【完結】ひとつのアイスを二人でかじりながら、駅前を歩きたい

ノエル

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6 エイが望むなら、ひとつのアイスを二人でかじりながら、駅前を歩けるぞ

ラインが鳴った。スマホを見ると、山下だ。


“大晦日の夜に会おうぜ”
       “俺と距離をとるとか言ってなかったか?”

“それは冬休み開けの話”
“今は冬休み中”

       “会って何するんだ?”

“一緒にカウントダウンに行きたい”

       “いいけど”

“じゃあ31日、駅前の銅像の前で22時“

       “OK”

“暖かい恰好して来いよ”

       “母親みたいなこと言うな”


うきうきして気が付いたら鼻歌を歌ってた。大晦日の夜に友達と年越しなんて久しぶりだ。
いつ以来だっけ。モデルのバイトを始めたら、ぼっちになった。
ということは、1年ちょいぶり? こういう感覚、すっかり忘れてたな。

妹と買い物中にスカウトされて、小遣い稼ぎと好奇心で雑誌モデルのバイトを始めた。だけど、それで友達がいなくなるなんて思わなかった。本当、意味不明だ。





当日になり、何を着ていくか迷った末、撮影で着た服一式を格安で譲ってもらっていたのを思い出した。引っ張り出して、着てみた。
自分ではかなり地味だなと思ったが、妹が俺を見るなり、
「お兄ちゃん、格好いい! さすが人気モデル!」って褒めてくれた。

こいつは俺が何を着ても褒めてくれる。いつもバイト代が入ったら、お小遣いをあげてるから、お世辞を言ってくれるんだろう。律儀な奴だ。本気にしてはいけない。



時間になって駅前に行ったら、イルミネーションの光に照らされた山下がいた。
軽く手を上げると、山下も手を上げ返してくれた。

「寒いな。カウントダウンまで、あと2時間ある。どこか店に入ろうか」

ぶるぶる震えながら言うと、同じように震えながら山下が返事をした。

「そうだな。00時近くなるまで店で待とう。積もる話もあるしな」

いや、クリスマスに会ったばかりだし、積もる話なんてないぞ。
と思ったが、山下とカフェの椅子に向き合って座ったら、案外話が弾んだ。

「俺のことはこれから、健斗と呼んでくれ。山下呼びは他人行儀で嫌だ」

「了解、健斗。じゃあ俺はエイかな? 英と書いてはなぶさって読むんだけど、皆、俺のことはエイって呼んでる」

“皆” って言っても、ボッチには “皆” なんていないし。家族と仕事仲間と元友人しか、エイって呼んでないし。自分で言っておいて、突っ込まれたらどうしようとハラハラした。

「エイか。いいな、それ。昔からの親友みたいだ」

健斗は輝く笑顔でそう言った。よかった、健斗がいい奴で。あだ名呼びは気恥ずかしいが、少しだけ嬉しい。

「健斗って甘党なの? それに寒くない? 冬にそんなもの飲むか?」

健斗は、アイスキャラメルなんちゃらラテとかいう物を飲んでいる。
俺はいつもブラックコーヒー。

「エイこそ、カフェインなんてとって俺は知らねーぞ」

「何が?」

「カフェインには利尿作用があるからな。外に出た途端、トイレに通うぞ。それに…」

健斗は外に顔を向けた。

「あっちの方がすごくね? この寒さの中で、アイスを食ってるぞ」


俺は健斗の視線をたどって外を見た。
大学生風の男二人が、仲良くひとつのアイスを交互にかじり合いながら歩いている。
アイドルタレントのような容姿の二人だ。そのせいか、すごく様になっている。

どこからどうみてもこの男たちは “デキている” ように見える。だけど、すれ違う人たちは誰も気にしてない。

「すごいな。二人だけの世界だ。それに、この寒空でアイスか」

「愛し合っていると、寒さも感じないんだぜ、きっと」

健斗が神妙な顔つきで頷いた。

「ああいうの尊敬する。なんなら憧れる」

俺はぼそっと口に出した。

「何が? エイもやってみてぇの? こんなに寒いのにチャレンジャーなの?」

「そっちじゃなくてさ。えーと」

俺はテーブルに肘をついて組んだ手に額を乗せた。考えがまとまらない。
健斗は俺が口を開くのをおとなしく待っている。沈黙が重くて、返って焦る。
健斗は身を乗り出し、俺の頭をゆっくり撫でた。

「よしよし、そんなに慌てんな。待ってやるから、ゆっくり考えろ」

俺、ガキじゃねーぞ。

「なんて言えばいいのかな。ああいう堂々とした態度? 人目を気にせずに、同性同士で……まったく、隠してないというか、うーん、言語化むずいな」

「つまり、男同士の恋愛を恥じてないってとこ?」

おっ、さくっとまとめてきたな。

「たぶんそうだ」

「俺さ、気づいちゃった」

「え? 何を?」

「人の恋する法則ってやつ」

きっと、ろくでもないことをいい出すぞ。

「教えろ」

「それはな、目の前に現れた人間が、あまりにも自分の好みドンピシャだったら、もう性別は関係ないっ! ってことだ。そういう奴が目の前に現れたら、男女関わりなく、人は恋に落ちるんだぜ」
「そうなのか?」

そうなんだろうか。

「エイはヤバイ。俺の好みのど真ん中だ。エイを間近で見ていたら、俺のハートが爆発した。それで、俺は性別の壁を難なく乗り越えた」
「え? もう乗り越えたのか?」

健斗は俺の目を見て頷いた。すごいな健斗。

「だから、俺もあの大学生のように、誰に恥じることもない。エイが望むなら、ひとつのアイスを二人でかじりながら、駅前を歩けるぞ。以上だ」

健斗はどや顔で俺を見た。
えーと。休み明けは、俺と距離を置くんじゃなかったのか? 

「あと20分で00時だ。そろそろいこうぜ、エイ。花火が良く見える場所を取れたらいいな」

スマホを片手に、健斗は席から立ちあがった。遅れて俺も席を立つ。

俺はどうなんだろう。性別の壁を乗り越えられるだろうか
でも、健斗を見ると身体が疼くような、この感覚はなんなんだろう。

「まあ、俺たちは、身体から入った関係だしな」
「ちょっ!」

通路で健斗がずっこけた。


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