丸になって、驚愕に揺れた。それからシオンの頬が赤く染まっていく。
どうだ、と思ってにやにやしていたら頬にシオンの手が置かれた。
「ん……!?」
そしてもう一度、シオンの唇が落ちてきた。
角度を変えて、柔らかいそれが何度も、何度もくっついては離れていく。
「はわぁ……」
何だコレ、想定と違う。
予想ではシオンは顔を真っ赤にして、恥ずかしがって逃げ出すはずだったのだが。
実際はシオンの熱っぽい瞳がこちらに注がれていて、俺は目をくるくると回している。
これが人間の体に変身していなかったら、すっかり溶け落ちて消えていたかもしれない。
人間の体でもくにゃっとして膝から崩れ落ちそうになるところを、シオンが抱き締めることで支えてきた。
「いつまでも子供じゃないから。これから覚悟してろよ、ルピン」
そして何だか不穏なことを言ってきたのだった。
……ああ、俺の可愛かったシオンは一体どこに?
変わってしまったシオンに戸惑い、ほんのちょっぴり震え、これからもっと変わっていきそうな関係に……俺の胸は熱くなって、きゅうっと締め付けられるのだった。
天国なせいか、とてもいい夢を見ている。それは長くて幸せな夢だ。
どんなものかというと、シオンの旅に連れられて行く夢だ。
シオンと旅に出るなんてそんなことあるはずないのにな。
生前の俺ってばどれだけあいつと旅がしたかったんだか。
夢だけど、体は全然動かない。ぷるぷるすらできなくて、シオンの体にぺちゃっと張り付いて、動けない。せっかく旅しているっていうのに。見たこともない景色が広がっているというのに。
それがちょっとだけ残念だ。
夢を見ているせいなのか、そのほとんどの記憶はハッキリしていないんだけど、時々シオンの声も聞こえてきた。
それが妙にこちらを心配しているような声なものだから、夢だと分かっているのににやにやするのを抑えられなかった。
ふふ、シオンはもっともっと俺に構うといいと思う。
俺は親分だぞ。
もっと、もっと大切にするといいぞ。
あーあ。何て素敵な夢なんだろう。
こんないい夢なら、もう醒めなくていいよ。
ふふふ。
***
「えへ、えへへ……」
「ルピン、ルピン……!」
「にゃはは、シオン~」
「ルピン、ルピン! 起きろよ!」
シオンの声が間近に聞こえてきて、パッチリと目を開ける。
「ふにゃっ……」
俺はシオンに抱きかかえられていた。
夢のせいなのか、バラバラになったはずの俺の体が元の大きさに戻っているではないか。
目を真っ赤にしたシオンがこちらを見下ろしていて、これまでになく鮮明な夢だ。
「夢なのに変なの……シオン、また大きくなったのか?」
俺の記憶の中のシオンよりも、もっと大きくなっていて驚いた。
人間ってどこまで大きくなるんだろう。
いつか家よりも大きくなるのかなぁ。
「良かった……ルピン……。俺のこと、ちゃんと覚えているんだな」
シオンが顔をくしゃっと歪めて泣き笑いのようになった。
あーあ。夢なのに泣いてるよ。
俺、シオンの泣いてる姿は見たくないんだって。
思わず、にゅうっと体を伸ばす。
おっ、ようやく体が動いた!
これまでの夢とは違って体が動くようになっている。
嬉しくなって、シオンのほっぺたを触って涙を拭ってやる。もちもちだったほっぺたが、ずいぶんスッキリとなっちゃってまあ。
「ずいぶんとリアルな感触だなぁ」
「夢じゃない。これは現実だ」
「え、え~? だって、俺、魔王にバラバラにされて死んだんだぜ。流石にあの状態で生きていられるわけないじゃんか」
はは、と笑うとシオンが辛そうに眉を下げた。
「俺もルピンは死んだと思っていた。でも、あの時わずかに残っていた体から再生が進んだのはルピンの持っている治癒の力のお陰なんじゃないかと思う。ゆっくりとだけど、少しずつ体が元の大きさになっていったんだ」
「ふぇぇ、そうなのか。俺、そんな状態になってたの」
あんな小さな欠片になった体から再生していくって、俺ってすごくないか?
ははは。
「あれから三年経った。その間ルピンはずっと死んだみたいに眠り続けていた。何度か目を開けていた時もあったけど、覚えてないか?」
三年……。
そりゃあシオンも成長するよなぁ。
そんなに経っていたなんて…びっくりだ。何だか現実味がない。
「うーん…。そういや、何か夢を見ていたみたいだけど。あれって現実だったのかなぁ。俺、シオンと旅していたんだ」
「それは夢じゃない。ルピンのこと懐に入れて、この三年ほど魔王を倒す旅に出ていた。先生も一緒に旅についてきてくれていたんだ」
「そうなのかぁ」
勇者とガイコツのモンスターが一緒に旅をするって、他の人間達は驚かなかったのだろうか。
あ、そんなことよりも……!
「お、お前。怪我はしていないのか。大丈夫なのか! 魔王にひどいことされなかったか!?」
魔王、と口にした瞬間シオンの雰囲気が一瞬ひゅっと変わった。黒いオーラっていうのかな。何かちょっとびくっとしてしまうような雰囲気になったのだ。
「シオン……?」
「ああ、あいつね。あいつがもうルピンの前に姿を現すことはないから安心して」
「もしかして、倒した、とか?」
「そう。ルピンは嫌だったかもしれないけど、倒したよ」
何と、シオンは魔王を倒してしまったのだ。
俺が眠っている間に……。
急展開すぎて、何もかもがびっくりだ。
「ルピンをあんな目に遭わせて、俺の両親も殺したあいつをどうしても許すことはできなかった。先生もそう。同じようにどうしても許せないって言ってついてきてくれたんだ」
瞳を細めて冷たい口調で話すシオンは少しだけ怖いと思った。でも……。
「俺さ、魔王が悪い奴だったってこと、もう知ってるから。シオンが危険な目に遭うのはヤダけど、倒したことに関してはダメだと思ってないから」
「良かった。俺、ルピンに嫌われたら嫌だった」
「馬鹿だなぁ。お前のこと嫌うわけないじゃんか」
成長と共にシオンはどんどん変わっていく。昔の面影はほんの少しだけだ。性格だってかなり変わったと思う。
それでも、どんなシオンだって俺にとっては子分で、大切であることに変わりはないのだ。
嫌うはずなどない。
「ありがとう……。それから、あの時はごめん。ルピンにひどいこと言って」
それはシオンが俺を置いて旅に出ようとしていた時のことを言っているのだと分かった。
『弱いから、一緒には行けない』って。
「あぁ、あれね。確かにあれはすごいショックだった。体が溶けて消えるかと思った」
「う、本当にごめん」
シオンが罪悪感で死にそうな表情になるから、慌てて言葉を続ける。
「でも、理由はちゃんと分かってるから。俺、体をバラバラにされてからも少しの間意識は残ってて、シオンの気持ちを聞いていたからさ。あんなこと言ったのは、俺のためだったんだろ?」
「うん。ルピンにはどうしても死んで欲しくなかった。生きていて欲しかったから」
ぎゅっとシオンによって強く抱き締められる。
ぐえ、ちょっとだけ苦しい。シオン、力が強くなったなぁ。
まあでも当然か。こんなに大きくなったんだもんな。
何だか照れてしまって、雰囲気を変えるために冗談を言ってみる。
「にゃはは、俺ってばシオンに愛されてるなぁ」
「そうだよ。俺、ルピンのこと愛してる。もうずっと前から」
ところが、シオンの思いもかけぬ切り返しを受けて俺の体は一部がぷるぷるんと弾けた。
「へ、えぇ? あ、あぁ」
それは親分としてってこと、だよな?
親分、愛してる。みたいな……。
ぽかんとしているとシオンが眉をひそめた。
「あのさ、ちゃんと分かってるか? 恋愛的な意味ってことだよ」
「ひえ」
再び、体がぷるるーんっと弾けた。あまりの衝撃に何だか体が溶けて落ちていきそうだ。
そんなこと言うなんて、どうしちゃったんだよシオン!?
「ま、待て待て。だって俺はお前の親分で、お前は俺の子分だ。そこに恋愛的な意味の好きっていうのは、並び立たないんじゃないかなぁ」
「そうかな? 親分と子分であり、家族で、恋人。俺は全部あってもいいんじゃないかと思う。全然おかしくなんかない」
「親分と子分、家族で、恋人……」
ぼんやりつぶやくと、体がだんだん熱くなってきた。
ぽーっとする。
そーか、俺ってシオンに愛されてたんだ。
へー、へー…!!
「そ、それはいいかもな。うん、悪くない」
だってそれは親分と子分でいたときよりも、もっともっとシオンとの絆が深くなるということだろう?
もう離れずずっと一緒ということだ。
そんなの素敵すぎるじゃないか。
「恋人、うんうん、それはいいな。じゃあこれからはそういうことで」
「ルピンって本当に分かってんのかな。恋人ってこういうことするんだけど」
シオンが顔を近づけてきて、俺の口にちゅっと唇を落っことしてきた。
重なった場所がぷるんっとする。
「あわ、あわわ……」
俺はびっくりしてしまって、体がでろでろと溶けてしまいそうになった。というか、一部は本当に溶けた。
「な、な、な……」
「分かった? 俺の好きはこういうのを含めての好きだから」
「あわ、あ、わ、わ……」
衝撃的すぎて「あ」と「わ」と「な」しかしゃべれなくなった。
ひたすらぷるんぷるんしているとシオンがぷっと吹き出した。
「ん、ルピンの恋愛遍歴が見えたわ。何か安心した」
「にゃ、にゃにい!?」
何が見えたのかは知らないが、とても失礼なことを思われたのは確かだ。年長者として、このままシオンを放っておくのは面白くなかった。
こうなったら、見てろ……!
久しぶりに体を人間姿に変化させる。
シオンの目の前に降り立つと、今度はこちらからやり返した。
目の前の唇に顔を寄せて、ちゅっと重ねてやったのだ。
シオンはかなり背が高くなっていたので、つま先を伸ばさなければならなかった。
紫色の瞳が真ん丸になって、驚愕に揺れた。それからシオンの頬が赤く染まっていく。
どうだ、と思ってにやにやしていたら頬にシオンの手が置かれた。
「ん……!?」
そしてもう一度、シオンの唇が落ちてきた。
角度を変えて、柔らかいそれが何度も、何度もくっついては離れていく。
「はわぁ……」
何だコレ、想定と違う。
予想ではシオンは顔を真っ赤にして、恥ずかしがって逃げ出すはずだったのだが。
実際はシオンの熱っぽい瞳がこちらに注がれていて、俺は目をくるくると回している。
これが人間の体に変身していなかったら、すっかり溶け落ちて消えていたかもしれない。
人間の体でもくにゃっとして膝から崩れ落ちそうになるところを、シオンが抱き締めることで支えてきた。
「いつまでも子供じゃないから。これから覚悟してろよ、ルピン」
そして何だか不穏なことを言ってきたのだった。
……ああ、俺の可愛かったシオンは一体どこに?
変わってしまったシオンに戸惑い、ほんのちょっぴり震え、これからもっと変わっていきそうな関係に……俺の胸は熱くなって、きゅうっと締め付けられるのだった。
148
あなたにおすすめの小説
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
【連載版あり】「頭をなでてほしい」と、部下に要求された騎士団長の苦悩
ゆらり
BL
「頭をなでてほしい」と、人外レベルに強い無表情な新人騎士に要求されて、断り切れずに頭を撫で回したあげくに、深淵にはまり込んでしまう騎士団長のお話。リハビリ自家発電小説。一話完結です。
※加筆修正が加えられています。投稿初日とは誤差があります。ご了承ください。
悪役令息の兄って需要ありますか?
焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。
その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。
これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした
水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」
公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。
婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。
しかし、それは新たな人生の始まりだった。
前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。
そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。
共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。
だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。
彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。
一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。
これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。
痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる