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chapter.2
旅は道連れ
しおりを挟むパチパチと火の粉が弾ける。
燃え盛る焚き火には、串に通された握りこぶし大にカットされた先程の大蛇の肉が炙られていた。
香ばしく焼けているが、それを囲う彼らの背後には見事に解体された大蛇が転がっており、実に食欲が湧かない光景である。シェスカに至っては顔が真っ青だ。小さな声で「これ本当に食べるの?」と呟いている。
「えっと、助かったよ。ありがとう」
視界の端に映る蛇がまた動き出さないかと少しびくびくしながら、ヴィルはそう切り出した。
「どういたしましてー。まぁまぁ、座りなよ」
間延びした声で応えたのは黒髪の温和そうな少年だった。
ヴィルはおろか、シェスカよりも背が低く、声も男にしては高い。服や髪型を変えれば女の子に間違われそうだ。どこにでもいそうな服装をしているが、彼の右頬には大きな十字架の刺青が彫られており、それがどこか違和感を感じさせる。
「お前なにもしてないじゃん。倒したのはこのゴキブリだし」
と、黒髪の少年の隣に座っている白髪の少年が突っ込む。
黒髪の少年と服も髪型も背格好もそっくりだ。違うところといえば、髪の色と、刺青が左頬にあること、それからこちらの少年のほうがやや吊り目気味というくらいだろうか。
「ちょいちょいそこの白いの。食事前でしょー? ゴキブリとかいうんじゃありません。ってか誰がゴキブリだ誰が!!」
そう白髪の少年に返したのは、先程大蛇を倒した男だ。ほどよく鍛えられた身体に、緩くカールのかかった金髪。筋の通った鼻に、紫色の垂れ目。黙っていればそこそこ二枚目で通りそうなのだが、先程からのやりとりのせいで、三枚目という印象のほうが強かった。
「大丈夫? どっか怪我しなかった?」
男は突っ込みの時とは一転、優しげな笑みでそう問いかけた。
「え、ああ! 大丈夫……」
「いや、ヤローにゃ聞いてねぇんだよ」
えらくばっさりだな、オイ。
男はシェスカの手を両手でぎゅうっと握りしめて、真剣な眼差しを向けている。なんだか無駄なイケメンオーラ的な何かか男から発せられているが、シェスカはその勢いに若干押され気味というか、むしろ引いているように見える。
「大丈夫? 顔青いぜ?」
「へ、平気よ。心配しないで」
「オレ、ジェイク。君の名前は?」
「シェスカよ」
「シェスカちゃん! 凛々しい君にぴったりな素晴らしい名前だね! 結婚しよう!」
「はぁ……って、誰がするか! あと顔が近い! っていうかどさくさに紛れてどこ触ろうとしてんのよ!?」
「うーん、いい柔らかさ……手に収まるジャストサイズ……ぶほぁっ」
「死ねっ!!」
怒号とともにシェスカの放った拳がジェイクの顎にクリティカルヒットを喰らわせた。彼がそのまま真後ろに倒れ込むと、シェスカは距離をとるようにヴィルの後ろに身を隠して様子を伺っている。
「シェスカ、大丈夫?」
「つ、次やったら殺す……ッ!!」
シェスカは怒りで体をぶるぶると震わせていた。これはマジだ。本気だ。
倒れているジェイクの方を見ると、相当強くぶん殴られたのか、まだダウンしたままだった。
「あの人、いつもあんな感じなのか?」
「ああ。残念ながら。」
「気をつけてね、歩く猥褻物だから。」
本当に残念な物を見る目で少年達はジェイクを見つめる。その態度で彼がどんな人間か察しがついた。それにしても、彼ら本当にゴミを見る目つきである。
「そんなことより、あなたたち何者? 何でこんなとこにいるの?」
シェスカはヴィルの後ろに引っ込んだままそう問いかけた。
「それはこっちのセリフかなー。君たちこそ何でこんなとこにいるのさ? トレジャーハンターには見えないけど」
黒髪の少年はにこにこしながら問い返す。
「オレはヴィル。で、こっちはシェスカ。オレ達、パルウァエからアメリに向かうとこなんだ」
黒髪の方の質問に応えると、今度は白髪の方が口を開く。
「何でこの道を? こんな地下通路通るより、地上から行った方が遥かに安全だと思うけど?」
「こっちにも事情があるのよ。そういうあなたたちは? こっちも名乗ったんだからあなたたちも名乗りなさいよ」
「ああ、ごめんね。僕はノワール・エヴァンスっていうんだ。ノアって呼んでくれたら嬉しいな。そこの白いのは僕の双子の兄さんだよ」
と、黒髪の少年が微笑む。
「俺はブラン・エヴァンス。で、そこで伸びてるのが、ジェイクィズ・バートガル。通称ゴキブリ」
「違いますー! ジェイクですー! みんな大好きジェイクおにーさんですー!」
「で、僕らがここを通ってる理由なんだけど……」
「おい無視すんなって傷つくよー! おにーさんメンタル弱いよー! スライム並みに弱いよー!」
白髪の少年もといブランの紹介に、ジェイクィズは勢いよく起き上がって抗議するが、双子は完全無視だ。それに倣い、ヴィルもとりあえず彼をスルーすることにする。
「サンスディアに急ぎの届け物あってな。ここは近道なんだ」
「さんすでぃあ?」
シェスカの頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。ヴィルは地図を取り出して、シェスカにサンスディアの場所を示してみせた。
「このメエリタ大陸からアメリに繋がる橋があるんだけど、その橋の上にある街だよ。交易が盛んで、結構賑わってるんだぜ」
「へぇ…。じゃあここってそのサンスディアに繋がってるってわけね」
「「そういうこと!」」
と、双子は声を揃えた。
「でもさぁ、聞いてよ! 僕らか弱い一般人じゃ魔物だらけの通路危なくて通れないでしょー?」
「しゃーなしにあのゴキブリ雇ったら、美人なお姉さんにホイホイついてくわ、勝手にうろちょろするわで俺らはここで一週間くらい道に迷うしさぁ」
「「ほんっとーに酷いよねー!!」」
双子はくるくると大仰な仕草をしながら、まぶしい笑顔でにこやかに話しているが、その言葉の節々にはこれでもかと鋭く尖らせた棘が大量に含まれていた。
「うわぁい、おにーさんのメンタルはもうズッタボロだよ……」
「ど、どんまい」
「ヤローからの慰めとか死んでもいらねェ…」
ジェイクィズの力の抜けた抗議も、ブランとノワールの前では完全にスルーだ。そろそろかわいそうに見えてくる。
「そういうわけなんだけど、君ら道とかわかる?」
と、ノワールは咳払いを一つしてからそう尋ねてきた。
「どこの街とかは聞いてないけど、この道をずっとまっすぐって聞いたわ」
「パルウァエからずっとまっすぐ……か。ここじゃ方角もわからないし、それだけだとどこにつくかわからないな」
シェスカの答えにうーんとブランが唸る。そのまま沈黙状態になってしまったので、ヴィルは気になっていたことを質問してみることにした。
「ところでさ、三人はどこからこの通路に入ったんだ? パルウァエやサンスディア以外にも、ここは繋がってるってことだよな?」
「ああ、僕らはギルヘンっていう遺跡から降りてきたんだよ」
「パルウァエからだと……そうだな、ずっと北西に位置してるな」
そこで一旦区切ると、双子はいきなりすっくと片手を挙げて立ち上がった。そのままくるくると回りながら遺跡の壁をランプで照らす。
「そもそも遺跡はなんなのか!」
「エルフが遺した文明の産物と謂われているが、だったら何でこんな通路が?」
「さぁ? 知らない! 知らなくっても、この通路が僕らにとって便利であることには変わりないからね!」
「その通り!」
双子はまるで舞台に立っているかのように、代わる代わる、踊るようにそう説明を続ける。どうやら彼らは大袈裟に物事を語る癖があるらしい。
「さ、僕らの事情は話したよ!」
「次はあんたらの番!」
ブランとノワールは、びしっとそれぞれヴィルとシェスカを指差した。
「こんな危険な通路を使ってるんだ!」
「きっと何か面白い理由があるのかも!」
と、二人は目を輝かせて顔を見合わせる。じっとしていることがないのだろうか、彼らは。
しかし、確かに彼らの言う通り、面白くはないがそれなりの理由があるわけだが、果たして正直に話すべきなのだろうか。
首をひねってシェスカの方を見ると、彼女もどうすべきかと迷っているようだった。
「ままま、そこまでにしとけよ、ブランにノア。女の子いじめちゃかわいそーデショ?」
「ナチュラルにくっつかないでくれないかしら……?」
いつの間にか復活したジェイクィズがシェスカの肩を抱いて諭す。彼女はその手を払いのけると、軽い溜め息とともに口を開いた。
「そこまでして隠すことじゃないわよ。ただ、かなり面倒なストーカーから逃げてるだけ。ヴィルはその巻き添えみたいなもんよ」
「「なんだ、意外とつまんないな」」
「だったらどんな理由なら納得するのよっ!!」
双子は至極残念そうな顔で声を揃えた。シェスカがすかさず突っ込むと、彼らはぱぁっと表情を明るくして立ち上がる。
「例えば! シェスカさんが特別な力を持ってたりとか!」
「例えば! それを理由に謎の組織に追いかけられるとか!」
「「そういうの!」」
彼らはキラキラとした瞳でこちらを見つめる。一方、ヴィルとシェスカは少しだけ唖然としてしまっていた。ヴィルより先に我に返ったシェスカは渇いた笑いをするしかなかった。
「あははは……そうね、そうなら面白かったのにね……!」
口ではそう言っているが、目が笑っていない。心の中ではきっと「大体合ってるから困ってるのよ!」とか思っているに違いない。ヴィルはなんとなくそう確信していた。
「あ、そうだ! もしよかったら、街に着くまで君らと一緒に行かせてよ!」
ノワールはいいことを思いついたと言わんばかりにそう提案した。一瞬眉を顰めたシェスカだが、ほんの少し間を空けて「いいわよ」と頷く。その意外な返事にヴィルは少しぽかんとしてしまった。
「ヴィルも。いいわよね?」
「えっ、オレもいいけど……」
「よっしゃ、決まり!」
双子がわいわいと話す中、ヴィルはそっとシェスカの耳に顔を寄せる。彼女もヴィルが言わんとしていることをなんとなくわかっているようだ。
「いいのか? 断るかと思ったよ」
さんざん自分には帰れ帰れと断ったくせにノワール達には二つ返事で頷いたので、少し複雑な気分だ。ヴィルは、確かに頼りないけどさと心の中で呟いた。
「ほとんど一本道しか進まないんだから、断ったら不自然じゃない。……それにあの二人、自分たちのことほとんど話さずに、ずっと私達の詮索ばかりよ。変に探られるくらいなら、コソコソされるより一緒の方がマシだわ」
シェスカは小声でそう言うと、双子に向けてはっきりとした声で口を開いた。
「但し、条件があるんだけどいいかしら?」
「なんだい? お金とかだったら持ってないよ?」
「このセクハラ男なんとかして!」
もううんざりだとばかりにそう言って、シェスカは近付こうとするジェイクィズを思いっきり蹴っ飛ばした。
******
ブラン、ノワール、それからジェイクィズが一行に加わって数日。
彼らは未だ途切れる気配のない通路を進んでいた。相変わらず暗いこの通路は、時々ぐねぐねと曲がり、道の幅が広くなったり狭くなったりする以外にほとんど変化は見られない。
「にしても……」
同じ景色ばかりで疲れたのか、すっかり口数の少なくなった一行の中、ヴィルがぽつりと口を開いた。
「ずーっと道なりにまっすぐ歩いてきたけど、あの蛇以外に全然魔物とか見ないな」
「そういえばそうね」
隣を歩いていたシェスカが相槌を打つ。すると、少し先を歩いているブランがくるりと振り返って得意げな顔をした。
「それは多分、あの蛇がここら一帯の魔物を食いつくしたからだと思うね。俺らもあいつ以外の魔物とか見てないし、あいつはいわばここの主だったんだ」
そこで言葉を区切ると、今度はノワールが口を開く。
「地面が少しへこんでたのには気付いた? あれはきっと、あの蛇が何百年にも渡って這っていたから、あそこだけ削れていったんだね」
「へぇ……なるほどね」
シェスカは納得して、地面を踵でこつこつ鳴らす。あの時気付いたあれはそういうことだったのね。と小さく呟いた。
「そんで、獲物を食いつくしちまったあの蛇は、身の程も知らずにシェスカちゃんを食おうとして、このオレ様に倒されちまって、逆においしく頂かれたってわけね」
「だから何でくっつくのよ」
この数日でジェイクィズのセクハラにすっかり慣れてしまったシェスカは、後ろから抱きついてくる彼の顔に思いっきり裏拳をお見舞いすると、彼のほうを見向きもせずに足を早めた。
彼も彼なりにこの手酷い歓迎にも慣れたようで、赤くなった鼻をさすりながらも、やはり懲りずに彼女に話しかける。
「いいじゃんスキンシップ。仲良くしよーよ」
「あんたがそのスキンシップとやらをやめるなら考えてあげるわ」
「えー? いいじゃん減るもんじゃねーしぃ? なぁ、ゴーグルくん」
「いや、シェスカ嫌そうだし」
苦笑しながらそう答えると、ジェイクィズはやれやれと肩を竦めた。
「いやよいやよも好きのうちってゆーじゃん? そういうことだろ?」
無駄にキラキラとしたオーラを背負っているかのようにいい笑顔だ。それに反してシェスカの瞳は完全に据わっている。しかも腰に提げた剣に手をかけて、今にも臨戦態勢だ。
「もうこいつぶっ飛ばしたい……!」
「お、落ち着けってシェスカ!」
「ここ何日か耐えてきたけど、もう我慢の限界よ! ほんっとどうにかしてよブランにノア!!」
「そう言われてもなぁ」
ブランは溜め息まじりに首を横に振った。
「息をするようにセクハラするやつだからな。せめてここにもう一人女性がいれば被害は分散されたかもしれないなぁ」
「どっちにしろ被害は受けるんだな……」
黙っていれば顔もいいのに、本当に残念な奴だな……とヴィルは呆れるしかない。一方シェスカは、未だ迫ってくるジェイクィズに対して剣を抜いて威嚇している。そして冗談じゃないといった風に声を荒らげた。
「あんたら他人事だから言えんのよっ! もし自分よりごつい男にべったべった体触られたらーとか考えてみなさいよね!!」
そう言われて考えてみる。妙に色黒で筋肉質なアフロ男(何故かそんな見た目が思いついた)が、ジェイクィズがシェスカにやっているようなことを自分に…………。
ぞわわっと全身が粟立った気がした。
「せっ、セクハラはダメだな!! うん!! ダメだよ!!」
「え、ええ。そうね……何想像したのよ。大丈夫?」
自分でもあまりの気持ち悪さに顔が真っ青になっているであろうことがなんとなくわかっていた。ブランの方を見ると、彼も顔をぶんぶんと振って嫌な想像を打ち払っているようだった。
「あっ、ねぇ見てよあれ!」
一人先を歩いていたノワールがそう声を上げた。
彼が指差した方を見ると、暗い道の中にそこだけ淡く、ぼんやりと青い光が浮かび上がっている。それを見たブランはノワールに駆け寄ると、互いに顔を見合わせた。
「何かしら、あれ?」
「ひょっとしたらオバケかもよ~」
「「違うよ、道だ!」」
ジェイクィズの声にかぶせるように、双子は同時に叫んだ。
「道って……オレ達ずっと通ってたじゃん」
そうヴィルは首を傾げると、嬉しそうに目を輝かせた双子はくるくると回りながら彼らの前に戻ってきた。
「そういうことじゃなくて! これは僕らが知ってる道かもしれない!」
「サンスディアに繋がる道だ!」
******
青い光に近付くにつれ、それは宙に浮いているようなものではなく、どうやら壁面の左側から淡く光を放っているようだった。
この通路に出る前のホールにあったあの花がもたらす青白い光とも違うその色はまさしく……
「えっ」
シェスカが短く驚嘆の声を上げた。そのまま痛い程にヴィルの肩を掴んでがくがくと揺らした。
「よく見て、これ……!」
「……海、なのか……!?」
そう。崩れた壁によって三メートル程に切り取られた海の風景が、そこには広がっていた。大小さまざまな魚や、海の生き物たちがその広い青の中を悠々と泳いでいる。まるでそこだけ海の中に入り込んでしまったような錯覚に陥りそうだ。
あまりにも現実離れしたその光景に、ヴィルもシェスカも開いた口が塞がらなかった。
「ちょっと待て! このままじゃオレ達溺れるんじゃ……!?」
「あはは、その心配はないよ」
そうノワールは笑うと、彼はその青に右手を突っ込んでみせた。右手は完全に海の中にあるというのに、水は全く溢れ出してこない。
「崩れないように魔術で防壁を張ってるみたいなんだ。急な衝撃だとこんな風に貫通して、緩やかな衝撃──まぁ、触るだけとかなら壁みたいになるんだよ」
やってみとブランに促され、おそるおそる触れてみる。──硬い。まるで透明な板に阻まれているようだった。次に思いっきりそれを殴ってみると、腕に冷たい感触が広がった。
「うわ、ホントだ。確かに貫通してる…って冷たっ!?」
腕を引っ込めると、びしょびしょに濡れている。鼻を近づけなくても潮の匂いがする。少しだけ舐めてみた。うん、しょっぱい。
「ってことは、ここって本当に海の中なんだな」
「そう言われると、なんか急に息苦しくなってくるわね……」
「人工呼吸したげよっか~シェスカちゃん」
「いらないわよ!!」
いつ何時もセクハラを忘れないジェイクィズは、相変わらずハートマークを飛ばしまくっている。対するシェスカは毛を逆立てて威嚇する小動物のようだ。
「ここまでくればもうサンスディアはすぐ近くだよ」
ノワールは濡れた右手を拭きながらそう笑う。知っている場所に出たからか、その顔はどこか安心したかのように晴れやかだ。
「少し遅くなったけど、なんとか間に合いそうだな、ノア」
「そうだね。あの人すこし気が短いから、怒ってないといいけど」
そんな会話をする双子に、ヴィルは少し疑問に思っていたことを聞いてみることにした。
「そういえば、前言ってた急ぎの届け物って何なんだ?」
「それらしい荷物も持ってないわよね?」
ヴィルに付け加えるようにシェスカが言う。彼らは極めて軽装で、ランプ以外の荷物はほとんどジェイクィズが持っているのだ。そして彼が持っているのも大半を旅の道具で占められており、それらしいものは見当たらなかった。
「うーん……詳しくは言えないけど、強いて言うなら生ものだね」
「鮮度が命! ってなわけ。ジェイクのせいで遅くなったけど、まだギリギリセーフってとこかな」
その説明にいまいちピンと来るものがなくて、首を傾げる。その横でシェスカは何かがわかったらしく、なるほどねと呟いていた。
「えっ? 何がなるほどなんだ?」
「持ち運ばなくてもよくて、鮮度が命なんでしょ? だったらもう一つしかないじゃない」
「え? え?」
クエスチョンマークを浮かべるヴィルの腕を引っ張って、双子はまた出会ったときのようなテンションでぐるぐると回り始めた。
「さ、もうすぐ街に着くぞー!」
「急ごう急ごう!」
「「れっつごーごー!!」」
「ちょっ、だから何なんだ? ていうか目が回るぅぅぅぅ!!」
その様子をジェイクィズは数歩離れた位置から面白そうに眺めていた。
「おーおー、ガキどもは元気ですこと」
「あんたはあいつらの届け物、知ってたのよね」
シェスカも楽しそうに(約一名は振り回されているだけだが)している彼らを見ながら、ジェイクィズに話しかける。
「そりゃ、オレはお得意様だしな。まぁ、今回の中身は知らねーけど」
「へぇ……一介の用心棒がお得意様ねぇ。随分物騒じゃないかしら」
シェスカは怜悧な瞳をジェイクィズに向ける。彼はタバコに火をつけると、その瞳をいつもの調子のまま受け止めていた。深く息を吐くと、独特の匂いが辺りに充満する。
「そういうキミこそ、ただの普通の女の子がかなり面倒なストーカーから逃げてるだけなのに、魔石つきの剣なんて提げてたり、こぉんな辺鄙な道を使う理由をお聞かせ願いたいねェ」
「あら、痴情のもつれでこれじゃダメかしら?」
「っははは、説得力ゼロ」
ぴん、と一瞬だけ張りつめた空気が流れた。
「……やめましょ。悪かったわね、変なこと言って」
肩にかかる髪を軽く払い、シェスカはヴィルらのあとを歩き出した。ジェイクィズもそれに続く。
「いーや、オレもゴメンね。お詫びは体でするね?」
「せんでいいわ!!」
「ねー! 何してんの置いてくよー?」
前を見れば随分先に進んだノワールがそう呼びかけてきた。ブランと彼に相当振り回されたらしく、ヴィルはふらふらと目を回していた。
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