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chapter.1
オルエア遺跡にて
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遺跡に入るとすぐに、下へ向かう長い階段が続いていた。古い遺跡だ。灯りなどついているはずもなく、とても暗い。階段を下りるたびに、その音があちこちに反響している。
ローランドが持っていた道具袋の中からランプを取り出したヘカテを先頭に、一行は慎重にその階段を降りていた。僅かな光に照らされた壁面には、羽根の生えた人物や幻想的な風景が一面に描かれている。
「うわぁ……すげぇ……」
きょろきょろと周りを見渡しながら、ヴィルは感嘆の声を上げた。それを見て、シェスカは意外そうに目を丸くした。
「中には入ったことないの?」
「ああ、うん。入ってみたかったんだけど、いっつも灯り持ってくんの忘れちゃってさ」
あはは、と苦笑いを浮かべ、ヴィルはかりかりと頭を掻いた。シェスカは呆れたように溜め息を吐くと、壁画をじっと眺め始めた。その様子は、壁画から何かを探しているようだった。
「あ、そういえばシェスカは何で遺跡に来たかったんだ?」
「……手掛かりが、見つかるかなと思って」
彼女は壁画から視線を外さずに、小さく答えた。
「手掛かり? なんの?」
「……あなたには関係ないわよ」
シェスカは肩にかかった髪を払うと、前を歩くヘカテのほうへ声を掛けた。
「まだ質問に答えてもらってません」
「あら、どの質問かしら?」
「さっきの魔術についてよ。詠唱も媒介もなしで発動してたわ。それなのに、どうしてあなたは平気なんですか?」
「魔法ってそういうもんじゃないのか?」
ヴィルがそう口を挟むと、シェスカは眦を吊り上げて声を荒らげた。
「冗談じゃないわ! 『魔法』なんてあるわけがないのよ! 魔法は奇跡なの。そう簡単に起きるものじゃないわ!」
「どう違うのか、オレにはさっぱりわかんないんだけど……なぁ、ロー?」
「まぁ……うん。そうだね。──ひっ!?」
シェスカは二人をギロリと睨む。その鋭い眼光に思わず背筋が伸びる。
「全然違うわ。魔術には理論があるの。あ、どういうものかは聞かないで。口では説明しづらいから。
必要なものは二つ。まずは詠唱。詠唱は精霊との契約よ。私達の魔力を分け与える代わりに恩恵を与える、そういう契約。それがないと発動なんて無理。
もう一つは術の媒介。媒介は精霊の力をコントロールするために必要なものよ。自然界に干渉する力を無理矢理集めているから、生身の体のまま使ったりなんかしたら、コアが破裂しちゃうわ」
「《コア》って?」
「魔力の源。人間には心臓にあるわね」
ヴィルの質問にヘカテは簡潔に答えた。ヴィルは少し考えると、納得したようにぽんと手を叩いた。
「じゃあ、さっきの師匠は詠唱も媒介もナシに魔術を使ったのに、なんにも起こってないから変だってことか」
「ずっとそう言ってるでしょ」
どうやらこのヴィルという少年は、思っていたよりも少々バカなようだ。シェスカは軽くこめかみを押さえながら、一層深い溜め息を吐いた。
「媒介ならちゃんとあったわよ?」
ヘカテはそう言うと、シェスカに向かって小さな石を放り投げた。慌てて受け取ると、何かの鉱石のようだ。傾けてみると、光の加減によって色が変わる性質らしい。赤や青、紫に鈍く輝いている。その鉱石の中央部には、ぐるりと何か文字のようなものが彫り込まれていた。
「……魔石?」
「そ。予め術式と私の魔力が刻んであるから、詠唱不要で媒介もこれで充分ってわけ。ちなみに、一回しか出来ないから、それはもうただの石ころだけれど。……納得してくれたかしら?」
ヘカテは有無を言わせないような口調でそう言った。シェスカはまだ疑り深く魔石を眺めていたが、何を言っても無駄だと思ったのか、軽く肩を竦めてまた壁画を見つめることにしたようだ。
ヴィルはそんなシェスカの横顔が、どこか寂しげに見えた。
******
「ついたわ」
長い階段が終わり、しばらく何もない通路を歩くと、八角形のホール状になった大きな部屋に出た。細い柱に、何本もの蔦のような装飾が美しい曲線を描いている。天井部分にはどういう理屈かはわからないが、淡く青白い光を放つ無数の花がびっしりと生えており、ランプがなくとも明るくこの部屋を照らしていた。
「どこにも通路なんてないですよ?」
ぐるりと周りを調べてみたローランドは不思議そうに首を傾げた。ヴィルもシェスカも同じように調べてみたが、この部屋には何も変わったものなど見当たらない。
「隠されてるんだもの。そこの一箇所だけ花まみれの壁あるでしょ」
ヘカテに指差されたのは、入ってきた場所からほぼ正面にある壁だった。言われてみると、そこだけやたらと天井に生えている花と同じものが絡み付いていた。
「これ、扉か?」
ヴィルがあまり花を傷付けないように剥がすと、うっすらと壁に切れ込みのようなものが見えた。周りには何か文字が彫り込まれているが、何が書いてあるのかさっぱりだ。
「エルフ語よ。この遺跡はエルフ族のものだから」
シェスカはヴィルの横から壁の文字を指でなぞった。
「読めるのか?」
「簡単なものなら読めるけど、これはさっぱりね。エルフ語の中でも古い言葉みたい」
「そっか……」
ヴィルはシェスカのほうを向こうとした。が、思わず止まってしまう。意外と顔が近かったのだ。長い睫毛に形のよい眉、少し乾燥しているが、桜色の唇。意志の強そうなアッシュグレイの瞳は、今はエルフの文字に釘付けだ。
彼は少し居心地が悪そうに、また体をもとの向きに戻すしかなかった。
「先生」
ローランドは静かにヘカテに問いかけた。扉の近くにいる二人は、エルフ語の解読に必死で気付いていないだろう。
「どうしてさっき嘘を吐いたんです?」
「あら、何のこと?」
ヘカテはなんでもないような様子で答えた。彼はシェスカと同じように、先程の説明に納得がいかなかったのだ。彼女にあの魔石をじっくりと見せてもらい、さらに確信した。
「あれ、ただの石ころじゃないですか。魔石なんかじゃない」
「ああ、バレた?」
「当然です。オレが作ったんですから」
あの石に塗られていたのは、特殊な塗料だ。光の量や角度で色が変わるように作られている。もとは近所の子供を喜ばせるためにローランドが作ったものだ。
「さっき水晶で話してたことと、何か関係があるんですか?」
ローランドは師を尊敬している。だが、彼女の秘密主義は少し苦手だ。
ヘカテは何も答えない。
長い沈黙が訪れた。聞こえてくるのは、ヴィルとシェスカの話す声だけだ。
「可能性の話はあまり好きじゃないんだけど」
ヘカテはぽつり、と零した。誰に言っているわけではない、独り言のように。
視線の先には、扉を無理矢理開けれないかと試しているヴィルと、それを止めようとするシェスカ。
「もしかしたら、…………なんて、都合がいいわよね」
「先生?」
こちらからは彼女の表情は見えない。ローランドは普段の彼女らしからぬ雰囲気に首を傾げた。
ヘカテはしばらく二人を眺めていたが、眼鏡の位置をくいっと直すと、いつものように不遜な態度を全開にヴィルらに歩み寄っていった。
「ほらどきなさいそこの馬鹿。そんな無茶な開き方するワケないでしょうが」
「じゃあどうやったら開くんだよ?」
「合い言葉があるのよ」
ヘカテがおもむろに扉上部の花をどけると、そこには三日月のようなマークが刻まれていた。
「月……?」
「つまり、これを言えばいいってこと?」
ヘカテが頷く。シェスカは扉に手を触れると、すうと息を吸い込んだ。
『イシル』
がこん! と何かが外れる音がした。扉は中央から二つに分かれ、そのままゆっくりと、岩のこすれる音を響かせながら開いていく。
「おおお!」
ヴィルは目をきらきらさせながら開いていく扉をぺちぺちと叩いてみた。どういう仕組みかはわからない。しかし一錬金術師としては、知的好奇心がものすごくくすぐられる。
「この道をずっとまっすぐ行けば、適当な街に出られるはずよ。そこからアメリを目指すといいわ。ただ、魔物がいるかもしれないから充分気をつけなさい」
「ええ、わかったわ。ありがとうございます」
シェスカは軽く会釈をすると、扉の向こうへ足を踏み入れた。ひやりとした風が肩を撫でる。
「あ、そうそうコレ餞別ね。今度からはお代もらうわよ」
ヘカテはそう言うと、ローランドの持っていた袋をひったくると、彼女のほうへ放り投げた。危うく落としそうになるが、なんとか受け取る。どうやらヘカテは物を投げるのが癖のようだ。中を見ると、様々な道具や薬が入っていた。
「先生、このために持ってきてたんですか?」
「いいえ。たまたま」
ヘカテはしれっと言う。
「じゃあね、ヴィル。ここでお別れね」
シェスカはくるりと身を翻すと、ヴィルに向かって微笑んだ。
「ちょっと……じゃないわね。かなり頼りなかったけど、戻ってきてくれた時、ちょっと嬉しかった。ありがと」
「あ、ううん。オレのほうこそ……」
ありがとう。そう言おうとしたときだ。
カシャン、カシャン。
金属が擦れる音がした。足音のようだ。それに続いて、引きずるような音や床を爪で引っ掻くような音。おそらく、通路の入り口近くまで来ている。
「まさか、あいつら……!?」
「ここの扉を閉めて封印するわ。早く行きなさい」
扉の横に手を当て、ヘカテは素早く何かを唱えた。すると、先程と同じような音を立てながら、ゆっくりと扉が閉まっていく。
「ねぇ、ここずっと一本道だったわ!」
「それが何かしら?」
「逃げ場がないってことじゃない! もしあいつらがこの狭い中に魔物を大量に連れてきたらどうするの!?」
それも、あいつらの連れている魔物は少し特殊だ。急所を突くか、完全に細切れにするか消し炭にするか…そのくらいしか倒す術がないのだ。
「そういえば……!」
「どうするんだよ師匠!?」
シェスカのその言葉に、ヴィルとローランドは動揺を隠せない。シェスカはぐっと唇を噛み締めると、まだほとんど閉まりきっていない扉から身を乗り出した。ヘカテはそれを冷ややかな瞳で見つめる。
「何してるの? 早く行きなさいな」
「戦力は必要でしょ。戦うわ。あいつらが来るってことはさっきの人たちはやられたってことじゃない」
シェスカはそう言うと、腰に提げた鞘から剣を引き抜いて構えた。足音はどんどん近付いてきている。
彼女はざっとここにいる人物を見渡した。剣を持っているのは、自分と共に行動していたヴィルだけだった。確かに彼は剣を扱えはするが、あの凶暴な魔物たちが相手となると、心許ない。
彼の師匠であるらしいヘカテは、腰にじゃらじゃらと実験機材のようなものをぶら下げているが、それ以外武器になりそうなものもない。ヴィルの兄弟子のローランド青年に至ってはまったくの丸腰だ。
あまりにも無防備すぎる。本能は、彼らを置いて逃げろと喧しく主張し続けているが、彼女はそれを振り切って前を見据えた。
「アンタの目的はなんなの? ここで私達とのたれ死ぬこと?」
「……違うわ。あいつらの思い通りにさせないことよ」
「……なるほどね」
そう呟くと、ヘカテはシェスカの耳に唇を寄せて小さく告げる。
「できるだけ『アンタ』の意思に従ってあげるつもりだっだんだけど、それだけは叶えてやれないわね」
「……!? あなた、私のこと知って……!?」
シェスカが目を見開いた隙に、ヘカテは彼女を扉の中へ突き飛ばした。
「シェスカ!?」
二人の間に何があったのか聞こえていなかったヴィルは、唐突に突き飛ばされたシェスカに驚いて、思わず駆け寄ろうとした。
すると、突き飛ばした張本人であり、彼の師でもあるヘカテは、何かを思いついたらしく、ぽんと両手を叩いた。
「そうね、アンタもついでに行ってきなさいな」
「は? ……って、おわ!?」
後ろから思い切り蹴られ、ヴィルはそのまま扉の中へ転がり込んだ。無理に突っ込んだせいで、扉の角にあちこちをぶつけたようだ。いってぇ……という声が無意識に零れる。
「なにすんだよ! 師匠!!」
「世界を見るのも研究の一環ってことでどう?」
「そういうこと聞いてんじゃねーし!!」
そう言い合っているうちに、扉の隙間は更にその幅を狭めていく。
「あ、そうそう。その扉閉まったら、そっちから開かないようになってるから」
「ちょっと! ヴィルは関係ないでしょ! それにそうなってるならあなたたちも早くこっちに……!!」
「それはできない相談ね。あぁ、ロー。行くなら今のうちよ?」
ヘカテは肩を竦めて不敵に笑うと、くるりと二人に背を向けた。扉は人ひとりがようやく通れるほどにまで閉まっている。小柄なローランドならまだギリギリ間に合うだろう。
「先生! どういうつもりですか!?」
「どうもこうも、見た通りだけど」
ローランドはヘカテの真意を探るべく、彼女の赤い瞳をじっと見つめた。彼女以外に見たことのない赤は、相変わらず神秘的な色を称えているだけだ。
ヘカテはそれ以上答える気はないようで、ただ涼やかな笑みを浮かべている。そうこうしているうちに、扉はもうほとんど閉まっていた。細い隙間から、必死な顔をしたヴィルと目が合った。
「師匠!! ローランド!!」
もう人も通れないほどに狭くなった隙間に、ヴィルは手を伸ばす。無駄だとはわかっているが、そうせずにはいられなかった。
「アメリのルシフェルよ。忘れないで。それからヴィル」
ヘカテは振り返らずに口を開いた。その表情は全く見えない。しかし、その声は確かに笑っていた。
何故彼女が笑っているのか、この場の誰にもわからない。ただ、何かの希望に満ち溢れていた。
「世界から目をそらさずに、真理を見つけなさい!」
扉は、大きな音を立てて、完全に閉まった。
******
「行かなくてよかったの、ロー?」
ヘカテは自分の横から動かなかったローランドにそう声を掛けた。彼のハシバミ色の瞳はまっすぐに彼女を見据えている。
「先生ひとり置いてけるわけないじゃないですか。生活力皆無でしょ」
「あっはははは! そうだったわね!」
ヘカテは愉快そうに笑う。
「それよりちゃんと事情、説明してくれるんですよね?」
「そうね。帰ったらちゃんと説明するわね。アンタにもちょっと関係ある話だし」
足音がすぐ近くに聞こえる。もうすぐそこだ。
ヘカテは笑みを深くすると、魔術の詠唱を始める。ローランドはやれやれと肩をすくめ、部屋の入り口へと駆け出した。
******
「師匠!! ローランド!!」
どんどんと、もはや石の壁になった扉が鈍い音を響かせる。何度叩いても、殴っても、まったくびくともしない。
外の音が聞こえるか試してもみたが、それも無駄な努力なようで、自分たちの息づかい以外は何も聞こえなかった。
「退いて!」
その声に振り返ると、いつの間にか魔法を詠唱し終わっていたシェスカが、その剣の切っ先を扉に向けていた。
足下に収束している魔方陣の光が、暗い通路から彼女を浮かび上がらせている。
『砕け! 《グレイヴ》!!』
地面から土の塊が槍のように迫り出てきた。不釣り合いな轟音を立てて扉へとぶつかる。
もうもうと立ちこめる土煙に思わずむせ込みながら、道具袋に入っていたランプで扉を照らした。
「やったか!?」
土煙がゆっくりと晴れていく。
──扉には、一切傷がついていなかった。
「ダメね。結界だわ。びくともしない」
シェスカはまじまじと扉を見つめる。まったくの無傷に彼女のプライドが少し傷ついたようだ。また魔法を詠唱してぶつける。
そうしてしばらく、どうにかして扉を開けようと奮闘していた彼女だったが、さすがに疲れたらしく、肩で息をしながらぺたんと座り込んでしまった。
「大丈夫か?」
「へ、平気よ……」
明らかに平気そうじゃない。
ヴィルは腰のポーチの一つから水筒を取り出すと、彼女に差し出した。シェスカは素直にそれを受け取る。
「やっぱりダメ。結界が強すぎるわ」
「そっか……」
ヴィルはそっと扉に手を触れてみた。手袋越しに冷たい石の感触が伝わる。 ヘカテやローランドは無事だろうか。それだけじゃない。さっきのジブリールの二人も気になる。
ヴィルの脳内に最悪の結果が浮かぶ。彼はそれを振り払うように、ぶるぶると頭をふった。
「……私のせいだわ」
静かな通路に、ぽつりとシェスカの声が響く。
彼女は俯いて、ただ水筒を指先が白くなるほど握りしめていた。
「なぁ、シェスカ。話してくれないかな、きみのこと」
こんなことになったのも、元はといえばシェスカと出会ってからだ。彼女はあの変な魔物のことも、フードの二人組のことも知っているようだった。それに、ずっと気になっていたこともある。
ぴくり、と彼女の肩が揺れた。ゆっくり顔を上げたシェスカの表情はとても悲しげだ。そんな顔を見られたくないのか、彼女はまた俯いてしまう。
ヴィルは彼女の目線に合わせるように、シェスカの隣へ腰を下ろした。
「……話すわ、全部。ここまで巻き込んじゃったんだもの。あなたには聞く権利があるわ」
彼女はヴィルに全く口を付けていない水筒を返すと、再び顔を上げた。
シェスカの瞳には先程までの暗さはなく、ただ真っ直ぐにヴィルを見据えていた。
「半年くらい前かしら。私がお世話になってた村にね、あいつらが来たの」
シェスカは少し考えてから、そう切り出した。
ローランドが持っていた道具袋の中からランプを取り出したヘカテを先頭に、一行は慎重にその階段を降りていた。僅かな光に照らされた壁面には、羽根の生えた人物や幻想的な風景が一面に描かれている。
「うわぁ……すげぇ……」
きょろきょろと周りを見渡しながら、ヴィルは感嘆の声を上げた。それを見て、シェスカは意外そうに目を丸くした。
「中には入ったことないの?」
「ああ、うん。入ってみたかったんだけど、いっつも灯り持ってくんの忘れちゃってさ」
あはは、と苦笑いを浮かべ、ヴィルはかりかりと頭を掻いた。シェスカは呆れたように溜め息を吐くと、壁画をじっと眺め始めた。その様子は、壁画から何かを探しているようだった。
「あ、そういえばシェスカは何で遺跡に来たかったんだ?」
「……手掛かりが、見つかるかなと思って」
彼女は壁画から視線を外さずに、小さく答えた。
「手掛かり? なんの?」
「……あなたには関係ないわよ」
シェスカは肩にかかった髪を払うと、前を歩くヘカテのほうへ声を掛けた。
「まだ質問に答えてもらってません」
「あら、どの質問かしら?」
「さっきの魔術についてよ。詠唱も媒介もなしで発動してたわ。それなのに、どうしてあなたは平気なんですか?」
「魔法ってそういうもんじゃないのか?」
ヴィルがそう口を挟むと、シェスカは眦を吊り上げて声を荒らげた。
「冗談じゃないわ! 『魔法』なんてあるわけがないのよ! 魔法は奇跡なの。そう簡単に起きるものじゃないわ!」
「どう違うのか、オレにはさっぱりわかんないんだけど……なぁ、ロー?」
「まぁ……うん。そうだね。──ひっ!?」
シェスカは二人をギロリと睨む。その鋭い眼光に思わず背筋が伸びる。
「全然違うわ。魔術には理論があるの。あ、どういうものかは聞かないで。口では説明しづらいから。
必要なものは二つ。まずは詠唱。詠唱は精霊との契約よ。私達の魔力を分け与える代わりに恩恵を与える、そういう契約。それがないと発動なんて無理。
もう一つは術の媒介。媒介は精霊の力をコントロールするために必要なものよ。自然界に干渉する力を無理矢理集めているから、生身の体のまま使ったりなんかしたら、コアが破裂しちゃうわ」
「《コア》って?」
「魔力の源。人間には心臓にあるわね」
ヴィルの質問にヘカテは簡潔に答えた。ヴィルは少し考えると、納得したようにぽんと手を叩いた。
「じゃあ、さっきの師匠は詠唱も媒介もナシに魔術を使ったのに、なんにも起こってないから変だってことか」
「ずっとそう言ってるでしょ」
どうやらこのヴィルという少年は、思っていたよりも少々バカなようだ。シェスカは軽くこめかみを押さえながら、一層深い溜め息を吐いた。
「媒介ならちゃんとあったわよ?」
ヘカテはそう言うと、シェスカに向かって小さな石を放り投げた。慌てて受け取ると、何かの鉱石のようだ。傾けてみると、光の加減によって色が変わる性質らしい。赤や青、紫に鈍く輝いている。その鉱石の中央部には、ぐるりと何か文字のようなものが彫り込まれていた。
「……魔石?」
「そ。予め術式と私の魔力が刻んであるから、詠唱不要で媒介もこれで充分ってわけ。ちなみに、一回しか出来ないから、それはもうただの石ころだけれど。……納得してくれたかしら?」
ヘカテは有無を言わせないような口調でそう言った。シェスカはまだ疑り深く魔石を眺めていたが、何を言っても無駄だと思ったのか、軽く肩を竦めてまた壁画を見つめることにしたようだ。
ヴィルはそんなシェスカの横顔が、どこか寂しげに見えた。
******
「ついたわ」
長い階段が終わり、しばらく何もない通路を歩くと、八角形のホール状になった大きな部屋に出た。細い柱に、何本もの蔦のような装飾が美しい曲線を描いている。天井部分にはどういう理屈かはわからないが、淡く青白い光を放つ無数の花がびっしりと生えており、ランプがなくとも明るくこの部屋を照らしていた。
「どこにも通路なんてないですよ?」
ぐるりと周りを調べてみたローランドは不思議そうに首を傾げた。ヴィルもシェスカも同じように調べてみたが、この部屋には何も変わったものなど見当たらない。
「隠されてるんだもの。そこの一箇所だけ花まみれの壁あるでしょ」
ヘカテに指差されたのは、入ってきた場所からほぼ正面にある壁だった。言われてみると、そこだけやたらと天井に生えている花と同じものが絡み付いていた。
「これ、扉か?」
ヴィルがあまり花を傷付けないように剥がすと、うっすらと壁に切れ込みのようなものが見えた。周りには何か文字が彫り込まれているが、何が書いてあるのかさっぱりだ。
「エルフ語よ。この遺跡はエルフ族のものだから」
シェスカはヴィルの横から壁の文字を指でなぞった。
「読めるのか?」
「簡単なものなら読めるけど、これはさっぱりね。エルフ語の中でも古い言葉みたい」
「そっか……」
ヴィルはシェスカのほうを向こうとした。が、思わず止まってしまう。意外と顔が近かったのだ。長い睫毛に形のよい眉、少し乾燥しているが、桜色の唇。意志の強そうなアッシュグレイの瞳は、今はエルフの文字に釘付けだ。
彼は少し居心地が悪そうに、また体をもとの向きに戻すしかなかった。
「先生」
ローランドは静かにヘカテに問いかけた。扉の近くにいる二人は、エルフ語の解読に必死で気付いていないだろう。
「どうしてさっき嘘を吐いたんです?」
「あら、何のこと?」
ヘカテはなんでもないような様子で答えた。彼はシェスカと同じように、先程の説明に納得がいかなかったのだ。彼女にあの魔石をじっくりと見せてもらい、さらに確信した。
「あれ、ただの石ころじゃないですか。魔石なんかじゃない」
「ああ、バレた?」
「当然です。オレが作ったんですから」
あの石に塗られていたのは、特殊な塗料だ。光の量や角度で色が変わるように作られている。もとは近所の子供を喜ばせるためにローランドが作ったものだ。
「さっき水晶で話してたことと、何か関係があるんですか?」
ローランドは師を尊敬している。だが、彼女の秘密主義は少し苦手だ。
ヘカテは何も答えない。
長い沈黙が訪れた。聞こえてくるのは、ヴィルとシェスカの話す声だけだ。
「可能性の話はあまり好きじゃないんだけど」
ヘカテはぽつり、と零した。誰に言っているわけではない、独り言のように。
視線の先には、扉を無理矢理開けれないかと試しているヴィルと、それを止めようとするシェスカ。
「もしかしたら、…………なんて、都合がいいわよね」
「先生?」
こちらからは彼女の表情は見えない。ローランドは普段の彼女らしからぬ雰囲気に首を傾げた。
ヘカテはしばらく二人を眺めていたが、眼鏡の位置をくいっと直すと、いつものように不遜な態度を全開にヴィルらに歩み寄っていった。
「ほらどきなさいそこの馬鹿。そんな無茶な開き方するワケないでしょうが」
「じゃあどうやったら開くんだよ?」
「合い言葉があるのよ」
ヘカテがおもむろに扉上部の花をどけると、そこには三日月のようなマークが刻まれていた。
「月……?」
「つまり、これを言えばいいってこと?」
ヘカテが頷く。シェスカは扉に手を触れると、すうと息を吸い込んだ。
『イシル』
がこん! と何かが外れる音がした。扉は中央から二つに分かれ、そのままゆっくりと、岩のこすれる音を響かせながら開いていく。
「おおお!」
ヴィルは目をきらきらさせながら開いていく扉をぺちぺちと叩いてみた。どういう仕組みかはわからない。しかし一錬金術師としては、知的好奇心がものすごくくすぐられる。
「この道をずっとまっすぐ行けば、適当な街に出られるはずよ。そこからアメリを目指すといいわ。ただ、魔物がいるかもしれないから充分気をつけなさい」
「ええ、わかったわ。ありがとうございます」
シェスカは軽く会釈をすると、扉の向こうへ足を踏み入れた。ひやりとした風が肩を撫でる。
「あ、そうそうコレ餞別ね。今度からはお代もらうわよ」
ヘカテはそう言うと、ローランドの持っていた袋をひったくると、彼女のほうへ放り投げた。危うく落としそうになるが、なんとか受け取る。どうやらヘカテは物を投げるのが癖のようだ。中を見ると、様々な道具や薬が入っていた。
「先生、このために持ってきてたんですか?」
「いいえ。たまたま」
ヘカテはしれっと言う。
「じゃあね、ヴィル。ここでお別れね」
シェスカはくるりと身を翻すと、ヴィルに向かって微笑んだ。
「ちょっと……じゃないわね。かなり頼りなかったけど、戻ってきてくれた時、ちょっと嬉しかった。ありがと」
「あ、ううん。オレのほうこそ……」
ありがとう。そう言おうとしたときだ。
カシャン、カシャン。
金属が擦れる音がした。足音のようだ。それに続いて、引きずるような音や床を爪で引っ掻くような音。おそらく、通路の入り口近くまで来ている。
「まさか、あいつら……!?」
「ここの扉を閉めて封印するわ。早く行きなさい」
扉の横に手を当て、ヘカテは素早く何かを唱えた。すると、先程と同じような音を立てながら、ゆっくりと扉が閉まっていく。
「ねぇ、ここずっと一本道だったわ!」
「それが何かしら?」
「逃げ場がないってことじゃない! もしあいつらがこの狭い中に魔物を大量に連れてきたらどうするの!?」
それも、あいつらの連れている魔物は少し特殊だ。急所を突くか、完全に細切れにするか消し炭にするか…そのくらいしか倒す術がないのだ。
「そういえば……!」
「どうするんだよ師匠!?」
シェスカのその言葉に、ヴィルとローランドは動揺を隠せない。シェスカはぐっと唇を噛み締めると、まだほとんど閉まりきっていない扉から身を乗り出した。ヘカテはそれを冷ややかな瞳で見つめる。
「何してるの? 早く行きなさいな」
「戦力は必要でしょ。戦うわ。あいつらが来るってことはさっきの人たちはやられたってことじゃない」
シェスカはそう言うと、腰に提げた鞘から剣を引き抜いて構えた。足音はどんどん近付いてきている。
彼女はざっとここにいる人物を見渡した。剣を持っているのは、自分と共に行動していたヴィルだけだった。確かに彼は剣を扱えはするが、あの凶暴な魔物たちが相手となると、心許ない。
彼の師匠であるらしいヘカテは、腰にじゃらじゃらと実験機材のようなものをぶら下げているが、それ以外武器になりそうなものもない。ヴィルの兄弟子のローランド青年に至ってはまったくの丸腰だ。
あまりにも無防備すぎる。本能は、彼らを置いて逃げろと喧しく主張し続けているが、彼女はそれを振り切って前を見据えた。
「アンタの目的はなんなの? ここで私達とのたれ死ぬこと?」
「……違うわ。あいつらの思い通りにさせないことよ」
「……なるほどね」
そう呟くと、ヘカテはシェスカの耳に唇を寄せて小さく告げる。
「できるだけ『アンタ』の意思に従ってあげるつもりだっだんだけど、それだけは叶えてやれないわね」
「……!? あなた、私のこと知って……!?」
シェスカが目を見開いた隙に、ヘカテは彼女を扉の中へ突き飛ばした。
「シェスカ!?」
二人の間に何があったのか聞こえていなかったヴィルは、唐突に突き飛ばされたシェスカに驚いて、思わず駆け寄ろうとした。
すると、突き飛ばした張本人であり、彼の師でもあるヘカテは、何かを思いついたらしく、ぽんと両手を叩いた。
「そうね、アンタもついでに行ってきなさいな」
「は? ……って、おわ!?」
後ろから思い切り蹴られ、ヴィルはそのまま扉の中へ転がり込んだ。無理に突っ込んだせいで、扉の角にあちこちをぶつけたようだ。いってぇ……という声が無意識に零れる。
「なにすんだよ! 師匠!!」
「世界を見るのも研究の一環ってことでどう?」
「そういうこと聞いてんじゃねーし!!」
そう言い合っているうちに、扉の隙間は更にその幅を狭めていく。
「あ、そうそう。その扉閉まったら、そっちから開かないようになってるから」
「ちょっと! ヴィルは関係ないでしょ! それにそうなってるならあなたたちも早くこっちに……!!」
「それはできない相談ね。あぁ、ロー。行くなら今のうちよ?」
ヘカテは肩を竦めて不敵に笑うと、くるりと二人に背を向けた。扉は人ひとりがようやく通れるほどにまで閉まっている。小柄なローランドならまだギリギリ間に合うだろう。
「先生! どういうつもりですか!?」
「どうもこうも、見た通りだけど」
ローランドはヘカテの真意を探るべく、彼女の赤い瞳をじっと見つめた。彼女以外に見たことのない赤は、相変わらず神秘的な色を称えているだけだ。
ヘカテはそれ以上答える気はないようで、ただ涼やかな笑みを浮かべている。そうこうしているうちに、扉はもうほとんど閉まっていた。細い隙間から、必死な顔をしたヴィルと目が合った。
「師匠!! ローランド!!」
もう人も通れないほどに狭くなった隙間に、ヴィルは手を伸ばす。無駄だとはわかっているが、そうせずにはいられなかった。
「アメリのルシフェルよ。忘れないで。それからヴィル」
ヘカテは振り返らずに口を開いた。その表情は全く見えない。しかし、その声は確かに笑っていた。
何故彼女が笑っているのか、この場の誰にもわからない。ただ、何かの希望に満ち溢れていた。
「世界から目をそらさずに、真理を見つけなさい!」
扉は、大きな音を立てて、完全に閉まった。
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「行かなくてよかったの、ロー?」
ヘカテは自分の横から動かなかったローランドにそう声を掛けた。彼のハシバミ色の瞳はまっすぐに彼女を見据えている。
「先生ひとり置いてけるわけないじゃないですか。生活力皆無でしょ」
「あっはははは! そうだったわね!」
ヘカテは愉快そうに笑う。
「それよりちゃんと事情、説明してくれるんですよね?」
「そうね。帰ったらちゃんと説明するわね。アンタにもちょっと関係ある話だし」
足音がすぐ近くに聞こえる。もうすぐそこだ。
ヘカテは笑みを深くすると、魔術の詠唱を始める。ローランドはやれやれと肩をすくめ、部屋の入り口へと駆け出した。
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「師匠!! ローランド!!」
どんどんと、もはや石の壁になった扉が鈍い音を響かせる。何度叩いても、殴っても、まったくびくともしない。
外の音が聞こえるか試してもみたが、それも無駄な努力なようで、自分たちの息づかい以外は何も聞こえなかった。
「退いて!」
その声に振り返ると、いつの間にか魔法を詠唱し終わっていたシェスカが、その剣の切っ先を扉に向けていた。
足下に収束している魔方陣の光が、暗い通路から彼女を浮かび上がらせている。
『砕け! 《グレイヴ》!!』
地面から土の塊が槍のように迫り出てきた。不釣り合いな轟音を立てて扉へとぶつかる。
もうもうと立ちこめる土煙に思わずむせ込みながら、道具袋に入っていたランプで扉を照らした。
「やったか!?」
土煙がゆっくりと晴れていく。
──扉には、一切傷がついていなかった。
「ダメね。結界だわ。びくともしない」
シェスカはまじまじと扉を見つめる。まったくの無傷に彼女のプライドが少し傷ついたようだ。また魔法を詠唱してぶつける。
そうしてしばらく、どうにかして扉を開けようと奮闘していた彼女だったが、さすがに疲れたらしく、肩で息をしながらぺたんと座り込んでしまった。
「大丈夫か?」
「へ、平気よ……」
明らかに平気そうじゃない。
ヴィルは腰のポーチの一つから水筒を取り出すと、彼女に差し出した。シェスカは素直にそれを受け取る。
「やっぱりダメ。結界が強すぎるわ」
「そっか……」
ヴィルはそっと扉に手を触れてみた。手袋越しに冷たい石の感触が伝わる。 ヘカテやローランドは無事だろうか。それだけじゃない。さっきのジブリールの二人も気になる。
ヴィルの脳内に最悪の結果が浮かぶ。彼はそれを振り払うように、ぶるぶると頭をふった。
「……私のせいだわ」
静かな通路に、ぽつりとシェスカの声が響く。
彼女は俯いて、ただ水筒を指先が白くなるほど握りしめていた。
「なぁ、シェスカ。話してくれないかな、きみのこと」
こんなことになったのも、元はといえばシェスカと出会ってからだ。彼女はあの変な魔物のことも、フードの二人組のことも知っているようだった。それに、ずっと気になっていたこともある。
ぴくり、と彼女の肩が揺れた。ゆっくり顔を上げたシェスカの表情はとても悲しげだ。そんな顔を見られたくないのか、彼女はまた俯いてしまう。
ヴィルは彼女の目線に合わせるように、シェスカの隣へ腰を下ろした。
「……話すわ、全部。ここまで巻き込んじゃったんだもの。あなたには聞く権利があるわ」
彼女はヴィルに全く口を付けていない水筒を返すと、再び顔を上げた。
シェスカの瞳には先程までの暗さはなく、ただ真っ直ぐにヴィルを見据えていた。
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