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危機
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最悪のタイミングでバラしてしまった。
俺は未だかつてない程の自己嫌悪に陥っていた。大樹に不信感を与えないように、方法や時期を一所懸命考えていたのに。
あんなに怒っている大樹を見たのは初めてだった。あんなに冷酷な瞳は初めてだった。
あの場面で言うべき言葉ではなかったのに。
でも、大樹を苦しめたあの人達の仲間だと思われることが我慢できなかったんだ。
大樹は知らないと思うけれど吉岡さんは昔、雪人のところにもやってきた。雪人が事故に遭う少し前の話だ。大樹のお父さんの会社の秘書を名乗った後に大樹と別れるように迫った。
『大樹さんは行く行くは父親の会社を継がれる方です。あなたには何が出来るのですか?あなた達の関係が生み出すものは何もありません。大樹さんはご結婚され、跡継ぎをお作りになる義務があるのです』
『そんな…。……大樹はこのことについて何か言われているんですか?』
『はい、これはご両親のご意向ですので、当然ご本人もご両親に諭されています。このような遊びは止めてまともになれと。大樹さんは親思いの真面目な方ですからわかってくださるはずです』
そのとき俺は大樹の行動の原因がわかった気がした。
付き合っていくうちに俺は、大樹は恋愛対象が男性のみなのではないかと思うようになっていた。なのに大樹の周りに性的関係を匂わす女性がいる、勿論浮気されたときは悲しかったけれどそのことに違和感も持っていて。
俺は初恋が大樹で他の男女に性的興味を持ったことがないし、一生大樹しか好きにならないだろから「大樹が好き」としか言えないけど。
大樹は傷ついたんだ、両親から「まとも」じゃないと言われたことに。跡継ぎが作れない自分を否定されたことに。理想の息子になりたいと思うその心があの浮気に繋がったのではないのか、そんな気がした。だって浮気したくせに大樹がとても辛そうだったから。
大樹を傷つけた人たちへの怒りが沸き起こる。
『別れていただけるのでしたら、こちらもそれなりのものをご用意しております』
『…わかりましたなんて答えるわけがないでしょう?たわけですかあなたは!』
怒りに任せて初対面の相手に言うものではない言葉を浴びせると俺はこれ以上話すことはないとその場を去ったのだった。
取りあえず、大樹の部屋には少し日を空けてもう一度訪れようと考える。今の大樹は何を言っても聞いてくれそうもないから。俺はこれ以上なく沈んだ気持ちのまま数日を過ごした。
「神谷君、それはもうやっておいたから車両点検だけやっておいてくれるかな?」
「あ、ありがとうございます」
アルバイト最後の日、俺はにこやかで優しい杉山さんにあっけに取られていた。ロッカールームで揉めて以来メッセージも来なくなり、シフトも被らなかったので今日の杉山さんはどんな態度で接してくるのかと身構えていたところがあったから。
「神谷君に注意されて、俺も反省したんだ。神谷君ともっと仲良くなりたかったから気持ちが暴走してしまっていたこと気づいたんだ。悪かったね」
「いえ、俺の方こそ…」
こちらの方は解決しそうでほっとする。そしてまた落ち込んだ。
今日、大樹とあんなことがなければバイト終わりに迎えに来てくれて、一緒に帰れたのに…。
「じゃあ、神谷君いままでお疲れ様。またよかったら遊びに来てよ」
俺と店長と杉山さんが最後に残り、店の片付けを終えた。時計を見るといつもより終了時間が早かった。杉山さんが素早く作業をして俺の仕事までやってくれたから予定より仕事が早く終わったんだ。店長が店の鍵をかけ、最後に声をかけてくれた。俺もお礼を伝え、手を振りながら店長が帰るのを見送った。
杉山さんともこれでお別れだ。挨拶をして帰ろうとすると、突然杉山さんが腕で俺の首を絞め上げた。そして取り出した鍵で先ほど店長が閉めた店のドアを素早く開けると俺を店内に引きずり込んだ。
一瞬の出来事だった。
俺は未だかつてない程の自己嫌悪に陥っていた。大樹に不信感を与えないように、方法や時期を一所懸命考えていたのに。
あんなに怒っている大樹を見たのは初めてだった。あんなに冷酷な瞳は初めてだった。
あの場面で言うべき言葉ではなかったのに。
でも、大樹を苦しめたあの人達の仲間だと思われることが我慢できなかったんだ。
大樹は知らないと思うけれど吉岡さんは昔、雪人のところにもやってきた。雪人が事故に遭う少し前の話だ。大樹のお父さんの会社の秘書を名乗った後に大樹と別れるように迫った。
『大樹さんは行く行くは父親の会社を継がれる方です。あなたには何が出来るのですか?あなた達の関係が生み出すものは何もありません。大樹さんはご結婚され、跡継ぎをお作りになる義務があるのです』
『そんな…。……大樹はこのことについて何か言われているんですか?』
『はい、これはご両親のご意向ですので、当然ご本人もご両親に諭されています。このような遊びは止めてまともになれと。大樹さんは親思いの真面目な方ですからわかってくださるはずです』
そのとき俺は大樹の行動の原因がわかった気がした。
付き合っていくうちに俺は、大樹は恋愛対象が男性のみなのではないかと思うようになっていた。なのに大樹の周りに性的関係を匂わす女性がいる、勿論浮気されたときは悲しかったけれどそのことに違和感も持っていて。
俺は初恋が大樹で他の男女に性的興味を持ったことがないし、一生大樹しか好きにならないだろから「大樹が好き」としか言えないけど。
大樹は傷ついたんだ、両親から「まとも」じゃないと言われたことに。跡継ぎが作れない自分を否定されたことに。理想の息子になりたいと思うその心があの浮気に繋がったのではないのか、そんな気がした。だって浮気したくせに大樹がとても辛そうだったから。
大樹を傷つけた人たちへの怒りが沸き起こる。
『別れていただけるのでしたら、こちらもそれなりのものをご用意しております』
『…わかりましたなんて答えるわけがないでしょう?たわけですかあなたは!』
怒りに任せて初対面の相手に言うものではない言葉を浴びせると俺はこれ以上話すことはないとその場を去ったのだった。
取りあえず、大樹の部屋には少し日を空けてもう一度訪れようと考える。今の大樹は何を言っても聞いてくれそうもないから。俺はこれ以上なく沈んだ気持ちのまま数日を過ごした。
「神谷君、それはもうやっておいたから車両点検だけやっておいてくれるかな?」
「あ、ありがとうございます」
アルバイト最後の日、俺はにこやかで優しい杉山さんにあっけに取られていた。ロッカールームで揉めて以来メッセージも来なくなり、シフトも被らなかったので今日の杉山さんはどんな態度で接してくるのかと身構えていたところがあったから。
「神谷君に注意されて、俺も反省したんだ。神谷君ともっと仲良くなりたかったから気持ちが暴走してしまっていたこと気づいたんだ。悪かったね」
「いえ、俺の方こそ…」
こちらの方は解決しそうでほっとする。そしてまた落ち込んだ。
今日、大樹とあんなことがなければバイト終わりに迎えに来てくれて、一緒に帰れたのに…。
「じゃあ、神谷君いままでお疲れ様。またよかったら遊びに来てよ」
俺と店長と杉山さんが最後に残り、店の片付けを終えた。時計を見るといつもより終了時間が早かった。杉山さんが素早く作業をして俺の仕事までやってくれたから予定より仕事が早く終わったんだ。店長が店の鍵をかけ、最後に声をかけてくれた。俺もお礼を伝え、手を振りながら店長が帰るのを見送った。
杉山さんともこれでお別れだ。挨拶をして帰ろうとすると、突然杉山さんが腕で俺の首を絞め上げた。そして取り出した鍵で先ほど店長が閉めた店のドアを素早く開けると俺を店内に引きずり込んだ。
一瞬の出来事だった。
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