転生したら悪役貴族だったので思い切って学園に行かずに旅人になることにしました

八条零

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第7話「黒髪の少女と、剣の気配」前半

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夜の宿場町ベネスは、昼間の喧騒が嘘のように静まっていた。
月明かりが石畳に滲み、街灯の火がかすかに揺れている。

その中で、アレクは一人の少女と対峙していた。

黒髪に、よく整えられた細剣。立ち姿は無駄がなく、眼差しは鋭い。
この町にふさわしくない――そう感じさせる雰囲気があった。

「あなた、旅人を装ってるけど……動きが違う。あの男を組み伏せたときの無駄のなさ。一般人の所作じゃない」

少女は淡々と言った。声の調子に無理な探りはない。まるで答えを確信しているかのように。

アレクは息を一つ吐き、問い返した。

「それを知って、君はどうする?」

「質問をしているのは私よ。あなたの素性を教えて。なぜこの町に来たのか、何を探っているのか」

言葉に剣気が宿る。だが、それはあくまで警告であって敵意ではないと、アレクは感じ取った。

「名乗るなら、そちらが先だろう。君は?」

「……クラリス。クラリス・メルヴィル」

アレクは眉をわずかに上げた。

「メルヴィル? あの、北方の自由傭兵団メルヴィルの?」

「元ね。今は個人で動いてる。名前を出すのは好きじゃないけど、必要なら言うわ」

アレクはわずかに口元を緩めた。

「クラリス。なるほど、剣の構えに無駄がないはずだ」

「褒めても何も出ないわよ。で、あなたは?」

「……アレクシス・ヴァルター。貴族の家を出て、今はただの旅人。何かを探してる」

「何を?」

「真実を。そして、自由を」

アレクの声には曇りがなかった。虚勢でも、誤魔化しでもない。
クラリスはその眼差しにしばし沈黙し、やがて剣の柄から手を離した。

「……信じるわ。今の言葉だけは」

アレクは小さく頷いた。

「君は、なぜこんな時間に俺を探していたんだ?」

クラリスは一拍置いて、真顔のまま言った。

「あなたと同じで、“戻らぬ村”のことを探ってる。……私の家族が、そこで消息を絶ったの」

その一言に、アレクの表情が少しだけ揺れた。

「君の家族が……?」

「父と兄。二人とも軍属だった。でも、ある任務を最後に、何の記録も残さず消えた。軍は“存在しなかった部隊だ”とさえ言った。だから私は、真実を知るために動いてる」

アレクはしばらく沈黙したまま、空を見上げる。

月の輪郭が淡く滲んでいた。

「……君と俺は、同じ方向を向いてるのかもしれないな」

クラリスは首をかしげる。

「あなたも、軍の隠蔽を追ってるの?」

「ある事件の真相を知るために旅をしている。その中に、“戻らぬ村”の名が出てきた。偶然じゃないだろう」

二人は、まるで図ったように、同時に視線を交わした。

そのとき、遠くから鐘の音が響いた。

非常鐘ではない。だが、どこか不穏な響きを帯びている。

「……宿の方だ。何か起きてる」

アレクは振り返る。クラリスもすでに剣を手にしていた。

「様子を見ましょう。今夜、何かが始まる気がする」

二人は夜の石畳を駆け出した。
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