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4 二人でクリスマス
山下はリビングに入るなり、ラグの上にどっかりと胡坐をかき、すでにリラックスモード全開だった。
どこでもすぐに馴染めるタイプなのだろう。そういうところ、本当に羨ましい。
讃美歌風のクリスマスソングを鼻歌で口ずさみながら、コンビニで買った氷をカップに放り込んでいく。
氷くらい家にあると伝えたのに、「買った氷で飲むコーラは味が違う」と譲らなかった。
「でさ、三人で買い物しようって流れだったんだよ。それなら、買い物の後は三人で食事すると思うじゃん? まさか、二人だけで店を予約してるとは思わなかったわ。
あーあ、俺、いつも立花の前で恥かいてる気がする」
ビッグバーガーを豪快にかじりながら、山下がぼやく。
いや、お前、全然恥ずかしくないぞ?
むしろ、バーガーかじってる姿ですら絵になってるし、イケメン補正が強すぎる。
「それはさすがにないな。でも、付き合いたてのカップルと一緒に飯食うのも落ち着かなくないか?」
「だよなぁ。でも、俺が引っかかってるのはそこじゃねぇ」
山下の目がキラリと光った。
同時に、俺に向かって人差し指をビシッと突きつける。
その勢いに圧倒され、俺はポテトを口に運ぶ手を止めた。
「……どこだ?」
「アイツらさ、俺が『これから立花んち行く』って言った瞬間、急に俺たちに合流しようとしたよな?そこだ」
「……確かに」
「それまで二人で過ごすつもりだったのに、なんで急に俺たちと一緒に来たがる?」
俺は首を傾げる。
「なんでだろ? 俺の家なんか、別に来たって面白くないだろうにな」
「あっ、わかってねぇな」
山下はムッとした顔で、ビッグバーガーに再びかぶりついた。
むしゃむしゃ食べて、ごくんと飲み込む。
俺はそのまま、彼が何か言い出すのを静かに待った。
「……そりゃあ、全校生徒、いや、日本中の中高生が、お前の家に行きたいに決まってる」
「……は?」
「だって、今をトキメク売れっ子モデルの家だぞ? どんな生活してるのか気になるし、何よりクリスマスに一緒にいるとこインスタに上げたら——」
山下はふふんと笑った。
「今年のクリスマスイブの勝者、確定だろ」
俺は呆れて、手に持っていたポテトをぽろっと落とした。
「何それ。モデルって言っても、ただのバイトだよ? 俺みたいな“ぼっち”の家に来たがるやつなんて、山下くらいだろ」
「……それこそ、なにそれー!」
山下は思いっきり身を乗り出してきた。
「全然気づいてねぇの? 昼飯時の音楽室なんて、立花のファンがわんさかたむろってるじゃん。まさか、ほんとに ‘ぼっちの集まり’ だと思ってた?」
「え? そうなの?」
知らなかった。ていうか、そんなの聞いてない。
俺は思わず、ポテトを拾う手を止めた。
「立花、俺によくイケメンって言うけど、立花のイケメン度は次元が違うぞ」
いや、それはないだろう。でも、そんなことはどうでもいいや。
まだ、山下がいろいろ喚いているが、聞くのがめんどくさくなった。
「で、モナリザとはどうして別れたんだ?」
「モナリザって勝手にあだ名つけんな。言いたくないけど言おうかな」
どっちだよ。
「この前、二人でいる時、盛り上がってさ。キスしようとしたんだ」
「おお、それで?」
俺は身を乗り出した。
「顔を近づけた途端、なぜか立花の顔が浮かんだ。なぜだろうなあ。お前だぞ?
そうしたら、モナリザとキスするのが気持ち悪くなった。あっちは目をつぶって待ってくれているのにさ。
それでさんざん顔を眺めた後、ため息ついてキスするのを止めたら、怒って帰っていった。それで終わり」
「はあ? ひでぇ。そりゃ、怒るだろ」
「だよな。そこは反省してる。まあ食おう」
とりとめのない話をしながら、俺たちは手あたり次第、バーガーやポテトを食った。結局全部食ってしまった。
チョコレートケーキにろうそくを刺しながら、山下が言った。
「おれさ、モナリザがすごく好きってわけじゃなかったんだ。向こうから言って来たから、付き合っただけだ。
本音をいうとさあ、彼女いない歴=年齢ってのをどうにかしたかったわけ。一応、三ヶ月付き合ったから、その目的は達成できた。もうそれでいいや」
「あ、それなんかわかる。俺もそれはどうにかしたい」
山下と同士のように頷き合った。
「なあ、立花。キスしたことある?」
「ない」
山下が四つ這いになって、俺の隣まで這ってきた。
「今から俺とキスしてみない? そしたら、俺たち、『キスもしたことがない童貞』から『キスはしたことがある童貞』に昇格できるじゃん? 立花、男とそういうことできないタイプ? それなら、諦める。折角の友情を壊したくねぇからな」
山下がじっと見つめてくるから、俺はドキドキしてきた。なんだろうこの胸の鼓動。
「それさあ、本当に “キスはしたことある童貞” になるんだろうか。単に “ファーストキスを男とした童貞” にならないか?」
俺は動揺を悟られたくなくてプイっと顔を背けた。
「それはそうかも」
腕組みをしてまで考え込んでいる。そこは考え込むな。
「まあ、いいか」と言って、山下はケーキのろうそくに火を灯した。
「よし、電気消せ。願い事をしたら、同時に火を吹き消そうぜ」
俺は言われた通り、リモコンで電気を消した。ろうそくの炎に照らされて、部屋の中が幻想的に見えた。
「今から立花とキスできますように」
山下がそう言ったので、俺も悪乗りして、
「そのキスがいい思い出になりますように」
と言ったら、山下は一瞬目を見張って、その後嬉しそうに火を吹き消した。
もちろん俺も一緒に。
どこでもすぐに馴染めるタイプなのだろう。そういうところ、本当に羨ましい。
讃美歌風のクリスマスソングを鼻歌で口ずさみながら、コンビニで買った氷をカップに放り込んでいく。
氷くらい家にあると伝えたのに、「買った氷で飲むコーラは味が違う」と譲らなかった。
「でさ、三人で買い物しようって流れだったんだよ。それなら、買い物の後は三人で食事すると思うじゃん? まさか、二人だけで店を予約してるとは思わなかったわ。
あーあ、俺、いつも立花の前で恥かいてる気がする」
ビッグバーガーを豪快にかじりながら、山下がぼやく。
いや、お前、全然恥ずかしくないぞ?
むしろ、バーガーかじってる姿ですら絵になってるし、イケメン補正が強すぎる。
「それはさすがにないな。でも、付き合いたてのカップルと一緒に飯食うのも落ち着かなくないか?」
「だよなぁ。でも、俺が引っかかってるのはそこじゃねぇ」
山下の目がキラリと光った。
同時に、俺に向かって人差し指をビシッと突きつける。
その勢いに圧倒され、俺はポテトを口に運ぶ手を止めた。
「……どこだ?」
「アイツらさ、俺が『これから立花んち行く』って言った瞬間、急に俺たちに合流しようとしたよな?そこだ」
「……確かに」
「それまで二人で過ごすつもりだったのに、なんで急に俺たちと一緒に来たがる?」
俺は首を傾げる。
「なんでだろ? 俺の家なんか、別に来たって面白くないだろうにな」
「あっ、わかってねぇな」
山下はムッとした顔で、ビッグバーガーに再びかぶりついた。
むしゃむしゃ食べて、ごくんと飲み込む。
俺はそのまま、彼が何か言い出すのを静かに待った。
「……そりゃあ、全校生徒、いや、日本中の中高生が、お前の家に行きたいに決まってる」
「……は?」
「だって、今をトキメク売れっ子モデルの家だぞ? どんな生活してるのか気になるし、何よりクリスマスに一緒にいるとこインスタに上げたら——」
山下はふふんと笑った。
「今年のクリスマスイブの勝者、確定だろ」
俺は呆れて、手に持っていたポテトをぽろっと落とした。
「何それ。モデルって言っても、ただのバイトだよ? 俺みたいな“ぼっち”の家に来たがるやつなんて、山下くらいだろ」
「……それこそ、なにそれー!」
山下は思いっきり身を乗り出してきた。
「全然気づいてねぇの? 昼飯時の音楽室なんて、立花のファンがわんさかたむろってるじゃん。まさか、ほんとに ‘ぼっちの集まり’ だと思ってた?」
「え? そうなの?」
知らなかった。ていうか、そんなの聞いてない。
俺は思わず、ポテトを拾う手を止めた。
「立花、俺によくイケメンって言うけど、立花のイケメン度は次元が違うぞ」
いや、それはないだろう。でも、そんなことはどうでもいいや。
まだ、山下がいろいろ喚いているが、聞くのがめんどくさくなった。
「で、モナリザとはどうして別れたんだ?」
「モナリザって勝手にあだ名つけんな。言いたくないけど言おうかな」
どっちだよ。
「この前、二人でいる時、盛り上がってさ。キスしようとしたんだ」
「おお、それで?」
俺は身を乗り出した。
「顔を近づけた途端、なぜか立花の顔が浮かんだ。なぜだろうなあ。お前だぞ?
そうしたら、モナリザとキスするのが気持ち悪くなった。あっちは目をつぶって待ってくれているのにさ。
それでさんざん顔を眺めた後、ため息ついてキスするのを止めたら、怒って帰っていった。それで終わり」
「はあ? ひでぇ。そりゃ、怒るだろ」
「だよな。そこは反省してる。まあ食おう」
とりとめのない話をしながら、俺たちは手あたり次第、バーガーやポテトを食った。結局全部食ってしまった。
チョコレートケーキにろうそくを刺しながら、山下が言った。
「おれさ、モナリザがすごく好きってわけじゃなかったんだ。向こうから言って来たから、付き合っただけだ。
本音をいうとさあ、彼女いない歴=年齢ってのをどうにかしたかったわけ。一応、三ヶ月付き合ったから、その目的は達成できた。もうそれでいいや」
「あ、それなんかわかる。俺もそれはどうにかしたい」
山下と同士のように頷き合った。
「なあ、立花。キスしたことある?」
「ない」
山下が四つ這いになって、俺の隣まで這ってきた。
「今から俺とキスしてみない? そしたら、俺たち、『キスもしたことがない童貞』から『キスはしたことがある童貞』に昇格できるじゃん? 立花、男とそういうことできないタイプ? それなら、諦める。折角の友情を壊したくねぇからな」
山下がじっと見つめてくるから、俺はドキドキしてきた。なんだろうこの胸の鼓動。
「それさあ、本当に “キスはしたことある童貞” になるんだろうか。単に “ファーストキスを男とした童貞” にならないか?」
俺は動揺を悟られたくなくてプイっと顔を背けた。
「それはそうかも」
腕組みをしてまで考え込んでいる。そこは考え込むな。
「まあ、いいか」と言って、山下はケーキのろうそくに火を灯した。
「よし、電気消せ。願い事をしたら、同時に火を吹き消そうぜ」
俺は言われた通り、リモコンで電気を消した。ろうそくの炎に照らされて、部屋の中が幻想的に見えた。
「今から立花とキスできますように」
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「そのキスがいい思い出になりますように」
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もちろん俺も一緒に。
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