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出会い

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 「本に、しょうがないの・・・人というものは・・・。だが、憎めないのも事実。悪しきものは、静かに忍び寄り、そうとは気が付かない間に人を食らう・・・」

 ぐにゅりと歪んだ空間から出てきたのは、すらりとして美しい真っ白な一匹の狐。その尻尾は7本あることから、只の狐ではないのが窺える。

 狐は、痩せ細り倒れてぼろぼろな男の子の傍らに、すぅーと歩を進める。

 歩を進める度に、足元から雪の花が舞い、姿が変わっていく。

 それは、人型。純白の着物姿で腰までのストレートの白銀。その頭の上には、どんな小さな声も聞き逃すまいと研ぎ澄まして、ぴんと天に向かってそびえ立つ狐耳。すっと伸びた背筋は、見るものにその気高さを際立たせている。その後ろには、当然の様にもふもふの尻尾が7本。それが、先ほどの狐と同一だと指示している。

 そんな夢のような出来事に、男の子は思わず呟く。

 「ぼく、しんじゃったの・・・?」


 「いや、死んではおらぬ。だが、このままでは確実に死ぬだろう。そうなる前に、わらわの元に来ないかえ?」

 
 いっしょに いったら、たべても おこられない?
 

 「それぐらい、褒めても怒りはせぬよ。子供は、食べるのも寝るのも遊ぶのも仕事。しっかり食べればよい」

 そこは、あたたかい?

 「あぁ、暖かいぞ。それでも寒いことがあるのなら、わらわが、この両手で抱きしめて温めてあげよう」

 ぼくは、わらった。

 もう、はなす ちからも なくて ことばに していない。なのに、めのまえの ひとは、とうぜんの ように かえしてくる。

 これは、ぼくの つごうのよい ゆめなのかな? 

 でも、くるしくないなら、あたたかいなら、いきたいなぁ。

 その思いと願いを、了承とみなして、「我は、白狐神の白雪。その方の願いを聞き入れた」

 と白狐神である白雪様が唱えたとたん、二人の間にきらきらとした光が舞った。

 「契約はなされた」

 ほっとしたのか、完全に気を失った男の子を抱えると、「雪人形」の呪文で、うり二つの男の子が横たわる。それは、死体。

 「さて、これを見て、あの母親は何を思うのか、それによって効果の結果は変わるであろう。誰が悪いわけでもなく、世の流れがそれを生む。時代が変わり、理由が変われど、悲しいことにこの愚かな出来事はなくならない・・・」


 白雪の優しい温もりの中、男の子は安らかな寝息をたてる。それを慈愛に溢れた眼差しで見つめる。
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