父の想い

父の想い

今日で父が亡くなって10年がたつ、父は私が10歳の時に母と離婚しその1年後に亡くなった。溺死だった。酔ったまま風呂に入りそのまま寝てしまったらしい。
私は毎年父の墓参りに来ている、そうするとふと父との思い出が思い出されるのだ。

私は父の事があまり好きではなかった。その事を人に言うと決まって「どうして?」と尋ねられる、私はその度に適当にはぐらかす。理由なんて無いからだ、そう、なぜか父が嫌いだった。
父との記憶の中で一番鮮明に覚えているのはデパートに二人で行った時の記憶だ、父は早くて7時、遅くても9時には家に帰ってきた。私はその時間がとても嫌で仕方なかった。7時に近づくと母は笑顔で私に「もうすぐお父さん帰ってくるかもよ」と言うのである。そうなると私は時計から目を離せなくなる、帰ってくるなと心の中で唱えながら時計を見続けていると、母は「そんなに時計を気にしなくてもすぐ帰ってくるわよ」と私に的はずれな事を言うのが恒例だった。そしてインターホンが鳴ると私の体はビクリとなり固まって動けなくなってしまう。遠くから母が私を呼ぶ声がして私は仕方なく玄関に向かうのだ。父は私を見ると「大きくなったな」と言い私を抱きしめる。「大きくなったな」は父の口癖だった、仕事から帰ると必ず「大きくなったな」と言い私を抱きしめる、私は毎日会ってるのになぜわざわざそんな事を言うのだろうかと不思議だった。私は父に抱きしめられるのは嫌だったが拒否したことはなかった。子供ながらに拒否したら父がかわいそうだと思ったからなのかもしれない。その後父は私を離して着替えに行くのだがその日は違った。父は私を抱きしめながら「明日デパートに出かけに行こう」と私に言ったのだ。