【完結】ひとつのアイスを二人でかじりながら、駅前を歩きたい

ノエル

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5 ファーストキス ※微

山下が俺の顔に手を伸ばしてきた。スマホみたいに、タッチされた部分が振動した気がした。
「ちょっと待て」と言って電気をつけた。

台所に行って、カップを二つ。水を入れて、口内消毒液を5滴。スプーンでかき混ぜて山下に渡した。

「これで口をすすいでからだ」
「お前、潔癖症?」

山下がゲラゲラ笑っている。俺は頬が熱くなったのを自覚した。

「他のことはそうでもないんだが、口だけは潔癖症だと思う」

「そうか。そういう秘密を知るのは親密さが増すというか、とにかくいいな」

山下は嫌がらずにコップを受け取って、念入りに口をすすいでくれた。

「でもさあ」

言いながら、山下は俺に顔を近づけてきた。いわゆる壁ドンだ。息からミントの香りがした。

「口をすすぐってことは、舌も入れていいってこと? 唇に触れるだけなら、うがいなんて気にしないよね」

目を細めて山下は言う。

そこまでは考えが及ばなかった。俺は無意識にハードなキスを期待していたのか?
俺はカッとしたのを自覚した。

「俺の舌は長いぞ、覚悟しろ」

照れ隠しに言ってみた。すごく恥ずかしい。山下も赤くなっていたから、俺は少しほっとした。

「それはいいな。でも舌の長さなら俺も負けねぇ」

山下の端正な顔が間近に迫ってきたので、覚悟を決めて目をつぶった。
そうか、モナリザはここでキスを中止されたのか。それはかなりきついな。自分だったら立ち直れないかもしれない。
山下、お前、俺とは大丈夫なのか? 

いきなりの鈍痛が襲った。歯が痛い!
お互いの唇が触れるより先に、豪快に歯がぶつかったんだ。

「痛ってえ!」

山下も悲鳴を上げた。お前がぶつけたんだろうが!
俺たちはお互いに口を手で覆って転がった。

「山下、お前、イケメンなのに不器用だな! 普通、歯、ぶつけるか?」

俺は涙が出るほど笑った。

「いやあ、これ相手が立花でよかったかも?」

二人でひーひー笑い転げた。

「俺がしてやる。今度は山下が目をつぶれ」

転がっている山下を上から見下ろし、俺は言った。さすがにこれで終われないし、俺もキスのリードをやってみたい。

「いいけど」

山下は笑いを引っ込め、目をつぶった。笑ったためなのか、照れてるのか、頬が赤い。なるほど、この時の顔を見て、いろいろ考えちゃったわけだな。

ちゅっと唇を重ねたら、それが合図というように山下が強く抱き寄せてきて、歯の間から舌が入ってきた。
確かに長い。だが、俺も負けない。

俺は舌を絡めてみた。山下もこするように絡めてくる。下腹にずんときた。舌に性感帯があるなんて、知らなかった。
気持ちよすぎて、山下の舌と思い切り擦りあっていると、ものすごく興奮してきた。

「ヤベ!」

山下は俺を押しのけた。

「出る! 俺、イキそう」

「俺もやばい! お前はトイレで出せ。俺は風呂場で出す」

「お、おう」

俺たちは急いでそれぞれの場所に散った。

「なんか、すごかったな。意識が飛びそうになった。キスってすごい性行為じゃね?」

「俺もそう思った。下腹にくるな。女の子だともっと舌が小さくて、こうはならないのかな?」

「そこはどうだろ。初めてでこんなの経験したら、女の子とのキスが物足りなく感じるかも? んで、がっかりしたら、なんかヤだな」

確かに! それ、すごく嫌だ! 
最初にこんな舌の長い男とするんじゃなかった、のか?

「あっ、立花、歯をぶつけたことは内緒な」

そんな話できる友達いねーし。

「まあ、こんなこと誰にもいえないと思う」

「それもそうだ」

山下はチョコレートケーキに手を伸ばした。

「ケーキのろうそく吹き消して願いが叶ったなんて、超ラッキー」

確かに、キスがしたいという、山下の願いは叶えられた。
では、俺の願いはどうなんだろう。このキスはいい思い出になるのだろうか。なるといいな。





帰り際に山下は言った。

「俺、決めた。冬休み明けは、しばらくお前と距離置くことにする。このままいくと、絶対、俺は立花を好きなる。一度好きになったら、立花にのめり込む自信がある。
どうも、美咲のときと違う気がするんだ。そうなった時の自分が恐ろしいぜ。まあ、もう遅いかもしれねぇけどなっ!」

山下は、最後の『けどなっ!』は力を入れて叫んで、地団駄を踏んだ。

本音をこういう風にストレートに晒せる奴、本当、羨ましい。こういうところ、お前はずるいよな。これが陽キャというものなのか? 陽キャはずるい。

だから、俺も真似して、普段は言わない自分の気持ちを正直に言ってみた。

「俺も、同じ気持ちかも。このままだと山下のこと好きになりそう」

山下を見てほほ笑んだら、山下は呆けたように見つめた後、「そういうとこだぞ!」と怒って帰っていった。

俺は何かに失敗したのか?


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