Piece of arcadia

上原久介

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chapter.5

孤島と洞窟

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******

「なぁ、大丈夫なん? なぁって、なぁ!!」
 誰かの声が聞こえる。聞き覚えのない、女の子の声だった。頭がぼーっとする。あちこちに身体を打ち付けたみたいに、鈍い痛みが全身に広がっていた。
 オレはどうして……、そう思い、ヴィルは思考を遡った。
 確か、船に乗っていた。ジブリールの……大魔石の代わりを取りに行くんだっけ……。それで……、そうだ。急に天気が悪くなって、変だなって思っていたら、海に女の子が浮かんでいたんだ。いかにも難破したみたいに、船の残骸みたいなのに掴まって、ぷかぷか浮いていて。それを助けようと飛び出した……ところまでは覚えている。それから、オレはどうしたんだ……? ああ、そんなことはどうでもいいくらいに、眠い…………。
「おきぃや! 寝たふりしとったら怒るでホンマに!!」
 がくがくと肩を掴まれて揺さぶられている。それでも意識はまどろみの中に根っこを張って動こうとしない。
「あーもう! 『ばっしゃーんとやってまえ』!」
 ふいにいやな予感がした。うん、シェスカが魔術を使う時ってこんな感じだった。魔力が高まって、ある一点に集中して……​──​──
「《スプラッシュ》!」

 顔面に大量の水が降ってきた。

「ぶはあっ!?」
 降ってきた、という表現は正しくないかもしれない。ぶん殴られた、が正解。滝に顔だけ突っ込んだみたいな、そんな感じ。それから逃れるためにぐいっと身体を捻った。
「げほっ、ごほごほっ……!!」
「あ、起きた起きた! よかったぁ~! やっぱ兄ちゃん生きとったんやんか~!」
「今死ぬかと思ったよ!!」
 顔についた水をぶんぶんと振り払いながら、ヴィルは声の主へと抗議した。
「ごめんごめん。でもまあ、生きとったんやしアンタも起きたし一石二鳥やって!」
 そう無邪気に笑うのは、ヴィルよりも少し年下の女の子だった。ミルクをたっぷり入れた紅茶みたいな色素の薄い茶髪に、よく日に焼けた小麦色の肌。ぱっちりした瞳に、にっと笑った時に見える八重歯。この訛りは……おそらく西大陸のどこかの出身だろう。ハキハキとした話し方で、いかにも元気溌剌です! という少女だった。
「あ、きみ……!」
 この少女は見覚えがある。さっき海に浮かんでた女の子だ。
「ん? あたしのこと知ってるん?」
「いや、さっききみを助けようとしてて……」
 それから、どうしたっけ? どうしても思い出せない。周りを見渡してみる。ヴィルは砂浜に座っていた。右手には海、左手には森がある。周りには木片やらが散らばっている。どうも流れ着いたらしい。……おかしい。あの時、近くに島なんてなかったのに。
「あー、アンタもなんでここにおるんかわからん感じ?」
 不思議そうに周りを見るヴィルに、少女は苦笑を浮かべつつ尋ねた。
「アンタも、ってことは、きみも?」
「あたし、ギルドの人らと船乗っててん。で、なんか天気悪ぅなってな。海がぐるぐるーって渦巻いて、それに多分飲み込まれてもうたんかなーっていうのはわかるんやけど……」
「気がついたらここにいた、っていうわけか……」
 そういえば、その渦は見た気がする。浮き輪を掴んだ途端に、その渦に…………。
「あああ!!」
「うわ、なんやのん! 急に大声出さんといてぇな!」
「なあ、オレの他に誰も見てないか!?」
 気を失う前に見た光景。確か、シェスカとサキも渦に飲み込まれていたと思う。それが正しければ、二人もまた、この近くにいなければおかしいのだ。しかし、少女はゆるやかに首を横に振った。
「見てへんわ……あたしも仲間探しとってんけどな、見つかったんは兄ちゃんだけやで」
「そ、っか……」
 しょんぼりと二人して沈み込む。いや、こんな場合じゃない! ここは年長者なのだから、しっかりせねば! そう思い、ヴィルは口を開こうとしたとき、
「ま、落ち込んでてもしゃーないな! 探しに行こ! 兄ちゃん立てる?」
「あ、ああ!」
 この少女はかなりしたたかなようだ。ぴょんと立ち上がると、ヴィルに手を差し伸べた。それをありがたく拝借して立ち上がる。少しふらっとしたが、何度か足を曲げ伸ばししたらそれもなくなった。うん、問題はなさそうだ。
「せや、名前聞いてへんかったよな? あたしイリスっていうねん!」
「オレはヴィル。よろしく!」
「ヴィル、な。覚えやすいわぁ」
「そっちもな」
 二人はそう笑い合うと、ゆっくりと歩き出した。


******

 カツ、カツ、一定のリズムで鳴る足音。それと同じリズムで、揺れる身体。進んでいるのか、それとも風が吹いているのか、頬を風が撫でている。
「ここ、どこだろうね」
 鈴の鳴るような、かわいらしい声。……セレーネのものだ。声が反響している。ここは、洞窟かどこかなのだろうか。セレーネはすぐ隣にいるのか、声が近い。
「さあな。外に出れば何かわかるだろ」
 今度はサキの声だった。それはセレーネよりもさらに近いところから聞こえた。まるで……そう。背中にぴったりくっついているような……​──
 そこでシェスカ・イーリアスの意識は覚醒した。
「うわぁっ!?」
 目を開けると、案の定サキ・スタイナーの背中に背負われている。
「起きたか」
 振り返るサキの顔を見た途端、最悪だ、とシェスカは思った。彼女はサキが苦手なのだ。具体的にどうというわけではないが、顔がムカつく。その一言に尽きる。
「起きたから下ろして、早く!」
 やれやれといった具合でサキは溜息を吐いた。適当に平たい足場の上に下ろされる。……うーん、一応ここまでおぶって貰っていたのだから、礼を言うべきなのだろうが……。シェスカは地面の感覚を確かめながら、サキを見上げる。相変わらずの無表情だ。
「…………」
「…………」
 やっぱりムカつくからいいや。そう結論付け、セレーネに尋ねた。
「ここはどこ?」
「たぶんどこかの……洞窟?」
「それは見ればわかるわよ」
「気づいたらここにいたの。わたしたち」
 どうやらセレーネもどうしてここにいるのかわからないようだ。状況を整理するべく、シェスカは気を失う前のことを思い浮かべる。
「確か……私たち、渦に飲み込まれたわよね? 女の子を助けようとして、ヴィルが飛び出して…………って、ヴィルは!?」
「いなかった。周辺も探したんだが、俺とベルシエルとあんただけだった」
「そんな……」
「とにかく、この洞窟を出るぞ。もしかしたら、外にはいるかもしれない」
「出るって、出口は?」
 見たところ、この洞窟は薄暗く、あちこちぐねぐねした道が入り組んでいるようだ。潮のにおいがするので、近くが海につながっているのか、海水の溜まっている場所かどちらかがあるのだろう。けれど出口らしい目印は何もない。
「たぶん、あっち」
 セレーネはそう目の前の道を指さした。
「一番あっちが臭くない」
「臭いって……」
 くんくんと辺りのにおいを嗅いでみても、ただ磯臭いだけだ。
「行くぞ」
 サキは短く言うと、セレーネの指した道をさくさく歩いていく。彼女もまた、それにひょこひょこと付き従う。こういった道に慣れているのだろうか、その足取りは軽い。
 よくもまあ、こんなわけのわからない、どっちに進むのかさえ危ういような道をすいすい行けるものだと感心する。
 じっくり見るとこの洞窟はなかなかに不気味で、雰囲気がどこかおどろおどろしい。水に濡れているのか、てらてらと光を反射している岩壁は、どこか内臓を彷彿させる。少し壁に手を置いたら、びくん! と蠢き出すかもしれない。
 さらにはところどころに落ちている何かの骨のような棒は、もしかしたらここにいた人間のもので、私たちは出られない袋小路に閉じこめられているのでは、とか。もしかして……もしかしたら……そういう人たちの怨念とかがここに集まっていて…………
「シェスカ」
 唐突に名を呼ぶ声。思わず身体がびくりと跳ねた。
「​──ひっ!? ゆ、幽霊とかお化けとかあるわけないじゃない! バッカみたい……!!」
「ゆうれい?」
 セレーネはその言葉の意味がわからない、というように首を傾げる。
「ま、そういうのが出そうな雰囲気ではあるな」
 セレーネに簡単に幽霊の説明をしたサキが、周りを見渡しながら言った。
「……ゆうれい、こわいの?」
「怖いのか?」
 きょとんとした顔で聞いてくるセレーネに、相変わらずの真顔で問いかけてくるサキ。サキのほうに至っては真顔のくせに、「お前そんな見てくれと性格しておいて今更何言ってやがる」というような視線付きである。
「こわっ、く、ないし!! そもそもそんなの現実的な存在じゃないし、そうよいるわけないし……!!」
 そう。魔法と同じだ。根拠のない噂に尾ひれが付いて一人歩きしてるだけ。そんなものは存在するわけがない。そうとも。いるわけがない。
「ねえ、サキ。あのひと足がないけどゆうれいかな?」
「さあ? 俺は見えないからわからん」
「あーあー!! 聞こえない!! なんっにも聞こえない!!」
 せっかく気を逸らそうとしているのに! セレーネとサキの不気味な会話を聞かないように耳を塞ぐ。そうこうしている間にも、ふたりはさくさくと前に進んでいくのだから、シェスカは置いて行かれないよう、小走りで転びそうになりながらその後を追うのだった。


******

「おーい、シェスカぁー! サキー! いないのかー!?」
「ロルダ~~~~ン! パウラぁ~~~~~~!! イニゴぉ~~~~~~!! ぉぉぉ~~~~~~~~~!!」
 ヴィルとイリス、ふたりして口元に手を当てて、探し人の名前を呼ぶ。返ってくる言葉はない。ふたりは顔を見合わせるとやっぱりだめかと肩を竦めた。
「なんか、本当に近くにいるのか不安になってきたなぁ」
「いや、もうほんまにな」
 かれこれ一時間以上はこうして浜辺を歩き回っているものの、シェスカたちやイリスの仲間はおろか、人の姿のようなものは自分たちのもの以外まったく見当たらなかった。
「ここら一帯は探しきったよなぁ……」
「まだ探してないのは、この森の中くらい、だな」
 そう言って、目の前に立ち塞がる木々を眺める。オルエアの森とは違って、何だか木々がうねうねとしていて、まるで今にも動き出しそうだ。あちこちからい蔓が垂れ下がり、大口を開けて待っている怪物の口を思わせる。奥は薄暗く、鬱蒼としていて、とても気持ちのよい森林浴ができるとは思えないような場所だ。
「なあヴィル、じゃんけんせえへん? どっちが先に入るか」
「ええー、やだよそれ!」
「がんばってぇなぁ! ほら、年下の女の子に先陣切られるんは、男としてのプライドが傷付くやん? なっ!」
 オレだってこういうトコ入るの怖いんだけど!? と抗議しても、イリスは有無を言わさずぐいぐい背中を押してくる。つい先日トレントに腹を貫かれたあの一件からそんなに日にちも経っていないというのに。すっかりきれいさっぱり塞がった傷が痛みそうだ。というか、じゃんけんはどうした。じゃんけんは。
「細かいこと気にしすぎるんは男でも女でも嫌われるで?」
「いやいや、それ今関係ない。絶対」
「ちぇー。しゃーないなぁ、あたしが先陣切ったるやん」
 イリスはやれやれと言いたげに歩き出した。特に怖がっている様子はなく、むしろわくわくしているような顔である。なら最初からそうしてくれ、というのはナシだろうか。ナシだろうな。多分肝試しみたいな感覚なんだろう。
「右よし、左よし、前方よし! 変なモンは今んとこなさそうやね」
 森の入り口に顔だけ突っ込んで、そう指差し確認するとイリスは大丈夫、と手招きする。ヴィルもまた、彼女と同じように周辺を確認してみた。中に入ってみると、外から見る印象とは少し違い、先程感じたような不気味さはなくなっている。
「確かに、大丈夫そう」
 そう頷くと、イリスはせやろ! と明るい笑顔を見せた。それを見ていると、ちょっとしたことくらいは気にならなくなりそうな気持ちになる。イリスと出会ったのはラッキーだったかもしれない。きっと、この状況に一人だと気落ちしていたに違いない。自分も人よりは前向きなほうだと思ってはいたが、こうして自分以上に前向きな彼女を見ると、なんとかなるような気がしてくるのだから不思議だ。
「ほんならレッツ探険やね! 行こ!」
「目的、ちゃんと忘れてないよな」
「当然! 早いとこみんな見つけたらんとなぁ~どこで迷子になっとんやろか?」
「あっ、ちょっ、あんまり先々進むなよ!!」
 一応こちらの方が年長者なのだから、せめて無茶しないように注意しておこう。今にも鼻歌を歌い出しそうなイリスを追いかけながら、ヴィルはそう小さく頷いた。


******

 セレーネとサキ、それからシェスカの前には、三つに分かれた道があった。どの道も奥が暗くなっており、先の様子は全くといっていいほどわからない。
「どうだ、ベルシエル」
 サキがそう問いかける。しかし彼女はそれにゆるやかに首を振った。
「どれも一緒くらい、だと思う」
 ここまで、セレーネの直感を頼りに歩いてきた。彼女の感覚は常人のそれとは少し違うらしく、サキ曰く「いやなかんじ」をことさら敏感に感じ取るのだそうだ。いわゆる第六感とかいう奴だろう、とシェスカは結論づけた。決して霊感とかではなく。
「それから、なんとなくだけど、ヴィルと……​──イリスだっけ? あの子も、近くにいる感じがする」
「イリス?」
 聞いたことのある名前だ。確か、数日前、アメリで会った元気のいい女の子の名前だ。何故、彼女の名前がここで出てくるのだろうか。と考えて、海に浮かんでいた人物の姿を思い返す。
​──そうだ。よく似ていた。遠くからしか見ていないが、髪の色や肌の色は確かに同じだった。それがまさか、あの子だと言うのだろうか。
 シェスカはどこかくらりとした眩暈を覚えそうになる。また、自分と関わった誰かが、大変な目に遭っているというのか。言いようのない寒気を感じて、ぎゅっと腕を抱き締めた。
「どうして、あの子がイリスだって……?」
「魔力のにおいがおんなじだったから」
 セレーネは何でもないように答えた。魔力のにおい、というのは個々の魔力の違いを彼女なりに解釈したものだろうか。魔力はある程度体外へ放出されているため、感じ取ることは可能だ。セレーネはそれを感じ取る感覚がかなり優れているようだ。これが彼女の第六感の正体、というわけだ。いや、今それはどうでもいい。自分の疑問を解消するより先に、ヴィルとイリスの安否のほうを確認しなければ。
「それで、ヴィルとイリスがどこにいるかわかるの?」
「……なんだか膜が張ってあるみたい。はっきりとまでは、わからない」
「膜……?」
「うん」
 彼女はこくり、と頷くと、ポーチからハンカチを取り出した。かなり薄手の生地なのか、持っている手のひらがうっすらと透けている。それをシェスカの目の前に広げて見せると、
「こんな感じ」
「わ、ぷっ!?」
 と、それを顔に被せてきた。いきなり何するの! と言ってもどうせ無駄だろう。出会って間もないが、セレーネがそういう子であるというのを、シェスカは理解していた。大人しく彼女のハンカチ越しに周りの景色を見る。
 なるほど。目の前が薄ぼんやりして、誰かいるのはわかるものの、それが誰かまでは判別できない。壁よりも薄いこれは確かに「膜」だ。
「ここから出れば、なんとかなるかしら……」
 ハンカチを引き剥がしてセレーネへ返す。
 少なくとも、近くにヴィルたちがいるとわかったのは収穫だ。早いとこ合流して、この気味の悪い洞窟から抜け出したいものだ。
「​──いや。おそらく無理だ」
 小さく呟いた言葉に、しばらく黙って先の様子を伺っていたサキが、そう断言する。
「どうしてそんなことが言えるわけ?」
 なんとなく出鼻を挫かれたような気になって、少しムッとする。やけに冷静すぎる無表情は相変わらずで、その澄ました顔を見ていると胸のあたりがむかむかしてくる。
「風がない。出口があるなら、どこかから空気が漏れているはずだ」
 ここはそれがない。とサキは言う。つまりそれは、出口自体がない、ということだろうか。最初からそれに気付いていたから、セレーネの直感でここまで進んできた、と。
「待って。仮に出口そのものがなかったとして、おかしいでしょう? 私達は現にここにいるのよ。入り口があって出口がないなんておかしな話だわ」
「ああ。そうだ。だから疑うべきは、どう入ったか、でも、どうやって出るか、でもない」
 サキはそこで一度言葉を区切ると、ゴツゴツした壁に手を触れた。

「ここがそもそも、本当に洞窟なのか、、、、、、、、、ということだ」


******

「へえ、じゃあイリスは色んなところを旅してきてたんだな」
「せや~! そらもう大陸を股にかけてあっちゃこっちゃ行って、行ったことない国はあらへんで!」
「まじでか! すっげぇ!」
 森の中を歩き回りながら、ヴィルとイリスは雑談に花を咲かせていた。イリスはどうも喋っていないと落ち着かないらしく、聞いてもいないのにあれやこれやと話してくれた。その大半はイリスの仲間達の話で、旅芸人である彼らの武勇伝や旅先でのハプニングを面白おかしく語り、ヴィルはそれにひとつひとつ素直な反応を返す。話自体が面白いので全く苦痛ではない。これが話術というものか、とヴィルは実感していた。自分ではこうは話せないだろう。
「まー、あたしが入ったのは一昨年くらいやから、まだ全然行ってへん国もあるんよね。ここ何年かはシーアあたりがめっちゃ物騒って聞くしなぁ」
「シーア? ……ああ、あそこか」
 久しぶりに聞く名前だった。その名前は、ヴィルがまだへカテ・ミーミルに拾われる前​──雪に覆われる研究都市の路地裏で、頻繁に耳にしていたものだ。思い返せば、「彼」もまた、シーア国について話していた気がする。「争いは悲しいよ」と、彼はまるで自分のことように、そう零していた。
 シーアというのは、アメリからルクスディア大陸橋を渡り、カルス国を越えた先にある国だ。紛争の絶えないフェルム大陸だが、その主立った原因は、このシーア国があちらこちらに宣戦布告をしているせいらしい。ここ八年近くは戦争と無縁のメエリタ大陸にいたおかげか、すっかりその辺りの知識が埋もれていた。
「あっ、そっか。ヴィルはスイルの人やったっけか。橋渡ると情勢コロッと変わるからあんまし馴染みないよなぁ」
「や、オレ昔はタイタロスにいたから、なんとなくなら知ってるよ。詳しいことは小さかったからあんまりだけど」
「そーなん? あたしもミナにずっとおったから、その辺とは無縁やね。あたしが行ったことあるんは、ルイーンとカルス、あとウルンもちょっとだけ行ったかなぁ……あ、そうそう! ヴィルはドワーフ族見たことある?」
 イリスはそれから、これまで行った国や街について色々話し始めた。シーア国にあまりいい印象を持っていないのか、話題に挙げることはしなかった。ヴィルもそれに合わせて、暗い話題を払拭するように明るい声で相槌を打った。
 こうして話しながら歩いて、結構な時間が経った気がする。頭上を見上げると、木陰に遮られながらも、太陽は変わらずヴィルたちを照らしていた。
「……?」
「どないしたん?」
 急に足を止めたヴィルを不思議に思ったイリスが、小走りでこちらへやってくる。
「なあ、イリス。オレ達がこうやってみんなを探してどれくらい経ったかな」
「んんん……、結構長いこと探しとると思うなぁ。二時間くらいは経ってそうやけど」
「だよな。うん。じゃあどういうことなんだろ……」
 ヴィルは顎に手を当てて考え込む。
 朝にアメリを出て、雲行きが怪しくなったのは昼前だったはずだ。つまり、イリスを見つけたのもそのくらいの時間になる。
 そしてヴィルとイリス、それから浮輪のロープで繋がっていたシェスカとサキは渦に飲み込まれて、ヴィルとイリスは浜辺に打ち上げられていた。それから、先に目が覚めたイリスに起こされたわけだが。
 記憶が確かなら、その頃、日は高く昇っていた。丸々何日か気を失っていたなら話は別だが、イリス達と渦に飲まれてからそれほど時間は経っていない、ということになる。
 そして、今もまた、日が高く登っていた。
 となると、ひとつの仮説が浮かび上がる。だが、それは普通では考えられないことなのだ。
「ちょお、そっちで考え込まんといてぇな~! どういうことなん?」
 ヴィルに倣って上を見上げながら、イリスは尋ねた。彼女の頭上にはクエスチョンマークが浮かんでいるようだった。
 まだ確信があるわけではないため、「多分、なんだけど……」と一応前置きしてから、ゆっくり口を開く。

「オレ達が起きて、みんなを探してる間……いや、あの渦に飲み込まれてからかもしれないな。ひょっとしたら、その時から、時間が進んでない、、、、、、、、……と、思う」

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