スライムは敵であるはずの勇者を育ててしまったようです

倉くらの

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 ここは天国なのかな。
 天国なせいか、とてもいい夢を見ている。それは長くて幸せな夢だ。

 どんなものかというと、シオンの旅に連れられて行く夢だ。
 シオンと旅に出るなんてそんなことあるはずないのにな。
 生前の俺ってばどれだけあいつと旅がしたかったんだか。


 夢だけど、体は全然動かない。ぷるぷるすらできなくて、シオンの体にぺちゃっと張り付いて、動けない。せっかく旅しているっていうのに。見たこともない景色が広がっているというのに。
 それがちょっとだけ残念だ。

 夢を見ているせいなのか、そのほとんどの記憶はハッキリしていないんだけど、時々シオンの声も聞こえてきた。
 それが妙にこちらを心配しているような声なものだから、夢だと分かっているのににやにやするのを抑えられなかった。

 ふふ、シオンはもっともっと俺に構うといいと思う。

 俺は親分だぞ。
 もっと、もっと大切にするといいぞ。


 あーあ。何て素敵な夢なんだろう。
 こんないい夢なら、もう醒めなくていいよ。
 ふふふ。



***



「えへ、えへへ……」

「ルピン、ルピン……!」

「にゃはは、シオン~」

「ルピン、ルピン! 起きろよ!」

 シオンの声が間近に聞こえてきて、パッチリと目を開ける。

「ふにゃっ……」

 俺はシオンに抱きかかえられていた。
 夢のせいなのか、バラバラになったはずの俺の体が元の大きさに戻っているではないか。
 目を真っ赤にしたシオンがこちらを見下ろしていて、これまでになく鮮明な夢だ。

「夢なのに変なの……シオン、また大きくなったのか?」

 俺の記憶の中のシオンよりも、もっと大きくなっていて驚いた。
 人間ってどこまで大きくなるんだろう。
 いつか家よりも大きくなるのかなぁ。

「良かった……ルピン……。俺のこと、ちゃんと覚えているんだな」

 シオンが顔をくしゃっと歪めて泣き笑いのようになった。
 あーあ。夢なのに泣いてるよ。
 俺、シオンの泣いてる姿は見たくないんだって。

 思わず、にゅうっと体を伸ばす。
 おっ、ようやく体が動いた!
 これまでの夢とは違って体が動くようになっている。
 嬉しくなって、シオンのほっぺたを触って涙を拭ってやる。もちもちだったほっぺたが、ずいぶんスッキリとなっちゃってまあ。

「ずいぶんとリアルな感触だなぁ」

「夢じゃない。これは現実だ」

「え、え~? だって、俺、魔王にバラバラにされて死んだんだぜ。流石にあの状態で生きていられるわけないじゃんか」

 はは、と笑うとシオンが辛そうに眉を下げた。

「俺もルピンは死んだと思っていた。でも、あの時わずかに残っていた体から再生が進んだのはルピンの持っている治癒の力のお陰なんじゃないかと思う。ゆっくりとだけど、少しずつ体が元の大きさになっていったんだ」

「ふぇぇ、そうなのか。俺、そんな状態になってたの」

 あんな小さな欠片になった体から再生していくって、俺ってすごくないか?
 ははは。

「あれから三年経った。その間ルピンはずっと死んだみたいに眠り続けていた。何度か目を開けていた時もあったけど、覚えてないか?」

 三年……。

 そりゃあシオンも成長するよなぁ。
 そんなに経っていたなんて…びっくりだ。何だか現実味がない。

「うーん…。そういや、何か夢を見ていたみたいだけど。あれって現実だったのかなぁ。俺、シオンと旅していたんだ」

「それは夢じゃない。ルピンのこと懐に入れて、この三年ほど魔王を倒す旅に出ていた。先生も一緒に旅についてきてくれていたんだ」

「そうなのかぁ」

 勇者とガイコツのモンスターが一緒に旅をするって、他の人間達は驚かなかったのだろうか。
 あ、そんなことよりも……!

「お、お前。怪我はしていないのか。大丈夫なのか! 魔王にひどいことされなかったか!?」

 魔王、と口にした瞬間シオンの雰囲気が一瞬ひゅっと変わった。黒いオーラっていうのかな。何かちょっとびくっとしてしまうような雰囲気になったのだ。

「シオン……?」

「ああ、あいつね。あいつがもうルピンの前に姿を現すことはないから安心して」

「もしかして、倒した、とか?」

「そう。ルピンは嫌だったかもしれないけど、倒したよ」

 何と、シオンは魔王を倒してしまったのだ。
 俺が眠っている間に……。
 急展開すぎて、何もかもがびっくりだ。

「ルピンをあんな目に遭わせて、俺の両親も殺したあいつをどうしても許すことはできなかった。先生もそう。同じようにどうしても許せないって言ってついてきてくれたんだ」

 瞳を細めて冷たい口調で話すシオンは少しだけ怖いと思った。でも……。

「俺さ、魔王が悪い奴だったってこと、もう知ってるから。シオンが危険な目に遭うのはヤダけど、倒したことに関してはダメだと思ってないから」

「良かった。俺、ルピンに嫌われたら嫌だった」

「馬鹿だなぁ。お前のこと嫌うわけないじゃんか」

 成長と共にシオンはどんどん変わっていく。昔の面影はほんの少しだけだ。性格だってかなり変わったと思う。
 それでも、どんなシオンだって俺にとっては子分で、大切であることに変わりはないのだ。
 嫌うはずなどない。

「ありがとう……。それから、あの時はごめん。ルピンにひどいこと言って」

 それはシオンが俺を置いて旅に出ようとしていた時のことを言っているのだと分かった。
 『弱いから、一緒には行けない』って。

「あぁ、あれね。確かにあれはすごいショックだった。体が溶けて消えるかと思った」

「う、本当にごめん」

 シオンが罪悪感で死にそうな表情になるから、慌てて言葉を続ける。

「でも、理由はちゃんと分かってるから。俺、体をバラバラにされてからも少しの間意識は残ってて、シオンの気持ちを聞いていたからさ。あんなこと言ったのは、俺のためだったんだろ?」

「うん。ルピンにはどうしても死んで欲しくなかった。生きていて欲しかったから」

 ぎゅっとシオンによって強く抱き締められる。
 ぐえ、ちょっとだけ苦しい。シオン、力が強くなったなぁ。
 まあでも当然か。こんなに大きくなったんだもんな。
 何だか照れてしまって、雰囲気を変えるために冗談を言ってみる。

「にゃはは、俺ってばシオンに愛されてるなぁ」

「そうだよ。俺、ルピンのこと愛してる。もうずっと前から」

 ところが、シオンの思いもかけぬ切り返しを受けて俺の体は一部がぷるぷるんと弾けた。

「へ、えぇ? あ、あぁ」

 それは親分としてってこと、だよな?
 親分、愛してる。みたいな……。
 ぽかんとしているとシオンが眉をひそめた。

「あのさ、ちゃんと分かってるか? 恋愛的な意味ってことだよ」

「ひえ」

 再び、体がぷるるーんっと弾けた。あまりの衝撃に何だか体が溶けて落ちていきそうだ。
 そんなこと言うなんて、どうしちゃったんだよシオン!?

「ま、待て待て。だって俺はお前の親分で、お前は俺の子分だ。そこに恋愛的な意味の好きっていうのは、並び立たないんじゃないかなぁ」

「そうかな? 親分と子分であり、家族で、恋人。俺は全部あってもいいんじゃないかと思う。全然おかしくなんかない」

「親分と子分、家族で、恋人……」

 ぼんやりつぶやくと、体がだんだん熱くなってきた。
 ぽーっとする。
 そーか、俺ってシオンに愛されてたんだ。
 へー、へー…!!

「そ、それはいいかもな。うん、悪くない」

 だってそれは親分と子分でいたときよりも、もっともっとシオンとの絆が深くなるということだろう?
 もう離れずずっと一緒ということだ。
 そんなの素敵すぎるじゃないか。

「恋人、うんうん、それはいいな。じゃあこれからはそういうことで」

「ルピンって本当に分かってんのかな。恋人ってこういうことするんだけど」

 シオンが顔を近づけてきて、俺の口にちゅっと唇を落っことしてきた。
 重なった場所がぷるんっとする。

「あわ、あわわ……」

 俺はびっくりしてしまって、体がでろでろと溶けてしまいそうになった。というか、一部は本当に溶けた。

「な、な、な……」

「分かった? 俺の好きはこういうのを含めての好きだから」

「あわ、あ、わ、わ……」

 衝撃的すぎて「あ」と「わ」と「な」しかしゃべれなくなった。
 ひたすらぷるんぷるんしているとシオンがぷっと吹き出した。

「ん、ルピンの恋愛遍歴が見えたわ。何か安心した」

「にゃ、にゃにい!?」

 何が見えたのかは知らないが、とても失礼なことを思われたのは確かだ。年長者として、このままシオンを放っておくのは面白くなかった。

 こうなったら、見てろ……!

 久しぶりに体を人間姿に変化させる。
 シオンの目の前に降り立つと、今度はこちらからやり返した。
 目の前の唇に顔を寄せて、ちゅっと重ねてやったのだ。
 シオンはかなり背が高くなっていたので、つま先を伸ばさなければならなかった。

 紫色の瞳が真ん丸になって、驚愕に揺れた。それからシオンの頬が赤く染まっていく。
 どうだ、と思ってにやにやしていたら頬にシオンの手が置かれた。

「ん……!?」

 そしてもう一度、シオンの唇が落ちてきた。
 角度を変えて、柔らかいそれが何度も、何度もくっついては離れていく。

「はわぁ……」

 何だコレ、想定と違う。

 予想ではシオンは顔を真っ赤にして、恥ずかしがって逃げ出すはずだったのだが。
 実際はシオンの熱っぽい瞳がこちらに注がれていて、俺は目をくるくると回している。
 これが人間の体に変身していなかったら、すっかり溶け落ちて消えていたかもしれない。

 人間の体でもくにゃっとして膝から崩れ落ちそうになるところを、シオンが抱き締めることで支えてきた。

「いつまでも子供じゃないから。これから覚悟してろよ、ルピン」

 そして何だか不穏なことを言ってきたのだった。

 ……ああ、俺の可愛かったシオンは一体どこに?

 変わってしまったシオンに戸惑い、ほんのちょっぴり震え、これからもっと変わっていきそうな関係に……俺の胸は熱くなって、きゅうっと締め付けられるのだった。




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